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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3809/3865

3809話

 ギルムに行く者を決める選抜試験のトーナメントは順調に進み、やがて準々決勝まで終わった。

 準決勝に残ったのは、レイが……というよりも、教官や教師達が予想していた通り、アーヴァイン、イステル、ザイード、セグリットの四人。

 ある意味で、予想通りの結果ではあった。

 順当すぎて面白くなく、波乱の一つもない状況だった。


(セグリットも腕を上げたと思ってたけど、この準決勝に残るまでにはなっているのか。……というか、セグリットは棄権をするのかと思っていたけど、これはちょっと予想外だった)


 レイの予想では、セグリットはあくまでも仲間の女達と一緒に行動するのを望むので、その三人がギルムに行けないとなると棄権をすると思っていた。

 だが、こうして準決勝にまで残っているものの、棄権をする様子はない。

 あるいはこの四人とレイが推薦するハルエスの五人以外にも他に何人か選ぶ予定ではあるので、そちらに三人の女達が入ると期待してるのかもしれないが……


(いや、ないな)


 レイは即座にそれを否定する。

 何しろ、セグリットの仲間の三人は準々決勝に進むことが出来なかったのだから。

 普通に考えれば、残りの数人を選ぶ時は準々決勝で負けた者達から選ばれるだろう。

 ……それが具体的にどのように選ぶのかは分からないが。

 そんな風にレイが考えている間に、訓練場ではアーヴァインとセグリットが、そしてイステルとザイードが同時に戦いを始める。

 なお、レイがこうしてゆっくりとしていられるのは、準決勝の審判がマティソンとニラシスの二人だからだ。

 そして決勝はレイが審判をやることになっている。


「それにしても、最後まできちんとやるんだな」

「当然でしょう。レイは途中で止めるとでも思ったの?」


 フランシスの言葉に、レイは頷く。


「ああ、そう思っていた。そもそもこれは選抜試験だろう? なら、準決勝まで勝ち上がった四人は既にギルムに行くのが決まっている。なら、わざわざ戦う必要はないんじゃないか?」

「そうね。普通ならそう思ってもおかしくはないわ。けど、冒険者よ? こうした場があって四人まで残ったのなら、誰が学生の中で頂点なのか、決めたいと思ってもおかしくはない筈よ」

「そうか? ……いや、そうかもしれないな」


 冒険者だからこそ、こうして誰が本当に強いのかを決めるというのは譲れないものがあるのだろう。


(それにここで活躍すれば、パーティを組む時に便利だろうし)


 パーティを組む時、相手の強さを知らないと組んでもいいのかどうか分からない。

 勿論、冒険者であればランクであったり、あるいはこの冒険者育成校ならクラスによってある程度の強さは予想出来るものの、それも絶対ではない。

 そういう時、このトーナメントで周囲に自分はこのくらいの強さを持つと、そう示しておけば、パーティを組む目安の一つにはなるだろう。

 もっとも、これで分かるのはあくまでも強さだけで、性格の類は分からない。

 そしてパーティを組む上で重要なのは、強さと同じくらいに性格も重要だった。

 幾ら強くても、性格の悪い相手と一緒のパーティとなれば、雰囲気が悪くなっていざという時はあっさりと全滅してもおかしくはないのだから。

 もっとも、中にはそのような状態であっても一緒に行動することでお互いに理解し合ってしっかりとしたパーティになったりということもあるが。

 とにかく、強さというのは冒険者をやる上で必要な要素なのは間違いない。

 ……もっとも、世の中には敵を倒すのではなく採取専門の冒険者といった者もいるので、そういう者達にしてみれば強さよりも敵に見つからない隠密性であったり、採取の技術であったり、そういうのが必要になるだろうが。


