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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3852/3865

3852話

 崖の階層である十四階。

 そこを、空を飛ぶのではなく、地上を歩いて周囲の探索をするレイとセト。

 最初は少し納得出来なかったセトだったが、半ばレイに付き合うという感じで地上を移動することに賛成する。

 そんなセトだったが、今こうしてレイと一緒に地上を歩いていると、それなりに納得出来るところもあったらしい。


「グルルゥ」

「ん? ああ、それは……うーん、死体とかそういうのがないし、多分冒険者が崖の上から落としたか、あるいは捨てていった物だと思うぞ。……下手にそのままにしておくとモンスターに使われるかもしれないし、回収しておくか」


 そう言い、レイはセトが見つけてきた短剣をミスティリングに収納する。

 特に錆びている訳でもなく、刃先が欠けている訳でもない。

 斬れ味については分からないが、例えばゴブリンが使っている短剣に比べると、その状態は間違いなく上回っていた。

 だからこそ下手にこの短剣を地面に置いたままにしておけば、それをモンスターに使われる可能性は十分にある。


(もっとも、この階層まで来る冒険者だ。短剣を持ったモンスターが相手であっても、苦戦するようなことはまずないだろうが)


 そう思いはするが、それでも念の為に短剣は回収しておく。

 他にも何故か兜が落ちているのをセトが見つけたりもした。

 ……最初その兜を見た時、もしかしたらその兜の内側には冒険者の頭部が……あるいは頭蓋骨が入っているのではないかと思いもしたが、幸いなことに落ちていたのはあくまでも兜だけだった。

 この兜に関しても、モンスターに使われるかもしれないと思ったので、一応回収してある。

 とはいえ、短剣とは違って兜はそう簡単に使ったり出来るようなものではないのだが。


「グルルゥ?」

「……マジか」


 セトが持ってきたのは、革袋。

 中身に何かが入っているのは見て分かったので、それを広げてみるとそこには青色の宝石が幾つも入っていた。

 その多くが指先程の宝石だったが、それが無造作に詰め込まれている。

 少し前にレイが遭遇した盗賊のアジトに置かれていた宝石もそうだったが、宝石というのはこのように無造作に入れておくと、宝石同士がぶつかって傷が付く。

 そうなれば当然のように宝石の価値は下がってしまう。

 この革袋の持ち主がその辺りの知識がなかったのか、あるいは何らかの理由で傷が付いても構わないと思っているのか。

 それはレイにも分からなかったが。

 ともあれ、この階層で拾った物の中で一番高価なのは間違いない事実だ。

 誰かから奪ったのではなく、ダンジョンで拾った物である以上、この袋の所有権は間違いなくレイにある。

 それもあって、レイは素直に宝石入りの革袋を貰っておく。


(幸い……と言っていいかどうかは分からないが、ミスティリングに入れておけば宝石がぶつかり合って傷を付けるといったことはないしな)


 そんな風に思いながら、宝石の入った革袋をミスティリングに収納しておく。

 実際、レイが思っているようにミスティリングの中に収納しておけば、宝石がぶつかって傷つく……つまり、宝石の価値を下げるということにはならない。

 問題なのは、もしこの宝石を落とした者が探していた場合、ミスティリングの中に入っている以上、それを見つけるのは不可能だということか。


「さて、色々と落ちているのは分かったし、それを宝探し感覚で見つけるのも面白いけど……やっぱり一番見つけるべきなのはモンスターなんだよな。セト、やっぱり周辺にモンスターはいないか?」

「グルゥ? ……グルルルゥ」


 レイの言葉に、セトは残念そうに頷く。


「そうか、やっぱりモンスターはいないか。……この階層に、まさかあのダンゴムシしかモンスターがいないってことはないと思うんだけどな。空を飛ぶモンスターとか、普通にいてもおかしくはないだろうし。……やっぱり空を飛んでモンスターを見つけた方が……」


 そうして悩んでいるレイだったが、やがてそんなレイの言葉に反応するかのようにセトが顔を上げる。

 唐突なその行動に、レイもまたセトの視線を追う。

 するとその視線の先には、空を飛ぶ何かがあった。

 そしてこのダンジョンで空を飛ぶのは、当然ながらモンスターだ。

 ……あるいは魔法使いやマジックアイテム、テイマー、召喚魔法といった諸々で空を飛べる者もいるかもしれないが、レイが知ってる限りだとガンダルシアにその手の者はいない。

