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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3853/3865

3853話

 眩い光が消えると、そこに残っていたのは毒針と何らかの器官が入った保管ケース、それにエイの肉に魔石だった。

 他のエイの死体もそれは同様で……ただ、炭化していた死体からは幾つかない素材もあったが。


「この保管ケースに入ってるのは……もしかして、サンダーブレスを使う為の器官か?」

「グルルゥ?」


 レイの言葉に、セトは興味深そうに保管ケースを見る。

 セトもこのエイと同じく、サンダーブレスを使う。

 その為、興味深いと思ったのだろう。

 ……もっとも、エイはこの器官があってサンダーブレスを使うのに対し、セトにはそのような器官はなく、完全にスキルだけでサンダーブレスを発動しているのだが。


「こっちの肉は……まぁ、エイヒレとか、それなりに有名だし、それ系か? いや、見た感じ肉の塊だし、エイヒレともまた違うのかもしれないけど」


 レイもしっかりとしたエイヒレというのは食べたことがない。

 ただ、父親が酒のツマミとして買ってきたエイヒレなら食べたことがあった。

 そのエイヒレと、現在目の前にあるエイの肉が同じとは到底思えない。


「これ、どう調理すればいいんだろうな。……セト、ちょっと食べてみるか?」

「グルゥ? グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにとっても、エイの肉には興味津々だったのだろう。

 そんなセトの様子をレイは笑みを浮かべつつ、ミスティリングから取り出したナイフで少しだけ肉を切る。

 セトが食べたいのならもっと大きく切ってもよかったのだが、今回はあくまでも味見だ。

 そもそも生肉である以上、調理をした方が美味いのは間違いない。


(とはいえ、刺身とかカルパッチョとか、生で食べた方が美味いのもあるし……そういう意味では、エイも一応魚なんだから、そっち方面に向いていたりするのか?)


 そんな風に思いながら、レイはセトに切った肉を渡す。

 セトはそれをクチバシで咥え、飲み込み……


「グルゥ」


 美味いでも不味いでもなく、普通といった様子で喉を鳴らす。


「えっと、そうなると……この肉はやっぱり火を通した方が美味いのかもしれないな。ジャニスに任せるか。久しぶりに魚も食べたいし」


 ガンダルシアはギルムと同じく、内陸にある。

 海に面していない以上、魚は川魚が主で、海の魚は精々が塩漬けだろう。

 もっとも、ダンジョンの中には湖の階層もあるので、そこでなら魚系のモンスターが獲れるのだが。

 また、今のところはまだないが、二十階以降には海の階層もある可能性は十分にあった。


「とにかく、肉についてはこれでいいとして……毒針か。一本ずつしか出なかったのはちょっと残念だったな」


 レイが確認した限り、エイはそれぞれ複数の尻尾を持っていた。

 そうである以上、一匹につき複数の毒針を持っていてもおかしくはないと思えたのだが、その予想が外れた形だ。


「もしくは、尻尾は複数あっても毒針そのものは一匹につき一本だけとか? ……モンスターだし、その可能性も十分にあるか。ただ、毒針……毒針かぁ……魔獣術でどういうスキルを習得出来るかだな。いや、この場合はレベルアップか?」


 毒針がなければ、サンダーブレスのように雷系の攻撃をしてきたことからも、セトが魔石を使えばサンダーブレスを習得出来た可能性は十分にある。

 だが、毒針を持っていたとなると、そちら系統のスキルが強化される可能性も十分にあるのだ。


(まぁ、それはそれでいいんだけどな)


 今のセトの毒系のスキルである、毒の爪はレベル九だ。

 それがレベルアップをするのなら、レベル十になるということを意味していた。

 セトにしろ、デスサイズにしろ、まだレベル十になったスキルはない。

 レベル五でスキルが上位互換と思える程に強化されたことを思えば、レベル十になった時も更に強化される、あるいはそれ以外にも何らかの変化があると予想するのはおかしな話ではないだろう。

 ……具体的にどのような変化なのかは、実際にやってみないと何とも言えないが。


「さて、とにかくこのエイの魔石を使うか。セト、周囲には誰もいないよな?」


 レイはセトにそう尋ねる。

 レイとセトが現在いるのは、崖のすぐ側だ。

 つまり、崖のある方向からの視線については気にしなくてもいい。

 それ以外の場所から誰かが見ていないか。

 そう尋ねるレイに、セトは注意深く周囲の様子を探り……


「グルゥ」


 問題はないと、そう喉を鳴らす。

 そんなセトの鳴き声に安堵したレイは、早速魔石を手にセトを見る。


「行くぞ」


 その言葉と共に魔石が放り投げられ、セトはそれをクチバシで咥えて飲み込み……


【セトは『サンダーブレス Lv.八』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 その内容は、レイが予想した通りのものだった。

