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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3914/3982

3914話

 結局生徒達は全員……それこそ、ハルエス、カリフ、ビステロといった初めて人を殺した者達も含めて、盗賊のアジトの探索に参加する。

 本人達にしてみれば、この程度で負けてたまるかといった思いもあるのだろう。


(あるいは、ギルムに行く途中……日常とは違う、いわゆる非日常の中でそういう経験をしたのはラッキーだったのかもしれないな)


 もしこれが日常の中でのことであれば、心が折られていた可能性は十分にある。

 だが、非日常の中での出来事であるが故に、まだ対処出来たとしてもおかしくはない。


「レイ、人はいないな」


 ニラシスのその言葉に、レイはやはりかと頷きつつ、それでも念の為に尋ねる。


「捕虜もか?」

「ああ、捕虜もだ。……まぁ、馬とかも持っていない盗賊達だ。人数もそう多くはなかったし、そこまで遠くには行けなかったんだろうな」

「だろうな。喜んでいいのか、残念に思えばいいのか、微妙なところだが」

「そこは捕虜がいなかったんだし、喜んでもいいだろう」


 その言葉に、それもそうかとレイが頷く。


「レイ教官、ニラシス教官、その……武器庫のような場所を見つけました」


 ビステロがそうレイとニラシスに声を掛けてくる。

 ただ、武器庫ではなく、武器庫のような場所と曖昧な表現になっているのが気になったレイは、あまり良い予感はしないままで尋ねる。


「ようなってことは、武器は殆ど残っていなかったとかか?」

「はい、そうなります。残っている武器は、どれもその……」


 言葉を濁すビステロだったが、レイは何となくその言葉の意味を理解する。

 つまり、良い武器は残っていなかったのだろう。


(そうなると、ラズウット達にその辺も譲ったのは勿体なかったか? ……まぁ、特に欲しい武器とかはなかったし、構わないとは思うけど)


