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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3829/3865

3829話

 ギルドの前にいるレイ。

 そんなレイの横を、多くの冒険者が通ってギルドに入っていく。

 多くの者が転移水晶を使ってダンジョンから出て来た者達だが、それ以外にも普通にダンジョンから出て来た者も多くいる。

 つまり、一階から四階までの階層にいた者達だろう。

 冒険者として初心者であったり、何らかの理由で深い階層に潜らなかったりしている者達だ。

 ギルドに入る冒険者の様子は、まさに悲喜こもごもといった感じだ。

 今日の稼ぎが思った以上のもので嬉しく思う者であったり、ろくな稼ぎがないままでダンジョンを出て来たり。

 もっと酷いのになると、ダンジョンで仲間を失ったと思しき者達の姿もある。

 そのような様子や、可愛がられているセトの様子を見ていると……


「あんたがレイだよな?」


 不意に声を掛けられる。

 声のした方に視線を向けると、そこには四人の男女が立っていた。

 その中のリーダー格と思しき男がレイに声を掛けたのだ。


「ああ、レイは俺だ。俺に声を掛けたということは、宝箱を開ける依頼を受けた者達……ということでいいか?」

「あ、ああ。そうだ。その……受付で聞いた報酬は事実なんだよな?」

「金貨二枚か、中身の割合のどちらか。それは間違いない。どっちを選ぶ?」

「金貨二枚で」


 一瞬の躊躇もなく、レイと話していた男がそう言う。

 男にしてみれば、宝箱の中身の期待はあまり出来ないと判断したのだろう。

 具体的にどのような理由でそう判断したのかはレイも分からない。

 だが、相手がそのように選んだのなら、レイとしてはそれ以上言うようなことはない。

 元々受付嬢からどういう報酬にするのか、そしてレイがどこから宝箱を入手したのかは聞いている筈なのだから。

 そうである以上、レイとしては相手の要望を聞くだけだ。


「分かった。じゃあ、訓練場に行くか。一応聞いておくけど、宝箱を開けるのを希望者に見せるというのも……」

「ああ、聞いている。うちの仲間の技術は高いから、出来ればそういうのはあまり見せたくなかったんだが、仕方がない」


 なら、何でこの依頼を受けた?

 一瞬そう言おうとしたレイだったが、相手にも事情があるのは間違いなかったので、それについては突っ込まない。

 そういうものだとだけ認識し、四人と共に訓練場に向かう。

 するとギルドの中で今回の一件は周知されていたのか、訓練場には結構な人数の冒険者達が集まっている。


(当然か。自分達の稼ぎや安全に直結する問題だしな)


 ダンジョンにおいて、宝箱を見つけても罠があるかもと警戒して開けないという者もいる。

 あるいは罠がないと信じて開ける者もいる。

 宝箱を開ける技術を持っていれば、その辺の心配はいらないのだ。

 そして宝箱の中には、時として何故その階層にこんな物が? と思しき物が入っていたりもする。

 つまり、冒険者にとって宝箱というのは自分達の稼ぎに直結するのだ。

 ……もっとも、宝箱を見つけるのは相応に難しいし、半ば運頼りだ。

 あくまでも計算出来る稼ぎではなく、見つけることが出来たらラッキー程度の臨時収入的な存在ではあったが。

 それでも……いや、だからこそと言うべきか、冒険者にしてみれば、見つけた時は絶対に宝箱の中身を入手したいと思うのはおかしなことではなかった。

 それを間近で……ダンジョンではないということで、モンスターの襲撃を心配したりせずに見ることが出来るのだ。

 多くの者がここに集まるのは、そうおかしな話ではない。


「うわ」


 レイの依頼を受けたパーティの一人が、訓練場に集まっている者達の姿を見て思わずそう声を上げる。

 自分達の技術を他の者に知らせるということは、それだけダンジョンで自分達が宝箱を入手出来る可能性が下がるということを意味している。

 もっとも、それを承知の上で今回の一件を引き受けたのだが。


(ギルドにしてみれば、この手の技術は大々的に公表して欲しいんだろうな。今回の件はその第一歩といったところか)


 冒険者達が宝箱を見つけ、その中身を入手出来れば、それはギルドにとってもありがたい。

 そのパーティで使えるような物でなければギルドに売る可能性が高いし、もし使えるのならそのパーティが強化され、ダンジョンで倒したモンスターの素材や魔石、採取した素材をギルドに売ることによって、ギルドの利益となる。

