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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3813/3865

3813話

「収納、と」


 十二階に下りたレイは、階段の近くにある岩を次々に収納していく。

 とはいえ、アニタからは出来ればあまりやらないようにと言われていたので、取りあえず十個程収納したところで止めておくが。


「さて、取りあえずこれで今日の目的は果たした。後は……明日か、明後日か、それとももう少し時間が掛かるのか分からないけど、とにかくこの岩が復活するかどうかだよな。……復活しなかったら、それはそれで面白いことになるんだろうけど」


 この十二階が厄介なのは、岩によって迷路となっていることだった。

 とはいえ、九階と違って洞窟の階層のように天井がある訳ではないので、岩の上を移動すればその迷路も無視出来たりするのだが。

 それでも厄介なのは間違いなかった。

 だが、もしレイがこの階層にある岩を全て収納したら、どうなるか。

 岩の階層という名前負けするような荒野だけが広がる階層となるだろう。

 ……もっとも、ダンジョンの特性を考えると岩はやがて復活するだろうが。


(それに……そもそも、この階層まで来ることが出来る冒険者はそこまで多くはないしな)


 五階と十階はそれぞれ冒険者に立ちはだかる壁として知られている。

 実際にはそれにプラスして、十五階の壁もあるのだが……残念ながら、まだレイ達は十五階に達していないので、何とも言えなかったが。


「グルルルゥ?」


 岩を収納し終わったレイに、セトはこれからどうするの? と喉を鳴らす。

 ミスティリングから取り出した懐中時計で確認してみると、午後三時すぎ。

 選抜試験のトーナメントが終わってからまだそれ程時間が経っていないように思えたレイだったが、元々冒険者育成校とギルド、ダンジョン……それとレイの家はある程度近い場所にある。

 また、転移水晶やセトに乗っての移動を考えれば、十一階で倒した雪狼の件があっても、こういう時間でおかしくないだろうと、そう思い直す。


「そうだな。この階層ではまだそこまで多くのモンスターを倒した訳じゃないし、そうなるとまた未知のモンスターと戦う機会はあるかもしれない。適当に見て回るか。……宝箱があるかもしれないしな」

「グルゥ」


 レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らす。

 この階層まで来る者が少ないからこそ、宝箱が残っている可能性は高かった。

 ……もっとも、それはつまりこの階層まで来ることが出来る者は相応の腕利きである以上、宝箱のありそうな場所は優先的に探すので、そのような者達に先に見つけられるといったことになってもおかしくはなかったが。

 それでもレイとセトは宝箱を探すのに集中するのではなく、あくまでも未知のモンスターを探すついでに宝箱を探すというつもりだったので、見つからないなら見つからないで仕方がないと思えた。

 レイやセトにしてみれば、宝箱が見つかれば嬉しいのは間違いないものの、それでも宝箱よりも未知のモンスター……あるいはまだ魔獣術でセトかデスサイズのどちらかしか魔石を使っていないモンスターの方が重要度は上なのだ。

 そんな訳で、レイとセトはあくまでもついでにといった様子で宝箱を探しながら、主にモンスターを探す。


(そういえば、以前来た時は岩に張り付いて擬態しているモンスターもいたな。だとすれば、岩を収納しようとしても出来ないのは、そういうモンスターがいるということになるのか)


 モンスターを見つけるのに役立ちそうだ。

 そう思うが、今はアニタからの注意もあるのでこれ以上岩を収納する訳にいかないのも事実。

 そんな訳で、レイとセトは岩の迷路を歩き、時には岩の上を移動し……また、どうしても移動出来ない場合はセトの背の上に乗って移動する。

 だが、それでも特にモンスターや宝箱を見つけることは出来ない。


(どうせなら、さっきの雪狼みたいに誰かが襲われている場面に出くわしたいところだけどな。モンスターの横取りとか言われる可能性もあるけど)


 先程レイ達が助けたパーティは、礼儀正しい者達だった。

 だが、中にはレイ達に助けて貰っておきながら、実はここから反撃するつもりだったのに、それを邪魔された……といったようなことを言ったりする者もいるのだ。

 ……そのような悪知恵の働く者達が、レイを敵に回すようなことをするかどうかは分からなかったが。


「グルルルルゥ」


 モンスターが見つからないと残念そうにしているレイだったが、そんなレイと一緒にいるセトは、嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、レイと一緒にいるだけで嬉しいのだろう。