 ものだったのだが……少しだけ、本当に少しだけだが残念に思う。

 何故なら、もし毒の爪のレベルが上がっていれば、レベル十になっていたのは間違いないのだから。

 もっとも、毒の爪は毒という性質上、あまり使う機会がない。

 それと比べると、サンダーブレスは今回のようにそれなりに使う機会があるスキルだ。

 そういう意味で、サンダーブレスのレベルが上がったのはセトにとって決して悪いことではなかった。


(それに、これでサンダーブレスもレベル八だ。後二レベル上がれば十になるし、そういう意味でも今回の一件が悪くなかったのは間違いない。……このダンジョンに他に雷系の攻撃をしてくるモンスターがいればいいけど。ダンジョンだし、十分に可能性はあるよな?)


 ダンジョンの中は、階層ごとにその環境が大きく違う。

 そしてレイがこれまで経験してきた通り、階層ごとに棲息するモンスターも違う。

 ……もっとも、中には複数の階層に棲息するモンスターもいるのだが。


「さて、セト。……そうだな、向こうにサンダーブレスを使ってみてくれるか?」


 レイが指示したのは、離れた場所にある大きな崖。

 上から見た時、特に宝箱があったりする訳ではなく、モンスターの姿がある訳でもなく、坂道も一つだけで他の場所に行くのにどうしても通らないといけないような場所でもない、そんな崖。

 それだけに壊しても問題ないし、セトの様子からあの崖の近くに冒険者がいないのは明らかだった。

 もしあの崖の近くに冒険者がいれば、セトはそれを察してレイに教えていただろう。


「グルゥ!」


 任せて! と喉を鳴らしてセトは、レイの前に出てクチバシを開く。


「グルルルルルゥ!」


 そうして放たれたサンダーブレスは、視線の先にあった崖に命中し貫き、その後ろにある他の崖にも大きなダメージを与える。

 そして……最初にセトが狙った崖は、下の部分とはいえ貫かれたことによって穴が空き……やがて、崩落し始めた。


「あー……うん。予想はしてたけど、本当にこんなことになるとはちょっと思わなかった。とはいえ、この威力は間違いなく以前よりも上がっているな」

「グルゥ!」


 レイの言葉に褒められたと感じたのだろう。

 セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 そんなセトを数分撫でると、レイは次は自分の番だろうともう一つの魔石を手にする。

 それを放り投げると、デスサイズを一閃し……


【デスサイズは『雷鳴斬 Lv.三』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 これもまた、レイは特に驚くようなことはない。

