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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3851/3865

3851話

「さて、これをミスティリングに……いや、違うな。解体だな」


 大量のダンゴムシの死体を前に、レイはそう呟く。

 モンスターの死体をミスティリングに収納し、それをいつもの林で解体してもよかったのだが、幸いなことに今日は丸一日使える。

 ましてや、今日も入れて四日間朝からダンジョンに入ることが出来る以上、何度か行った林に向かう余裕はない。

 ……自由時間がもう一日あれば、また話は別だったが。


(あ、でも五日目は教官としての仕事をするんだし、その日の午後は空いてるんだから、その時に林に行ってもいいんだよな。……もっとも、帰る準備とかする必要があるけど)


 そう思うレイだったが、具体的に帰る準備として何をするのかと言われれば、特にすることもなかったりする。

 基本的にレイの私物は大半がミスティリングに入っているし、旅に必要な諸々も同様だ。

 敢えて用意する物と言われると……


(土産か?)


 ミスティリングからドワイトナイフを取り出しながら、そう考える。

 もっとも、土産と言っても一体何を土産にすればいいのか分からないが。

 モンスターや盗賊の存在もあり、このエルジィンにおいて旅行というのはそう簡単に出来るものではない。

 そうなると、当然ながら土産というのは発達しない。


(ガンダルシア特有の料理とか食材とか、そういうのがあればいいんだけど。……ガンダルシア特有か。そうなるとやっぱりすぐに思い浮かぶのはこのダンジョンだし、ダンジョンの素材……いや、それはそれでどうかと思うし、ちょっと違うか)


 これが例えば、ダンジョンまんじゅうといった物でもあれば、それを土産として買っていってもいいだろう。

 だが、ガンダルシアのダンジョンにそのような物は当然ながらない。

 かといってダンジョンで入手した素材を持っていっても、辺境のギルムにしてみれば未知のモンスターの素材などは珍しくもなんともない。


(クアトスの実とか? ……とはいえ、あれは色々と使い道があるっぽいし、土産としてはちょっとな)


 ドワイトナイフに魔力を流し、そのままダンゴムシの死体に突き刺す。

 周囲に眩い光が生み出され……やがてそれが消えていく。

 すると残ったのは、魔石と甲殻、内臓と思しき何らかの部位が入った保管ケースの三つ。


(まぁ、ここで肉に出てこられても困るけどな)


 ダンゴムシの肉というのはレイも自分から進んで食べようとは思わない。

 あるいは本当にどうしようもないような飢餓状態であれば話は別かもしれないが、レイのミスティリングの中には大量のモンスターの肉であったり、店で購入した料理も入っている。

 普通に考えて、飢餓状態になるようなことはないだろう。


「グルゥ」


 レイが解体したダンゴムシの素材を見て、セトが少し残念そうに喉を鳴らす。

 もしかして、セトはダンゴムシの肉を食べてみたかったのか?

 一瞬そんなことを考えるも、レイはすぐにその考えを止める。

 もしそうであったとしても、それを確認しない限りはまだ決まった訳ではないのだから。


「甲殻の方は……まぁ、防具とかに使えないこともないのか? そこまで頑丈な甲殻には思えなかったけど」


 ダンゴムシとの戦いにおいて、黄昏の槍やデスサイズを使ったとはいえ、レイが予想していた以上にあっさりとその身体を貫き、斬り裂くことが出来た。

 そのことを考えると、この甲殻を使ってもそこまで強力な防具が出来るとは思えなかった。

 勿論、それはレイが予想しているだけで、何らかの手を加えることによって、この甲殻もしっかりとした防具として使えるようになる可能性は否定出来なかったが。


「内臓は……まぁ、普通に考えれば錬金術師だよな。もしくは薬師か。ともあれ、大半はギルドに売っても構わないだろう。魔石は、俺とセトが使う分以外は売ってもいいだろうな」

「グルゥ?」


 いいの? とレイの言葉を聞いたセトが喉を鳴らす。

 レイが魔石を集めるのを趣味としているというのは、ギルドにも知られている。

 そんな中で魔石を売るといったことをすれば、どうしても目立つのではないかと、そう思ったのだろう。

 だが、レイはそんなセトを撫でる。


「気にするな。魔石は大量に入ったから、コレクション用の綺麗な奴だけは取っておいたと言えばいいだろうし。ギルドにとっても悪くないことだろうから、恐らく喜ぶだろう」


 そう言い、レイは自分達が……より正確にはセトとデスサイズが使う魔石以外は全てミスティリングに収納し、いよいよ本題に入る。


「さて、そんな訳でこの魔石だが……やっぱりいつも通りセトからにするか?」

「グルゥ」


 レイの言葉に自分がやると喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトに使う魔石をミスティリングから取り出した流水の短剣の水で洗う。

