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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3814/3865

3814話

「驚いたけど、実際に戦ってみればこんなものか」


 地形操作で生みだした壁を元に戻しながら、レイは単眼の猿の死体を見る。

 その数、約二十匹程。

 当然の話だが、レイだけではなくセトが倒した数もその中には入っている。


「グルルルゥ」


 死体の山……という表現が正しいのかどうかは微妙だが、とにかく目の前にある大量の死体を見て、セトも満足そうに喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、未知のモンスターということで戦闘そのものが楽しかったのだろう。

 実際、レイから見ても単眼の猿の群れというのは相応に危険度が高いモンスターのように思えた。

 顔の半分程の大きさの単眼から放つ光……レーザーなのかビームなのか、あるいはそういう風に見えるもっと別の何かなのかはレイにも分からなかったが、とにかく遠距離から行われるその攻撃が非常に厄介だった。

 だからといってそれを嫌って近付こうとしても、二m近くの身体を持つその筋力は馬鹿にならず、まともに食らえば骨が折れ、内臓が破裂し、吹き飛ばされることになるだろう。

 そして……単眼の猿の何よりも厄介なところは、仲間と連携を取るというところだ。

 自分が囮になって敵を引き付け、その隙を突いて仲間に攻撃させるといった戦術を使う。

 実際にレイはそのようにして攻撃されたが、それを見抜いて機先を制する形で隙を突こうとしていた単眼の猿を攻撃し、倒していた。

 だが、それはあくまでもレイやセトだからこそ可能なことだ。

 もしようやくこの階層に到着したといった冒険者達が相手なら、単眼の猿によって全滅していた可能性もある。

 それだけ、普通の冒険者にとって厄介な存在なのは間違いなかった。

 とはいえ、レイがわざわざそれを心配する必要もないのだが。

 冒険者というのは、あくまでも自己責任なのだから。


「ともあれ、この死体をとっとと解体するか。……そうすれば、大体地上に戻ってもそれなりの時間になるだろうし」


 普通であれば、二十匹程……それも身長二m以上のモンスターの解体というのは、それこそ慣れた者であってもかなりの時間が掛かる。

 慣れていない者なら、一日掛かりの仕事になってもおかしくはないが、レイの場合はドワイトナイフがある。

 デスサイズと黄昏の槍を収納し、ドワイトナイフをミスティリングから取り出したレイは、一番近くにあった死体に突き刺す。

 周辺が眩く光り……そして光が消えた後、そこには素材と魔石、そして肉の塊が残っていた。

 一番目立つのは、やはり顔の半分近くもあった眼球だろう。

 今までと同じように保管ケースにその眼球は納められているものの、眼球の大きさが大きさだけに、保管ケースもかなりの大きさだ。

 他に目立つのは、毛皮だろう。

 二m程の大きさだけに、毛皮もまた大きい。

 他にも内臓が幾つかに、爪があった。

 肉の塊も結構な大きさではあったが、見た感じではかなり筋ばっているように思える。


(これは煮込み料理とかだな、多分。焼いたりしてもちょっと噛み千切るのが難しい気がする)


 セトなら喜んで焼いた肉を食べられるかもしれないが、レイは自分で食べる時は焼いて食べたいとは思わなかった。


(ジャニスなら上手く調理してくれると信じよう)


 そう思いながら、魔石を残してミスティリングに収納する。

 それからも、次々とドワイトナイフを使って解体を進め、素材や肉、魔石を収納していく。

 本来なら一人で解体をするのなら、数日……いや、半月くらいは掛かってもおかしくはない解体の作業を、数十分程度で終わらせる。

 それでも相応に時間が掛かったのだが……レイにしてみれば、既にドワイトナイフを使えばそういうものだという認識がそこにはあった。

 ドワイトナイフがあるからこそだが、それはつまりドワイトナイフがないと自分で解体しないといけない訳で……


(多分解体の技術落ちてるよな)


 解体の技術というのは、筋肉と同じで使わなければ衰える。

 レイとしては自転車のように一度出来るようになったらやり方を忘れないようなことになって欲しいと思ってはいるのだが、世の中にそこまで都合のいいことはない。

 今となっては、出来れば解体技術が衰えないで欲しいなと思いつつ……それが分かっていても、やはり便利なドワイトナイフを使うのを止めることは出来なかった。


(こういうのを堕落というのかもしれないな)


