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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

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3899/3906

3899話

『うおっ!』


 街から出る手続きを終え、ガンダルシアの正門から出たレイ達。

 なお、さすがにフランシスはガンダルシアから外に出るようなことはせず、レイ達が正門から出る時に別れた。

 今頃はセトに暫く会えないのを残念に思いながら、冒険者育成校に戻っているだろう。

 邪魔にならないように少し離れた場所まで移動し、レイがミスティリングからセト籠を取り出すと、それを見ていた者達から驚きの声が発せられる。

 レイがミスティリングを持っているのは、ここにいる面々は当然のように知っていた。

 そもそも、冒険者育成校まで持ってきたそれぞれの荷物は、全てレイのミスティリングに収納されているのだから。

 だが……それでも、こうして大きなセト籠がミスティリングから出たのは、やはり見ている者にとって大きな驚きだったらしい。


「別にそこまで驚かなくても……とにかく、中に入ってくれ。何だかんだと結構時間が経ってるし、今は少しでも早く出発したいから。セト籠の中は……この人数だと少し狭いかもしれないが、それでも我慢出来ない程じゃないと思う」


 生徒が六人に教官が一人の合計七人。

 セト籠の広さを思えば、ゆっくりと出来る程ではないにしろ、狭くて身動きが出来ないという程でもない。


(以前樵達運んだ時と比べれば、快適なのは間違いない)


 ギルムの増築工事に必要な樵を集める為、多くの村や街を移動しては連れていってもいい樵をセト籠に入れては次の場所に向かったのを思い出すレイ。

 ただでさえ、樵は木を伐採したり、場合によってはその木を運んだりといった仕事内容から、自然と筋骨隆々になる者が多い。

 そのような者達が大量に密集してセト籠に乗っていたのだから、その時のセト籠の中身はむさ苦しいという表現が相応しい……いや、それだけでは足りなかっただろう。

 その時とは違い、今回は人数も少なく、ザイード以外は身体の大きさも普通だ。

 だからこそ、セト籠の中も多少狭苦しいものの、そこまで問題はないだろうというのがレイの予想だった。

 レイの指示に従い、まずはニラシスがセト籠に乗ってみる。

 ニラシスもレイのことは信じているものの、もしかしたら……本当にもしかしたら、万が一にも何か不測の事態が起きないとも限らない。

 だからこそ、そのようなことがないようにニラシスが最初に入ったのだろう。

 レイもそんなニラシスの態度に思うところがない訳でもなかったが、ニラシス達にしてみればセト籠を見るのは……そして何より、セト籠に乗って空を飛ぶのはこれが初めてだ。

 そうである以上、慎重な対応になるのは納得出来た。


「問題ない。じゃあ、全員乗ってくれ。……レイ、すぐに出発するということでいいんだよな?」


 セト籠から顔を出したニラシスが生徒達に指示し、最後にレイに尋ねる。


「ああ、全員が乗ったらすぐに出発する。……一応言っておくけど、セト籠をセトが持った時には浮遊感があるから、混乱しないでくれ」


 浮遊感というのは、日本人であればエレベーターに乗った時に経験したりするだろうが、このエルジィンにはそのような物はない。

 ……いや、あるいはレイが知らないだけで、どこかに似たような何かがある可能性は十分にあったが。

 とにかく、セト籠に乗るのが初めてで、今まで何らかの手段……それこそワイバーンに乗るといったような経験がない場合、これが初めての浮遊感となる。

 その浮遊感によって混乱し、セト籠の中で暴れるといったようなことは避けて欲しかった。

 何しろ、セト籠もマジックアイテムではあるのだから。

 そうである以上、そのマジックアイテムが壊されるということはレイとしては可能な限り……いや、絶対に遠慮したい。

 もし壊れたら、それこそダスカーの部下でこのセト籠を作ってくれた職人に直して貰う必要がある。


(いやまぁ、それもこれも無事にギルムに到着したらの話だけど)


