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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3828/3865

3828話

「ここか……空から探して見つからない筈だよな」

「グルゥ」


 タミンとニーニャに案内されて転移水晶のある場所にやってきたレイだったが、その転移水晶を見てそう呟く。

 セトもそんなレイの言葉に同意するように喉を鳴らす。

 何しろ十五階の転移水晶があるのは、岩が屋根になってるような場所だったのだ。

 岩の屋根によって転移水晶が隠されている以上、レイがセトに乗って上空から探しても見つかる筈がなかった。

 しかもレイが転移水晶のある場所をよく見ると、そこはレイがセトに乗って空を飛んでいる時に通った場所だった。

 つまり、レイとセトは転移水晶のある場所の真上を普通に通りすぎていたということになるのだ。


「どうした……あ、あー……えっとその……うん。しょうがないと思うわよ」


 レイとセトの様子に、どうしたの? と聞こうとしたタミンだったが、その言葉の途中で自分とニーニャがアンフィニティに襲われているところを助けて貰った時にセトが空を飛んでいたのを思い出したのだろう。

 転移水晶のある場所の屋根とも呼ぶべき岩を見て、何とか言葉を変えて誤魔化す。

 そんな気遣いをされたレイは、微妙な表情になりつつも口を開く。


「取りあえず俺とセトはこの転移水晶に登録して地上に戻るけど、タミン達はどうする?」

「勿論、私達も戻るわよ。予備の武器しかない状態で、ダンジョンの探索なんてしたくはないし」


 その言葉には強い説得力があり……そうしてレイ達は地上に戻るのだった。






「えっと、宝箱……ですか? ああ、レイさんはアイテムボックス持ちでしたね」


 地上に戻ったレイは、早速武器を用意するというタミン達と別れ、セトをいつものようにギルドの前に待たせて、受付嬢のアニタと話していた。

 今日倒したモンスターはまだミスティリングに解体されずに入っているので、素材を売りに来た訳ではない。

 今日ここに来たのは、十二階でミスティリングに収納した岩がまだ復活していなかったというのの報告と、何よりも宝箱を開ける人員についての情報収集だった。

 レイやセトなら罠があってもどうにか出来る自信はあるものの、専門の技術者がいるのなら、そちらに任せた方がいい。

 草原の階層と崖の階層にあった宝箱……特に崖の階層は普通ならとてもではないが見つけることが出来ないような宝箱であった以上、しっかりとした専門家に任せたいというのがレイの正直な気持ちだった。

 その為、アニタに宝箱を開ける人員について心当たりがないか聞いたのだ。

 これが例えばモンスターの解体であれば、ギルド職員にも相応にその技術を持った者はいる。

 だが、宝箱となると話は別だ。

 そもそも普通なら、ダンジョンで見つかった宝箱を地上に持ってくるという者はまずいない。

 だからこそ、そのような技術を持った者を、ギルドでは用意していないのだ。

 あるいは、冒険者からギルド職員になった者でもいれば、その中にはその手の技術を持った者がいる可能性もあるが……アニタの様子を見る限り、そのような者はいないらしい。


「残念ですが、今すぐにという訳には……どうしてもというのであれば、依頼という形で冒険者に要望する方法がありますが、どうしますか?」

「冒険者に? ……まぁ、それしかないのなら、それで構わない。ただ……出来ればすぐに宝箱の中を見たいし、依頼については融通を利かせてくれると嬉しい」

「そこまでして、すぐに宝箱を? この宝箱は一体何階の宝箱なんです?」

「十三階と十四階の宝箱だ。特に十四階の宝箱は、空を飛べるセトがいたからこそ見つけられた。そういう意味では、もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、ダンジョンが出来てから初めて開けられる宝箱の可能性もある」

