3786話
周囲を眩い光が照らし……岩カリの解体が終わる。
倒した岩カリの数は全部で十五匹。
つまり、魔石が十五個と……保管ケースに入った内臓と思しき物が十五個、そして魔石とは違う、指先程の大きさの白い石がそこには残った。
「まぁ、悪くはない収穫か? ……もっとも、魔石以外の素材が何に使えるのかは分からないが」
保管ケースに入った内臓と思しき物と白い石。
これは具体的に何にどう使うのか、レイには分からない。
しかし、ミスティリングに収納しておけばいずれ何かに使えるだろうと判断しておく。
そうして最終的に残ったのは、魔石が二つ。
当然だが他にも魔石はあったのだが、その魔石も既にミスティリングに収納されている。
魔獣術に使うのは、二個あれば十分だ。
なので、必要でない魔石はミスティリングに収納したのだ。
「さて、ここなら誰かに見つかることもないだろうし、さっさと魔石を使うか。いつも通りセトからでいいか?」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らす。
そんなセトの様子にレイは笑みを浮かべて魔石を手にし、放り投げる。
セトはそれをクチバシで咥え、飲み込み……
【セトは『衝撃の魔眼 Lv.六』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「……おう?」
アナウンスメッセージの内容に、レイの口からはそんな声が漏れた。
それは、まさか衝撃の魔眼のレベルが上がるとは思っていなかったからだろう。
岩カリの特色を考えると、明らかに土系のモンスターだ。
そうである以上、それこそ再びアースアローのレベルが上がったり、あるいは何か他の土系の新たなスキル……レイがすぐに思いつくのは、アースブレスとかだったが、とにかくそういうのを習得するのだとばかり思っていた。
なのに、レベルアップしたのは衝撃の魔眼なのだ。
何故? と疑問に思っても仕方がなかったが……ふとレイは、岩カリの攻撃方法について思い浮かべる。
かなり速度のある攻撃。
レイだからこそあっさりと回避出来たが、もしレイでなければ回避するのはそう簡単なことではなかっただろう。
あの攻撃が魔眼の一種であったとなれば、セトの衝撃の魔眼のレベルが上がったのも納得出来た。
もっとも、もしあれが本当に魔眼の攻撃の類であったとすれば、あの岩カリのどこかには目があったということを意味するのだが。
生憎と、レイにはどこに目があったのかは全く分からなかった。
そしてドワイトナイフを使った解体であっても、眼球が素材として出て来なかった。
それはつまり、岩カリの眼球がそこまで重要な部位ではないということを意味しているのだろう。
……もっとも、それはあくまでも岩カリを倒したレイの立場からの話だ。
岩カリにしてみれば、自分の眼球は眼球としてきちんと重要なのだと主張するだろうが。
「グルルゥ」
衝撃の魔眼がレベルアップしたセトは、嬉しそうな様子でレイに近付いてくる。
結果は予想外……そう、かなりの予想外だったものの、衝撃の魔眼がレベルアップしたのはレイにとっても喜ばしいことなのは間違いないなかった。
何しろ衝撃の魔眼は、セトが使うスキルの中で……いや、デスサイズが使うスキルを含めても、最速のスキルなのだから。
他のスキルはセトにしろ、デスサイズ――正確にはそれを使用するレイだが――にしろ、使おうと思ってスキルを発動すると、即座に発動とはいかない。
例えばファイアブレスなら息を吸い、クチバシを開いて実際にファイアブレスを放つといったように。
あるいはアロー系のスキルであれば、氷や風、岩といったもので構成された矢を生み出してから、それを放つといったように。
だが、衝撃の魔眼は違う。
スキルを発動した瞬間には既にその効果が発揮される。
そういう意味で、現時点においては最速のスキルと評しても決して間違いではないのだ。
ただし、その代償と言うべきか、あるいは発動速度に特化した弊害と言うべきか、衝撃の魔眼の威力はとにかく弱かった。
それこそ敵に致命傷を与えるのは到底不可能で、牽制するような一撃を放つくらい。
それはそれで使い道があったのは事実だったが、それでも使い勝手が悪いスキルだった。
……そう。あくまでも『だった』なのだ。
レベル五に達したことで、衝撃の魔眼も他のスキルと同様一気に強化された。
レベル五に達した時点で衝撃の魔眼の威力は大分上がっている。
もっとも、それはあくまでも今までの衝撃の魔眼の威力に比べての話であって、純粋な攻撃力という点では他の攻撃的なスキルには及ばないが。
それでも一撃必殺とまではいかずとも、相応の攻撃力を持つようになったのはレイやセトにとって悪い話ではない。
そんな衝撃の魔眼のレベルが上がったのだから、その威力もまた上がっている筈だった。
「セト、じゃあまず衝撃の魔眼を使ってみるか。その辺にある岩に向かって衝撃の魔眼を使ってみてくれ」
幸いなことに、ここは行き止まりとなっている場所だ。
セトがスキルを使っても誰かに見られるようなことはない……とは断言出来ないものの、それでも可能性としてはかなり低い。
また、魔石を飲み込む光景を見られた訳ではなければ、スキルの練習や試し打ちをしていると誤魔化すことは難しくなかった。
行き止まり……袋小路であり、周囲には岩しかないので、スキルの標的となる相手も多数ある。
その為、ここはスキルの試し打ちを行うには絶好の場所だった。
「グルルルルゥ!」
早速セトが衝撃の魔眼を使う。
同時に、セトの見ていた岩が弾け飛ぶ。
「なるほど、これは……間違いなく威力が上がっているな」
レベル五の時は、防具を装備していなければ人に大きなダメージを与えられる程度の威力だったが、今の岩を破壊した時の規模からすると、金属の鎧は無理でも革鎧であれば、その上からも相手に大きなダメージを与えられるのは間違いなかった。