 盗賊達が持っている武器は、当然のようにありふれた量産品だ。

 量産品の中にも質の悪い物、良い物といった違いがあったりするが、しっかりと調べた訳ではないにしろ、ざっと見た感じではどれもが質の良い武器という訳ではなかった。

 実際に使っている武器がそのような武器であるのに、アジトに置いていった武器がそれよりも良い武器ということはまずない。


「とはいえ、万が一はあるかもしれないし、ちょっと見てくるか。ニラシスはどうする? このまま探索を続けるか、武器庫を見に行くか」

「俺もそっちに行く。ここはちょっとな」


 レイとニラシスがいたのは、アジトの洞窟の中でも広い場所……盗賊達が普段からいる場所だ。

 寝起きや食事もここでしていたのだろうことは、周囲の様子を見れば容易に確認出来る。

 そのような場所で、しかも夏……ましてや、洞窟の中。

 当然のように臭いが……生活臭とでも呼ぶべきものが周囲には漂っている。

 我慢出来ない程ではないにしろ、好んで嗅ぎたいとも思わないような、そんな臭い。

 そのような臭いのある場所に一人で取り残されるよりは、武器庫を見に行くというのがニラシスの選択だった。

 ……レイが武器庫に行くと言ったのも、その辺りの理由が幾らかあるのは間違いない。

 そうして一番広い空間……いや、部屋の探索は後回しにし、レイとニラシス、それと今まで黙ったまま探索を行っていたザイードも、武器庫に向かう。

 洞窟の中はそこまで広い訳ではない。

 また、他の生徒達もそれぞれに探索をしているので、そう時間が掛からずに探索は終わるだろうと、通路を歩くレイは考える。

 そして数分もしないうちに、武器庫に到着する。

 もっとも、武器庫と表現してはいるが、それは洞窟の行き止まりの場所に武器を置いてあるだけだ。

 レイは今まで何度も今回と同じように盗賊のアジトを探索したことがあったので、これは別に特に驚くようなことでもない。

 ニラシスもレイ程ではないにしろ、今まで盗賊を倒したり、そのアジトを探索したことがあるのだろう。

 武器のある場所を見ても特に驚いた様子はない。

 ただ、ザイードはこのような場所に乱雑に武器を置いてあるのに驚いたのか、寡黙な顔を少しだけ驚きに染めていた。


「あ……レイ、ニラシス教官」


 武器庫を見ていたハルエスが、レイ達の存在に気が付いてそう言う。

 レイを呼び捨てにしてるのは、既にハルエスにとって習慣になっているからだろう。

 レイは別に教官と呼ばれないことはそこまで気にしていない。

 そもそも自分はあくまでも臨時の教官であるという認識があるし、外見の年齢でも小柄なレイよりもハルエス達の方が年上に見えるのだから。

 もっとも、レイよりも小柄で年下に見えるような者は、それこそ冒険者育成校でも数える程しかいないが。

 そんな訳で、レイとしては公の場で相応の態度を取れるのなら、普段は名前で呼んでも全く構わなかった。


「よく見つけたな。お手柄だ……と言いたいところなんだが」


 そこに残っていた武器は、本当に使い物にならないような武器ばかりだった。

 それこそ錆びていたり、欠けていたりといったような武器。

 ゴブリンが使うような武器……と表現すれば、分かりやすいかもしれないような、そんな武器だけがそこにはあった。


「これが武器庫かよ」


 呆れの言葉がニラシスの口から出る。

 ニラシスも武器庫にそこまでは期待していなかったのだろう。

 だが、それでももしかしたら……そのような思いはあったらしい。


「そうだな。これが武器庫だ。……本当に意味はなかったけど」


 それはレイも、そして二人の後ろで微妙な表情をしているザイードも同様だったらしい。


(もしかしたら、盗賊達には理解出来なかったお宝とか、そういうのがあるかもしれないと期待はしたんだけどな)


 以前盗賊のアジトを探索した時、武器庫に放っておかれた、一見するとみすぼらしい武器が、実はかなりの業物だったということがあった。

 だからこそ、もしかしたら……という期待があったのだが、その期待は見事に外れてしまったらしい。

 レイはそれを残念に思うが、それでもそこまで落ち込んではいない。

 元々、そのようなことになるのは非常に稀なことで、レイもそれを十分に理解していたからだ。

 日本で言えば、宝くじに……それも一等、二等、三等といったのが当たったかのようなもの……というのは少し大袈裟かもしれない。

 もしくは、何らかの懸賞に当たるといったところか。

 ……宝くじと懸賞では随分とそこに確率の違いがあるのだが。

 ともあれ、この盗賊のアジトが外れだったのは間違いのない事実でもある。


「いや、外れとは限らないか。武器は外れだったけど、それは元から予想されていたことだし。そうなると、お宝がどんな感じかだが……」


 ちょうどそのタイミングで、声が聞こえてくる。


「レイ教官、ニラシス教官、どこですか?」


 それはイステルの声。

 恐らくレイ達が探索していた部屋に行ったがいなかったので、こうして呼んでいるのだろう。


「こっちだ!」


 レイがそう叫ぶと、やがてイステルの気配が近付いてくる。


「レイ、この武器はどうする?」

「どうすると言ってもな。……まぁ、使い捨てとして何かには使えるかもしれないし、持っていくか。ここに置いておけば、それこそ他の盗賊とがゴブリンとかが使うかもしれないし」


 レイはニラシスにそう返す。

 実際、この武器は持っていってもレイにはあまり役に立たない。

 これで槍であれば、使い捨ての投擲用として使えないこともないのだが。

 勿論、この武器庫に残っていた粗雑な武器……いや、既に武器の残骸とでも呼ぶのが相応しい物も、投擲用の武器として使おうと思えば使えるだろう。

 だが、それはあくまでも使えるというだけで、レイとしては使おうと思わない。

 使おうと思えば使えるだろうが、槍がある以上はわざわざ他の物を使う必要性を感じないのだ。

 それでも何かには使えるだろうと……それこそ、最悪火災旋風を使った時にこれを入れれば火災旋風の威力が増すだろうと判断し、収納を終える。

 ちょうどそのタイミングで姿を現すイステル。


「あ、ここにいたんですね。……何故このような場所に?」

「もう収納したが、ここは武器庫だ。もっとも、ろくな武器も残っていなかったが。それでイステルはどうしたんだ?」

「あ、はい。盗賊達が今まで奪った物が置かれている部屋を見つけました。……土を使った壁を作って隠されていたので、見つけるのに少し苦労しましたけど」

「それはまた……」


 疲れたように言うイステルだったが、レイもその言葉の意味は理解する。

 盗賊達にしてみれば、自分達が手に入れたお宝は可能な限り見つけられたくないと思うのは、そうおかしな話ではない。

 だからこそ、お宝を隠しておくのは自然なことだった。

 とはいえ、土壁で隠すといったようなことをした場合、奪ったお宝をそこに運び入れる時は当然ながら土壁を破壊する必要がある。

 あるいは裏の商人と取引があった場合も、それは同様だ。

 そう考えると、毎回のように土壁を作るのはかなり面倒なのではないかとレイには思える。


(まぁ、その辺は実際に見に行ってみればいいか)