 もし途中でセト籠が壊れた場合、最悪ニラシス達をどこかに置いて、レイだけでギルムに戻ってセト籠を修理してからまた迎えに行くといったことをする必要がある。

 そのようなことになったら、レイにとっては非常に面倒臭いことになるだろう。

 そうならないようにする為には、やはりセト籠が壊されないようにして貰うのが一番なのは間違いない。


「では……失礼します」


 レイの言葉に何かを感じたのか、イステルが緊張した様子でセト籠の中に入る。


「……あら?」


 だが、レイが脅かした割には特に何もなく中に入ることが出来、特に何かおかしなところもないことに疑問の声を上げる。

 もっともレイが言ったのは、あくまでも飛ぶ時の浮遊感についてであり、そういう意味では今の……地面に置かれた状態でセト籠に乗っても特に何か危険がある訳でもないのだが。


「大丈夫のようですよ、皆さん」


 イステルのその言葉に、他の者達も素直にセト籠に乗る。

 最後に一度乗ったニラシスが顔を出し……


「レイ、じゃあ頼む」


 そう言い、レイが分かったと手を振ると、扉が閉められる。


「じゃあ、行くか。あまりここにいても、人目を引くしな」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトが分かったと喉を鳴らす。

 セト籠を出すということで、レイ達は正門から離れた場所まで移動した。

 だが、別に正門から見えない場所にまで移動した訳ではない。

 つまり、正門に入る為に並んでいる者達、あるいは街道を通って正門に向かっている者達からは、レイやセト……そして何より、セト籠の姿ははっきりと見えるのだ。

 特にセト籠はその大きさから、どうしても目立つ。

 これでセトが持ち上げて空を飛べば、底の部分を周囲の環境に合わせるといった効果を持つので目立ったりはしないのだが、こうしてただ地上においてある状態ではどうしようもない。

 そんな訳で、これ以上目立つのは面倒なことになりそうだと判断したレイは、素早くセトの背に乗る。

 するとセトは数歩の助走で翼を羽ばたかせて空を駆け上がっていき、やがて空中で方向を変え、地上に向かって降下する。

 そのまま猛禽類が地上にいる獲物を狙うような速度で降下していき……やがて一瞬でセト籠を掴むと、そのまま再び上に向かう。

 ふわり、と。

 恐らくセト籠の中にいる者達は、初めての浮遊感を味わっているだろう。


(これで浮遊感が苦手になっても……いやまぁ、その辺は特に問題はないか)


 セトの背の上で、レイはそんな風に思う。


「セト、頼むな。まずはギルムに戻るようにするぞ」

「グルゥ! ……グルルルゥ? グルゥ?」


 レイの言葉に分かったと喉を鳴らしたセトだったが、ふと関所はどうするの? と喉を鳴らす。

 普通であれば、国境を越える時は関所を通る。

 レイもギルムからグワッシュ国に入る時は関所を通った。

 ……もっとも、盗賊の件もあったからというのは正直なところだが。


「その辺は気にしなくてもいいだろ。フランシスがその辺は何とかしてくれるだろうし、ダスカー様に言ってもいい。もしくは、マリーナに言えば何とかしてくれそうだし」


 マリーナは既にギルドマスターではなく冒険者なのだが、それでも大きな影響力を持つ。

 だからこそ、レイの言葉も決して間違いではないのだろう。

 ……その影響力の中には、マリーナが小さい頃のダスカーについて知っている、つまりいわゆる黒歴史と呼ばれるものを知っているというのも大きいのだが。

 ダスカーにとっても、ギルムに悪い影響を与えるようなことであればともかく、そうでなければマリーナの要求を断るということはないだろう。

 関所を通らずにグワッシュ国からミレアーナ王国に入るのが、ギルムに悪い影響を与えるのかどうかは微妙なところだが。


「お、結構騒いでるみたいだな」


 セトの背に乗ったレイは、セトが持つセト籠の中から何やら騒ぐような気配がしているのに気が付き、そう呟く。

 初めて空を飛ぶという経験をした者達だ。

 騒ぐなという方が無理だろう。

 ……あるいはこれで、誰かがパニックになるといったようなことになっていれば、レイもここまで落ち着いてはいられなかったかもしれない。

 だが、セト籠の中から感じる気配は、興奮はしていてもパニックになって騒いでるといった様子ではない。

 実はレイが察知出来ないだけで、そのように騒いでいる者、あるいは空を飛ぶという行為に対して、騒ぐことすら出来ずに動けなくなっているような者がいる可能性もあったが。

 その辺については、レイも特に気にしないことにする。

 ギルムに行くのに、空を飛んでいくのは前もって言っていたのだからと。

 それに空を飛ぶのに慣れていなくても、ギルムに到着するまでには慣れるだろうと。


(そう言えば、船酔いとかもそんな感じだって聞いたことがあるな)


