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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3796/3865

3796話

 ゾンビやスケルトンが生えてきた場所から離れたレイだったが、そのまま歩いているとふと上からの気配を感じる。

 感じると同時に、レイは素早くその場から後ろに跳ぶ。

 すると次の瞬間、レイのいた場所に上空から真っ直ぐ何かが飛んできて、地面にぶつかって音が響く。


「鳥……?」


 土煙の中から見えたのは、レイが言う通り鳥だった。

 ただし、鳥は鳥でもただの鳥ではない。

 その身体は骨で出来ており、翼もまた骨で出来ている。

 つまりそれは、骨で出来た鳥だった


「スケルトンバードって奴か。……とはいえ!」


 レイは満面の笑みを浮かべつつ、ミスティリングから取り出したデスサイズで下から掬い上げるような一撃を放つ。

 その一撃は、あっさりとスケルトンバードの身体を斬り裂きながら吹き飛ばす。

 そう、鳥系のモンスター……実際にはアンデッドなのだが、とにかくその手のモンスターの厄介なところは、やはり自由に空を飛べるということだ。

 レイは対空手段を幾つも持ってはいるが、そうでない者……普通の冒険者達にはそこまで対空手段はない。

 先程レイが助けたパーティも、弓術士の女くらいしか対空手段は持っていないだろう。

 ……もっとも、実際にはレイが知らないだけで何らかの対空手段を持っていてもおかしくはないのだが。

 また、簡易的な対空手段としては、地面に落ちている石を拾って投擲するといった方法もある。

 とはいえ、そのような付け焼き刃の方法が通じるかどうかは……微妙なところではあるのだが。

 とにかくレイが普通ではない以上、スケルトンバードのように空を飛んでいても対処は可能だ。

 可能なのだが、こうして自分から地上に降下してくる相手であれば、そもそも対空手段は必要なかった。


「それに……さっきまでと違って、今回は数も多いから、魔石の数で悩む必要はないな」


 上空を飛び回っているスケルトンバードの数は、まだ八匹いる。

 その八匹全てがレイに狙いを定め、上空を旋回しているのだ。

 レイとしては、何故自分に目を付けたのかは分からない。

 分からないが、倒したことのない……つまり、魔獣術に使える魔石を持った敵と考えれば、面倒に思うよりも寧ろ大歓迎ですらある。


「ヒュー」


 上から聞こえてきたそんな口笛にも近い鳴き声。

 そんな鳴き声を発しつつ、スケルトンバードは三匹が一斉にレイに向かって降下してくる。

 一匹だけでは駄目だったので、今度は三匹で突っ込んで来たのか。

 もしくは、何かもっと別の理由があるのか。

 その辺りはレイにも分からなかったが、レイとしてはもう一個魔石を入手出来ればそれでいいので、そういう意味では今の状況は悪くない。……少し数が多すぎる気はするが。


(というか、翼も骨で出来ているのにどうやって飛んでるんだろうな。……今更か)


