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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3916/3988

3916話

「見えた」


 レイはセトの背の上で、遠くにある街を見て笑みを浮かべながらそう言う。

 ガンダルシアを出発してからある程度の日数を掛け、ようやくここまで……ギルムまで帰ってきたのだ。

 正確には、まだ遠くにギルムが見えるだけなので、ギルムに入った訳ではなく、帰ってきたという表現はまだ早いのかもしれないが。

 それでもギルムの見える場所まで戻ってきたのは間違いない。


「グルルルゥ」


 レイの言葉に、セトも嬉しそうに喉を鳴らす。

 レイよりも五感の鋭いセトだ。当然ながらレイが見つけるよりも早くギルムの姿を確認してはいた。

 しかし、それでも喜ぶのはやはりレイを先にした方がいいだろうと判断し、ギルムが見えても特に騒いだりはしなかったのだ。

 そのレイがこうしてギルムを見て喜んだのだから、セトもまたこれで十分に喜べる。

 また、セトにとってもギルムは自分を可愛がってくれる相手が多数いるので、そういう意味でもギルムに戻ってくることが出来たのは嬉しい。

 セトを可愛がるという意味では、ガンダルシアにも多数いた。

 それでもやはり、レイにとってギルムがこの世界での故郷のように思えているのと同様、セトにとってもギルムは大事な場所なのだ。


「さて、あとは下りるだけだが……セト、分かってると思うけど、街中に直接下りるのはなしだからな」


 ギルムに帰ってきたのがレイとセトだけなら、ギルムに直接下りる……それが領主の館か、もしくはマリーナの家かは分からないが、とにかく問題はない。

 だが、今日は冒険者育成校の生徒達と教官のニラシスもいる。

 そうである以上、その面々はしっかりとギルムに入る手続きをする必要があった。

 もしレイが領主の館やマリーナの家に直接下りるようなことになったら、間違いなく後々面倒なことになるのだから。


「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らす。

 そうしたやり取りをしている間にも、ギルムはどんどんと大きくなっていく。

 そして……十分ギルムに近付いたところで、セトは地上に向かって降下する。

 セト籠を下ろすのは、街道から少し離れた場所。


(こっちにいる間に、トレントの森……いや、妖精郷にも顔を出しておく必要があるだろうな)


 上空から視界の隅にトレントの森を見て、レイはそんな風に思う。

 妖精郷が今どうなっているのか、見るのが楽しみではあった。

 そしてレイがトレントの森を見ている間に、セトは地上に近付くとセト籠を掴んでいた足を離す。

 どすん、と。そんな音が周囲に響き、街道を歩いていた者達は一体何があったのかと、慌てて周囲を見回す。

 特に護衛の冒険者達は、即座に武器を抜いて戦闘態勢に入っていた。

 現在はギルムの増築工事の為に、多くの商人や冒険者、もしくは仕事を求めてやって来た一般人が集まっている。

 その為、街道には多くの者達がいるし、そのような者達が襲われない為に前もって依頼を受けた冒険者が街道周辺のモンスターを倒したりもしている。

 だが……それでも、ここはミレアーナ王国唯一の辺境なのだ。

 ギルムから出れば、どこで高ランクモンスターに襲撃されてもおかしくはないような、そんな危険な場所。

 街道にいる者達も、そして護衛として雇われている者達も、それを理解しているからこそ、不審な音がした瞬間に反応したのだろう。

 もっとも、その音の原因がセト籠であると知れば……セト籠について知っている数少ない者達はレイとセトかと納得し、セト籠を知らない者達は一体何があったのか、いきなり姿を現したセト籠は何なのかと、そのように疑問に思っていた。

 とはいえ、後者の者達も突如現れたセト籠がモンスターでいきなり襲ってきたりするようなことはないと判断したのか、はたまた少数の安堵している者達を見たのか、幾らか警戒を解く。

