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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3904/3906

3904話

「さて、今日はここで野営をする」


 時間的には、午後五時前といったくらいに、レイはセト籠から下りてきた者達に向かってそう言う。

 まだ夕暮れにもなっていないものの、それでも五時くらいとなれば、野営の準備をするのはそうおかしなことではない。

 いや、寧ろ丁度いい時間ではあるだろう。

 冒険者として何らかの依頼を受けて、その依頼をこなすのに時間がなかった場合であれば、まだ早いからもっと進もうといったように考えてもおかしくはなかったが、レイ達は別にそこまで急いでいる訳ではない。

 物見遊山の旅……とまではいかないが、それでもある程度の余裕があるのは事実なのだ。

 だからこそ、レイとしては今日は少し早めに野営の準備に入ろうという気分になった。

 数時間前の、イステルの一件があったのも、その大きな理由の一つだ。

 具体的に、イステルと騎士……あるいはイステルの実家の間に何があったのかは、レイにも分からない。

 ただ、それが決して好ましいことではないのは間違いなかった。

 だからこそ、今日は早く野営の準備をしてゆっくりと休む時間も必要だと思ったのだ。

 ……それ以外にも、これが初めての野営である以上、時間的な余裕が必要だろうと思ったのもあるが。

 一応、冒険者育成校の授業の中には野営についての知識や、実践をするものもある。

 ましてや、ギルム行きのメンバーに選ばれたのは優秀な生徒達だ。

 そう考えればそこまで心配をすることはないのかもしれないが、それでも万が一がある。

 だからこそ、余裕をもってこうして早めに野営の準備をすることにしたのだ。


「ここで、ですか? ……ここだと、夜とか危ないんじゃないですか?」


 ビステロが周囲の様子を見ながら、そう聞いてくる。

 レイが野営地として選んだのは、林の中だ。

 そうした林の中でも、ある程度の広い空間のある場所。

 どのような理由でここに木が生えていないのかは、レイにも分からない。

 ただ、野営をするのに丁度いい場所だと思ったのは事実。


「何を心配してるんだ? 普通の動物なら、セトの存在を察知すればすぐに逃げ出すだろうから、動物に襲われる心配はないぞ。モンスターも……ゴブリンのような例外を除けばセトの存在を察するとすぐに逃げ出すから、そっちの心配もない。そうなると、残るのは盗賊とかだけか」


 盗賊のような者達は、相手の力を察するといったことは出来ない者が多い。

 そういう意味では、動物以下となるのは間違いない。

 もっとも、動物は倒せばその死体は肉として食べられるし、素材として使える部位もある。

 それと比べると、盗賊は倒しても肉を食べることは出来ない。

 ……いや、食べようと思えば食べられるのかもしれないが、生憎とレイには人肉を食べる趣味はないし、それはセトも同様だ。


(まぁ、盗賊は盗賊で使い道があるんだけどな)


 盗賊狩りを半ば趣味にしているレイにしてみれば、盗賊というのは金になる存在という認識だ。

 盗賊を倒せば、貯め込まれたお宝は倒した者が所有権を主張出来るし、お宝がなくても武器の類がそれなりにあるだろう。また、倒した盗賊の中で生きている者や、勝ち目がないと降伏してきた盗賊は犯罪奴隷として奴隷商人に売り払うことも出来る。

 それでいながら、盗賊がいなくなれば周辺の住人は喜ぶのだから、盗賊狩りというのはレイにしてみればこれ以上ない趣味だった。


(そういう意味では、ここで盗賊が出て来てくれても嬉しいんだけどな。……可能性は、あるか? どうだろうな)


 林の中にある、木々の生えていない場所。

 もしかしたら、盗賊が何らかの理由で使う為にこのように整備したのではないかと、そう思えてしまう。

 もしそうだったらラッキーだな。

 そう思いながらレイはミスティリングに収納されていたそれぞれの分のテントを取り出す。

 基本的にテントは全員がそれぞれ自分の分を持ってきている。

 この辺は、一応こうしている今もまた授業……それこそ課外授業の一種だと考えれば、そうおかしなことではないのだろう。


(修学旅行っていうのは、学業を修める旅行だしな。……まぁ、俺の場合は普通に遊んだ経験しかないけど)


