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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3797/3865

3797話

 ガンダルシアから出るのは、レイにとっては容易なことだった。

 メイドのジャニスに一声掛けてから、街の外に続く門の一つ……正門に向かい、そこで手続きをすればすぐに出ることが出来た。

 とはいえ、それはそうおかしなことではない。

 そもそもの話、レイはランクA冒険者なのだから。

 あるいはセトがいなければドラゴンローブの影響もあって、レイをレイと認識出来ずに問題になったかもしれないが、セトが一緒だったのでその手のトラブルもなかった。

 そんな訳で、レイとセトは予想していたよりもあっさりと外に出ることに成功する。


「うーん……こうして見ると、やっぱり初夏だよな」


 ガンダルシアから外に出て、遠くに見える山の景色を眺めつつ、レイはそんな風に呟く。

 春……それもまだ大分早い頃にガンダルシアにやって来て、それからはずっとガンダルシアから出るようなことはなかった。

 その中でダンジョンに潜ったりもしていたし、その中で草原の階層や砂漠の階層、湖の階層。氷の階層といった場所を探索もした。


(こうして改めて考えると、季節感? 何それ? といったような感じだな)


 ダンジョンの階層を思い出すと、そんな風に思ってしまう。

 あるいはドラゴンローブがなければ、気温や湿度で季節の移り変わりを察することも出来たかもしれないが、基本的にレイは簡易エアコン機能付きのドラゴンローブを常に着ている。

 そうなるとやはり景色を見て季節の移り変わりを確認するしかないのだが、ガンダルシアは迷宮都市ということもあって、かなり発展している。

 だからこそ、街中を見ても特に自然がある訳でもないので、季節は感じにくい。

 そんな中で一番季節を感じるとなると、食事か。

 日本と違い、このエルジィンには冷凍保存をするといったことは難しいし、ハウス栽培のような技術もない。

 出来ない訳ではないが、それこそ大規模なマジックアイテムが必要になったり、かなりの規模の面積が必要になったりするので、貴族や大商人といったような者達でもなければ、恩恵に与ることは出来ない。

 そうなると、結果として季節の旬の食材を使った料理が多くなる訳だ。

 勿論、塩漬けのような保存食の類もあるので、そういう意味では季節以外の食材もあるのだが。

 レイは季節を感じるのは、やはりメイドのジャニスの作った料理が一番となる。

 ……もっとも、その料理にもレイがダンジョンで倒したモンスターの肉を食材として使ったりしているので、旬の食材以外の料理も多かったりするのだが。


「さて、じゃあ……あまり時間がないし、さっさと行動するか。あの山とまではいかないが、どこか人目に付かない場所に」


 魔獣術を使い、そしてそれで習得したりレベルアップしたスキルを試す為には、やはり相応に広い場所が必要になる。

 魔石を使うだけなら、庭でやってもいいのだが。

 ただ、セトが魔石を飲み込む光景だけは、決して人に見せることは出来なかったが。


「グルルルゥ?」


 どの辺まで行くの? と喉を鳴らすセト。

 そんなセトに対し、レイはガンダルシアに続く街道から離れればそこまで離れなくてもいいだろうと考える。

 基本的に街道から外れるような者はいない。

 それこそ盗賊の類であればともかく、一般人であれば何か余程後ろ暗いことがない限り、普通に街道を通るだろう。


(禁制品の類を運んでいる商人とかな)


 レイはセトの背に乗り、走り出す。

 飛ぶのでもいいのだが、別にそこまで遠くに行く訳でもないので、走って移動しても問題がないと、そう判断したのだ。

 そうして十分程も走れば、まだ遠くにガンダルシアの城壁の姿を見ることは出来るものの、かなり離れる。

 セトの空を飛ぶ速度はかなり速いが、地面を走る速度も決して遅くはない。

 それこそ名馬と呼ばれる馬であっても、セトに追いつくことは出来ないだろう速度は出せるのだから。


「セト、あの辺でいいんじゃないか?」


 セトの背の上でレイが指さしたのは、小さな林。

 草原が広がってる中で、ポツンとある林だ。

 一体何故そのような林があるのか?

