3860話
カクヨムにて47話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519
また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。
「あそこだな」
レイはセトと共に先程のゴブリンメイジの死体を見つけると、そちらに向かう。
階段の上でレイが助けた冒険者達は、現在坂道を慎重な様子で下りてきている。
今日初めて十四階に下りてきたという者達だけに、周囲の様子をしっかりと警戒しながらの行動だった。
それでも、冒険者達にしてみれば近くにレイとセトがいるので、何かあったら助けて貰える。
そのように思えるだけに、ある意味でラッキーではあるのだろう。
もしこれでレイがいなければ、完全に自分達だけで周囲を警戒しながら移動する必要があるのだから。
……もっとも、冒険者としてはそれが普通なのも間違いなかったが。
とはいえ、レイも何も無条件で冒険者達を甘やかしている訳ではない。
視線の先にあるゴブリンメイジの死体のように、未知のモンスターが冒険者達を襲うことがあるかもしれないと、そのように思っての行動でもある。
未知のモンスターというのは、レイやセトはなかなか見つけることが出来ない。
冒険者達を襲ってきてくれるのなら、レイとしては決して悪くはなかった。
「ともあれ、解体だな。……まぁ、どんな素材が残るのか……いや、残らないのかは、何となく予想出来るけど」
そう言いつつ、レイはドワイトナイフを取り出すと魔力を込め、ゴブリンメイジの死体に突き刺す。
周囲が眩く光り……それに対し、先程の冒険者達が驚きの声を上げる。
(あ、しまったな)
そう言えばドワイトナイフがどのような効果で、それを使うというのを話していなかったと思い出す。
もっとも、レイにしてみればその辺についてわざわざ話す必要があるのか? と思わないでもなかったが。
あの冒険者達はレイの仲間でもなければ、一時的にパーティを組んでいる訳でもなく、あくまでもここで偶然会っただけの者達なのだから。
驚きの声は聞き流しながら、レイは残った素材を見るが……
「へぇ」
意外そうな声を出す。
当然だろう。てっきりゴブリンと同じく魔石だけが残るのかと思っていたら、保管ケースに入った内臓もそこにはあったのだから。
ゴブリンの内臓が一体何に使われるのか、レイには分からない。
分からないが、そういうのは取りあえず持っておくか、あるいはギルドに素材として売ってもいい。
レイにはあまり興味はなかったが、ギルドに売ればこれがどういう素材で何に使われるのかというのを知ることも出来る……かもしれない。
「ちょっ、レイ! 今のは一体何だよ!?」
眩い光を見た冒険者達だったが、細い坂道を下りるとすぐにレイの方にやってくる。
パーティリーダーの男の言葉に、レイは特に気にした様子もなく口を開く。
「解体用のマジックアイテムだよ。……ほら」
そう言い、地面に置かれていた魔石と保管ケースに入った内臓を見せる。
それを見た冒険者の面々は驚く。
自分達は崖の上にあったゴブリンの死体から、必死になって身体を斬り裂いて魔石を取り出したのに、レイはあっさりと魔石を……更には保管ケースに入った内臓などという物もあるのだから。
冒険者達がゴブリンから魔石を取り出した時は、当然ながらその魔石は血や体液に塗れている。
ゴブリンの血や体液ともなれば、当然ながらそこには悪臭があるのだ。
そんな中、必死に頑張ってやった自分達とは裏腹に、レイは一瞬にしてやった。
しかもゴブリンメイジの死体……魔石や内臓を取り出した死体が残っていない。
「えっと……これは一体?」
「マジックアイテムの効果だな。とにかく、俺の用件はこれで終わった。俺とセトはもう行くから、お前達も頑張れよ。崖の上り下りには注意した方がいい」
「え? あ……ちょ……いや、分かった」
いきなりここからは別行動だと言われ、咄嗟に何かを……自分達と一緒に行動して欲しいと言おうとしたパーティリーダーの男だったが、結局それが言葉にされることはなかった。
何の関係もない……敢えて関係を述べるのなら、一方的に助けて貰った相手に、これ以上自分達と一緒に行動して欲しい。もっと言えば、自分達の護衛をして欲しいとは、とてもではないが言えなかった。
このパーティも、自力で十四階まで来るだけの実力の持ち主だ。
ガンダルシアにいる冒険者の中では、間違いなく上澄みだろう。
だからこそ、ここでレイに一方的に頼ろうとは思わなかった。