 少しだけそんな疑問を抱くレイだったが、すぐに黄昏の槍を取り出すと降下してくるスケルトンバードに狙いを定める。

 このエルジィンにおいて、物理法則が働いていない訳ではない。

 ないのだが、そこに魔力というのが加えられることによって、地球では全く理解出来ない現象が起きる。

 それこそ、骨の翼しか持たないスケルトンバードが空を飛んでいるのもそうだ。

 また、空を飛ぶということであれば、体長四mのセトが今の翼の大きさで空を飛ぶのもおかしい。

 他にも色々と魔力があるからこその現象というのはあるので、その辺についてはレイも気にしないことにしている。

 一瞬、本当に一瞬だけ、地球にいる物理学者とかそういう者達がこのエルジィンにいたら、どう反応するのかというのが気になったが。

 とはいえ、そのような考えはすぐに消え、今は自分に向かって鋭いクチバシを突き立てんと襲ってくるスケルトンバードに向かって黄昏の槍を投擲する。

 空気を斬り裂きながら飛ぶ黄昏の槍は、次の瞬間には降下してくる三匹のスケルトンバードのうち、二匹の身体を貫き、そのままあらぬ方向に飛んでいく。

 黄昏の槍を手元に戻しつつ、レイは残り一匹になったスケルトンバードに視線を向ける。

 アンデッドという特性からか、仲間が死んでも……もしくは破壊されても、全く気にした様子もない。

 そのままレイに向かって突っ込むスケルトンバード。

 一直線に突っ込んでくるというのは、その落下速度もあって威力は強いのだろう。

 ましてや、アンデッドである以上は急速に地面が近付いてくる恐怖心といったものもないのだろうから。

 だが……威力が強いのは、あくまでも命中すればの話だ。

 レイはあっさりと後ろに下がる。

 そしてレイが一瞬前までいた場所に骨の鳥が降下し、地面にぶつかる。


「……で、これを見てまだ来る訳か」


 まだ上空を飛んでいた骨の鳥だったが、残りの全ても先に降下した……寧ろ自爆したと評するのが相応しい仲間に続くように、降下してくる。

 レイはデスサイズで地面にぶつかった衝撃で半ば砕けている骨の鳥を完全に砕くと、そのまま上空から降ってくる敵の攻撃を回避しては、自滅させていく。

 気が付けば、空を飛んでいた骨の鳥はその全てが地面でレイの持つデスサイズや黄昏の槍に砕かれていたのだった。


「アンデッドだから、知能がないのは……まぁ、倒す方にしてみれば楽ではあるな。あの新鮮なゾンビのように、自分がピンチになったら逃げるような奴もいるんだろうけど」


 そんな風に思いながら、レイは砕けた骨の鳥から魔石を回収していく。

 ドワイトナイフを使ってもよかったのだが、素材らしい素材になるような場所はなかったし、何より地面にぶつかった衝撃であったり、あるいはレイの攻撃によって砕けており、ドワイトナイフを使うのには不向きだった。

 解体をする際にはドワイトナイフを突き刺す必要があるのだが、骨の鳥はレイがデスサイズや黄昏の槍で砕いてしまった影響もあって、その大部分が残っていない。

 そのような部位にドワイトナイフを刺したところで、何も残らないだろうというのは容易に予想出来た。

 だからこそ、レイとしてはこの状況でドワイトナイフを使うのを止めたのだ。


(ドワイトナイフは一瞬で解体出来るし、保管ケースを自動的に作ってくれたり、死体に傷がついていた場合、毛皮の類が素材として残ればそれを修復してくれたりとかなり便利……いや、そんな言葉じゃ言い表せない程に便利だけど、やっぱり欠点もあるんだよな)


 それこそが、ドワイトナイフの効果はあくまでも刺した場所にしか発揮されないということだ。

 例えば今回の骨の鳥のように砕かれてしまった場合や、あるいは胴体を切断した場合といったような時は、あくまでもドワイトナイフで刺した方にしか効果は発揮しない。

 それでも今回の場合は、相手がそこまで強い訳ではなく、ドワイトナイフを使わずとも剥ぎ取りが出来る素材らしい素材はなく、魔石が入手出来るくらいである以上、そこまで困らない。

 だが、例えばこれが……そう、何らかの鉱石で出来たゴーレムのような相手であった場合、倒す時に砕いてしまうと、ドワイトナイフを使うのは難しくなる。


(結局、何でも完璧という風にはならないんだよな。まぁ、それでもドワイトナイフが非常に助かる存在なのは間違いないんだが)


 そんな風に思いつつ、魔石を拾い上げてはミスティリングに収納するのだった。


「次は一体どんなアンデッドが出てくるかな」


 そう呟きつつ、レイは十階の探索を開始する。

 当然だが、そうして歩いている間も魔力の流れのコントロールについての訓練は続けたままだ。

 もっと繊細な魔力の流れのコントロールをするべきなのかもしれないが、現在レイがやっているのは魔力の流れのコントロールが出来ている状態を普通の状態にしたいと判断した為だ。

 魔力の流れのコントロールを意識してやるのではなく、無意識にやりたい。

 それが出来るようになってから、次の段階に進むべきというのがレイの判断だった。

 少し気長に考えすぎでは?

 そう思わないでもなかったが、無詠唱魔法を使おうというのだ。

 レイが戦ったリッチがいつから無詠唱魔法を使えるようになったのかは分からないが、それでもすぐに使えるようになった訳ではないだろう。

 ……あるいは、リッチとなった瞬間に種族的な能力として無詠唱魔法を使えるようになった可能性も否定は出来ないが。

 既にそのリッチは倒してしまった以上、話を聞くことも出来ない。

 なので、レイが行うのは一歩ずつであっても無詠唱魔法に向かって進むだけだ。

 その一歩目が、今の状況だった。


(いや、魔力の流れのコントロールをある程度出来るようになったから、今は二歩目といったところか?)