 本来なら、ドワイトナイフを使って解体したので、そのようなことをする必要はない。

 だが、ダンゴムシの体内にあった魔石である以上、どうしてもイメージ的にそのようなことをしないといけないと、そうレイには思えたのだ。

 これが例えば虫ではない……動物型のモンスターであれば、わざわざそのようなことはしなかったのだろうが。


「ほら、セト」


 水で洗った魔石を放り投げると、セトはクチバシで咥え……そして飲み込む。


【セトは『パワークラッシュ Lv.八』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 聞き慣れたそのアナウンスメッセージだったが、その内容はレイにとってそこまで驚くことではない。

 ダンゴムシがどのような攻撃方法をするのかは、レイには分からない。

 最初にセトが王の威圧を使い、それによってダンゴムシの群れはろくに動くことも出来ないようになっていたのだから。

 ただ、パワークラッシュというスキルはダンゴムシが丸まって坂道を転がっていくのだろうという予想から考えると、そんなにおかしなことではない筈だった。


「グルゥ!」


 スキルがレベルアップしたよと、嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 レイもそんなセトを褒めるように撫でる。

 そうしてある程度時間が経ち、落ち着いたところで折角なのでセトのレベルアップしたスキルを見せて貰おうということになったのだが……


「うーん、ここではちょっと難しいか」


 周囲を見ても、ちょっとした岩くらいしかない。

 それこそ、レベルアップ前のパワークラッシュであっても容易に破壊出来るような、そんな大きさの岩だ。

 他に攻撃する場所として考えられるのは、レイ達が現在立っているこの場所くらいだろう。

 ここがダンジョンである以上、この崖を破壊しても特に問題はないし、岩の階層のことを思えば破壊してもこの場所はいずれ元通りになるのだろう。

 そうレイは思うものの、だからといって意味もなくそうしたい訳でもない。

 ……この崖を破壊すれば、岩の階層よりも多くの岩を収納出来るのは間違いなかったが。

 ただ、レイとしてもわざわざそこまでして岩を手に入れたいとは思わない。


「やっぱりセトのパワークラッシュは下に下りてからだな」

「グルゥ」


 残念そうに喉を鳴らすセト。

 しかし、それでもセトはレイの言葉に不満を漏らしたりはしない。

 パワークラッシュを使うなと言われた訳ではない。

 今は取りあえず待って欲しいと、そう言われただけなのだから。


「さて、じゃあ次は俺だな」


 セトが納得したのを確認したレイは、ダンゴムシの魔石を手に取る。

 セトに使った時とは違い、流水の短剣の水で洗ったりはしない。

 魔石を飲み込むのではなく切断するのだから、その必要はないと判断したのだ。

 勿論、これがもっと生理的な嫌悪感を抱くようなモンスターの魔石であれば、レイもデスサイズで切断する前に洗おうと考えたかもしれない。

 しかし、今の状況ではそこまで気にするようなことはなかった。

 そんな訳で、レイはあっさりと魔石を放り投げ、次の瞬間にはそれを切断する。


【デスサイズは『黒連 Lv.四』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージだったが……


「……おう?」


 その内容がレイにとっても完全に予想外だった為、レイの口からそんな声が漏れる。

 セトがパワークラッシュのレベルが上がったのを思えば、デスサイズもまた、同系統のスキルであるパワースラッシュのレベルが上がるのでは? と、そうレイは予想していたのだ。

 しかし、そんなレイの予想は大きく外れてしまう。


「えっと、一体何で黒連? というか、黒連かぁ……」


 複雑な、本当に複雑そうな様子でレイが呟く。

 当然だろう。黒連というスキルは、現状において全く何の意味もないスキルだ。

 スキルを発動してデスサイズで斬った場所に黒い斬り傷を残すだけで、それもすぐに消える。

 一体このスキルは何に使えるのか。

 それこそハッタリ程度にしか使えないだろうというのがレイの考えだった。


「グルゥ、グルルルルゥ、グルルゥ」


 落ち込んだ様子を見せるレイに、励ますようにセトが喉を鳴らす。

 そんなセトに、レイは笑みを浮かべて撫でてやる。


「そうだな。何であのダンゴムシで黒連を覚えたのかは分からないが、レベル四になったんだ。もう一レベル上がればレベル五で、そうなるとスキルが強化される筈だ。……この黒連だけ、レベル五になっても全く強化されないとか、そういうことはないよな? ……ないといいんだが」