「それは……いえ、レイさんであれば、そのような宝箱を見つけてもおかしくはないかと。そうすると、十五階にも?」

「ああ、十五階の転移水晶に登録してきた」

「おめでとうございます。現在久遠の牙は十九階を攻略中とのことですので、もう少しで追いつけそうですね」

「十九階? 以前聞いた時は十八階だったと思うけど……十九階に行ったのか」

「……少し前に、ギルドで大々的に発表したのですが」


 不満そうな様子のアニタ。

 ギルドにしてみれば、ダンジョンの攻略が進むというのは大きな意味を持つ。

 そうである以上、最深部の更新が行われれば、それを大々的に公表するのは当然のことだった。

 それによってダンジョンの攻略は順調だと広め、また冒険者達にはそんな相手に負けてたまるかといった対抗心を抱かせ、ダンジョンの攻略を加速する。

 あるいは英雄的な扱いをすることによって、憧れから冒険者になる者を増やそうという狙いもある。

 他にも色々と目的はあるが、とにかくギルドとしては久遠の牙を大々的に広めているのは間違いない。

 ……もしレイが冒険者育成校の臨時の教官ではなく、普通にガンダルシアを拠点にして行動する冒険者であれば、あるいはレイが久遠の牙の立ち位置にいた可能性も否定は出来なかったが。

 もっとも、それをレイが喜ぶかと言われれば、正直微妙なところだろう。

 レイにとって堅苦しい式典であったり、あるいは持ち上げられて象徴的な扱いにされるのは決して好ましいことではなかったのだから。


「悪いな。俺の方は俺の方で色々とあるんだよ。それで、宝箱の件だが……」

「分かりました。少々お待ち下さい」


 アニタはレイにそう言うとカウンターの奥……自分の上司に相談に行く。

 そんな様子を見ていたレイは、結論が出るのにそれなりに時間が掛かるのだろうと予想していたのだが……


「許可が出ました。今日これからパーティにその手の技能を持つ盗賊のいる人がカウンターに来たら、話を持ち掛けてみます」


 十分どころか数分もせずにアニタが戻ってきてレイにそう言う。


「随分と早いな」

「はい。ギルドはレイさんに恩がありますから」


 アニタの言葉が、十階で儀式をしていたリッチの件を示しているのは明らかだった。

 その件をレイに解決して貰っただけに、ギルドとしてはレイの要望を無視は出来ない。

 勿論、その要望がギルドで受け入れがたいもの……例えばダンジョンを自分の貸し切りにしろだとか、特に何の理由もなく誰かの冒険者のランクを下げろとか、あるいは上げろとか、そのようなことを要求されれば、ギルドとしてもそれを断るだろう。

 しかし、今回要求されたのは宝箱を開ける技能を持った盗賊を紹介して貰い、それで宝箱を開けて貰うというものだ。

 そのような要望であれば、ギルドとしては全く問題ない。ただ……


「その、代わりにと言ってはなんですが、出来れば宝箱を開けるのは訓練場でやって欲しいということです。また、それを希望者にも見せて欲しいと」

「……訓練場で? いやまぁ、それは別に構わないけど。何だってまた?」

「ダンジョンの宝箱を開けるというのは、冒険者にとっても大きな出来事ですから。中にはあまりその手の技術が得意ではない人もいるので、宝箱を実際に開けるのを見せることによって、少しでも技術が上がればいいと思っているのでしょう」

「分かった、それで」


 アニタの説明にレイは納得して頷く。

 レイにしてみれば、あくまでも宝箱を開けるのが大事であって、宝箱を開ける技術については、特に気にしていない。

 だからこそ、アニタの……いや、ギルドの要望にあっさりと頷いたのだ。


「ありがとうございます、それで、報酬に関してですが、どうしましょう?」


 ギルドでレイの要望を受け入れるものの、だからといって報酬をギルドで用意するということはない。

 ……いや、レイが要望すればリッチの件もあるのでどうにかなるかもしれないが、レイは別に金に困ってる訳でもないので、自分で報酬を用意するのに異論はない。


「そうだな。……まず、宝箱が十三階と十四階で見つけたというのをしっかりと事前に説明した上で、報酬として宝箱を一個開けるのに成功するごとに金貨……二枚くらいでいいか?」