 そう疑問に思わないでもなかったが、自然というのはそのようなものだと考えれば、そこまで疑問に思うこともない。

 レイにしてみれば、便利な場所に林があったのだから、それは歓迎すべきことでしかない。


「グルルゥ!」


 レイの言葉にセトが分かったと喉を鳴らし……


(あ)


 そんなセトの鳴き声が聞こえたのか、気配を察知したのか、林からウサギが何匹か逃げ出していくのが見えた。

 モンスターでも何でもない、ただのウサギ。

 そんなウサギが、まさに脱兎という表現が相応しい速度で逃げ出したのだ。


(ちょっと悪いことをしたな)


 そう思わないでもなかったが、レイやセトがいなくなればまた戻ってくるだろうから、今は気にしないでおくことにする。

 これで腹が減っていれば、ウサギを捕るといったことも考えたかもしれないが、別にレイはそこまで空腹ではない。

 ましてや、肉というだけならそれこそミスティリングに大量のモンスターの肉が入っているのだ。

 動物の肉とモンスターの肉。

 どちらが美味いかと言われれば、一般的にはモンスターの肉となる。

 あるいは日本の高い飼育技術で育てられた牛肉、豚肉、鶏肉といった肉であれば、モンスターの肉よりも美味いかもしれないが。

 とはいえ、それでも高ランクモンスターの肉であったり、オークのようなモンスターであれば話は違ってくる。

 ……もっとも、レイも日本にいる時にそんな高級な肉をそこまで食べたことがある訳ではないので、絶対にそうだとは言えなかったが。

 ただ、鶏肉に関しては日本三大地鶏の一つと呼ばれている比内地鶏を父親が飼っていたので、それを何度も食べたことがあったが。


「グルルルルゥ」


 セトもウサギの存在には気が付いていたものの、特に気にした様子もなく進み、林に到着したところで喉を鳴らす。


「ん? ああ、悪い。ちょっとウサギの肉について考えていたんだ。……そうだな、取りあえずここでなら問題ないだろう。さて、そうなるとまずは……」


 セトの背から下りると、レイは周囲の様子を眺め、誰もいないことを確認する。

 先程のウサギもそうだし、セトが近付いたことで何羽もの鳥も逃げた。

 そう考えると、この林は小さいがそれなりに獲物はいるのだろう。

 だとすれば、猟師が……あるいは猟師ではなくても、冒険者がちょっとした小遣い稼ぎにくるようなことがあってもおかしくはない。

 ましてや、今は初夏で動物も活発に動き回っているだけに、猟師達にとっては快適な季節だろう。

 そのような者達がいれば、面倒なことになる。

 その為、注意深く周囲の様子を確認したのだが……


「うん、いないな。セトはどうだ?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトも大丈夫と喉を鳴らす。

 レイよりも五感の鋭いセトだ。

 そのセトが大丈夫と言ってるのだから、全く問題はないだろう。

 ……セトがいるのにレイもしっかりと確認してるのは、何らかの理由でセトが見逃しても、レイなら見つけられるかもしれないと思った為だ。

 セトの五感が鋭くても、それで絶対に見逃さないという訳でもないのだから。

 もっとも、レイも魔獣術の件でもなければここまで真剣に周囲の様子を窺ったりはしないが。

 ともあれ、レイもセトも周囲に誰もいないというのを確認出来たので、早速魔石を使うことにする。


「まずはこっちからだな」


 そう言い、レイがミスティリングから取りだしたのは、骨の鳥の魔石。

 この魔石は複数あるので、セトとデスサイズの双方が使うことが出来る。


「セトからでいいか?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に頷くセト。

 そんなセトに向け、骨の鳥の魔石を軽く放り投げる。

 セトはその魔石をクチバシで咥え、飲み込む。


「……あれ?」


 そのまま数秒待っても、脳裏にアナウンスメッセージが響くことはない。

 最初は疑問の声を上げたものの、やがてその意味を理解すると……


「マジか」


 思わずそんな声を出す。

 ここ最近は全ての魔石で魔獣術が発動していたので、思ってもいなかった。

 だが、魔石によっては魔獣術が発動しないこともあるのだと、そう思い出した為だ。

 基本的にそうなるのは弱いモンスターの魔石のことが多い。

 具体的にはゴブリンとか。

 もっとも、そのゴブリンも希少種や上位種の魔石であれば魔獣術も発動するのだが。


「グルルルゥ……」


 レイの様子を見て、セトも残念そうに喉を鳴らす。

 ……いや、実際に魔獣術を行ったのがセトであった以上、レイよりも残念に思っているだろう。

 レイはそんなセトを慰めるように身体を撫でる。


「気にするな。ここ最近は魔獣術がずっと発動していたけど、そういうこともあるって。……それに他の魔石もあるから、そっちでなら大丈夫だと思う。今の魔石を持っていた骨の鳥は、こうして考えてみるとちょっと弱かったしな」