 そんな風に思いつつ、十階を歩くレイ。

 魔獣術に使う魔石の為にも、そして無詠唱魔法に対する訓練の為にも、未知のアンデッド出て来いと思いながら。

 しかし、そのまま三十分程歩いても、アンデッドは出て来ない。

 いや、正確には普通のスケルトンやゾンビ、ゴーストといったアンデッドは出てくるのだが、レイが期待しているような未知のアンデッドは出て来ないのだ。

 そのことに若干の苛立ちを覚えないでもなかったが、これもまた無詠唱魔法の訓練の時間でもあると半ば無理矢理自分を納得させる。

 そうして進み続けたレイだったが……


「うん、そろそろ戻るか」


 更に探索を続けること、一時間程。

 ここまで徹底して敵が出て来ないとなると、これ以上十階で探索をしても意味はないだろうと判断し、ダンジョンから脱出することを決めるのだった。






「おかえりなさい、レイさん。今日はちょっと早いですね」


 ダンジョンから出たレイが家に戻ると、メイドのジャニスがそう言って出迎える。

 実際、現在の時間は午後三時程だ。

 ダンジョンを出た後、軽く――あくまでもレイの認識としてだが――食事をしてきたのだが、それでもまだこの時間だ。

 ましてや、今は初夏で日も長くなってきている。

 この時間はまだ真っ昼間という認識の者が多い。


(いやまぁ、冬でも午後三時は日中と認識する者が多いだろうけど)


 そんな風に思いつつ、レイはジャニスの言葉に頷く。


「モンスターがあまり出てこなくてな。もっと大量に出て来てくれれば、俺としてもそれなりにやる気になったんだろうけど」

「そうですか。それでは夕食の方はどうしましょう? いつもより早めに?」

「いつも通りでいい。セトは庭だよな?」

「はい」


 その言葉に頷き、レイはセトに会う為に庭に向かう。


「グルルルルゥ!」


 レイが庭に入った瞬間には、セトが嬉しそうな鳴き声を上げながら近付いてきていた。

 感覚の鋭いセトだ。

 庭にいてもレイが帰ってきたのは分かっていたのだろう。

 だからこそ、こうして即座にやって来たのだ。


「待たせたか?」

「グルゥ……」


 レイの言葉に、セトはその通りというように喉を鳴らす。

 そんなセトを撫でつつ、レイは口を開く。


「どうやら退屈だったみたいだけど、十階だったしな。セトには向いていないだろう?」

「グルゥ」


 レイの言葉に、今度は残念そうにだが喉を鳴らす。

 実際、セトにしてみれば十階は出来れば行きたくない場所だ。

 一応、悪臭や腐臭も我慢しようと思えば出来るのだが、嗅がなくてもいいのなら嗅ぎたくないと思うのは自然なことだろう。

 そんな訳で、レイだけで十階に行くという判断も決して間違っているとは思わない。

 思わないのだが、やはりそれはそれ、これはこれといった感じなのだろう。

 もっと撫でてと身体を擦りつけるセト。

 レイはそんなセトを思う存分撫でながら、口を開く。


「今日の収穫は、魔石五個だ。そのうち二個は同一種類のアンデッドの魔石だから、これはセトとデスサイズで一個ずつだな。残りの三つ……そのうちの一つは恐らくセトのサイズ変更のレベルが上がるだろう魔石だから、それはセトが使うとして」


 空飛ぶ頭蓋骨の魔石をセトが使うというのは、その魔石を入手した時から決めていた。

 セトに説明したように、サイズ変更のスキルがレベルアップするだろうと予想出来る以上、わざわざそれをデスサイズに使おうとは思わない。

 ……もっとも、空飛ぶ頭蓋骨の魔石でデスサイズがどのようなスキルを習得するのか、あるいはレベルアップするのか、気にならないと言えば嘘になるが。

 それでもレイにとってはセトの成長の方が重要なのは間違いなかった。


「グルルルゥ!」


 レイの言葉にセトも異論がないらしく、そう喉を鳴らす。

 セトにとっても、自分のスキルのレベルが上がるとはっきり分かっているのなら、それを逃すという手段はない。


「さて、それで魔石をどこで使うかだが……そうだな。ダンジョンに行くのもなんだし、ガンダルシアの外で試してみるか」


 レイは久しぶりに……いや、ガンダルシアに来て以降、初めてガンダルシアの外に出てみるかと考えるのだった。

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