 そして警戒を解いた者達を見て、他の者達もまた警戒を解いた。

 それでも完全には警戒を解くことが出来ず、警戒している者の何人かは一体どういうことなのかといったように警戒をしていない者達に尋ねていたが。

 周囲に若干の混乱をもたらしながらも地面に着地したセトの背中から下りたレイは、セト籠に近付く。

 セト籠に乗っていた面々も、セト籠が地面に落ちた音で状況は予想出来ていたものの、それでも何があるのか分からないということもあり、今はまだセト籠の中にいた。

 レイがいる以上、万が一の心配はいらないだろうと思いつつ、それでも……と。

 何しろニラシスや生徒達にしてみれば、ギルムに来るのは初めてのことなのだ。

 念には念を入れるというのは、そうおかしなことではない。

 コンコン、と。

 レイが扉を軽く叩いてから、開ける。


「外に出てもいいぞ。ギルムに到着だ。……もっとも、ギルムまで少し歩くことにはなるけどな。辺境へようこそってところか」

「……到着、か」


 少し……本当に少しだけ緊張し、セト籠から出てくるニラシス。

 教官という立場であっても……そして既に一人前の冒険者として活動してるニラシスであっても……いや、そのようなニラシスだからこそ、こうして辺境に到着したということで、思うところがあったのだろう。

 セト籠から出たニラシスは、周囲の様子を確認する。

 ここが辺境……と。

 ただ、ここが辺境なのは間違いないものの、街道の周辺は普通の場所と特に違いはない。

 その為、周囲の様子を確認しても特に普通の場所とそう違いはない。

 ただ、唯一違いがあるとすれば……


「あれがギルムか。……何だか凄いな」


 ニラシスがギルムを見て、感想を口にする。

 そんなニラシスの言葉に、同じくセト籠から下りてきた生徒達もギルムに視線を向けて、それぞれ驚く。

 レイにしてみれば、久しぶりに帰ってきたといった感想しかない。

 増築工事をやってはいるが、増築工事を行っている場所は正門からは見えない場所なので、それを確認することは出来ないのだから。

 ただ……ギルムに入る為に並んでいる者達の数は、ニラシス達を驚かせるのに十分だったらしい。

 ガンダルシアも迷宮都市だけに、訪れる者は多い。

 それこそガンダルシアが所属するグワッシュ国の中では王都と同等か、場合によっては王都以上に人が集まる場所だろう。

 しかし、そんなガンダルシアと比べても、ギルムに集まる者達の数は圧倒的だった。

 ましてや、ニラシス達は知らないが増築工事の為に多くの者が集まるということで、ギルムの住人であったり、あるいは今まで何度かギルムに来ている商人達の場合は、中に入る手続きがある程度簡略化されているのに、この状況なのだ。