 勿論、今回の一件ですぐにそうなるとは、ギルドも思ってはいないだろう。

 だが、これが切っ掛けとなって……という思いはある筈だった。


「レイ、一応言っておくけど、宝箱を開けるのを他の者達に見せるようにとギルドからは言われているけど、どうやって開けるとか、詳細な説明をしたりはしない。それでもいいよな?」

「ああ、俺はそれで構わない」


 パーティリーダーの男の言葉に、レイはそう返す。

 レイにしてみれば、あくまでも重要なのは宝箱を開けることなのだ。

 宝箱を開けるのを他の者達に見せたいというのは、あくまでもギルドの要望でしかない。

 ……寧ろそれが原因で宝箱を開けるのを失敗するようなことになれば、レイがその原因を作った者達に怒るだろう。

 そんなレイの様子に、パーティリーダーの男は納得した様子を見せる。

 宝箱を開けるところを見られるのは仕方がないが、詳細なところまでは見せなくてもいいのだろうと。


「じゃあ、宝箱を出してくれ」


 その言葉に、レイはミスティリングから二個の宝箱を取り出す。

 それを見た者の何人かは、ミスティリングの存在に驚いた様子を見せる。

 だが、既にレイのミスティリングについてはそれなりに知られている為に、その人数は決して多くはない。

 寧ろ、レイがミスティリングから取り出した宝箱を見て驚いている者の方が多い。

 訓練場にいる者達も、今で宝箱を見たことがある者は多い。

 だが、それはあくまでもダンジョンの中での話であり、こうしてダンジョンの外で……地上において、宝箱を見るということは初めての者が多数だった。

 中には何らかの理由で宝箱を持ちだした経験のある者もいるようだったが。


「この宝箱だ。こっちが十三階、こっちが十四階だな」


 宝箱は一見すると二つとも同じ物に見える。

 だが、やはり細かいところは色々と違っており、それが二つの宝箱がそれぞれ違う階層で見つけた物だというレイの言葉に強い説得力を与えていた。

 そんな宝箱の前……まずは十三階で見つけた宝箱の前に、依頼を受けたパーティの中から一人の男が進み出る。

 そうして腰のポシェット……と評するのか相応しいのかどうかは分からないが、そこから幾つかの道具を取り出す。

 それらの道具は、レイは持っていない物だ。

 だが、見覚えはある。

 レイのパーティに所属するビューネが持っているのを見たことがあった。

 レイのパーティにおける盗賊のビューネは、年齢からは分からない程に高い戦闘力を持ち、索敵を始めとした斥候役としての技量も高い。

 そんなビューネが以前鍵開けの練習をしている時に、同じような道具を見たことがあった。

 もっとも、それはあくまでも同じようなであって、全く同じという訳ではない。

 レイが見たところでは同じような道具に見えるものの、その辺りについて詳しい者であれば、違うところが分かるのだろう。


「じゃあ、やるぞ」


 レイに聞かせる為か、あるいは周囲にいる見物人に聞かせる為か。

 その辺りはレイにも分からなかったが、とにかく男はそう言うと宝箱を調べ始める。

 十三階の宝箱である以上、そこには罠がある可能性は十分にある。

 実際、十一階の氷の階層で見た宝箱にも、罠があったのだから。

 もっとも、その時は宝箱を開けようとした時ではなく、宝箱に近付いた時に発動するような罠だったが。

 ともあれ、十一階ですらそのような罠があったのだから、それよりも下の階層に罠があるのはおかしな話ではない。


(そう言えば、宝箱の罠もそうだけど地面に罠があったりしても……セトで飛んだしな)


 十三階、十四階……それらは基本的にセトに乗って空を飛び、直接下の階層に続く階段まで移動した。

 また、十五階も転移水晶を見つける為に最初は空を飛んで探索を行っていた。

 ……もっとも、十五階の転移水晶は岩が屋根代わりになっていたので、飛んでいても見つけることが出来ず、タミンやニーニャと接触して初めてその辺が分かったのだが。

 とにかく空を飛ぶというレイとセトの行動は、罠を無効化したという意味では非常に大きい。

 ただし、それによってモンスターとは滅多に遭遇出来なかったし、十五階の転移水晶のように上空から見えないようになっている宝箱の類は見つけることが出来なかったのだが。


(そういう意味では、次に十五階、十四階、十三階を攻略というか、未知のモンスターや宝箱を探す時は罠に気を付ける必要があるな)