「レイはどちらが勝つと思う?」

「どちらかって……どっちのを見てだ?」


 準決勝が同時に始まっている以上、二試合が同時進行されている。

 フランシスはそのどちらについて聞いてきたのか。

 そう尋ねるレイに、フランシスはイステルとザイードの方を指さす。


「向こうよ。アーヴァインとセグリットの方は……こう言ってはなんだけど、アーヴァインで決まりでしょうね」

「それは否定しない」


 実際、模擬戦の様子を見るとアーヴァインが圧倒的に有利な状況で進んでいる。

 セグリットも必死に食らいついてはいるが……難しいな。

 そうレイは思う。

 勝ち目がない訳ではない。

 セグリットもその実力は十分に高いのだから。

 だが、それを込みで考えてもアーヴァインは更に実力が高い。

 伊達にこの冒険者育成校の生徒の中でトップという訳ではないのだ。

 他に類を見ない程の速度でクラスを駆け上がってきたセグリットだったが、残念ながら今はまだアーヴァインよりも弱い。

 もっとも弱いからといって絶対に勝てないという訳でもないのだが。

 それこそ戦いに絶対はないのだから。

 ともあれ、それでもフランシスが見た限りではアーヴァインの勝利は半ば確信しているらしい。

 そうなると、フランシスがどちらが勝つかと言ったのは……イステルとザイードの方だ。


「イステルの方が有利だろうな」


 レイはあっさりとそう断言する。

 フランシスもそんなレイの言葉に反対をするようなことはせず、頷く。


「そうね。ザイードは基本的に敵の攻撃を受ける壁役だもの。味方がいればそちらに攻撃を任せることが出来るけど、ザイードだけでは……勿論、相手がイステルのような強者でなければ話は違うんでしょうけど」


 フランシスのその言葉は、壁役という役目であるにも関わらず準決勝まで残っていることが証明している。

 もし本当に防御だけしか出来ないのであれば、ザイードはトーナメントの途中で負けていただろう。

 そうならないということは、ザイードにも何らかの攻撃手段があるということを意味している。


(もっとも、それは知ってるけど)


 レイは教官として生徒達との模擬戦を繰り返している。

 そうなると、当然ながらザイードとの模擬戦も何度も行っていた。

 だからこそ、ザイードがタンク役ではあるが、だからといって攻撃手段がない訳ではないのも十分に理解している。


「そうだな。相手が悪かった。これがセグリットなら、もう少しザイードにも勝算があったかもしれないけど」


 現在、イステルはザイードとアーヴァイン、ハルエスとパーティを組んでいる。

 それはつまり、イステルもまたザイードに攻撃方法があるのを理解しているのだ。

 そしてイステルは二組のトップで、そういう意味でも三組のトップであるザイードよりも格上だ。

 速度と技量を活かした戦いをするイステルと、防御を中心とするザイード。


「もしザイードに勝算があるとすれば、カウンターの一撃を上手く入れる、とかかしら?」

「だろうな。俺もそれ以外でザイードが勝利するのはちょっと想像出来ない。……とはいえ、ザイードも生徒の中では指折りの強さを持つ者とはいえ、それでもまだ生徒だ。出来れば今から自分の役目を固定するようなことはせずに、もっと色々とやって欲しいとは思うんだけどな」


 勿論、それはタンクの役目を捨てろという訳ではない。

 タンクをした上で、他にももっと自分の選択肢の幅を広げて欲しいと、そう思ってのことだ。


「そうね、レイの意見には私も賛成するわ。けど……それによって今のザイードの特徴がなくなるようなことになるのだけは避けて欲しいと思うけど」


 これについては、レイも反対は出来なかった。

 もともとタンクというのをやるような者は少ない。

 戦闘においては、タンクがいるのといないのとでは難易度が大きく変化するのだが、それはつまりタンクに攻撃が集中するということを意味してもいる。

 だからこそ、そんな役割を自分からやる者は、敵の攻撃を一身に受ける覚悟が必要だった。

 また、攻撃よりも防御を重視しなければならない……つまり、冒険者としては地味な仕事であるというのも、この場合は影響してるだろう。

 そんな風にレイとフランシスが話をしていると……不意に、わぁっという歓声が聞こえてくる。

 声の聞こえてきた方に視線を向けたレイが見たのは、アーヴァインとセグリットで行われていた準決勝でアーヴァインが勝利した光景だった。

 なお、現在訓練場には結構な数の見学者……最初から見学を目当てに来ていた者や、トーナメントで既に敗退した者も含めてだが、いる。

 そんな見学者達は行われている準決勝を、ちょうど半分ずつくらいに分かれていた。

 本来なら冒険者育成校の中でも最強の生徒であるアーヴァインを見たいと思う者が多いのだろうが、もう一方の準決勝ではアーヴァインに次ぐ実力の持ち主であるイステルとザイードが戦っているのだ。