 日本にいた時の修学旅行について思い出しながら、レイはそれぞれにテントを渡していく。


「テントを張る時にも注意しろよ。下手な張り方をすると、夜中に突然テントが崩れてしまうこともあるからな」

「レイ教官のテントは一体どのような物ですか?」


 自分の分のテントを受け取ったアーヴァインが興味深そうにそう尋ねる。

 それは他の面々も……それこそ、騎士との一件があったイステルですらも同じだった。

 いや、それどころかニラシスもまた興味深そうにレイに視線を向けている。


(そう言えば、生徒達はともかく、ニラシスにも俺のテントは見せたことがなかったか)


 そもそもガンダルシアではマジックテントの出番はなかった。

 ダンジョンに行っても転移水晶があるので、夜にダンジョンで野営をするというとはなかったのだから。

 もっとも、それはあくまでもレイだからこそだ。

 普通のパーティであれば、転移水晶のある階層から次の転移水晶のある階層まで……例えば一階から五階、五階から十階、十階から十五階といったように次に転移水晶のある階層に行くまで、一日で行くのは難しいので、そういう時はダンジョンの中で泊まったりも普通にする。

 だが、レイの場合はそれこそセトの背に乗って走り、そして飛ぶことが可能であり、それこそ一日て転移水晶のある階層まで移動することも出来た。

 だからこそ、レイがガンダルシアで寝る時は毎日普通に家の中で寝ていた。

 そんなレイだけに、マジックテントを取り出すのは久しぶりだった。


「俺のテントは……そうだな、この辺でいいか」


 地面が平らになっている場所に、レイはマジックテントを取り出す。


『うわぁっ!』


 ミスティリングから取り出された時には既に張られた状態になっているマジックテントに驚いたのだろう。

 それを見ていた者達の口から驚きの声が出る。

 それは教官のニラシスも同様だった。

 ニラシスのテントもレイのミスティリングに収納されていたが、当然のようにそれは畳まれた状態でだ。

 マジックテントのように、ミスティリングから出した時には既に張られており、手間暇を掛けてテントを張るといった必要はない。


「レイ、これは……?」


 驚きから最初に立ち直ったニラシスがレイに尋ねる。

 最初に立ち直れたのは、冒険者としてダンジョンの深い場所に潜っており、その際にマジックアイテムを見つけたこともあるからだろう。

 後は単純に、冒険者としての経験が生徒達よりも長いからか。


「これはマジックテントというマジックアイテムだ。まぁ……そうだな。どういう性能を持つのかは、実際に見てみれば分かるだろう。全員、ちょっと来い」

「全員? いいのか?」


 最初は自分だけが中を見せて貰えるのかと思ったが、全員が来てもいいと言うことにニラシスは驚きを隠せない。

 もっとも、レイにしてみれば別に今まで見せなかったのは、単純に出す機会がなかったからでしかない。

 マジックテントは別に隠す必要があるマジックアイテムではなく……寧ろ、マジックアイテムの中にはこのような物もあるのだから、こういうのを入手出来るように頑張れという思いからの言葉だ。

 ……もっとも、このマジックテントはレイがダンジョンの中で入手したのではなく、ダスカーから報酬として貰った物だ。

 ダンジョンの中でマジックテントやそれに似ているマジックアイテムであっても、そう簡単に入手することは難しいだろう。


「ああ、別にいい。頑張って成長して、こういうのを入手出来るようになってくれ」


 そう言い、レイは全員をマジックテントの中に入れる。


「うわぁ……」


 最初にそんな言葉を思わずといった様子で口に出したのは、イステル。

 当然だろう。このテントがマジックアイテムであるとは知っていたが、外から見る限りでは普通のテントのようにしか思えない。

 そんなテントの中に全員が入る? と疑問に思うのは当然だろう。

 それでも実際にその疑問を口に出さなかったのは、レイのやることだからというのが大きい。

 そして実際にそれは正しく、マジックテントの中に実際に入ってみたところで、目の前に広がっていたのはとてもではないがテントの中とは思えない……それこそ、家の中という表現が相応しい場所だったのだから。