 あくまでもレイの知ってる限りで、レイが知ってるのはそこまで多くはないので、もしかしたらレイが知らないところに何らかの手段で空を飛べる者もいるかもしれないが。

 また、このダンジョンではマジックアイテムもそれなりに入手出来るので、何らかの空を飛ぶマジックアイテムを誰かが入手した可能性もある。

 ただ……そのような者達と、空を飛ぶモンスター。

 そのどちらなのかと言われれば、レイはやはり後者を選ぶだろう。


「セト」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトが喉を鳴らし、身を屈める。

 レイがその背に乗ると、セトはすぐに数歩の助走の後で翼を羽ばたかせ、空に駆け上がっていく。

 そうして、空を飛ぶ何か……レイの判断ではモンスターなのだが、そのモンスターとの距離が見る間に縮まっていく。

 そして空を飛ぶ存在についてはっきりと見えたのだが……


「え? エイ?」


 そう、てっきり鳥……もしくはハーピーの類のモンスターかと思っていたレイだったが、それが何なのかをはっきりと視認出来る場所まで来たところで見たのは、空を飛ぶ四匹のエイの姿だった。

 勿論、エイとレイは言ったが、空を飛んでいる以上はただのエイではなく、モンスターなのは間違いないだろう。

 普通のエイと違うのは、やはりその尻尾の数だろう。

 普通のエイは、毒針を持つ尻尾が一本だけなのに対し、レイの視線の先にいるエイは最低でも三本、中には五本の尻尾を持つ個体もいる。

 その尻尾にエイと同じような毒針を持っているのかどうかは、生憎とレイにも分からない。

 分からないが、それでもこうして見る限りではエイである以上、毒針を持っていると思った方がいいだろう。


「セト、先制攻撃だ。ただ、落とした場所を忘れないようにな」


 そう言いつつ、レイはミスティリングからデスサイズと黄昏の槍を取り出す。

 セトはそんなレイの言葉に分かったと喉を鳴らすと、十分に距離が縮まったと判断し、即座にスキルを発動する。


「グルルルルルルゥ!」


 セトが使ったのは、ウィンドアロー。

 同じアロー系のスキルであれば、レベル八のアイスアローもあるのだが、それでもウィンドアローを選んだのは、視認性を考えてだろう。

 アイスアローは氷の矢であり、透明に近い形状ではあるが、それでも氷だと判別出来る。

 しかし、ウィンドアローは風の矢である以上、その矢の姿を見て取ることは出来ない……と決まった訳ではないだろうが、それでも氷の矢よりも視認性という点では間違いなく判別しにくい。

 敵が空を飛ぶエイの群れだからこそ、セトとしては見つからないような攻撃を行ったのだろう。

 そこには、レイが黄昏の槍の投擲をするので、余計にそちらを目立たせ、ウィンドアローによって生み出された風の矢を目立たなくするという目的もあった。

 そうして放たれたレイとセトの攻撃。

 最初にエイに命中したのは、レイが投擲した黄昏の槍。

 エイの身体を貫き、黄昏の槍はどことしれない方向に向かって飛んでいく。

 だが、身体を貫かれたエイが地上に落下することはない。

 勿論ダメージがない訳ではないのだろうが、それでも一撃で死ぬといった程の大きなダメージではなかったのだろう。

 ……しかし、そんなエイの群れに次の瞬間には五十本の風の矢が突き刺さる。

 身体が斬り裂かれ、あるいは貫かれといった具合に次々とダメージを受ける四匹のエイ。

 結果として、黄昏の槍に身体を貫かれたエイと、その近くを飛んでいたもう一匹のエイが飛んでいることが出来なくなり、地上に落下していった。

 もう二匹のエイも、自分達に攻撃をしたレイとセトの存在を把握したのだろう。

 飛んでいた方向を変え、レイとセトに向かって降下してくる。


「遅いな」


 二匹のエイの飛行速度を見つつ、レイは投擲した黄昏の槍を手元に戻す。

 レイが呟いたのは、エイの飛行速度だ。

 セトに比べれば勿論だが、鳥型のモンスターやハーピーと比べても、エイの飛行速度は明らかに遅い。

 空を飛ぶのではなく、風に乗っている……滑空しているといった表現の方が正しいだろう。

 あるいは、空を飛ぶというだけで戦闘ではかなり有利なのだが、この崖の階層では更にプラスして有利となる。

 それだけに、今のような速度であっても今までは問題なかったのかもしれないが……


「空を飛ぶ敵との戦いは……」

「グルゥ!」


 レイが最後まで喋るよりも前にセトが鋭く鳴き、翼を羽ばたかせてその場から一瞬にして移動する。

 セト?