 これは事実だ。

 レイにとって十階のアンデッドは基本的に楽に倒せる相手なのは間違いないが、そんな中でも骨の鳥は更に容易な相手だった。

 何しろ上空から地上まで躊躇もなく、一直線に全速力で突っ込んでくるのだから。

 回避さえすれば、自分から地面にぶつかって大ダメージを受けるので、倒すのは非常に容易だった。

 ……もっとも、上空から突っ込んでくるのを回避するのが難しい一面もあるが。

 人にとって、頭上というのは大きな死角の一つだ。

 そんな場所から攻撃されるのだから、気配で察知出来たり、あるいは離れた場所から上空にいるのを見つけていたりせず、不意打ちをされた場合は回避するのが難しく、まともにダメージを受ける可能性は十分にあった。

 ともあれ、レイにしてみれば雑魚……というのは少し大袈裟かもしれないが、それでも決して強敵という訳ではないのも事実。

 そんな骨の鳥の魔石だけに、魔獣術が発動しなくても仕方がないだろうという思いがそこにはあった。


「となると……デスサイズはどうだ?」


 セトが駄目でも、デスサイズならどうか。

 以前にもセトが駄目でもデスサイズは問題なかったり、あるいはその逆にデスサイズが駄目でもセトだと問題がなかったりといったようなことがあった。

 なら、もしかしたらデスサイズなら……そんな思いを込めて、骨の鳥の魔石を空中に放り投げるとミスティリングから取り出したデスサイズで一閃する。

 斬、と。

 一瞬にして切断される魔石だったが、やはりレイの脳裏にアナウンスメッセージが響くことはなかった。


「やっぱりか。……残念だが、仕方がないな」


 魔獣術を使う以上、こういうこともある。

 そう考えるレイは、残念には思うものの気分を切り替える。

 いつまでも一つのことに気を取られるのは不味いと、そう判断しての行動だった。


「骨の鳥の魔石については残念だったけど、他の魔石を使うか。まだ三つあるから、セトもそっちが気になるだろう?」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトはまだ少し残念そうだったものの、それでも分かったと喉を鳴らす。

 やはり、まだ魔石が三つあるとレイから聞かされているのが、そこまで落ち込まなかった理由だろう。


「となると、まずはこの魔石からだな」


 レイが取りだしたのは、空飛ぶ頭蓋骨の魔石。

 自分の大きさを変えるという能力を持っていたことから、恐らく……いや、ほぼ確実にセトの持つスキル、サイズ変更がレベルアップするだろうと予想してのものだ。


(出来れば、これでスキルがレベルアップしない……とかそういうことはないといいんだが。せめて、サイズ変更のスキルではなく、別のスキルを習得するか、レベルアップするかして欲しい)


 そんな風に思いつつ、レイは魔石をセトに見せる。

 なお、先程の骨の鳥の魔石もそうだったが、全ての魔石は流水の短剣で洗ってある。

 ゾンビはともかく、スケルトン系の魔石もだ。

 本来ならそこまで気にすることはないのかもしれないが、この辺はやはり気分的な問題からの行動だった。

 そうして取り出した、空飛ぶ頭蓋骨の魔石。

 それを放り投げると、セトはそれを咥え、飲み込む。


【セトは『サイズ変更 Lv.四』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 そのアナウンスメッセージに、レイは満足そうな笑みを浮かべる。

 予想した通り、サイズ変更のレベルが上がった為だ。

 骨の鳥の魔石ではスキルの習得もレベルアップもなかったが、それだけに予想通りの結果になったことはレイにとって嬉しいことだった。


「グルルルゥ」


 レイだけではなく、セトもまた嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにとっても、二度続けて何のスキルの習得やレベルアップが出来ないということにならなかったのが嬉しかったのだろう。

 レイは早速セトにサイズ変更のスキルを試してみるように言うのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』new『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.七』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.七』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.五』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.三』『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』


サイズ変更:元の大きさよりも縮む。Lv.二だと七十cm程、レベル三だと五十cm程、レベル四だと三十cmになる。

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