 セトがエイの魔石を使って魔獣術を使った結果、サンダーブレスのレベルが上がったのだ。

 そうである以上、デスサイズの雷系のスキルである雷鳴斬がレベルアップするのはおかしな話ではない。


「グルゥ」


 レイと同じアナウンスメッセージを聞いたセトが、おめでとうと喉を鳴らす。

 ただ、そこにはやはり驚きの色はない。

 セトにとっても、サンダーブレスの件があったので雷鳴斬のレベルが上がるのはそうおかしな話ではないと思っていたのだろう。


「ありがとな、セト。……さて、早速だけど試してみるか」


 呟き、レイは念の為にセトから少し離れると早速デスサイズを手に、スキルを発動する。


「雷鳴斬!」


 スキルを発動した瞬間、デスサイズの刃が雷に包まれ……三秒後、その雷は消える。


「三秒か。予想通りの結果だったな」


 これについては、レイも特に驚きはない。

 レベル一の時は一秒、レベル二の時は二秒だったのだから、レベル三では三秒なのは特におかしな話ではなかったのだから。

 これがレベル五になればスキルが強化されるので、全く違った効果になってもおかしくはなかったが。


「じゃあ、セト。また周囲の様子を探りながら……」

「グルゥ!」

「……セト?」


 レイの言葉を遮るようにセトが喉を鳴らす。

 レイを見てではなく、セトの視線の先にあるのは先程セトがサンダーブレスで破壊した崖……より正確には、崩落した崖。

 何故かセトはそちらに視線を向け、喉を鳴らしているのだ。

 そんなセトの様子に疑問を抱き、レイもまたそちらを見るものの、特に何かがあるようには見えない。

 ただし、セトはレイよりも鋭い感覚を持っている。

 そう考えれば、レイには気が付かない何かをセトが見つけている可能性は否定出来なかった。

 また、それを抜きにしても崖を崩落させたということで、万が一……本当に万が一にも、それに巻き込まれた冒険者がいる可能性もある。

 サンダーブレスを放つ前に、レイはセトに確認をしている。

 その時セトは崖の周辺に人の姿はないと喉を鳴らしていたのを思えば、万が一にもそのような……最悪の事態はないと思う。

 しかし、それでも現在セトがこうして崖の方に注意を向けているということは、何かがあった可能性も否定は出来ないのだ。

 ただし、セトが緊張した様子はない。

 それは新たなモンスターを見つけたということではないのは間違いなかったが。

 そのことを残念に思いつつ、レイはセトと共に崩落した崖に向かう。


(岩を入手するのなら、これで十分だよな。……まぁ、そこまでして岩が欲しい訳でもないけど)


 そんな風に思いつつも、崩落した崖の側までやってくると、丁度いい岩……高さと幅がそれぞれ二m程もある岩を適当に何個かミスティリングに収納していく。

 そこまで欲しい訳でもないと口にしたにも関わらず、それでもこうして岩を収納していくのは、どうせこのままだと使い道のない岩なのだから、どうせなら……と、そう思ってのことだった。

 そうして岩を収納していたレイだったが……


「グルゥ!」


 見つけた! と、そう喉を鳴らすセトに、そちらに向かって進む。

 するとそこにあったのは……


「宝箱、か」


 そう、地面には宝箱があったのだ。

 とはいえ、恐らく最初からここにあった宝箱ではないとレイは判断する。

 何故なら、宝箱の上下が逆になっていたからだ。

 あの崖の上にあった宝箱が崩落して落ちてきたのか、あるいは崖の上ではなく途中で洞窟のようなものがあり、そこにあった宝箱が落ちてきたのか。

 その辺りはレイにもよく分からなかった。

 もしくは、普通では見つけられないように崖の中に埋め込まれていたという可能性もある。


(もし埋め込まれていたとしたら、この宝箱を見つけるのは俺が初めて……という可能性が高いな。普通なら崖に宝箱が埋め込まれているとか、そういうことはまず思いつかないだろうし)


 レイも日本にいた時に多数のゲームをやってきた経験から、崖の中に宝箱が埋め込まれていても、素直に納得出来た。

 だが、そのような経験のないこのエルジィンの住人にしてみれば、まさか宝箱が崖の中に埋め込まれているとは、思いもしなかっただろう。


「とにかく、宝箱が見つかったのはラッキーだったな。セト、よく見つけてくれた」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 そうしてレイはセトが見つけた宝箱を確認する。

 この場所にあった訳ではない以上、以前十一階の氷の階層で見たように宝箱の中ではなく、宝箱に近付いた時に罠が発動するということは心配しなくてもいい。

 その為、レイは多少の警戒はしつつも、ゆっくりと宝箱に触れる。

 当然ながら触れただけでは宝箱の罠が発動することはなく、宝箱はあっさりとミスティリングに収納される。


「さて、そうなると……うーん、どうすればいいんだろうな」


 もしこの宝箱が崖の中に埋め込まれる形であった場合、そうなると、他の宝箱を入手する為には今回と同じく崖を崩落させる必要がある。

 とはいえ、この崖のように破壊しても全く何の問題もない崖というのは、そう多くはない。

 であれば、もしそのようなことをする場合、ギルドに話を通す必要があった。

 レイもそのようなことを無許可で行っても構わないとは、思ってはいない。

 ……これが迷宮都市のダンジョンではなく、どこか人里離れた場所にあり、自分達しかいないダンジョンであれば、また話は違ったのだろうが。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.五』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』new『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.二』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.四』『雷鳴斬 Lv.三』new『氷鞭 Lv.三』『火炎斬 Lv.二』



サンダーブレス:電撃を放つブレス。集束と拡散の双方が可能だが、基本は集束で拡散には慣れが必要。レベル一の集束で岩にヒビを入れるくらいの威力で、レベル二は岩を砕くくらいの威力で、レベル三は巨岩を砕くくらいの威力で、レベル四は普通の一軒家なら破壊出来るだけの威力で、レベル五は貴族の屋敷を破壊出来るだけの威力で、レベル六はちょっとした要塞を破壊出来る威力、レベル七では大きめの要塞を破壊出来る威力を、レベル八では巨大な要塞を破壊出来るだけの威力を持っている。拡散は射程距離が短くなる代わりに広範囲に攻撃可能で、相手を痺れさせる効果がある。



雷鳴斬:デスサイズの刃に雷を纏わせる。刃に纏ったの雷に触れた者は痺れて動きを止める。レベル一では一秒程、レベル二では二秒程、レベル三では三秒程。

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