 だが……そんなセトが、不意に視線を鋭くしてとある方向を見る。


「セト? ……敵か」


 セトの様子からそう判断したレイは、素早くセトの背に乗る。

 するとセトはレイを背中に乗せたまま跳躍、岩に着地したかと思うと再びその岩を足場にし跳躍した。

 空を飛ぶのではなく、岩を足場にしながら跳ぶ。


(まるで八艘飛びだな)


 牛若丸の伝承を思い出しながらも、レイはセトの進む方向に視線を向けてモンスターの姿を探す。

 レイよりも感覚の鋭いセトが見つけた相手だ。

 レイもすぐに見つけられるとは思っていなかったが……そんな予想と反して、セトが見つけたのだろうモンスターの姿を見つけることが出来た。

 理由は二つある。

 第一に、セトが一直線に敵の方に向かっているので、全方位ではなくそちらの方向だけに注意すればいいということ。

 そして第二に……そのモンスターがそれなりに大きく、そして群れを作っていた為だ。


「猿……? いや、ゴリラ? って、セト!」

「グルゥ!」


 岩の上にいたモンスターは、自分に近付いてくるセトの姿を見つけるとその目から……顔の半分程もある単眼の眼球から光を放つ。

 それは、規模こそ大分小さいが、レイの仲間のエレーナが使う竜言語魔法で竜の幻影が放つレーザーブレスのように思える、そんな光だった。

 レイの声を聞いてから……いや、聞く前に、既にセトは翼を羽ばたかせ、光の一撃を回避する。

 急激に動くセトの背の上だったが、レイは動揺することなくミスティリングからデスサイズを取り出す。


「マジックシールド!」


 スキルを使用し、三枚の光の盾が生み出された。

 それを察したセトは、敵の攻撃を回避するのではなく一刻も早く敵のいる場所に向かう。

 マジックシールドはそれなりに使用するスキルなので、セトもその光の盾が一体どのような意味を持っているのかは知っている。

 なので、敵の攻撃を回避するのではなく、可能な限り敵のいる場所に向かうべきだと判断したのだろう。

 その判断は、正しい。

 実際レイもそうするべきだと思っていたのだから。

 セトが動きを変えたのを理解したのか、新たに岩の上に現れた単眼のモンスターは、即座に光を放ってくる。

 その光はセトの前に展開された光の盾が防ぎ、消えていく。

 それを見ながら、レイは新たな光の盾をセトの前に移動させる。


(最初に攻撃してきた奴は、何で続いて攻撃してこない? ……もしかして、連続して攻撃出来ないのか?)


 何らかの力を溜める必要があるのか、あるいは単純に連射出来ないスキルなのか。

 その理由は定かではなかったが、レイにとって悪い話でないのは間違いなかった。

 それはレイやセトにとって悪くない知らせだったが……


「ちっ、残り一枚か!」


 単眼の猿の数が多ければ、意味はない。

 新たに現れた単眼の猿から放たれた光が、セトの前にあった光の盾を再度破壊する。

 レイが口にしたように、残っている光の盾は一枚だけ。

 だが……


「セト!」

「グルルルルルゥ!」


 レイの言葉に反応するようにセトが喉を鳴らしてスキルを発動する。

 発動したスキルは、衝撃の魔眼。

 セトが持つスキルの中でも、最も素早く発動するスキルだ。

 そのスキルによって放たれた衝撃は、新たに岩の上に現れ、光を放とうとしていた単眼の猿の眼球を破壊する。

 元々は衝撃の魔眼というのは、出の早さだけが特徴のスキルで威力は非常に低かったものの、レベルが上がったことでその威力は増し……レベル六になった今は、革鎧程度なら破壊出来るだけの威力を持つ。