 特にイステルはその美貌からも多くの人気を集めている。

 もしこれが、アーヴァインとイステル、ザイードとセグリットという組み合わせであれば、見学しているものの多くはアーヴァインとイステルの試合を見ていただろう。

 そしてザイードとセグリットの試合を見ている者は……いないとまではいかないが、その数は大分少なくなっていた筈だ。


(そういう意味では、この組み合わせは悪くないんだろうな。……その辺まで考えてトーナメントの組み合わせを決めた訳じゃないだろうけど。くじ引きだったし。あ、でも実は精霊を使ってその辺を弄るとかした可能性もあるのか?)


 マリーナ程ではないにしろ、フランシスもまた相応に腕の立つ精霊魔法の使い手だ。

 そうである以上、それを使ってこっそりとくじを操作するといったことをしていてもおかしくはないのでは? とレイには思えた。


「どうしたの?」


 レイが自分をじっと見ていることに気が付いたフランシスが、どうしたのか? と尋ねる。

 これが普通の相手であれば、もしかしたら自分の美貌に目を奪われたのかと思わないでもなかったが。

 フランシスはエルフらしい美形なのだから。

 だが、レイに限ってそんなことはないだろうと思う。

 異名持ちのランクA冒険者というのもそうだが、フランシスはレイの仲間にマリーナというダークエルフがいることを知っている。

 その美貌は、間違いなくフランシスは自分よりも上だろうと確信していた。

 ……美貌の方向性が違うのが、せめてもの救いだったのかもしれないが。

 そして実際、レイはフランシスの美貌に目を奪われた様子もなく、あっさりと答える。


「いや、準決勝のこの二試合……随分と好都合な感じになったと思ってな」

「……好都合?」

「そうだろう? もしアーヴァインとイステル、ザイードとセグリットの試合であれば、多くの観客は前者を見に行っていた筈だ」

「ああ、なるほど。……けど、別に何かをしたとか、そういうことはないわよ?」


 レイの言いたいことを理解したのか、フランシスは即座に否定してくる。

 レイも別に本気でそのように思っていた訳ではないので、フランシスがそう言うのならとすぐに納得する。

 そして丁度そのタイミングでイステルのレイピアがザイードの防御の隙間を縫うように命中し、それで勝負ありとなる。

 これが腕であったり、足であったりすれば、審判としてもまだ模擬戦を続けさせただろう。

 だが、喉にレイピアの切っ先を突きつけるといったことになれば、審判としても勝負ありと判断するしかない。


「これで決勝はアーヴァインとイステルか。無難と言えば無難な試合になったな」

「そうね。でも、セグリットの実力の高さも分かったし、他にも何人か私が想像していたよりも強い人がいたから、そういう意味ではトーナメントをやった甲斐があったのは間違いないわ」


 レイにしてみれば無難な結果だったものの、フランシスにしてみればそうでもなかったらしい。

 もっとも、この辺は実際に生徒達との模擬戦を行っているレイと、報告書である程度は理解しているものの、実際のところは知らないフランシスの違いだろう。


「フランシスが現場について分からないのは、ちょっと不味いんじゃないか?」

「……レイの言いたいことは分かるけど、私は他にも色々とやるべきことがあるのよ。その仕事をこなしているからこそ、この冒険者育成校は運営出来ているというのを忘れないでちょうだい」

「別にその辺について忘れている訳じゃないけどな……まぁ、それはともかくとして、今は選抜試験だ。すぐに決勝を始めるのか? それとも決勝だけに少しは休ませるのか?」


 今までは冒険者としての流儀で、戦いが出来るようになったらすぐに次の戦いを始めた。

 だが、次は決勝だ。

 ならば、少しくらいはお互いに休憩させ、万全の状態で決勝をやってもいいのではないかと、そうレイが提案し……


「そうね。じゃあ、少しだけ休憩の時間を設けましょうか」


 そうフランシスが言うのだった。

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