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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3831/3865

3831話

カクヨムにて42話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 レイとセトが十五階に到達した翌日、レイはいつもより早めに冒険者育成校に向かい、フランシスと会っていた。


「それで? 無詠唱魔法の件はもう片付いたと思うけど、一体何で急にこうして会いに来たのかしら?」


 若干不満そうな様子なのは、フランシスは仕事で色々と忙しいのに、レイはそこまで忙しそうにしている訳ではないからだろう。

 ……実際にはダンジョンに潜ったりしており、それなりに忙しかったりするのだが。

 ただ、レイはダンジョンに潜るのを苦にしていない。

 未知のモンスターの魔石であったり、マジックアイテムであったりを入手するのは、レイにとっては寧ろ喜びですらあった。

 その為、レイはフランシス程に疲れているようには見えなかったのだろう。


「実は昨日ダンジョンで宝箱から魔法植物が出て来た。ギルドではちょっとどういう物なのか分からなかったけど、エルフのフランシスなら分かるかと思って」

「……魔法植物?」

「ああ。これだ」


 そう言い、レイはミスティリングから取り出した、ブドウに似た果実を執務机の上に置く。


「っ!?」


 それを見たフランシスは、息を呑み、そっと手を伸ばす。

 そして、恐る恐ると、本当に恐る恐るといった様子でその果実を手に取る。


「これは……まさか……でも、ダンジョンなら……いえ……」


 魔法植物を見ながら、何かを考える様子のフランシス。

 それを見れば、レイは宝箱から出て来たブドウに似た果実がかなり貴重な物だろうというのを予想出来る。

 そして数分が経過すると、フランシスは厳しい視線をレイに向ける。


「レイ、これが宝箱から出たと言ったわね? 具体的には何階かしら?」

「十四階だ。ただし、この宝箱は空を飛ぶセトだからこそ見つけることが出来た。多分だけど、ダンジョンが出来てからずっと見つからずにいた宝箱で、俺達が初めて見つけた奴だと思う」


 フランシスの様子から、ふざけるようなことは出来ないと判断したレイは素直にそう返す。

 それが幸いしたのか、レイの言葉を聞いたフランシスは納得の表情を浮かべる。


「そう、これだけのクアトスの実……それも成熟一歩手前となると、そのくらいのことしか考えられないわね」

「クアトスの実? やっぱりこの果実のことを知ってるのか?」


 ギルドではこの魔法植物が何なのかは分からなかった。

 なので、レイとしては軽い気持ちで……知っていればラッキー程度の気持ちでフランシスに聞きに来たのだが、それが見事に当たったらしいと知り、こちらも幾分か真剣な表情になる。

 フランシスはそんなレイの言葉に頷き、魔法植物の果実を……いや、クアトスの実をレイに渡す。

 それを受け取ったレイは話を聞こうとするのだが、その前にフランシスに注意される。


「レイ、そのクアトスの実はミスティリングに収納しておきなさい。せっかく成熟一歩手前という最適な状態で入手したのだから、出来る限りクアトスの実はそのままの状態を維持しておいた方がいいわよ」


 フランシスの言葉から、成熟一歩手前というのがこのクアトスの実というのの最善の状態なのだろうと判断したレイは、言われるがままミスティリングに収納する。


「で? このクアトスの実というのは結局一体何なんだ?」

「そうね。魔法植物というのはもう知ってるわね?」

「それについては当然知ってる。ただ、具体的に何に使うのかについては分からないな」

「何でも……というのは少し言いすぎかもしれないけど、希少なポーションの類を作るのに必要な素材の幾つかの代用品として使えるのよ」

「……そんな物なのか?」


 フランシスの態度から、てっきりもっと大きな意味を持つのだとばかり思っていたレイだったが、実際には素材の代用品として使えるのだと聞かされ、微妙な表情を浮かべる。

 だが、フランシスはそんなレイに向かって呆れたように言う。


「言っておくけど、代用品と一口に言ってもレイが思ってるような物ではないわ」

「具体的には?」

「そうね、例えばポーション。それもただのポーションではなく、かなり貴重なポーションの場合」


 そこで一旦言葉を止めたフランシスは、意味ありげにレイを見てから言葉を続ける。


「そういう貴重なポーションを作る場合、その素材も相応に希少な物になるから、どうしてもその素材を全てを集めるのは難しくなるわ。そうなった時に普通なら代用品を用意する。ただ、当然ながらそういう代用品を使えば、完成したポーションは本来の効果を発揮出来ない。どのくらいなのかは、そのポーションを作った錬金術師の技量にもよるけど、確実にその効果は低下する」