レイもパーティリーダーの男が何を言おうとしたのかは理解したものの、それについては何も言わない。
……もしパーティリーダーの男が自分達と一緒に行動して欲しいと言っていれば、呆れながらも断った。
だが、パーティリーダーの男は結局何も口にせず、レイに呆れられるということはなくなった。
……もっとも、もしこのパーティが何らかのマジックアイテムを持っており、それがレイの欲するような物であった場合は、また少し話は違ったが。
ただ、その場合レイはかなり悩んだだろう。
マジックアイテムは欲しい。
だが、今日はこの十四階の探索を続けるつもりだった。
ギルムに行くまで、もうすぐだ。
これがギルムに行くような用事がないのなら、レイもある程度の余裕があり、マジックアイテムを報酬とされるとすぐに引き受けたかもしれないが。
幸か不幸か、今回はそういうことにならず、レイはゴブリンメイジの素材をミスティリングに収納すると、セトの背に乗ってその場を飛び立つ。
「……じゃあ、俺達も探索をするか」
残された冒険者達の中で、パーティリーダーの男がそう言う。
その言葉に他の仲間達も頷き、今日は初日ということで無理のない範囲で探索を行うのだった。
「さて、この辺でいいか。……セト、お前が使うか?」
「グルゥ?」
レイの言葉に、セトはいいの? と喉を鳴らす。
ゴブリンの群れとの戦闘において、セトも当然ながら戦いに参加している。
しかし、ゴブリンメイジを倒したのはセトではなくレイだ。
であれば、ゴブリンメイジの魔石はセトではなくレイが使うべきではないか。
そうセトが思ってもおかしくはない。
しかし、レイはそんなセトに気にするなと首を横に振る。
「そもそも、セトがいないとこの十四階をここまで自由に移動出来ないんだ。それに、さっきの冒険者達がゴブリン達に襲われているのを見つけたのも、セトだろう? なら、セトがこの魔石を使ってもおかしくはない」
「グルゥ……グルルルゥ!」
レイの言葉に少し迷ったセトだったが、それでも最終的にはレイの言葉に分かったと頷く。
レイの気持ちを蔑ろにするつもりはないと、そう思っての行動だろう。
レイはそんなセトの様子に笑みを浮かべ、早速魔石を取り出す。
「多分ここなら大丈夫だとは思うけど、誰も見ていないよな?」
「グルルゥ? ……グルゥ」
レイの言葉にセトは周囲の様子を見て、それで誰も見ていないよと喉を鳴らす。
現在レイ達がいる場所は、先程の場所……十三階に続く階段からそれなりに離れた場所だ。
空を飛べるセトだからこそ、こうしてあっさりとここまで来ることが出来たのだが、もしこれがレイ達以外の普通に歩いて移動する者達であった場合、それこそ崖の上り下りをする必要があるので、かなりの時間が掛かるだろう。
ましてや、レイ達のいる場所まで来るには幾つかの分かれ道できちんと正解の道を選ぶ必要がある。
今日初めて十四階に到達した者達には、到底ここまで来ることは出来ないだろう。
……もっとも、この十四階で行動している冒険者は他にもそれなりにいる。
そんな者達がレイ達の様子を見ている可能性もあるので、そういう意味ではすぐに安全だと断言するようなことが出来ないのも事実。
もしかしたら、それこそ気が付かない間にレイ達のことをこっそりと観察しているような者もいる可能性はあるのだから。
そうならないよう、レイはしっかりとセトに周囲を確認して貰ったのだ。
そうして安心したところで、レイはセトに向かって魔石を見せる。
「じゃあ、行くぞ」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは喉を鳴らし……魔石が放り投げられる。
セトはクチバシで魔石を咥え、飲み込む。
【セトは『ウィンドアロー Lv.六』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それは、レイにとって驚くようなことではなく、納得するべきもの。
ゴブリンメイジは風の刃の魔法を使っていたこともあり、また空を飛ぶというのもレイの印象では風系だろう。
そんな訳で、セトがウィンドアローのレベルアップをしたことは、レイにとっては驚きよりも納得の色の方が強い。
「グルルルゥ」
嬉しそうに喉を鳴らすセト。
セトにとっても、ウィンドアローのレベルが上がったのは嬉しかったのだろう。
何しろ、ウィンドアローはそれなりに使い勝手のいいスキルだ。
威力そのものは他のアロー系よりも低いが、風の矢だけに速度は他のアロー系よりも上だし、また風の矢だけに完全にではないにしろ、かなり見えにくい。
