表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3857/3865

3857話

「さて、じゃあ魔石を使うか。この崖の階層は死角があまりないから、便利だよな。もし誰かが見ていても、セトなら気が付くだろうし」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは任せてと喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に笑みを浮かべたレイは、感謝を込めてセトの身体をそっと撫でる。

 相変わらず手触りのいい毛並みに酔いしれそうになるが、今はそれよりもまず魔獣術を行うのを優先する必要があった。


「まずはやっぱりセトからでいいか? もっとも、十四階にいたモンスターとはいえ、結局のところはゴブリンだ。スキルを習得や強化出来ない可能性もあるけど」

「グルゥ」


 セトもゴブリンについては色々と詳しく知っている。

 それこそレイがソロで行動している時に野営をすると、夜にゴブリンが襲ってくるというのは珍しい話ではなかったのだから。

 レイはマジックテントの中で眠っており、セトは護衛として外にいる。

 その時、ゴブリンが襲ってくるということがそれなりにあるのだ。

 ゴブリンは相手との力の差を理解出来ず、相手がグリフォンのセトであっても攻撃してくる無謀さを持つ。

 ……あるいは敵がグリフォンであっても足を止めないということは、勇気と称してもいいのかもしれないが……それは勇気は勇気であっても、蛮勇で呼ぶべきものでしかない。

 もっとも、セトの強さを実際に間近で見れば即座に逃げ出すので、蛮勇という表現も相応しくないのかもしれないが。

 ともあれ、そんなゴブリンの魔石だが、この魔石を持っていたゴブリンはただのゴブリンではなく、羽根を持つゴブリンの上位種と思しき存在だ。

 そうである以上、魔石を使えば魔獣術でスキルを習得したり、強化される可能性は十分にあった。


「よし、行くぞセト」

「グルゥ!」


 やる気満々といった様子で、セトは喉を鳴らす。

 それを聞きつつ、レイは魔石を放り投げ……セトはそれをクチバシで咥え、そのまま飲み込む。


【セトは『翼刃 Lv.六』のスキルを習得した】


 脳裏に響く、アナウンスメッセージ。

 それを聞いたレイは、驚くのではなくなるほどなと納得する。

 ゴブリンは羽根を持っていたのだから、翼刃のスキルが強化されてレベルアップしてもおかしくはないだろうと。


「グルルゥ!」


 スキルのレベルアップに、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 恐らく上位種とはいえ、それでもゴブリンの魔石だっただけに、もしかしたら魔獣術が発動しないのではないか。

 そのような心配もあった為、きちんと魔獣術が発動してスキルが強化されたのが嬉しかったのだろう。

 ましてや、翼刃はそれなりに高い機動力を持つセトにしてみれば、かなり使いやすいスキルだ。


「じゃあ、セト。試してみるか……と思ったけど、どうやって試すかだな」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトも同意するように喉を鳴らす。

 レベル五の時点で、鍛えた鋼であろうとも切断出来る能力を持っていた翼刃だ。

 レベル六になった今、一体どのくらいの物であれば切断出来るのか、残念ながらレイにも分からなかった。


「取りあえず……岩でも切断してみるか? けど、それだと明らかにレベル五よりも劣っているし」


 そう言うレイだったが、だからといって今のこの状況で試す方法はない。

 いや、ミスリル未満の魔法金属のインゴットはあったが、それを破壊してまで試したいとは思わない。


「うん、取りあえず翼刃についてはまだ後でだな。……まぁ、レベル五の時点で大体の相手に効果があるのは間違いないし」

「グルルゥ……」


 レイの言葉に複雑そうな様子で喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、もっとはっきりとスキルの効果を確認してみたかったのだろう。

 だが、レイの言葉を聞けばそれも仕方がないかと思い、それ以上は我が儘を言うようなことはなかった。

 そんなセトの様子を一瞥すると、レイは次にもう一つの魔石を手にする。

 セトが魔獣術を使ったのだから、次は当然のようにレイの……より正確にはデスサイズの番だった。


(セトが翼刃のレベルが上がったとなると……デスサイズだと何だ?)


 そう思いながら、レイはゴブリンの魔石を放り投げ、デスサイズで一閃し……


【デスサイズは『黒連 Lv.五』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 それを聞いて、レイは微妙な表情を浮かべる。

 使い道の分からなかった……ただデスサイズで斬った場所が黒くなるだけの黒連が、いよいよスキルが強化されるレベル五になったのは嬉しい。

 嬉しいのだが、何であのゴブリンで黒連のレベルが上がる?