 ガンダルシアで人混みに慣れているニラシス達にとっても、これだけの人が集まるのはどうかと思わないでもなかった。


「ほら、いつまでも見ていないでさっさと行くぞ」

「グルゥ」


 レイがセト籠をミスティリングに収納しながら、そう声を掛ける。

 セトもまた、そんなレイの横で早く行こうと促すように喉を鳴らす。


「あ、ああ。そうだな。いつまでもこうしている訳にもいかないか。……皆、準備はいいな?」


 レイの言葉で真っ先に我に返ったニラシスが生徒達にそう尋ねると、その声で生徒達も我に返る。


「分かりました。行きましょう」


 生徒達を代表するようにアーヴァインが言う。

 レイにしてみれば、ギルムに行くのは既に慣れた行為だ。

 何しろ、レイがこのエルジィンに来てから最初に来たのがギルムだったのだから。

 また、増築工事で人が多くなったのもそうだが、レイの場合は増築工事の際にも初期にはトレントの森で伐採した木を日に何度もギルムに運び込むといったことをしていた。

 それだけに、このような光景には慣れている。


「よし、じゃあ行くぞ」


 アーヴァインの言葉とレイの様子に、ニラシスは自分に気合いを入れるようにそう言う。

 アーヴァインの言葉に、自分がどこかギルムという存在そのものに気圧されていたということに気が付いたのだろう。

 そうして歩き出すニラシス。

 レイやセト、生徒達もそれに続く。

 そして当然ながら、レイとセトの存在は非常に目立つ。

 セト籠を見せた時点で目立つのは避けられなかったのだが……


「その、何か落ち着かないな」

「そうですね。でも、これがレイ教官の影響力なのでしょう」


 ハルエスとカリフが短く言葉を交わす。

 この二人も……いや、他の面々もレイが有名人だというのは分かっていた。

 そもそも、アーヴァインやザイードは最初からレイの……深紅のファンだったのだから。

 しかし、それでもやはりこうして歩いているだけで多くの者に見られるというのは、色々と思うところがあるのは間違いない。


「慣れろ、としか言えないな」


 そんな二人の言葉が聞こえたのだろう。

 前を歩くレイが二人に向かって……いや、自分とセト以外の全員に向かってそう言う。

 レイは自分が……そしてセトが、ギルムでどれだけの存在なのかを知っている。

 レイはドラゴンローブに隠蔽の効果があるので、セトがいなければ初心者の魔法使いのようにしか見えない。

 ……もっとも、マジックアイテムを見抜く目を持っていたり、またちょっとした身体の動きでレイの強さを察するような者には、隠蔽もあまり効果はないが。

 そしてこのギルムは冒険者の本場だ。

 今は増築工事の仕事を求めて多くの者が集まってきているが、その中には当然のように以前からギルムで行動していた者達もいる。

 そのような者達はレイの動きを見れば、レイだと認識出来るのだ。

 ただ、隠蔽の効果もセトと一緒にいるというだけで、全く意味がなかったりするが。

 とにかく、レイと一緒に行動している者達なのだから、それで目立つなという方が無理だった。


「ただ、目立つのは今日だけだと思うから、安心しろ」


 その言葉を聞いていたイステルは少しだけ残念そうな表情を浮かべる。

 レイが何を言いたいのか、それを理解した為だ。

 レイがやるのは、あくまでもギルムまで連れてくるだけ。

 後はギルムからガンダルシアまで連れていくだけだ。

 だからこそ、ギルムで行動している時は基本的に別行動となる。

 勿論、それはあくまでも基本的にだ。

 もし何か騒動が……それも教官のニラシスや生徒達でどうしようもないような問題があったら、その時はレイもきちんと手を貸すつもりだったが。

 ただ、そのようなことがそう起きるのかどうかは……微妙なところだろう。

 今のギルムは増築工事の仕事を求めて多くの者が来ているので、何かトラブルに巻き込まれる可能性は高いが。

 また、トラブル誘引体質のレイと関係の深い面々であるというのも、この場合は影響してくるだろう。


「レイ教官、この後ろに並ぶんですか?」


 ビステロが、正門の前に並んでいる行列を見て、そうレイに尋ねる。

 だが、レイはそれに対して首を横に振る。


「いや、これは冒険者以外の者達だ。冒険者はこっちだ。……もっとも、それでもそれなりに並んでいるけど。……ん?」


 ビステロに説明していたレイだったが、ふと顔を上げる。

 その視線の先には、レイに向かって歩いてくる姿があった。

 レイの視線を追って他の面々もその人物の存在に気が付く。

 レイの知り合いなのかとも思ったが、レイの様子を見れば訝しげな表情。

 それはつまり、レイが近付いてくる男のことを知らないということを意味していた。

 高ランク冒険者のレイだけに、多くの者達と会うこともある。

 そうなると、単純にレイが忘れているだけなのではないか。

 ニラシスや生徒達はそう思い、レイもまた自分が忘れているだけではないかと思っていたのだが……


「失礼します。深紅のレイさんですよね? 初めまして、私は商人のカーエイトと申します。実はレイさんが倒したドラゴンの素材について売って貰いたく……」

「ああ、そっちか」


 近付いて来た商人の言葉に、レイはそう口にする。

 自分に近付いてくる相手だっただけに、もしかしたら以前何かで会った人物だったのではないかと思ったのだ。

 ガンダルシアにいる時は、ドラゴンの素材云々で商談を持ち掛けられることがなかったので、すっかり忘れていたのだが、この商人の言葉で理解する。


(そう言えば、そもそも俺がガンダルシアに本来の予定よりも早く行った理由はそれだったしな)


 春になり、多くの商人達が……あるいは貴族の遣いもギルムにやって来るようになり、クリスタルドラゴンを倒したレイに接触して、その素材を売って欲しい、あるいは情報を聞かせて欲しいと言ってくる者が多数いたのだ。

 ダスカーからそれを禁止されているにも関わらず。

 その為、面倒を嫌ったレイはダスカーの勧めもあって、予定よりも早くガンダルシアに向かった。

 だが、ガンダルシアで暮らすうちに、その辺りについてはすっかり忘れていたのだろう。

 とはいえ……


「残念だったな」


 レイは近付いてくる警備兵を一瞥し、カーエイトにそう言うのだった。

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