 レイは自分やセトなら、もし罠を発動させてもそれに対処出来ると思ってはいる。

 しかし、それでも罠を発動させない方がいいのは間違いない。

 万が一ということもあるのだから。

 そんな風に思っていると、不意に宝箱からカチ、という音が響く。

 その音にレイが視線を向けると、宝箱の前にいた男が大きく息を吐く様子を見せた。


「こっちの宝箱には罠はなかった」


 その言葉に、周囲で様子を見ていた者達は微妙な表情を浮かべる。

 ここにいる者達は、罠のある宝箱の解除方法を知りたくて集まってきた者達だ。

 だというのに、調べたところで宝箱に何の罠もなかったのだ。

 一体何の為に自分達はここにいるのか。

 そのように思ってもおかしくはなかった。

 レイはそんな周囲の様子を気にしてはいなかったが。

 そもそもの話、レイが要望したのはくまでも宝箱を開けることだ。

 罠の有無、その解除についてはギルドの考えでしかないのだから。


「中身は何だ?」

「……ポーションだな」


 レイの問いに返ってきた答えに、話を聞いていた者達は残念に思う者、納得する者と様々だ。

 人によってポーションの価値というのは違う。

 ただ、レイにしてみればポーションはあって困るものではないし、ミスティリングがあるので保管場所にも困らないという意味で、当たりではあった。

 十三階の宝箱だけに、男に渡されたポーションもそこそこの高級品だったというのも大きい。


「よし、次の宝箱を頼む。こっちの宝箱はかなり慎重にやって欲しい。何しろ、普通では見つけられない場所にあった宝箱だからな。場合によっては、ダンジョンが出来てから初めて手に入れた宝箱という可能性も十分にある」


 慎重に、そして気合いを入れる意味で言うレイに、その話を聞いた男は先程までよりも真剣な表情で頷く。

 男にしてみれば、そんな宝箱を開けるのにはそれなりの緊張があるのだろう。

 周辺で話を聞いていた者達も、レイのその言葉にそれぞれ真剣な表情を浮かべる。

 今のレイの言葉が嘘だとは到底思えなかったのだろう。


「分かった。じゃあ、静かにしてくれ。集中したい」


 男はそうレイや周囲にいる者達に声を掛けると、先程と同じように……いや、より慎重に宝箱を調べ始める。

 レイはそれを見ながら、一応ということで周囲を見る。

 恐らくは大丈夫だとは思ったが、中には貴重な宝箱の中身をそのままレイに持っていかれるのが我慢出来ないと、そのように考える者がいてもおかしくはないと思った為だ。

 そして周囲が静まる中、男は慎重に宝箱を調べ……


「これは、毒針の罠だな」


 その言葉に、周囲で様子を見ていた者達の表情が厳しいものになる。

 中には毒針の罠を回避する為に、距離を置こうとする者もいた。

 レイにしてみれば、毒針の罠というのは厄介な罠という訳ではない。

 レイの持つ身体能力なら、毒針が放たれても普通に回避するなり、デスサイズで斬り落とすなり出来るのだから。

 あるいは、デスサイズのスキルであるマジックシールドを使ってもいい。

 一度だけならどんな攻撃も防ぐという能力である以上、当然ながら毒針を防ぐことも可能なのだから。

 ただし、今回は罠を解除して宝箱を開ける為にギルドに依頼をしたのだ。

 そうである以上、自分がわざわざ出しゃばる必要もないだろうと思い、そのまま様子を見る。

 すると、そんなレイの期待に応えるように……カチ、という音が周囲に響く。

 ざわり、と。

 その音を聞いた者達がざわめく。

 今の音が罠を解除した音なのだと、そう理解した為だろう。

 レイもいざとなったら自分がどうにかしようと考えていたが、その必要がなかったので安堵する。

 そして罠を解除し、どうやら掛かっていた鍵も解除すると……宝箱の中からは、ブドウにしか見えない果実が姿を現す。


「え?」


 予想外の中身に、レイの口からはそんな声が上げられるのだった。

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