 そんな風に思いつつ、レイは先程までは大量にあった単眼の猿の死体がなくなっている場所に視線を向ける。

 既に全ての死体の解体は終わり、残っているのはレイが持つ魔石が二個だけだ。

 当然ながら、この魔石は魔獣術に使う魔石だった。


「グルゥ」


 レイに向かい、セトは早く魔石を使おうと促す。

 セトにしてみれば、魔石を使うのを楽しみにしてるのだろう。

 ……それはレイも同様だった。

 何しろ、単眼の猿はその巨大な眼球から、レーザーかビームか、どちらなのかは分からないが、その類の攻撃を行ったのだ。

 それはレイにとっても非常に興味深く……一体どのようなスキルを習得出来るのか、あるいは新たなスキルの習得は出来なくても、何らかのスキルのレベルが上がるのかと期待していた。

 そんな訳で、レイは早速魔石をセトに向かって放り投げる。

 セトはそれをクチバシで咥えて飲み込み……


【セトは『ビームブレス Lv.一』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 それを聞いたレイは、納得すると同時にレーザーブレスではないのかと思う。

 エレーナが竜言語魔法によって放つのは、レーザーブレスだ。

 単眼の猿の放ったのもそれに似ていたので、てっきりレーザーブレスになるのだろうと思っていたのだが……


(というか、レーザーとビームの違いはなんだ? いや、レーザーはようは光を集めたものだろう? なら、ビームってのは……これがロボット物の世界であればビームであっても納得出来たんだけど)


 レーザーとビームの違いがよく分からないレイだったが、取りあえずこの世界はファンタジー世界なのだから光系の魔法でそういう攻撃魔法があってもおかしくはないし、セトのビームブレスというのもそれと似たようなものだろうと、半ば自分に言い聞かせるような形で納得する。


「グルルルゥ!」


 新しいスキルを覚えた! と嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 そんなセトの様子を見れば、レーザーとビームの違いは些細なことだろうとレイは思い直す。


「おめでとう、セト。新しいスキルを習得出来たな。……もっとも、そのスキルの希少さを考えると、レベルを上げるのは難しそうだけど」


「グルゥ……」


 レイの言葉の意味を理解したセトは、少しだけ残念そうに喉を鳴らす。

 これはある意味で魔獣術の欠点なのだが、一度その魔石を使ったのと同じモンスターの魔石では魔獣術が発動しない。

 それはつまり、希少なスキルを習得しても、そのレベルアップは難しいということを意味していた。

 ましてや、こちらも魔獣術の特性としてレベル一のスキルはどうしてもそこまで強力ではない。

 勿論何も使えないよりはマシだったが、レベル五に到達してスキルが別物のように強化されるまでは、使えないスキルはとことん使えないのだ。

 現在セトとデスサイズが使えるスキルの中で、その典型的な例がデスサイズの黒連だろう。

 ただデスサイズの刃で斬った場所が黒くなるだけという……一体それで何がどうなるの? というのがレイの正直な気持ちだった。

 ……もっとも、レイがガンダルシアに来る前に探索をした、何らかの研究をしていた屋敷。

 妖精郷の妖精達がトレントの森に来る途中で休んだというその屋敷――実際には研究所だったが――に出てきたモンスターは、一体何がどうなっているのか何度も魔石を使えるという、レイやセトにとってはボーナスステージと呼ぶに相応しい場所だったが。

 とはいえ、そのような例外の場所が多数ある筈もなく、今回セトが習得したビームブレスのレベルを上げるのはかなり大変なのだろうというのはレイにも容易に予想出来た。


「それでも、強化すれば間違いなく強力なスキルになるんだろうから、根気強く育てていこう。光系……もしくは、鏡とかが身体の一部になってるモンスターであっても、もしかしたらビームブレスがレベルアップするかもしれないしな」

「グルルゥ?」


 何で光のブレスも?

