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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3861/3865

3861話

 聞こえてきた何らかの音。

 それは明らかに自然に生み出される音ではなかった。


(いやまぁ、建物の形によっては風が中に入ると笛のような音になったりするって話もあるから、そういう意味では絶対に自然の音じゃないとは限らないけど)


 それでも、聞こえてくる音はキン、カン、コンといったように複数の種類を持つ。

 そうである以上、恐らく人為的な音だろうとはレイにも理解出来た。

 だからこそ、何があるのかと興味を抱き、セトに向かって音のする方に向かうように指示を出す。

 元々こちらの方角に来たのはレイの指示ではなく、セトの野生の感覚によるものだ。

 そうである以上、何かがあるだろうとは思っていたレイだったが……今回の一件は少し予想外だったのも事実。

 正直なところ、あっても宝箱であったり、もしくは道に迷った冒険者であったり、そういうのだと思っていた。

 運が良ければ、先程のように冒険者がモンスターに襲撃されているのを見つけられるかもしれないとは思っていたが。


「グルルゥ」


 崖の階層だけあって音はかなり周囲に響いており、音の出所を見つけるのは難しい。

 それでもどの辺りから聞こえてくるのかは、周囲を飛び回っていれば大体理解出来る。

 ましてや、このような音を立てているのだ。

 音を立てている方も、逃げ隠れしようとは思っていないだろう。


(というか、ダンジョンの中でこういう音を立てていると、それこそモンスターとか寄ってきそうな気がするんだが。その辺は問題ないと思えるくらいの強さを持っているのか、それとも特に何も考えていないのか。……いや、それはないか。十四階なんだし)


 十四階までやって来ることの出来る者達なのだから、何も考えていないということはないだろうと。


(あるいは、冒険者じゃなかったり? モンスターとか……けど、モンスターが何でこんな音を? 修行?)


 そんな風に感じながら音の出所を探っていると……


「グルゥ!」


 セトが見つけた! と喉を鳴らす。

 セトの見ている方に視線を向けたレイが見つけたのは、三人の小柄な……それでいて筋肉質な身体をしており、長い髭をしている者達。


「あー……そっちか」


 そんな声が漏れる。

 てっきり、修行か何かでもしている音かと思ったのだが、レイの視線の先にいるのは三人のドワーフ達。

 そのドワーフ達は、崖の一部にツルハシを振り下ろしていた。

 また、ドワーフ達から少し離れた場所には金属で出来た荷車があり、そこには鉱石と思しき物が大量に入っている。

 つまり、レイの視線の先にいるドワーフ達は採掘を行っているのだ。


(というか、何でこの十四階で採掘? ここまで来るってことは、多分十五階の転移水晶に登録してるんだよな? それとも十階の転移水晶からここまで来たのか。……どちらにしろ、あの荷車を持って上や下に続く階段のある崖は……無理じゃないか?)


 鉱石の入っている荷車は、普通の馬車と比べると大分小さい。

 だが、それでも崖の上に続く細く急な坂道を登るのは無理なようにレイには思えた。

 勿論、レイの持つミスティリング……あるいはそこまでいかずとも、廉価版のアイテムボックスでもあれば話は別だが。

 どうするべきか。

ここで何を採掘しているのか、またあのドワーフ達は一体何なのか。

 そうして疑問に思っていたレイだったが、レイが行動に移るよりもドワーフの一人がレイを……より正確にはセトを見つける方が早かった。

 採掘を続けていたドワーフの一人が、何かを感じたのか、それともただ何気なくか、とにかく空を見上げたのだ。

 ……そのようなことをしても、ここはダンジョンの中だ。

 急に雨が降ったり、極端に晴れたりといったことはない。

 この崖の階層は基本的に薄らとした雲があり、晴れてはいるがそこまで眩しい訳ではない。

 そんな空だったが、採掘作業に疲れたドワーフにしてみれば、気分転換で見上げてみてもおかしくはなかった。

 そして……そのドワーフは、空を飛び、自分達の方を見てるセトの姿に気が付く。


「ぬおわぁっ!」

「なんじゃ、敵か!?」


 セトに驚き悲鳴を上げたドワーフの一人。

 その悲鳴を聞いた他のドワーフが、採掘に使っていたツルハシを手に素早く周囲を警戒する。

 十四階で採掘をしているだけあって、この辺りの行動は慣れたものなのだろう。


(ああ、もしかして十五階じゃなくて十四階で採掘をしてるのは、敵の強さも影響してるのか?)