 レイが日本にいる時に船酔いになったことは数回だけだ。

 そもそも、船に乗る機会そのものがない。

 小学校の時に北海道に家族旅行に行った時と、中学校の修学旅行で北海道に行った時。

 その双方共にフェリーに乗って北海道に行ったのだが、その双方……往復も含めると四度のフェリーの体験、全てで船酔いをしている。

 車酔いはしたことがなかったのだが、船酔いはしたのだ。

 ただ、レイが何かで聞いた話によると、船酔いというのは何度も船に乗っていると慣れるということだった。

 そういう意味では、浮遊感に酔うといったことがあっても、何度も経験すれば慣れるという可能性も十分にある。

 あくまでもこれはレイの予想でしかなく、正しいかどうかは微妙なところではあったが。


「まぁ、どのみち嫌でも慣れて貰うしかないんだけどな」

「グルゥ?」


 レイの呟きが聞こえたのだろう。

 セトがどうしたの? と喉を鳴らす。

 レイはそんなセトの身体を軽く叩き、何でもないと示す。


「それにしても……やっぱりこうして空高くから周囲の様子を眺めるというのは、気持ちいいな」


 話題を変えるレイ。

 ただ、そこにあるのは大袈裟なものでも何でもなく、正真正銘レイが感じた素直な感想だったが。

 現在セトが飛んでいるのは、草原の上。

 どこまでも……見渡す限り広がる緑の絨毯が地上には広がり、緑の海を見ているかのような感想を抱かせる。

 空を見れば、青く広がる空と入道雲が浮かび、夏の日差しらしい強烈な太陽の光が地上に降り注いでいた。


「うん、やっぱりこれぞ夏って感じの空だな」

「グルゥ」


 レイの言葉にセトはそうだねと喉を鳴らす。

 セトにとっても、最近……ガンダルシアに来てからは、空を飛ぶのはダンジョンの中だけの話だった。

 そういう意味では、こうして本当の意味で空を飛ぶことが出来るのは嬉しかったのだろう。


「とはいえ、俺達にとっては絶景といった感じだけど……地上を移動する者達にしてみれば、この日差しとか気温とかは厄介だろうな」

「グルルゥ?」


 呟くレイの言葉に、セトはあそこにいる人達? と喉を鳴らす。

 現在、地上では草原の中を移動してる者達の姿がある。

 馬車が一台に、歩いて護衛をしている冒険者と思しき者達。

 商隊なのか、それともその馬車が冒険者と思しき者達の持ち物なのか。

 それは遠くから見ているレイにも分からなかったが、それでも何となく……本当に何となくだが、地上を歩いている冒険者達がうんざりとしているように見えた。


(無理もないか。俺はドラゴンローブがあるから暑さとかは気にしなくてもいいけど、地上を移動している連中にそんなマジックアイテムはないだろうし。これが森とか林なら、生えている木によって日光を和らげてくれるだろうけど、見た感じ、木はどこにも生えていないしな)


 あるいは草原であっても、ガンダルシアのダンジョンの十三階のように背丈よりも高い草なら、それによって日光を遮ってくれるかもしれないが……ここはダンジョンではないのだから、生えている草は普通の草だ。

 いや、寧ろ足首辺りまでの草の中だけに、そのような場所を進む際には草に足をとられ、場合によっては馬車の車輪に草が絡まったりしてもおかしくはない。


(普通なら街道とか……そこまでいかなくても、何度も通る場所なら踏み固められて自然と道のようになったりするんだが。そういうのは見た感じなさそうだしな)


 つまりそれは、現在地上を移動している者達は普段はこの辺りを通っているという訳ではないのだろう。

 とはいえ、それは冒険者として考えた場合、そうおかしな話ではない。

 冒険者の依頼の中には、今まで通ったことがない場所を移動してみて、道を作れるかどうかを調べるというのもあるのだから。

 あるいは商人の護衛として、普段通らない場所を移動するといったように。

 現在地上を移動しているのも、そのような者達なのだろう。

 そう思いながら、レイはセトと共に空の散歩を楽しむのだった。

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