表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3825/3865

3825話

「……あれ、十五階に続く階段だよな」


 そう呟くレイの隣で、セトは困った様子で喉を鳴らす。

 十三階の草原は、空飛ぶ眼球と青色の蛇以外のモンスターとは遭遇せず――空を飛んで移動していたのだから当然かもしれないが――に無事階段を見つけて十四階に下りた。

 十三階までは中途半端ながらも地図があったものの、十四階は全く何の情報もない。

 だからこそ周囲の様子をかなり警戒していたのだが……十三階から下りてきたレイは、すぐに十五階に続く階段を見つけた。

 もっとも、それはあくまでも見つけただけだ。

 この十四階は、崖と谷が多数ある階層。

 空は十三階の青空とは違い、雲によって覆われている。

 そんな中で、十三階から下りてきた場所から見える場所……ただし、跳躍では到底届かない場所にある崖の上に階段があったのだ。


「とはいえ……実はあの階段、ダミーとかそういうのだったりしないよな?」


 見える場所にあるけど、普通では行けない場所。

 ただし、それはあくまでも普通ならの話だ。

 そして冒険者というのは、普通ではない者が多数いる。

 とはいえ、十五階に続く階段は現在レイとセトのいる場所から優に百m以上は離れた場所にある。

 さすがに普通ではない者達の中でも、そのような場所に行くことが出来る者は少数だろう。

 なら、他の者達はどうするのか。

 それは現在レイ達のいる場所から下に続く坂道――かなり急な角度だが――を下りて、谷底を移動し、同じように用意された坂道を使って崖の上まで移動し……そうした行動を繰り返すことによって、それでようやくレイの視線の先にある階段に到着する筈だった。


「狭いわ、角度が急だわ、足下は小石が散らばってるわ……普通のパーティにしてみれば、もの凄い厄介な場所だな」


 崖と崖下を繋ぐ坂道は決して広い訳ではない。

 体格にもよるが、どうにか頑張れば二人で並んで移動出来るといった程度の幅しかないのだ。

 当然ながらそのような場所で戦闘が出来る筈もない。

 つまり、戦闘をする場合は一列に並んで戦闘をする必要があった。


「しかも、この階層の様子を見ると……多分、空を飛ぶモンスターが多いだろうしな」


 崖下に下りればともかく、崖の上や坂道は狭いのだから、そのような場所である以上、ここに出てくるモンスターも恐らく空を飛ぶ個体が多いのだろうというのがレイの予想だった。

 普通に行動するだけでも空を飛ぶモンスターというのは厄介なのは間違いない。

 ましてや、それが足場が狭い場所で動けないとなると……本当に戦うのは難しい。

 勿論、冒険者達もこの十四階まで来た者達だ。

 相応の強さは持っているだろうし、弓や魔法といった遠距離攻撃が可能な冒険者がパーティにいるかもしれないし、崖だからこそ地面のそこら中に落ちている石を拾って投擲するといった方法もあるだろう。

 とはいえ、それでも厄介なのは間違いない。


「あくまでも俺達以外にとってはだけどな。……セト、行くぞ。すぐに十五階だ」


 そのように厄介な階層であっても、空を飛べるセトがいるレイにしてみれば、攻略するだけなら非常に楽なのは間違いなかった。

 これについては、レイとセトが色々な意味で特殊だったからなのだろう。


「グルゥ」


 レイの言葉に分かったと喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトの背中に跨がる。

 するとセトは数歩の助走の後で翼を羽ばたかせて崖から飛び出す。

 落ちる……のではなく、当然ながら空を飛ぶのだ。

 そうしてセトは百m程先にある崖に向かっていたのだが……


「グルルゥ!」


 不意にとある方向を見て、喉を鳴らすセト。

 モンスターか?