また、威力が弱いというのは一見すれば欠点のように思えるが、例えば相手を倒したいが殺す訳にはいかない場合といった時はかなり便利ではある。
「じゃあ、セト。レベルアップしたウィンドアローを見せてくれ」
「グルゥ。……グルルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは離れた場所にある五m程の岩に向かってウィンドアローを発動する。
生み出された風の矢は、八十本。
その八十本が一斉に岩に向かって放たれた。
一本ずつの威力は、そこまで高くはない。
しかし、その分数が多い。
八十本の風の矢が一斉に殺到し……それがほぼ同じ場所に連続して命中し続けることにより、五m程の岩は途中で折られる……いや、正確には削られ、自重に耐えられず折れるのだった。
ずん、と。
折れた岩が地面にぶつかる音が周囲に響く。
レイはその様子を見つつ、感心したようにセトに向かって声を掛ける。
「凄いな、セト」
「グルルゥ!」
レイの言葉に、嬉しそうに喉を鳴らすセト。
セトにとっても、レベルアップしたウィンドアローの能力は十分に満足出来るものだったのだろう。
「さて、そうなると……次はどっちに行く?」
この崖の階層において、セトは自由自在に動くことが出来る。
だからこそ、レイは次に行くべき場所……その場所を、セトの本能に任せてみようと思う。
セトの本能によって、未知のモンスターや宝箱、あるいはそれ以外の何かを見つけられるのなら、それに越したことはないだろうと。
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは任せて! と喉を鳴らす。
ウィンドアローのレベルアップでやる気満々といったところなのだろう。
そうしてレイはセトの背に乗り、再び上空に向かう。
空高くまでやってきたセトが向かうのは……西。
そちらに何があるのか、あるいはどのような理由でそちらを選んだのかは、レイにも分からない。
ただ、セトがそちらを選んだのなら、野生の本能に任せてそちらに移動したのだろうと、そのように思うだけだ。
(まぁ……セトに野生だとか、そういう風に思う時点でちょっと間違ってるのかもしれないけど)
普段のセト、自分に甘えているセトであったり、最近ではギルドの前でセト好きの多くの者に遊んで貰っているセトを思えば、とてもではないが野生だとは思えない。
それこそ、野生は欠片も存在しない愛玩動物だと言われても、その言葉に素直に納得してしまう。
それだけに、野生? とレイが思ってしまっても仕方がないのだが……しかし、戦いの時のセトは間違いなく野生の本能を剥き出しにして戦いを行っている。
勿論、野生だからといって、ただ本能に任せた戦い方をする訳ではない。
高ランクモンスター……より正確には、魔獣術によって生み出された為に持つ高い知性を使い、ただ本能で戦うのではなく、しっかりと考えて戦うことも出来る。
野生ではあるが、それにプラスして知性があると……知性を持つ野生と言うべきか。
そのような意味では、ただの野生よりも間違いなくセトの持つ野生は上だった。
そんな野生だからこそ、レイは頼ってもいいだろうと思っているし、実際に今まで何度もそんな野生の勘に助けられている。
そうである以上、今はセトに任せて自分は周囲の様子を偵察していればいいだろうと、そう思っていた。
そして……そんなセトの野生の勘は正しかったらしく、五分くらい空を飛んだところで、その速度を緩める。
五分とはいえ、それはセトの飛行速度で五分だ。
厳しい訓練を受けた軍馬が全速力で走っても追いつけない、そんな速度。
それだけの距離を飛んだセトの耳に入り、少し遅れてレイの耳にも入ってきたのは……
キンッ、キン、コン、カン、という音だった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.六』new『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.五』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.六』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.二』
ウィンドアロー:レベル一で五本、レベル二で十本、レベル三で十五本、レベル四で二十本、レベル五で五十、レベル六で八十本の風の矢を射出する。威力自体はそれ程高くはないが、風で作られた矢なので敵が視認しにくいという効果や、矢の飛ぶ速度が速いという特徴がある。