表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3798/3865

3798話

「これはまた……凄いな」

「グルルゥ?」


 レイの言葉にセトが喉を鳴らす。

 それでいながら、そこにはいつもの四m程の体長のセトの姿はない。

 レイの目の前にあるのは、三十cm程にまで縮んだセトの姿だった。

 三十cmとなれば、多少大変ではあるものの、頑張れば手に乗せることも出来る。

 言わば、手乗りセトと呼ぶべき光景がこれだった。

 そして実際に、レイは手乗りセトを試してみる。

 するとセトはあっさりとレイの手の上に乗った。

 本来のセトは体長四mで、重量もそれに相応しいものがある。

 だというのに、現在はこうして片手で持てる程度の重量しかない。

 質量保存の法則はどこにいった?

 そう思わないでもなかったが、ここが剣と魔法の世界エルジィンである以上、そういうものだろうと思い直す。


「それにしても……セト、小さくなって何か不都合はなかったりしないか?」

「グルルゥ?」


 何もないよ? と、レイの問いに答えるセト。

 大きいセトも非常に愛らしいが、こうして小さくなったセトも愛らしいのは間違いない。

 だが……そうして愛らしいからこそ、注意をする必要がある。


(このガンダルシアもそうだが、ギルムにいるセト好きの面々の前でもサイズ変更は使えないな)


 もしセト好きの前でサイズ変更を使ったらどうなるか。

 間違いなく喜ぶ……のは間違いないが、それがただの喜びではなく、狂喜乱舞という表現が相応しいような喜びようになってしまう。

 せめてもの救いは、もしそうした者達の中に妙な考えを抱いてセトを連れ去ろうという者がいても、セトの意思でサイズ変更を解除出来るということか。

 もし連れ去ろうとしても、セトが元の大きさに戻れば連れ去るようなことは出来ない。


「あまり人前で使わない方がいいな、このスキルは」

「グルルゥ?」


 レイの掌の上で、セトがそうなの? と喉を鳴らす。

 レイにとっても手乗りセトという存在は非常に珍しいものだったが、セトにとってもレイの掌の上に乗るというのは初めての経験だった。

 あるいはセトが普通のグリフォンであれば、子供の頃のセトを掌の上に乗せられたかもしれないが。

 それこそ、レイがよく行うカバーストーリーのように、小さい時からセトと一緒に育ってきたというように。

 だが、実際にはセトは魔獣術で生み出された存在だ。

 今よりは小さかったが、それでも魔獣術で生み出された時から二m程の体長ではあった。

 そういう意味では、セトにとってもここまで小さくなるのはこれが初めてということになる。

 それを楽しいと思うのは、そうおかしな話ではないだろう。


「セト好きの連中が今のセトを見ると、良からぬ考えを起こしそうだしな。……そんな訳で、そろそろ解除してくれ」


 レイが掌から地面に下ろすと、セトはすぐにスキルを解除する。

 するとセトはすぐにいつもの大きさに戻る。


「グルゥ」


 レイに向かい、これでいいの? と喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトに笑みを浮かべ、セトの身体を撫でる。


(手乗りセトも可愛かったけど、やっぱり俺はこうして大きいセトの方がいいな)


 こちらの方が慣れているというのもあるのだろうが、やはりレイはセトといったらこうしてしっかりとした大きさを持っている方がらしいと思えた。

 そうして数分、セトを撫でていたレイだったが、そろそろ夕方に近くなってきたのを感じると、いつまでもこのままという訳にもいかないだろうと、残りの魔石を取り出す。

 残っている魔石は、スケルトンゴーストと新鮮なゾンビの魔石。


「これをデスサイズとセトで分ける訳だが……セト、お前はスケルトンゴーストの魔石でいいか?」

「グルゥ……グルルルルゥ?」


 レイの言葉に、セトはそれは構わないけど、何で? と喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、どうやってそういう風に決めたのかと、そう疑問に思うのはおかしな話ではない。

 レイはそんなセトを撫でながら、言葉を続ける。


「セトは魔石を飲み込む必要がある。そうなると、やっぱりゾンビよりスケルトンの魔石の方がいいだろう? 一応、ゾンビの魔石も洗ってあるけど」


 洗っているからといって、それで完全に安心出来る訳ではない。

 また、安心であると分かっていても心理的な抵抗がある。

 例えば、何らかの食べ物……例えばシャインマスカットをトイレの床に落としたとして、それを洗えば物理的な意味では綺麗になってはいるものの、それを食べたいかと言われれば、多くの者が心理的に嫌だと言うだろう。