 そう思ったレイだったが、セトの視線を追った先……崖の上に無造作に宝箱が置かれているのを見つける。


「なるほど。……分かった、セト。まずは宝箱だ」


 十三階でもそうだったが、宝箱があるのを理解した上で手を出さないという選択肢はレイにはない。

 自分達で宝箱を開けるということにでもなれば話は別だったが、今のレイは宝箱をミスティリングに収納している。

 そうである以上、例えば宝箱に触れた瞬間に罠が発動するのでもない限り、ミスティリングに収納するのは全く何の問題もなかった。


「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らして宝箱のある方に向かう。

 そうして宝箱のある崖に近付くと……レイは何故ここに宝箱が残っていたのかを理解する。


(なるほど、この崖には狭い坂道であっても通路はないのか)


 十三階から下りてきた場所にあったような、崖下に続く……つまり、崖下からこの宝箱のある場所まで移動出来るような坂道は存在しない。

 そうなると、崖下からこの宝箱のある場所まで来るには崖を自力で登ってくる必要があった。

 いわゆる、ロッククライミングだ。

 だが、崖の中心部分に置かれている宝箱は簡単に見つけられるものではない。

 宝箱そのものはそこまで大きい訳ではないし、崖の上と一口に言っても平らになっている訳ではなく、デコボコしているのだ。

 離れた崖の上から見ても、それによって宝箱を発見出来ないのはある意味で当然だった。

 レイ達が崖の上にあった宝箱を見つけることが出来たのは、あくまでもセトが空を飛べたからだ。

 ……もっとも、ただ空を飛べるだけであれば、宝箱を見逃していた可能性もある。

 そういう意味では、ただ空を飛べるだけではなく、五感が鋭いセトだからこそ宝箱を見つけることが出来たのだろう。

 セトは宝箱のある崖の上に着地する。

 一応レイは何があってもいいように……それこそ、崖の上で岩や地面に擬態して襲ってくる敵がいないかといったことを警戒してもいたのだが、特にそれらしい敵の姿はない。


「まぁ、こういう場所にいても崖下に続く道がない訳だし、ここで生きてはいられないか。それこそ、セトのように空を飛べるとかなら別だけど」

「グルルゥ」


 レイの言葉にセトが褒められたと嬉しそうに喉を鳴らす。

 レイはそんなセトを軽く撫でてから、宝箱のある方に近付く。


(この宝箱……一体いつからここにあったんだろうな。ガンダルシアのダンジョンが出来てから、ずっとか? さすがにそれはないと思うけど)


 そもそも、この十四階まで来られるパーティの少なさを考えると、まさかと思いつつ、もしかしたら本当にこの宝箱はダンジョンが出来た時からあってもおかしくはないとレイには思えた。

 何しろこの十四階はレイ達のような例外はともかくとして、普通なら少しでも早く十五階に行きたいと思ってもおかしくはない。

 これには十四階が崖の階層であるというだけではなく、十五階には転移水晶があるというのも関係しているだろう。


(一度十五階の転移水晶に登録さえしてしまえば、この十四階の探索に力を入れてもおかしくはない……のかもしれないが)


 あくまでもレイの予想ではあったが、この宝箱の件を考えるとやはりそれはないか? とも思ってしまう。

 もし十四階の探索をしている者がいれば、この宝箱は見つけていてもおかしくはないのではないかと思える。


(まぁ、どのみち俺達が見つけたんだから、次にいつここに宝箱が復活するのかは分からないけど)


 そんな風に思いつつ、一応念の為に宝箱の正面ではなく、後ろ側から近付く。

 可能性としては低いと思うが、それでも宝箱に正面から近付いたことによって罠が発動したら。

 そう思えば、やはりここでは念には念を入れようと考えてもおかしくはない。

 特にレイは、もしかしたらこの宝箱はダンジョンが出来た時からずっとここにあるのではないかと、そう思っている。

 だからこそ、慎重に行動した方がいいだろうと思ったのだ。

 そして宝箱に触れ……次の瞬間、その宝箱はミスティリングに収納されて姿を消す。


「ふぅ、何とかなったな。……よし、セト、次は十五階の階段だ。……ただ、十五階の転移水晶に登録したら、この十四階を上空から探索してみてもいいかもしれないな。この宝箱みたいに、見つけにくいように置かれている宝箱とかあるかもしれないし」

「グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。

 セトにとっても、宝箱を見つけるのは嬉しいのだろう。

 そうして次に十四階に来た時のことを決めると、レイはセトに乗って十五階に続く階段に向かう。

 特に敵……空を飛ぶ敵と遭遇するようなこともなく、あっさりと階段の前に到着する。


「これはちょっと予想外だったな。いやまぁ、楽なのに越したことはないけど」


 トラブル誘引体質とでも評すべき自分の体質を思えば、それこそこの十四階に存在する、空を飛ぶモンスターが大量に襲い掛かって来ても不思議ではないと思っていたレイだったが、十四階に下りてから一切敵と遭遇していない。