「……そういう風に言うってことは、クアトスの実は違うのか?」

「そうよ。クアトスの実は代用品として使えるけど、今の例で言うと作ったポーションの効果が落ちないの。……いえ、本当に腕のいい錬金術師なら、予定していたポーションよりも高い効果になったりも出来るわ」

「それはまた……」


 フランシスの言葉を聞いてレイが思い浮かべたのは、トランプのジョーカーだ。

 例えば、ポーカーにおいてジョーカーはどんなカードの代わりも出来る。

 そういう意味で、クアトスの実はジョーカーに近いのだと。

 ……もっとも、ポーカーのルールによってはジョーカーを使った役と使っていない役で双方とも同じ役の場合、ジョーカーを使ってる方が弱いということになったりもするので、そういう意味では錬金術師によって元々の素材よりも高い効果を発揮するクアトスの実はジョーカーとは呼べないのかもしれないが。


「クアトスの実がどれ程貴重な物かは分かった? そして、クアトスの実で最も効果が高い……つまり、代用品でありながらそれ以上の効能を持ちやすくなるのが、レイの持っていた成熟一歩手前の状態なのよ」

「……つまり、高価な素材な訳だ」

「そうだけど……そうなんだけど……」


 レイの言葉に、フランシスは何かを言いたそうにする。

 レイの言葉は間違っていない。真実ではある。

 真実ではあるのだが、だからといってレイがクアトスの実について詳しく認識しているのかと言われると、正直微妙なところのようにも思えてしまう。

 フランシスにとって、クアトスの実というのはそれ程に大きな意味を持つのだ。

 それこそ、場合によっては国が動いてもおかしくはないくらいには。

 そして、だからこそフランシスはこうしてもどかしい思いを抱いていた。


「レイ、一応聞いておくけど、そのクアトスの実について知ってるのはどれくらいいるの?」

「どれくらいと言ってもな。宝箱を開けたのはギルドの訓練場で、俺が依頼した冒険者が開けた。それに、宝箱を開ける技術を少しでも広めようというギルドからの提案で、それなりに多くが見ていたな」

「でも、その人達はこれがクアトスの実だというのは分からなかったんでしょう?」

「それは間違いない。その中の一人がこれが魔法植物ではないかと言ったけど、そいつもクアトスの実というのは分からなかったみたいだし。ギルドで売ろうとして聞いてみたけど、そっちでも分からなかったな」

「……まさに不幸中の幸いね」


 レイの言葉に、フランシスはしみじみと呟く。

 実際、もしレイが入手したクアトスの実についての情報が広く伝わっていれば、大きな騒動になっていた可能性は否定出来ない。

 そうなれば、恐らく……いや、間違いなく面倒なことになっていただろう。

 それこそ最悪の場合、国が関与してきてクアトスの実を売るように命令し、それに不満を抱いたレイがグワッシュ国そのものと戦いになっていた可能性すらあるのだ。

 そういう意味では、クアトスの実について殆ど知られていないのはフランシスにとって非常に幸運なのは間違いなかった。


(とはいえ……もしレイがグワッシュ国と戦争になっても、負けるのはグワッシュ国でしょうけど)