 そんな思いがレイの中にはあった。

 もっとも、今まで黒連のレベルが上がった時のことを思えば、何でお前で黒連が? といったモンスターは多かった。

 そう考えれば、空を飛ぶゴブリンの魔石で黒連のレベルが上がっても不思議ではないのだろう。


「さて、そうなると……レベル五になって黒連がどう強化されたかだな。レベル四までの黒連は空中に黒い斬り傷を残すだけで、全く役立たずだったし。……セト、一応離れていてくれ」

「グルゥ」


 レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らし、レイから離れる。

 レイはそれを確認すると、デスサイズを手にスキルを発動する。


「黒連」


 スキルを発動した後で、取りあえず一度だけ空中を斬る。

 すると予想通り、空中には黒い斬り傷が浮かび上がった。


「ここまでは同じか。……てっきり黒じゃなくて赤とか青とか、そういう色になるかもしれないとは思ったんだけどな」


 空中に浮かぶ黒い斬り傷を見ながら、そんな風に思う。

 今のところは特に何か変わるようなことはなく、レベル四までの時と同じだ。


「となるとの、この斬り傷に何か変化があったとか?」


 そう思い、そっと手を伸ばそうとするものの、すぐにその手を止める。

 レベル四までの時ならともかく、レベル五になった今の状況でこの斬り傷に触れるのは危険だと判断した為だ。

 実際にどうなっているのかは分からないが、それでもこのまま触れるのは危険だと、そう思ったのだ。


「……となると」


 レイは周囲を見ると、幾つかの石が落ちていたので、それを手に取る。

 崖の階層だけに、石はそこら中に落ちている。

 その為、石を見つけるのにそこまで苦労しない。

 その石を、レイは空中にある黒い傷跡に向かって放り投げる。

 石はそのまま黒い傷跡に向かって飛び……

 斬、と。

 石が黒い傷跡に触れた瞬間、真っ二つになる。

 同時に空中にあった黒い傷跡も消える。


「……マジか」


 目の前で起きた光景に、レイの口からはそんな声しか漏れない。

 レベル五になったのだから、何かがあるだろうとは思っていた。

 だが、まさかこのようなことになっているというのは、レイにとっても少し驚きだった。


「もう少し試してみるか」


 レベル四までの黒連は全く使い道のないスキルだった。

 それこそ精々、空中に黒い傷跡を残せるという意味で、はったりか何かに使える程度でしか無かったのだが、レベル五になり、そのスキルの性能は大きく変わっている。

 そうである以上、どのようなスキルなのかしっかりと確認しておくのは当然のことだった。


「黒連」


 そうして再び黒連を使い、レベル五になってどのくらい強化されたのかを確認していく。

 分かったことは幾つかある。

 一つ、レベル四では黒い傷跡は四つまでしか作れなかったが、レベル五になったことで一気に倍の八つもの黒い傷跡を作れるようになっていた。

 二つ、黒い傷跡はそれに触れるとその黒い傷跡を作った時の斬撃が威力もそのままに放たれる。つまり、黒い斬撃というのは、滞空する斬撃、もしくは固定化された斬撃とでも呼ぶべきものであること。

 三つ、黒い傷跡……いや、黒い斬撃が消える条件は、一度斬撃を放つ、レイが消えるように考える、十分程が経過するという三つの条件によって消滅する。

 四つ、黒い斬撃はいわゆる敵味方識別は出来ず、敵だけではなく味方、レイやセトであっても触れば黒い斬撃は発動する。

 五つ、黒い斬撃はあくまでもデスサイズの普通の斬撃しか作れない。氷雪斬、雷鳴斬、火炎斬といったようなスキルを使った斬撃を黒い斬撃として残すことは出来ない。


「うーん……レベル四までの時と比べると圧倒的に使えるようになったのは間違いない。間違いないんだが……かなりトリッキーな使い方をするスキルだな。真っ先に思いつくのは、罠だろうし。ただ、十分程度で自動的に消えるというのは、罠として使うにも使いにくいんだよな」

「グルルゥ」


 レイの言葉にセトが反応する。

 セトから見ても、やはり今回の一件には色々と思うところがあるのだろう。


「威力そのものは普通にデスサイズを振るった時そのままだから、その点では問題ない。……ただ、普通の斬撃でしか出来ないのは残念だよな」


 これでデスサイズの他のスキル……氷雪斬や雷鳴斬、火炎斬といった属性を付与したスキルを黒連に組み込むことが出来れば、便利そうではあったのだが、残念ながらレイがやってみた感じでは黒連に使えるのはあくまでも普通の斬撃だけだった。