 イステル以外の他の面々も、目の前に広がっている光景にはただ驚くことしか出来ない。


「これがマジックテントだ。その名の通り、マジックアイテムのテントで、中は空間魔法によって拡張されている」

「……これがテント?」


 ニラシスの言葉に、レイはその通りだと頷く。


「間違いなくテントだ。そしてこのテントの持つ価値については、ニラシスも十分に理解出来るだろう?」


 そう言われたニラシスは、ようやく驚きの表情から元に戻り、真剣な表情で頷く。


「そうだな。ダンジョンの中でもそうだが、特に商人の護衛とかの依頼ではかなり使えるマジックアイテムだと思う」


 冒険者が野営をする際、テントがあるだけで贅沢だと言われてもおかしくはない。

 普段は、それこそ地べたにマントを敷いて寝るといったような感じで夜を越す。

 だが、当然ながらそんな眠り方では完全に疲れが取れる筈もない。

 そういう意味では、テントというのは地べたに寝るのと比べると明らかにゆっくりとすることも出来る。

 ただし、それでもテントはテントでしかない。

 地べたに寝るよりはマシだったが、それでも宿で寝るのと同じくらいに疲れが取れる訳ではない。

 だが……このマジックテントは違う。

 テントという名称がついてはいるものの、実際には宿の一室……それも安宿ではなく、かなり高級な宿をそのまま持ってきたかのようなマジックアイテムだ。

 そんなレイの説明に、話を聞いていた者達は大きく目を見開く。

 レイの説明によって、このマジックテントがどれかだけの代物なのか理解出来たのだろう。


「レイ教官、このマジックテントというのの凄さは分かりましたが、外の様子が理解出来ないのは辛いのでは?」


 いつもは寡黙なザイードだったが、レイに向かってそう尋ねる。

 このマジックテントは非常に高性能なのは間違いないだろう。

 だが冒険者である以上、外の様子が理解出来ないというのはそれだけ致命的だと判断したらしい。


「ザイードの言うことは間違っていない。ただ、俺にはセトがいる」


 そう言われると、ザイードもそうだが他の者達もレイの言葉に納得した様子を見せる。

 セトがいる以上、ちょっとやそっと何かがあっても全く問題ないのは間違いないのだから。


「後は、そうだな。ガンダルシアではソロで活動していたけど、ギルムに戻れば俺の仲間もいるしな」


 なるほど、と。

 ザイードを含め話を聞いていた者達は、レイの言葉に納得する。

 セトが外で守っているのなら、これ以上安全な場所はないだろうというのが納得出来たのだ。

 レイにしてみれば、ある意味で当然のことではあるのだが。

 それはあくまでもセトという存在がいるのが普通になっているレイだからこそのことでしかない。


「そんな訳で、このマジックテントは冒険者をやる上でかなり便利なマジックアイテムなのは間違いないな」

「……この広さなら、別に俺達のテントはいらなかったんじゃないか?」


 マジックテントの中を見て、ハルエスが言う。

 実際、その言葉は決して間違いという訳ではない。

 マジックテントの中には寝室もあり、そこにはベッドがある。

 そこはレイが使うとしても、リビング的な存在の場所にはソファもあるし、マジックテントの中でなら床で寝ても普通のテントで寝るよりも快適なのは間違いないだろう。


「そうだな。やろうと思えば出来る。ただ……ハルエスは忘れてるみたいだが、一応ギルムに行くのも授業の一環という一面があるのも事実だ。そんな中で野営の訓練をしないで俺の持つマジックアイテムを使うのは、生徒的な意味では問題だと思わないか?」

「それは……」


 そうレイに言われてしまえば、ハルエスも反論は出来ない。

 冒険者育成校を卒業して冒険者として活動する上で、マジックテントのようなマジックアイテムは、そう簡単に入手できないのだから。

 実際、レイもこのマジックテントについては自分で購入したのではなく、ダスカーから仕事の報酬として貰った物だ。

 だからこそ、冒険者育成校の生徒の時点でこのような便利な物に慣れるというのは問題だろう。


「分かったら、野営の準備だ。夕食は俺が用意するし、カニもあるからな」


 そうレイに言われると、これ以上反論は出来ず……生徒達はマジックテントから出るのだった。

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