「少し……いえ、かなり高いような気もしますけど、その方が宝箱を開ける方にもやる気が出るのなら、そしてレイさんがそれでいいのなら構わないかと」

「そうか。なら、金貨二枚か、あるいは宝箱の中身によって報酬を変えるかのどちらかを選んで貰う」


 これは非常に悩ましい選択だった。

 もし宝箱の中に入っているのが、ポーション……それも効果の低いポーションであれば、当然ながら金貨二枚を貰った方が儲かる。

 だが、効果の高いポーションの場合、金貨五枚という報酬になるかもしれないのだ。

 そう考えれば、ギャンブル好きかどうかで報酬を選ぶのを変えることになるだろう。

 レイとしてはどちらでもいいので、その辺については依頼を受けた者に任せることにする。


「分かりました。では、その辺りについては依頼を受ける前に話しておきます。……それで、レイさんはどうします? 酒場の方で待ちますか?」

「そうだな……いや、ギルドの前でセトと一緒に待ってる。こうして見ると、それなりにダンジョンから戻ってきた冒険者も多くなってるし、依頼を受ける奴が出てくるまでそんなに時間は掛からないだろ」


 レイがダンジョンに潜ったのは、午後になってからだ。

 その為、時間的にはもう夕方に近い。

 そうすると、そろそろダンジョンから戻ってくる者達が多くなる筈だった。

 その中には相応に技術を持つ盗賊をパーティに入れている者もいるだろう。

 であれば、レイの依頼を受ける者がいてもおかしくはない。

 ……とはいえ、それが具体的にいつになるのかはちょっと分からないが。

 なので、レイとしてはそこまで急ぐ気分でもなく、セトと一緒にゆっくりと待つつもりだった。

 

「分かりました。レイさんがそれでいいのなら、こちらとしては構いません。依頼を受けた人がいたら、ギルドの前にいるレイさんに会い行かせた方がいいでしょうか? それとも、誰か人をやってレイさんを呼んだ方がいいでしょうか?」


 アニタの言葉にレイは少し考え、口を開く。


「ギルドはこれから忙しくなる時間だろう。なら、俺を呼ぶのではなく、直接俺に会いにこさせてくれ」

「分かりました。ただ、その場合でも先程言ったように宝箱を開ける技術を見せたいので、訓練場に行く前に一応声を掛けて貰えますか?」


 その言葉にレイは頷き、ギルドを出るのだった。






「グルルルゥ」


 レイはセトが何人ものセト好きに撫でられている光景を見ながら、少し失敗したか? と考える。

 依頼については問題ないのだが、どうせなら今日ではなく明日にしてもよかったのではと思ったのだ。


(時間も時間だし、この前行った林に行くのはまず無理だろうしな)


 現在レイのミスティリングには、空飛ぶ眼球、青色の蛇、アンフィニティの三種類のモンスターの死体が入っている。

 その解体も行われていないのだ。

 ……もっとも、解体はドワイトナイフを使えばすぐに終わるので、それこそ全てのモンスターの解体をするのに数分も必要ない。

 しかし、その魔石を魔獣術で使うには……より正確には、魔獣術で習得したりレベルアップしたスキルを試す必要がある。

 一応家の庭があるので、そちらを使ってもいいのだが……大規模な攻撃範囲を持つスキルの場合、庭に大きな被害が出る可能性がある。

 いや、その場合は庭だけではないだろう。最悪家に……いや、周辺にも被害が出る可能性があった。

 特に空飛ぶ眼球の魔石は恐らく……いや、確実にビーム系のスキルを習得するかレベルアップする筈で、セトのビームブレスを使えば、その射程距離からかなりの範囲に被害が及んでもおかしくはない、

 だからこそ、スキルを試すのであれば広い場所で、周囲に何らかの被害が起きてもいい場所が必要だった。

 しかし、今はもう夕方近い。

 これから宝箱の一件を終わらせれば、外に出る時間はなくなってしまう。

 林に行っている間に門を閉める時間となれば、最悪レイは野営をする必要がある。

 もっとも、レイはこのガンダルシアにおいて相応の権力を持つフランシスとの繋がりがあるし、それがなくても異名持ちの高ランク冒険者だ。

 無理を言えば、閉門の時間をすぎてもガンダルシアに入ることが出来るかもしれないが……それもまた、絶対という訳ではない。

 それこそ、もしかしたらそれが原因となって面倒なことになる可能性は十分にあった。

そうしなければならないのならともかく、必要がないのにわざわざそのようなことをするのはどうかとレイには思えた。


(となると、ドワイトナイフで解体だけして、魔石を使うのは明日か。十五階でスキルを試してみるって感じか)


 そんな風に思いながら、レイは連絡が来るのを待つのだった。

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