「それに、罠を仕掛けるというスキルそのものが、戦闘では少し使いにくいんだよな」


 戦闘の中で相手の意表を突くという意味では黒連を使うのもありだろう。

 だが、黒い斬撃が空間に残っているのを見て、それに触れようと思う者がいるか。

 何より、黒連を使って黒い斬撃を生み出すよりも、その手間で相手に直接攻撃するといった方がやりやすいのは間違いない。

 そういう意味で、レイにとって黒連というスキルはレベル五になってようやく使えるスキルになったのは間違いなかったが、同時に使いにくいスキルであるのも事実だった。

 もし使うのなら、もっとテクニカルに……相手の意表を突くような形で使う必要がある。


「色々と研究をする必要はあるだろうな」


 そう思いつつ、レイは黒連の検証を止める。

 もっと色々と試してみたいと思うことはあったが、それを実際にやってしまうと結構な時間が掛かるだろうと、そう判断したのだ。


「グルルゥ?」


 これからどうするの?

 そう喉を鳴らすセトを撫でると、レイは視線を空に向ける。


「スキルの確認は終わったし、また モンスターを探すぞ。それと宝箱も」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトの様子に笑みを浮かべる。

 そうして一人と一匹は改めて空に飛び立つ。


(とはいえ、そう簡単にモンスターを見つけるのは難しいだろうな。そもそも十四階まで来ることが出来る冒険者の数が少ないんだし。そうなれば、モンスターが多くいてもモンスター同士で争うだけになる。となると、少数精鋭か。……ん? じゃあ、あのゴブリンは一体何でだ?)


 勿論、ゴブリンの中では空を飛べるという意味で上位種なのは間違いないだろう。

 だが、武器は石くらいしかない。

 ……それでも普通の冒険者にとっては厄介なのは間違いないのだが。

 何しろ、人にとって上というのは死角だ。

 気配や殺気の類を察知出来れば、自分を狙っている敵の存在に気がつけるかもしれない。

 しかし、その手の技術はそう簡単に身につくものでなく、冒険者の多くは使えないのだが。

 ……レイの場合は、ゼパイル一門の技術で作られた身体によるものか、あるいはレイの才能としてあった莫大な魔力故か、そこまで苦労することなく、気配や殺気を察知出来るようになっていたのだが。


(とはいえ、十四階にまで来る冒険者なら、気配や殺気を感知出来る能力を持っていてもおかしくはないか。となると、あのゴブリンは精鋭の中の雑魚になるのか? ……随分と矛楯した言葉だけど)


 そんな風に思っていると……


「グルゥ!」


 不意にセトが喉を鳴らす。

 そんなセトの鳴き声にレイはセトの顔が向いている方に視線を向ける。

 そこには、崖の上に生えている草……それもかなり背丈の高い草に覆われるように、宝箱があるのを見つける。


「お、ナイスだセト。あの宝箱は普通に行動していれば見つけるのは難しい。……まぁ、最初に十四階に来た時に見つけたような、もしかしたらダンジョンが出来て初めて見つけた宝箱……って程じゃないと思うけど」


 坂道も何もない、孤立した崖の上にあった宝箱と比べると、セトが新たに見つけた宝箱のある崖には下に続く坂道がある。

 他の坂道と同じように、かなり急で細い坂道だったが……それでも、坂道があるのは間違いのない事実。

 そう考えれば、以前誰かがこの崖の上までやって来ていてもおかしくはない。

 とはいえ、それでも十四階の宝箱である以上、相応に良い物が入っている可能性はあったが。

 レイはセトに指示して、宝箱のある崖に向かって降下するのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.五』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.六』new『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.二』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』new『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.三』『火炎斬 Lv.二』



翼刃:翼の外側部分が刃となる。レベル一でも皮と肉は斬り裂ける。レベル二では肉を斬り裂いて骨を断つ。レベル三ではそれなりに太い木も切断出来る。レベル四では岩も切断出来る。レベル五では鍛えられた鋼であっても切断出来る。レベル六では魔法金属であっても切断出来る。また、翼だけではなく翼の周辺に一種の力場を作り、それに触れた存在も切断出来る。



黒連:デスサイズの刃が黒くなり、その刃で切断した場所が黒くなる。レベル一では一度、レベル二では二度、レベル三では三度、レベル四では四度、レベル五では八度デスサイズを振るって黒い斬り傷を作ると消える。その黒い斬り傷に触れると、それを作った時の斬撃を触れた者に与える、滞空する斬撃、固定化された斬撃とでも呼ぶべきもの。黒い斬り傷は一度斬撃を発生させると消える。またはレイが消去するように念じると消える。何もしなければ、最大十分程で自動的に消える。敵味方識別能力はない。あくまでも普通の斬撃でしか残せない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 炎帝の紅鎧状態での斬撃なら、かなりの罠になりそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