 そう疑問に思い、喉を鳴らすセト。


「鏡が身体の一部にあったり、あるいはそういうスキルを使う敵なら、光を反射するとか、そういう攻撃をしてくるかもしれないだろ?」


 それは半ば無理矢理の内容ではあったが、今はセトを元気づける必要がある。

 そういう意味では、レイは自分の説明は決して間違っているとは思わなかった。

 実際、セトはレイの言葉を聞いてやる気になっていたのだから、レイの考えも決して間違っている訳ではないだろう。


「とにかく、使ってみてくれ。もしかしたらレベル一でも十分に使えるスキルの可能性もあるし」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らして誰もいない方を見る。

 ビームブレスというスキル名だけに、ブレス系のスキルなのは間違いない。

 だからこそ、顔を誰もいない方向に向ければそれでいいと判断したのだろう。


「グルルルルゥ!」


 そしてスキルが発動し、開いたセトのクチバシの間からビームブレスが放たれる。

 エレーナの使う竜言語魔法で生み出されたレーザーブレスと比べると、明らかに弱々しい光だ。

 太さも、レイの見たところでは指一本分しかない。

 とはいえ、それはあくまでもエレーナと比べるからだ。

 エレーナの竜言語魔法と比べるとどうしても劣っているように思えるものの、それでもその一撃は岩を破壊するだけの威力は持っていた。

 ある意味、指一本分ほどの太さでそれだけの威力があるということは、攻撃をされる方にしてみれば厄介だと感じるだろう。


「威力もレベル一にしてみればそれなりに高いし、ビームも細いから認識されにくいな。……夜だともの凄い分かりやすいけど」


 ビームブレスはその名の通りビームで、光っている。

 それだけに、昼であればそこまで目立たなくても、夜に使えば……いや、夜ではなくても暗い場所で使えば、これ以上ないくらいに目立つだろう。

 そういう意味では、使い時に注意する必要があるスキルなのは間違いなかった。


「さて、そうなると……デスサイズはどうだろうな」


 ビームブレスの性能チェックが終わったので、次はレイがデスサイズを手に呟く。

 ビームブレスを放つのを止めたセトも、デスサイズがどのようなスキルを習得するのか、あるいはレベルアップするのかを期待して見ている。

 自分も新たな……それもレベル一でもある程度強力なスキルを習得しただけに、デスサイズもまた同様に新たなスキルを習得するのではないかと、そう思っているのだろう。

 そんな視線を気にしつつ、レイは魔石を放り投げ……デスサイズで切断する。


【デスサイズは『マジックシールド Lv.四』のスキルを習得した】


 アナウンスメッセージが脳裏に響き……


「ええ……一体何で……」


 予想外のスキルの習得に混乱するレイ。

 そんなレイの隣では、セトもまた一体何故マジックシールドのレベルが? と疑問を抱く。

 レイは少し考え……


「光の盾だから、か?」


 そんな結論に落ち着く。

 単眼の猿の攻撃はレーザー……いや、セトの習得したスキルから、目からビームを発射するものだった。

 ビームだろうがレーザーだろうが、見る者にしてみれば光を放っているようにも見える。

 そしてレイの……いや、デスサイズのスキルの中で光関係なのは、光の盾を生み出すマジックシールドだ。

 勿論、セトのように全く新しい光系のスキルを習得するといった可能性もあったのだが、今回の場合はマジックシールドのレベルアップということになったのだろう。


「いやまぁ……嬉しいか嬉しくないかで言えば、間違いなく嬉しいんだけどな」


 単眼の猿と戦った時もそうだったが、マジックシールドはレイが知る限り、どんな攻撃でも一度だけだが完全に防ぐ。

 そんなマジックシールドのレベルが上がったのだから、今まで以上に防御力は強化されたということになる。

 これは多くの戦いをするレイだからこそ喜ぶべきことであり、決して悲しんだり、残念がったりするようなことではない。

 ……それでもレイとしては、やはり色々と思うところがあるのも間違いはなかったが。

 なので、複雑な表情を浮かべつつも、まずは実際にレベルアップしたマジックシールドを試してみることにする。


「マジックシールド」


 スキルが発動すると、レイの予想通り、レベルが四になったことでレイの周囲に浮かぶ光の盾は四枚に増えているのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.七』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.五』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.一』new



【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』new『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.四』『黒連 Lv.二』『雷鳴斬 Lv.二』『氷鞭 Lv.三』


ビームブレス:ビームのブレスを吐く。レベル一では指一本分の細さで岩を破壊するくらいの威力。



マジックシールド:光の盾を作りだし、敵の攻撃を一度だけ防ぐ。敵の攻撃を防いだ後は霞のように消え去る。また、光の盾は通常はオートでレイの邪魔にならないように動いているが、意識すれば自分で好きなように動かすことも可能。レベル一で一枚、レベル二で二枚、レベル三で三枚、レベル四で四枚の光の盾を生み出せる。

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[一言] あれ、いつものスキルの説明無いの?
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