 どのような場所であろうとも、既にこうして見つけたのだ。

 であれば、レイ達がやるのはお宝のある場所まで移動し、そこにあるお宝を確認するだけだ。


「そのお宝のある部屋を見てみたいから、案内してくれ」

「分かりました。では、行きましょう」


 そう言い、イステルは少し……少しだけ自慢げに、レイ達を案内するのだった。






「なるほど、これが土壁か。確かにこうして見るとそうだと分かるな」

「そうだな。とはいえ、これは……正面から見た場合、そう簡単に土壁だと理解するのは難しいんじゃないか?」


 ニラシスが土壁の断面を見ながら言う。

 それに対し、レイは正面から土壁を見て、そう感想を口に出す。

 元々洞窟の中で明かりが殆ど入ってこないこともあってか、この土壁を見ただけで土壁と認識出来るとは思えなかった。


「そうですね、私も最初はただの壁だと思いましたけど……」


 そこまで口にしたイステルは、カリフに視線を向ける。

 その様子を見ると、どうやらこれが土壁であると……この土壁の向かいにお宝が置かれている空間があると気が付いたのは、カリフだったらしい。


「ここを見つけたのはカリフなのか?」

「え? あ、はい。その……何となく違和感があって」

「私は残念ながら、違和感があるとは思えませんでしたが」


 イステルの観察力が足りないのか、あるいはカリフの観察力が高いのか。

 そのどちらなのかはレイも分からなかったが、ともあれカリフがこの場所を見つけたのは間違いないらしい。


「それで、中だが……そんなに悪くはないな」

「え? そうなのですか? 私はあまり良くないと思ったのですが」


 レイの言葉にイステルは思わずといった様子でそう言う。

 実際、土壁で封じられていた空間にあったのは、幾つかの革袋だ。

 その革袋の中には、雑に宝石が詰め込まれていたり、金貨や銀貨が詰め込まれていた。

 イステルの感覚では、この宝石を見てもそこまでの価値はないと判断したのだろう。


「一応言っておくが、これはそれなりに当たりの部類だぞ? 本当に酷い場合なんて、それこそ全く何もなかったりするしな。それと比べれば、金貨や銀貨、それに宝石がある分だけ悪くない」

「でも、この宝石……質が低いですよ?」


 それは貴族として宝石を見慣れているイステルだからこその意見だろう。

 レイも盗賊狩りの影響でそれなりに宝石を見る機会があるので、イステルの言っている意味は理解出来たが。


「そうだな。この宝石は……本当にこういう宝石が欲しかったのか、もしくは騙されたのか。どっちなのかは正直なところ分からないが」


 盗賊にしてみれば、何かあった時に持ち運びのしやすい宝石というのは、非常にありがたい。

 ただし、宝石というのは当然のように高額だ。

 その取引の時に商人との値引き交渉に負けて、もしくは騙されてこのような宝石を売られたのかどうか。

 盗賊と取引をする商人は当然ながら真っ当な商人ではない訳で、そうである以上、盗賊を騙して安い宝石を高値で売るといったことは普通にやりかねない。

 盗賊が捕らえられ、あるいは殺されてしまった以上、それはレイにも分からない。

 分からないが、それでも盗賊達の様子を思い出せば、何となく商人に騙されたのではないかとレイには思える。


「取りあえず、このアジトで入手した諸々は……ギルムに到着した後、生徒達の行動に使うということにするか」

「え? その……いいのか、本当に?」


 ニラシスがレイの言葉にそう尋ねる。

 当然だろう。盗賊との戦いで一番活躍したのはレイだった。

 そうである以上、本来ならここで見つけたお宝の半分くらいは要求してもおかしくはないのだから。


「ああ、構わない。少しくらいは教官らしいことをさせろよ。……まぁ、これが教官らしいのかどうかは微妙なところだけどな」


 そう言うのだった。

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