 そうレイは疑問に思いつつも、セトの急激な行動に振り落とされないように反応しつつ、エイに視線を向ける。

 今の状態でセトがそのような行動をするとなると、エイが原因としか思えなかった為だ。

 次の瞬間、先程までセトのいた空間を二条の雷が貫く。


「雷!?」


 咄嗟に顔を上げると、エイの顔の周辺には微かな雷が走っている。

 それを見れば、レイもなるほどと納得するしかない。


(サンダーブレスか。飛行速度が遅いと思っていたが……なるほど、これが理由な訳か。ゆっくりと空を飛びながら、地上に向けてサンダーブレスを放つ。地上にいる冒険者にしてみれば厄介な敵だな)


 あるいは雷は使うが、サンダーブレスではなくもっと別の……単純に雷を操る能力である可能性も否定は出来ない。

 出来ないが、レイの目から見た限りでは頭部……特に口の辺りに雷の残滓とでも呼ぶべき紫電が微かに残っているのを見れば、恐らくそれはサンダーブレスなのだろうと予想するのは難しくない。


「セト!」

「グルルルルゥ!」


 数秒にも満たない時間で敵の攻撃の予想をしたレイは、即座にセトの名前を呼ぶ。

 セトはレイの考えの全てを理解出来ている訳ではないが、相手がサンダーブレスを使った今の状況から、レイが何を求めているのかを理解し、クチバシを開く。


「グルルルルルゥ!」


 そして放たれるのは、サンダーブレス。

 ただし、そのサンダーブレスは二匹のエイが放ったサンダーブレスと比べても、明らかに太い。

 レベル七のサンダーブレスは、一瞬にして二匹のエイを襲う。

 本来なら、相手の得意な属性での攻撃というのは、相手が耐性を持っていることもあってか、効きにくい。

 しかし、その耐性以上の攻撃力があればどうなるか。

 それこそが、今のこの状況だった。

 セトのサンダーブレスは、対象が大きめの要塞であっても貫通するだけの威力を持つ。

 そんなサンダーブレスに二匹のエイは耐えられず……その身体を半ば炭化させ、そのまま地上に落ちていくのだった。






「えっと、こっちの二匹はそれなりだな」


 最初に黄昏の槍とウィンドアローで倒した二匹のエイは、落下の衝撃で相応に死体が損傷していたものの、それでもしっかりと死体は残っている状態だった。

 だが、セトがサンダーブレスを使って倒した二匹のエイは、半ば炭化している。

 勿論完全に炭化して何も素材を取れないという訳ではないのだが、それを考えた上でもやはりやりすぎなのは間違いなかった。


「グルゥ……」


 レイの言葉を聞いたセトが、残念そうに喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に気が付いたレイは、慌てて気にするなとその身体を撫でる。


「ほら、セト。あまり気にするな。このエイがここまで雷に弱いというのは、ちょっと予想外だったんだから。それにセトにサンダーブレスを出せと指示を出したのは俺だ。そういう意味では、今回の一件で悪いのは俺だってことにもなるだろう?」


 正確には、セトに明確にサンダーブレスを使えとは指示を出してはいない。

 だが、それでもレイはそのつもりでセトの名前を呼んだのだから、それがレイの指示だったのは間違いのない事実でもある。


「グルルゥ?」


 もう怒ってない?

 そう喉を鳴らしながら、レイを見るセト。

 レイはそんなセトを落ち着かせるように、撫でる。

 ついでにミスティリングの中から干した果実を取り出すと、セトに渡す。


「ほら、これでも食べて元気を出せ。俺はお前のことを怒ったりしてないから」

「グルルゥ……グルゥ!」


 最初はどうすればいいのか迷った様子のセトだったが、やがてレイの手にある干した果実を食べると、嬉しそうに喉を鳴らす。

 そんなセトを見たレイは安堵し、取りあえず四匹のエイの死体を解体しようとドワイトナイフをミスティリングから取り出すのだった。

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