 十五階の溶岩の階層に出てくる敵の多くは、その階層に相応しく溶岩を纏っていたり、溶岩そのものが身体となっていたりする。

 ドワーフ達にしてみれば、採掘作業をしている時に襲われれば容易に重傷を負ってもおかしくはない。

 そういう意味では、空を飛ぶモンスターが多いという危険はあれども、溶岩の階層よりは安心であるここで採掘をしているのかもしれないというのは、レイにも納得出来た。

 もしくは、この階層でしか採掘出来ない鉱石を求めてのことかもしれないが。

 ともあれ、レイは武器を構えたドワーフ達に敵ではないと知らせる為に口を開く。


「俺達は敵じゃない! 冒険者だ!」


 その言葉にドワーフ達は一瞬戸惑った様子を浮かべるものの、それでも構えていた武器を下ろす。

 ……ただし、まだ武器は握ったままで、何かあったら即座に対処出来る準備はしていたが。

 ただ、これは別にそこまでおかしなことではない。

 いや、寧ろ当然の行為であるとすら言ってもいいだろう。

 ここはダンジョンの中で、いつ何が起きてもおかしくはないのだから。


「セト」

「グルゥ」


 レイが名前を呼ぶと、セトはそれだけでレイが何をして欲しいのかを理解し、翼を羽ばたかせながら降下していく。

 ドワーフ達はそんなセトの様子に警戒をしていたが、その中の一人がふと気が付く。


「そう言えば、グリフォンを従魔にしている高ランク冒険者がいるとかなんとか、ギルドで聞いた覚えがあるんじゃが」

「……おお、そう言えば儂もその話は聞いたことがあるぞ」


 その会話で、レイが取りあえず信頼出来る相手であるというのは理解出来たのか、ドワーフ達の表情からほぼ警戒が消える。

 ちょうどそのタイミングでセトは地面に着地し、レイもセトの背から下りる。


「俺はランクA冒険者のレイだ。……その、一応聞いておくけど、ここでやってるのは採掘だよな?」

「うむ。儂はジャーミ。ドワーフじゃ。というよりも、採掘隊は見ての通り全員ドワーフで構成されておるパーティじゃがな」

「……それはまた」


 全員がドワーフというのもそうだが、レイが驚いたのは採掘隊という名前だった。

 まさに名は体を表すといったところか。

 そのパーティ名を聞けば、一体このパーティが何を目的にしたパーティなのかは容易に想像出来てしまう。


「それで、お主……レイか。一体何をしにこのような場所まで来たのじゃ? この辺りは十四階でも端の方で、特に何がある訳でもないが」


 採掘隊のリーダーなのだろうジャーミは、そう言ってからレイの視線の先……自分達が採掘していた場所を見ると、訝しげに口を開く。


「もしかして、お主もここの鉱石を求めてきたのか? 儂等が終わった後でなら、採掘をしても構わんが」

「いや、別にそういうつもりはない。この十四階の探索をしていたら、何だか妙な音が聞こえてきたから見に来てみただけだ。もしかしたらモンスターがいるのかもしれないと思って」