 もっとも、それを言うのなら十三階においても一度……倒した空飛ぶ眼球を目当てにやって来た青色の蛇を含めると二度になるかもしれないが、とにかくそれだけしかモンスターと遭遇していない。


(あれ? もしかして俺の体質が改善した? ……まさかな)


 一瞬、本当に一瞬だけそう思ったレイだったが、その考えをすぐに否定する。

 このエルジィンに来てからのこれまでを思えば、そう容易く自分の体質が改善するとは思えなかった。

 これが例えば、幸運をもたらすマジックアイテムの類を入手したりしたのなら、また話は別だったが、生憎とそのようなマジックアイテムを入手した覚えはない。

 だとすると、今ここで何もトラブルが起きないのは、偶然と考えてもいいだろう。


(頼むから、次のトラブルを大きくする為に、何らかの力を溜めているとか、そういうのはなしにしてくれよ)


 トラブル力、あるいは不運力とでも呼ぶべきものが溜められていないように祈りつつ、レイはセトを見る。


「行くぞ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。

 そうして一人と一匹は十五階に向かうのだった。






「うわ、今度はこういう場所か。厄介な」

「グルゥ」


 十五階の様子を見たレイは、思わずといった様子で呟く。

 そんなレイの隣では、セトもまたレイの言葉に同意するように喉を鳴らす。

 十四階の崖の階層もレイにとっては驚きだったが、この十五階は溶岩の階層とでも呼ぶべき場所だった、もしくは、火山の階層か。

 周囲には溶岩が流れており、まるで幾つもの川のような作りになっている。

 他にも離れた場所では溶岩の沼と言うべきか、湖と言うべきか、そんな場所があるのも確認出来た。


「これ……もしかして……」


 ふと思いつき、ドラゴンローブの簡易エアコン機能を止める。

 するとその瞬間、むあっとした熱気によって身体中が包まれる。


「うわっ!」


 その熱気を感じたレイは、すぐに簡易エアコン機能を発動させる。


「グルルゥ?」


 大丈夫? と喉を鳴らすセトに、レイは問題ないと撫でる。


(暑い……それは間違いない。けど、それはあくまでも暑いであって、熱いまでにはいかない。溶岩ってこんな程度なのか?)


 五十度から六十度くらいの温度はあったように思うが、言ってみればそれだけだ。

 溶岩がすぐ側を流れているにも関わらず。

 レイも日本で実際に溶岩の近くに行ってみたことはない。

 TVでハワイかどこかの活火山で溶岩の近くまでいくという番組を見たことはあったが、その時の気温が何度だったのかはちょっと覚えていない。

 そうなると、このくらいの温度ですと言われても納得するべきなのかどうか、迷うところだった。

 とはいえ、それでもやはり気温が低いように思えたのだが。


(あるいは、ダンジョンだからか? ……そう言われると何でも納得してしまいそうになるけど)


 ダンジョンだからという言葉は、不思議と強い説得力がある。

 実際にそういう理由からなのかどうかは分からないが、レイはすぐに考えるのを止めにする。

 ここでダンジョンについて何を考えたところで、結局その意味はないのだから。

 そういうものだと納得しておいた方が手っ取り早いのは間違いなかった。


「この溶岩の階層はちょっと予想外だったが、空を飛んで移動出来る階層だと考えると、決して悪くないな」

「グルゥ」



 レイの言葉にセトが同意するように喉を鳴らす。

 この階層の上には空があり、その空については十四階と同じく雲に覆われている。

 いわゆる、曇天と呼ぶべき状態だった。

 これが例えば九階の洞窟の階層のような物理的に天井のある場所であれば、セトに乗って空を飛ぶといったことは出来ない。

 だが、物理的に天井がある訳ではないので、特に問題なくセトに乗って空を飛べる。


「まずは転移水晶のある場所だな。モンスターや宝箱も見つけたら可能な限り倒したり収納したりしていきたいし。……ただ、溶岩が噴き出るとかしてトラップになっている可能性もあるから、気を付けるようにな」

「グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