 思わず心配してしまうのは、レベル五になるとスキルが別物のように……あるいは上位互換になるというのは、あくまでもレイの今までの経験からのものだからだ。

 もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、黒連のような外れスキルの場合、レベル五になっても強化されるようなことはないかもしれないと、そう不安になってしまう。

 その可能性は低いと思う。

 思うのだが、それでもやはり実際にレベル五になってみないと何とも言えないのも事実。


「こうなると、出来るだけ早く黒連をレベル五にしたいところだけど……どういうスキルなのか分からないと、そもそもどういうモンスターを倒せばいいのか分からないんだよな」


 色々な……本当に色々な例外はあるが、基本的に魔獣術はその魔石を持っていたモンスターの特徴が関係してくる。

 溶岩の階層である十五階のモンスターの魔石で炎系のスキルのレベルが上がったのは、その辺が関係しているのは間違いない。

 だが、問題の黒連というスキルは意味不明のスキルなので、一体どうすればいいのかはレイにも分からない。

 一体どのようなモンスターを倒せば黒連のレベルが上がる魔石を入手出来るのかが分からないというのが痛い。

 ……もっとも、それはつまりどのようなモンスターの魔石であっても、黒連のレベルが上がる可能性があるということなのだが。


「取りあえず……試してみるか。これまでのレベルアップの経験からすると、恐らく黒い斬り傷は四つだろうが」


 予想しながら、デスサイズを手に黒連を発動する。


「やっぱりな」


 レイの言葉が示すように、空中に浮かぶ黒い斬り傷は四つ。

 レベル一で一つ、レベル二で二つと、レベルと同じ数だけ空中に黒い傷を作れるようになっていたことから、レイの予想通りの結果となった形だ。

 自分の予想が当たれば普通は嬉しい。

 嬉しいのだが、だからといってそれが黒連であることが、レイにそこまでの喜びを感じさせることはなかった。


「じゃあ、取りあえず崖から下りるか。セトのスキルも確認しないといけないしな」

「グルルゥ」


 レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らし、レイを乗せて地上に下りる。

 普通の冒険者が使う、狭くて急な坂道を使う必要はない。

 セトはレイを乗せると、空を飛んであっさりと地上に下りた。


「さて、じゃあセト、えっと……あのくらいの岩ならどうだ?」


 二m程の岩を見つけると、レイはセトにスキルを試すように言う。

 だが、セトはあっさりとその岩をパワークラッシュで破壊する。


「グルゥ?」


 これでいいの? と喉を鳴らすセトに、レイは周囲を探し……今の岩よりも大きな岩を見つける。


「じゃ、次はあの岩にいってみようか」

「グルゥ!」


 そうしてセトはレイの言葉に従い、次から次に岩を破壊していく。

 その破壊行為が一段落したところで、レイはセトと共に次のモンスターを探すことにする。


「よし、じゃあ……うーん、空から探していても特に見つからなかったし、今度は地上を歩いてモンスターを探すか?」

「グルゥ?」


 それでいいの? と喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、空を飛んでモンスターを探した方が効率はいいと考えているのだろう。

 レイもその意見には賛成だったものの、それでも試してない手段がある以上は、そちらを試してみてもいいだろうと思い……セトもやがてレイの言葉に納得するのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』new『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.五』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.二』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.四』new『雷鳴斬 Lv.二』『氷鞭 Lv.三』『火炎斬 Lv.二』



パワークラッシュ:一撃の威力が増す。本来であればパワースラッシュ同様使用者に対する反動があるが、セトの場合は持ち前の身体能力のおかげで殆ど反動は存在しない。



黒連:デスサイズの刃が黒くなり、その刃で切断した場所が黒くなる。レベル一では一度、レベル二では二度、レベル三では三度、レベル四では四度デスサイズを振るって黒い斬り傷を作ると消える。その黒い空間はただそこに存在するだけで、特に特殊な効果はなく、数分で消える。

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