「……なるほど。まぁ、お主ならそういうことも簡単に出来るのじゃろうな」


 ジャーミがそう言ったのは、セトが空を飛んでいる光景を目にしたからだろう。

 普通に地上を歩いて移動するとなると、幾つもの崖を越えなければここまでは来られない。

 だが、空を飛ぶセトの場合はそんな崖など全く関係なく空を飛んで移動出来る。

 結果として、地上を移動するよりも容易にここまで来られる訳だ。


「で……色々と聞きたいことがあるんだが、何を採掘してるんだ?」

「グラース鉱石じゃよ。知らぬか?」

「……生憎と」


 ミスリルのような有名な魔法金属であったり、あるいは火炎鉱石を始めとした魔法金属の鉱石であれば、レイもそれなりに知識はある。

 だが、グラース鉱石というのは今日初めて聞いた名称だった。


「ふむ、そうか。言ってみればミスリル程ではないにしろ、魔力に親和性のある金属の鉱石じゃ」

「……それで、これとか?」


 今の言葉にふとレイは気になり、以前入手したミスリル未満のインゴットをミスティリングから取り出す。

 すると案の定、ジャーミは頷く。


「何じゃ、インゴットを持っておるではないか」

「……これ、グラースという魔法金属のインゴットだったのか。鍛冶師に見せたら、ミスリル未満という風に言われたけど」

「まぁ、グラースという魔法金属は有名ではないからの」


 その言葉には少し自慢げな色がある。

 自分達が知っているのを、レイが見せた鍛冶師が知らなかったというのが、自尊心をくすぐったのだろう。


「グラースか。……けど、結局のところミスリル未満……ミスリルの下位互換であるのは変わらないんだろう? 魔法金属ではあるかもしれないが、どういう風に使うんだ?」

「レイが言うように、グラースはミスリルの下位互換だ。それは間違いない。しかし、下位互換だからといって、使い道がない訳ではない。……いや、寧ろ下手にミスリルを使うよりも、グラースを使った方が、効果は多少落ちるが、値段は半分以下になる。場合によっては更に下がるじゃろう」


 ジャーミの説明によれば、例えばミスリルを使って作った物……それがマジックアイテムでも魔剣でも何でもいいが、とにかくその性能を十で値段もまた十の場合、グラースを使って同じ物を作れば、性能は七から八まで落ちるのに対し、値段は五……場合によっては四から三になるという。


「そして実際のところ……これはあくまでも人にもよるのじゃが、ミスリルで作った物の性能全てを完全に活かせない者もおる。そのような者であれば、グラースで作った物で性能は十分じゃろう?」

「もっとも、グラースはミスリルよりも大分色が薄い。見る者が見れば、すぐにそれはミスリルではないと分かるから、面子を大事にしている者にしてみれば、グラースを使いたくない者もおるじゃろうな。貴族とか」


 ジャーミの側にいたドワーフがそう言うと、何が面白いのか三人のドワーフ達が揃って笑う。


(もしかしたら、以前ミスリルとグラースの件で何かがあったのかもしれないな。それが笑える何かかどうかだったのかは別として)


 そう思いながら、レイは改めて荷車に視線を向ける。


「それでこれがグラース鉱石って訳か」


 尋ねるレイに、ジャーミは頷く。


「うむ。儂等の努力の結晶じゃ」

「……一応聞くが、お前達は十五階の転移水晶を使ってるんだよな? 十階の転移水晶じゃなくて」

「当然じゃろう」


 一体何を言っている?

 ジャーミはそんな様子でレイに言う。

 レイも恐らくはそうなのだろうと思っていたので、今の言葉にはやっぱりなという思いしかない。

 だが同時に、改めて荷車に視線を向ける。


「それで、この荷車をどうやって十五階まで持っていくつもりだ? 崖の坂道はとてもじゃないがこの荷車では運べないと思うが」

「ああ、その件か」


 レイの言葉にジャーミは……いや、他の二人のドワーフも自信ありげに笑みを浮かべる。


「この荷車は普通の荷車という訳ではない。……丁度いい。お主にも見せてやろう」


 そう言うと、ジャーミ以外の二人のドワーフも荷車の側まで向かい、色々と弄る。

 すると……


「へぇ、これはまた……変身? いや、変形か」


 細長くなった荷車を見て、レイはそう言う。

 一体どういう風に弄ったのかは、レイにも分からない。

 ただ、それでも荷車の幅が狭くなり、前後に長くなったのは事実。

 これなら、崖の坂道を移動出来るだろうと思えるくらいに細く、そして長くなった。


(とはいえ、長くなった分、坂道では苦労しそうだけど。空を飛ぶ敵に襲撃された時も、これだと対処は難しそうだし)


 そんな風に思うレイだったが、ジャーミ達がこの場にいるということは、恐らくレイの心配した状況になった時、何らかの対処方法はあるのだろう。

 少しだけそれを知りたいと思ったレイだったが、ジャーミ達にしてみれば、この荷車はそれなりに機密度が高い物なのは間違いない。

 ……その割に、あっさりとレイに変形するギミックを見せたが。

 この辺りは、物作りの得意なドワーフとしてのどうしようもない性なのだろう。


「これがあれば、坂道もどうにでもなる。……鉱石が落ちないように注意する必要はあるがな」


 そう言うジャーミに、レイはなるほどと頷くのだった。 

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