 グワッシュ国も、ミレアーナ王国の保護国という立場ではあるが、それでも仮にも国だ。

 普通なら冒険者個人と戦うようなことになっても、勝利出来る。

 しかし……それは、あくまでも普通ならだ。

 レイはとてもではないが普通ではない。

 それを示すように、レイは個人でミレアーナ王国と並ぶ大国であるベスティア帝国の軍隊を相手に蹂躙すらしている。

 ……実際には噂とは違って、レイが個人でベスティア帝国軍全てを蹂躙したといった訳ではないのだが、それでもベスティア帝国軍に大きな被害を与えたのは事実。

 そんなレイを相手に、グワッシュ国が戦いを挑んでも勝利出来る可能性は非常に低い。

 ましてや、レイはミレアーナ王国の中でも大きな知名度を持つ。

 そんなレイと敵対したと知れば、ミレアーナ王国側からの圧力が掛かるのは間違いない。

 そして圧力が掛かれば、結局のところ保護国……実質的には従属国であるグワッシュ国にどうにか出来る訳もない。

 最悪、賠償金という名目で迷宮都市であるガンダルシアの利権を全てはないにしろ、奪われる可能性もあった。

 そんな諸々を考えると、やはりクアトスの実の一件がまだ殆ど知られていないというのはフランシスにとって幸運だったのだろう。


「レイ、いい? そのクアトスの実については、出来るだけ秘密にしておいてちょうだい。その件が知られたら、面倒な騒動に巻き込まれることになる可能性が高いわよ」

「……そんなにか?」

「そんなによ」


 真剣な表情で言うフランシスに尋ねるレイだったが、その返答は同じく真剣な表情でのもの。

 いや、寧ろレイよりも真剣な表情であり、それがクアトスの実の一件が場合によってはどれだけ大きな騒動になるのかを示していた。


「分かった。フランシスの言う通りにしよう」


 レイも面倒はごめんだ。

 いや、これが例えば盗賊との面倒であれば、レイの趣味である盗賊狩りが出来るので、寧ろ望むところだ。

 だが、そうではなく、権力者が関わるとなると、即座に力でどうこうは出来ない。

 ……実際には即座ではなく、後回しに力でどうこうするのだが。

 その後回しが非常に面倒なので、レイはフランシスの言葉に素直に頷いたのだ。

 そんなレイの様子を見たフランシスは安堵する。


「じゃあ、悪いけど私はすぐに動くわ」

「……動く?」


 最初はフランシスが何を言ってるのか分からなかったレイだったが、改めて今の会話を思い出すと、クアトスの実に関してこれ以上広まらないように裏工作をするということなのだろう。


「ええ。まずはギルドマスターに接触して、クアトスの実についてあからさまに調べるといったことをしたら、どうしても人の目につくもの。そうなると、知識のある者にとっては何があったのかはすぐに分かってもおかしくはないわ」

「その辺は任せるよ。俺の方に面倒が来なければ、それでいいし。……来たら来たで、相応の対処をするだけだし」


 そんなレイの言葉に、フランシスは絶対にそうしないようにしようと心に誓う。

 もしレイが本気でそのようなことをしたら、それこそ一体何がどうなるのか分からない。

 本当に最悪の場合、ガンダルシアが消滅するのではないかとすら思えてしまう。

 ……実際にはレイもそこまで見境なしという訳ではないので、もしフランシスがそのようなことを考えていると知れば、不満を抱くだろう。

 そのようにならなかったのは、双方にとって幸運だったのは間違いない。


「じゃあ、私は早速ギルドに行ってくるわね」


 すぐに動く必要があると判断したフランシスがそう言い、部屋を出る。

 部屋の主のフランシスがいなくなるのに、レイがこのまま部屋に残るという訳にもいかないので、レイも部屋を出る。

 フランシスと話している時間はそれなりに長かったのか、既に生徒達もかなり登校しているらしいのが気配で分かった。

 時間を確認すると、レイがいつも冒険者育成校に来るくらいの時間だ。


(今日はダンジョンの探索……いや、モンスターの解体と魔獣術を使う必要があるか。ダンジョンでもいいんだが、この場合はやっぱり以前行った林がいいか。となると、ダンジョンはお預けだな)


 ダンジョンで解体や魔獣術を使うというのも考えたレイだったが、ダンジョンの中では冒険者と遭遇する可能性もある。

 特に十五階に到達したので、遭遇する冒険者そのものはかなり少なくなっているが、代わりに遭遇する冒険者はガンダルシアの中でもトップ層の者達なのは間違いない。

 なので、ドワイトナイフを使った解体はともかく、魔獣術について見られる可能性は出来るだけ減らす必要がある。

 万が一見られた場合、レイは何とか誤魔化す必要があるし、それが無理な場合は相応の対応をする必要があるのだから。

 その為、レイとしては以前も行った林でモンスターの解体と魔獣術に魔石を使おうと、そう考えるのだった。

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