 そんな衝撃の魔眼だけに、単眼の猿の眼球を破壊するには十分な破壊力があったのだろう。


「はぁっ!」


 また、レイもただ見ているだけではない。

 デスサイズに続いてミスティリングから取り出した黄昏の槍に、魔力を流してから投擲する。

 放たれた黄昏の槍は、真っ直ぐに飛び……新たに岩の上に姿を現した単眼の猿の胴体を貫く。

 セトは翼を羽ばたかせ、やがて単眼の猿との間合いを瞬く間に縮めていく。

 単眼の猿の群れも、レイとセトの存在に恐怖したのか攻撃を諦めてその場から一斉に逃げ出し始めた。


「って、逃げるのかよ!」


 てっきりそのまま攻撃を続けるのかと思っていただけに、レイの口からは驚愕の声が漏れる。

 そうしながらも黄昏の槍の能力を使って手元に戻し、再度投擲するとそのままセトの背から飛び降り……地面に着地した瞬間、デスサイズのスキルを発動させる。


「地形操作!」


 大地が盛り上がり、単眼の猿を逃がさないよう壁を作っていく。

 ……その衝撃で岩が地面に落ちたりもしたが、今はまず単眼の猿を逃がさないようにするのが先だった。


(って、冒険者はいないよな? ……いればセトが反応していたか)


 取りあえず冒険者はいなかったと判断し、レイはそのまま走り出す。

 真っ先に向かうのは、近くにいる単眼の猿。


「キキキィ、キィ!?」


 レイから一番近くにいた単眼の猿は、いきなりの状況に混乱する。

 それでもレイから少しでも離れようとしたのは、モンスターとしての勘によって自分の目の前にいるのがどうしようもなく厄介な……自分を殺そうとしているのだと理解したからだろう。


「なるほど、こうして近くで見てみると……やっぱり猿なんだな」


 二m程の身長があり、明らかにレイよりも背が高い。

 それは間違いないものの、そのような大きさであっても不思議と印象はゴリラやチンパンジーではなく、猿だった。

 一体何故そのような印象を受けるのかは分からない。

 分からないが、モンスターを相手にそのようなことを考えても意味はないだろうと、それ以上は考えないでおく。

 ただ、手にしたデスサイズと黄昏の槍を使い、倒すべき相手だと認識し……


「キキィッ!」


 そんなレイを見て、逃げられないと思ったのか、それとも今なら自分でも殺せると思ったのか、単眼から光を放つ。

 だが、レイはそれを一枚だけ残っていた光の盾で防ぎつつ、前に出る。


「キィッ!?」


 一体何が起きたのか理解出来なかったのだろう。

 単眼の猿は焦りつつ、それでも太い腕を振るう。

 その威力は、間違いなく強力だろう。

 普通の冒険者であれば、それこそ気が付けば吹き飛ばされていても……そして攻撃を受けて骨が折れ、もしくは内臓が破裂してもおかしくはないだろう強力無比な一撃。

 だが、それはあくまでも普通ならの話だ。

 レイが相手であれば……

 斬、と。

 レイの振るうデスサイズは、単眼の猿の右腕をあっさりと切断する。

 綺麗に弧を描くように空中を飛び、やがて地面に落ちる単眼の猿の右腕。


「ギギギィ!?」


 痛みに悲鳴を上げる単眼の猿だったが、それでもレイという敵を相手に隙を見せるのがどれだけ危険なのかは分かっているのだろう。

 切断された右腕の痛みに苦しみながらも、後方に大きく跳びレイとの間合いを広げようとし……


「甘いんだよ」


 レイはそう言いつつ、黄昏の槍を投擲する。

 ……ただし、今までレイと戦っていた単眼の猿ではなく、自分の左側に対して。


「ゲギィ……」


 仲間と戦っているレイを不意打ちしようとしていた単眼の猿は、次の瞬間、その胴体を粉砕される。

 もしレイがどうしようもない程にピンチであれば、頭部を砕いただろう。

 だが、頭部の巨大な眼球は見るからにこの単眼の猿の大きな特徴で、素材として使えるのは間違いないと思えた。……実際にドワイトナイフを使っていないので、本当に素材として使えるのかどうかは分からなかったが。

 ともあれ、余裕のない状況であればともかく、余裕のあるうちはその眼球を破壊したくないというのがレイの感想だった。

 そしてレイに右腕を切断された単眼の猿は、予想外の展開に動揺して逃げようとし……だが、瞬時にレイに間合いを詰められると、デスサイズによって首を切断される。


「氷鞭!」


 続けてスキルを発動するレイ。

 デスサイズの石突きから氷の鞭が現れると、ちょうどそのタイミングでレイに襲い掛かって来た別の単眼の猿の身体を叩き……


「キィッ!?」


 痛みと、そして氷鞭に叩かれた場所が凍り付き、その驚きで悲鳴を上げる。

 そんな単眼の猿に対し、レイは手首を返してデスサイズの刃でその身体を切断するのだった。

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