 勿論、餓死寸前であったり、喉がこれ以上ない程に乾いていたりすれば、また話は別だろうが。

 一般的に考えれば、やはり多くの者は食べたくないと言う筈だった。

 それと同じで、ゾンビの体内から出て来た魔石を飲み込みたいかと言われれば……それをどう思うのかは考えるまでもないだろう。

 ただのゾンビではなく新鮮なゾンビの魔石ではあったが、それでもゾンビはゾンビだ。

 飲み込まなければならないセトに対し、デスサイズの場合は魔石を切断すればそれでいい。

 そういう意味で、セトがスケルトンゴーストの魔石を、デスサイズが新鮮なゾンビの魔石をというのがレイの考えだった。


「グルルルゥ」


 レイの説明に、セトは分かったと喉を鳴らす。

 ……実際にはセトはそこまで拘っていた訳ではない。

 腐臭がするのなら拒否感もあっただろうが、流水の短剣によって洗われているのなら、腐臭が残っているとは思えなかったのだから。

 ただ、レイがセトのことを思ってそう言ってきたのだから、その気持ちは素直に受け取るべきだと思ったのだろう。


「じゃあ……空飛ぶ頭蓋骨の魔石はセトが使ったから、まずは俺が新鮮なゾンビの魔石を使うな」


 そう言い、デスサイズを握る。

 空中に放り投げると、即座に魔石をデスサイズで切断する。


【デスサイズは『腐食 Lv.九』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 それを聞いたレイは、嬉しく思い、納得もするが、同時にそれでいいのか? とも思う。

 嬉しいのは、当然ながらレベル九に達したスキルを習得出来たこと。

 セトの光学迷彩もレベル九に達しているが、それに追いついた形だ。

 そして納得したのは、この魔石を持っていたのがゾンビだった為だ。

 それでいいのか? と思ったのは、ゾンビはゾンビでも腐っているゾンビではなく、新鮮なゾンビだったから。

 例えばこれが普通のゾンビ……の魔石では既に魔獣術が発動しないので、もっとランクが上のゾンビ、それも腐っているゾンビの魔石であれば、納得出来ただろう。

 だが、新鮮なゾンビはその名の通り死体の鮮度が新鮮で、腐ったりといったことはない。


(あるいは、俺は呆気なく倒したけど、実は何らかの腐食系のスキルを使えたとか、そんな感じだったりするのか?)


 そんな疑問を抱きつつも、レイはデスサイズを手に、近くにあった岩に向かう。


「腐食」


 スキルを発動し、デスサイズをその岩に向かって振るう。

 すると岩は切断されると同時に、腐食……というよりは、溶け始めた。


「なるほど、威力は以前よりも増してるな。……もっとも、腐食を使う機会はあまりなかったけど」


 腐食は強力なスキルだが、同時に腐らせるといった効果を持つ。

 つまり、それを使うと相手にダメージを与えることは出来るものの、素材としては使い物にならなくなるし、当然だがレイやセトも腐った肉を食べたいとは思わない。

 なので、腐食を使う機会はあまりなかった。


「グルルルゥ」


 レイに対し、セトはおめでとうと喉を鳴らす。

 セトにとっても、レイが……正確にはデスサイズのスキルがレベルアップしたのは嬉しかったのだろう。


「ありがとうな、セト。……さて、そんな訳でいよいよ最後の魔石だ。かなり暗くなってきたし、そろそろガンダルシアに戻らないといけないだろうし」


 そう言いつつ、レイは空を見る。

 先程確認した時よりもその空は夜に近付いている。

 小さな林なので今も特に問題ない明るさがあったが、もしもっと深い森……それこそ多数の木々とその枝によって上が塞がれているような場所であれば、既に暗くなっていてもおかしくはなかった。

 もっとも、暗くなったとしてもレイやセトは夜目が利くので全く問題がないし、魔法で明かりを用意することも出来るのだが。


「グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。

 セトにとっても、自分が強くなるのは大歓迎なのだろう。

 そうしてやる気に満ちたセトに向かい、レイは最後に残ったスケルトンゴーストの魔石を放り投げる。

 セトはそれをクチバシで咥え、そのまま飲み込み……


【セトは『地中潜行 Lv.四』のスキルを習得した】


 そんなアナウンスメッセージが頭の中に流れる。


「え? 地中潜行?」


 これは少しレイにも意外な結果だったらしい。

 思わずそんな声が漏れる。

 何故スケルトンゴーストの魔石で地中潜行?

 そんな風に思ったのだが、少し考えてみれば何となく納得も出来た。

 スケルトンゴーストは、その名の通りゴーストの特性も持つ。

 そうであるのなら、地中を通り抜けるようなことが出来てもおかしくはないのだろうと。


(スケルトン部分の頭蓋骨がどうなるのかは、俺にもちょっと分からないけど)


 スケルトンゴーストはゴーストの特性を持つと同時に、その名の通り頭部がスケルトンだ。

 つまり骨という物質である以上、レイが想像したように地中潜行が出来たのか? という疑問もあった。

 あったのだが……実際に地中潜行のレベルが上がった以上、これはそういうものだと認識するしかないのも事実だった。

 それにレイにしてみれば……そして実際にレベルアップしたセトにとっても、それが決して悪い訳ではないのだから。

 何故このスキルが?

 そのように思うこともあるが、嬉しいか嬉しくないで考えれば、間違いなく嬉しい。


「グルルルルゥ!」


 レイが戸惑っている間にも、セトが嬉しそうに喉を鳴らす。

 そんなセトの様子を見れば、レイも考えるのを途中で止めて……いや、放棄してセトを褒める。


「地中潜行のレベルが上がったのは嬉しいな」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 実際、地中潜行は地面を潜って移動出来るので、奇襲に最適なスキルだ。

 それを示すように、ここのダンジョンにおいても何度か地中潜行を使ってセトは奇襲を成功させている。

 体長四m程のセトが、いきなり地面から飛び出してくるのだ。

 人というのは頭上が死角だが、それ以上に足下も死角だ。

 ……もっとも、この場合は死角という意味では同じでも微妙に違っているのだが。

 頭上の死角であれば、そこには基本的に何もないので、慣れている者なら自意識の有無に関わらず、自然とそちらを警戒していることも多い。

 だが、地面……普通に歩いているその場所から、まさか攻撃をしてくる者がいるとは思う者はそう多くはないだろう。

 実際には地面を掘って移動する……モグラのようなモンスターであったり、植物系のモンスターが根を使って攻撃してきたりといった具合に、相応に危険ではある。

 ただ、それらと地中潜行が違うのは、地中潜行は物理的に穴を掘って地面を移動しているのではなく、スキルの力によって……そう、それこそゴーストが移動するかのように、物理的な制約を受けずに移動することが出来るというのが大きい。

 それだけに、相手の意表を突くには最適のスキルなのは間違いなかった。

 その上で、それを行うのがグリフォンのセトなのだから、地中潜行のスキルについて何も知らなければ、それこそ完全に奇襲が決まるだろう。


「さて、じゃあ……そうだな。まずは実際に地中潜行がどういう効果をもたらすか見てみるか」


 レベルアップした地中潜行が具体的にどのくらい強化されたのか。

 それを確認する為に、レイはそう告げる。

 セトもそんなレイの言葉に頷き、即座にスキルを発動する。


「グルルルルルゥ!」


 地中潜行のスキルが発動し、セトはそのまま地面に沈んでいく。

 そんなセトの様子を見つつ、レイはレベルアップする前……レベル三の時の地中潜行の効果を思い出す。


(確か、地中四mまで潜ることが出来て、潜っていられる時間は三分だったよな。これまでのレベルの上がり具合から考えると……恐らく地中五mを四分といったところか? これがレベル五になれば、一気に強化されるんだろうな……とはいえ、具体的にどういう風に強化されるんだ?)


 レベル五になって一気にスキルが強化されるのは間違いない。

 だが、その強化の方向性が、地中潜行では分からなかった。

 単純に潜れる深さが増し、潜っていられる時間も長くなるのか。

 そんな風に思っていると、やがて限界を迎えたセトが地中から戻ってくる。

 そのセトから話を聞き、レイは自分の予想が正しかったことを確認するのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.七』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.七』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.五』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.四』new『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』new『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.四』『黒連 Lv.二』『雷鳴斬 Lv.二』『氷鞭 Lv.二』


地中潜行:その名の通り地中を水の中のように移動出来るようになる。レベル一では地下二mの場所を最大一分、レベル二では地下三mを二分、レベル三では地下四mを三分、レベル四では地下五mを四分移動出来る。



腐食:対象の金属製の装備を複数回斬り付けることにより腐食させる。レベルが上がればより少ない回数で腐食させることが可能。レベル五以上では、岩や木といった存在も腐食させる、半ば溶解に近い性質を持つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