勿論、それはあくまでも一般的な……普通の革鎧であればの話で、例えば高ランクモンスターが素材となっている革鎧であったり、普通の革鎧であっても優れた職人が何らかの細工をしたりといったようなものであれば話は別だったが。
「凄いな、セト。レベル六になった衝撃の魔眼は、メインの攻撃スキルとしては無理だろうが、奇襲をしたり、相手の意表を突くといった使い方なら十分に使えるスキルだ」
「グルルゥ」
レイの言葉に、嬉しそうに喉を鳴らすセト。
セトにしてみれば、スキルが強化されたことも嬉しかったのだろうが、それ以上にこうしてレイに褒められたことが嬉しかったのだろう。
いつもは円らな目を細めて、気持ちよさそうにレイに撫でられる。
レイは数分セトを撫でると、その動きを止める。
それにセトは少しだけ残念そうな様子を見せるものの、レイが何故撫でるのを止めたのかを知ってるだけに、もっと撫でてといったようには言わない。
レイにとっても、本来ならセトを撫でるのは楽しいことだ。
しかし、これから自分も……より正確にはデスサイズにも岩カリの魔石を使わなければならない以上、これ以上セトを撫でるのを諦める必要があった。
「さて、デスサイズはどんなスキルを習得出来るんだろうな。……土系か」
そう言うレイは、少し……本当に少しだけだが、地形操作のスキルが上がる可能性もあるのでは? と期待していた。
もっとも、地形操作の強力な効果を考えれば、岩カリの魔石でレベルアップするとは思えなかったが。
それでも、万が一、億が一、そんな可能性があった場合……という風に期待を抱いてもおかしくはない。
頼む。
そんな風に思いながら、レイは岩カリの魔石を放り投げ、デスサイズで切断する。
【デスサイズは『地中転移斬 Lv.四』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「あー……なる程。土系か。……土系か?」
最初は納得したように呟いたレイだったが、自分の言葉に疑問を抱く。
レベルアップしたスキルの名称は、地中転移斬。
その名称に『地』という文字がある点であったり、地面を介して敵に攻撃を行うという意味では土系のスキルと認識してもそんなにおかしくはないだろう。
だが、地中を使うとはいえ、転移をするというのを土系のスキルと認識してもいいものかどうかは微妙なところだろう。
そうレイには思えた。
……勿論、だからといって不満がある訳ではない。
あくまでもこれは不満ではなく疑問だ。
何しろ、スキルが強化されたことそのものはかなり嬉しいのだから。
「まぁ、取りあえず魔獣術についてそんな風に疑問を持つのが間違いか。以前にも何でそのモンスターの魔石でそのスキルが? ってことがあったんだし。そう考えれば、まだ地中転移斬は土系だということで納得出来るし」
半ば無理矢理自分に納得させるように呟きつつ、早速レベルアップしたスキルを試してみることにする。
「地中転移斬!」
スキルを発動し、デスサイズの刃を掬い上げるような一撃で地面に向かって放つ。
すると地面に触れた瞬間、地面を破壊するでもなく、そのまま地面の中に消え……かなり離れた場所の地中からデスサイズの刃が現れた。
「距離が伸びてるな。体感的には……大体十五……いや、十四mくらいか? レベル三の時は十一mくらいだったことを考えると、三m伸びたのか。……これを三mしかと考えるか、三mもと考えるか」
呟きながら考えたレイだったが、取りあえず三mもと考えておくことにする。
実際にどうなのかはともかく、この手のことは前向きに捉えた方がいいだろうと、そのように思ったからだ。
「それにしても……この岩カリの魔石は、セトもデスサイズもちょっと予想外だったな」
「グルゥ」
レイの言葉に同意するように喉を鳴らすセト。
セトにとっても、まさか岩カリの魔石から衝撃の魔眼のレベルが上がるとは思っていなかったのだろう。
それはレイもまた同様だった。
とはいえ、それが悪いかと言われれば決してそんなことはないのだが。
「じゃあ……うーん、これからどうする? 何だかんだと時間が経ってしまったし」
岩カリとの戦いそのものはそこまで時間が掛からなかったものの、魔獣術関係でそれなり以上に時間を使った。
まだ時間的に夕方まではそれなりに時間があるものの、これから十三階に挑むだけの時間があるとは思えなかった。
また、氷の階層である十一階でもまだ遭遇したことのないモンスターと戦いたいということを考えれば、やはりここはそれなりに時間に余裕をもって行動した方がいいのではないかと。
そのようにレイには思えた。
「グルルゥ……グルゥ!」
レイの言葉に数秒悩んだ様子のセトだったが、やがてレイに向かって戻ろうと喉を鳴らす。
セトも賛成したので、レイもこれ以上この階層に残る必要はないだろうと判断し……
「じゃあ、取りあえず階段のある場所だけ確認してから十一階に戻るか」
そう提案する。
マティソンから貰った地図があるので、道に迷うことはない。
そして地図にもしっかりと十一階と十三階に続く階段の位置は描かれている。
そうである以上、わざわざ十三階に続く階段の位置を見てくる必要はないと主張する者もいるかもしれない。
だが、忘れてはいけないのは、ここがダンジョンだということだ。
ダンジョンの中では何が起こってもおかしくはない。
レイもそれを知っているからこそ、しっかりと階段のある場所を自分の目で確認しておきたいと思ったのだ。
あくまでも体力や時間といったものに余裕のある時でなければ、そのようなことをする気はなかったが。
そして今はそのような余裕があるので、特に問題はない。
そうしてレイとセトは十三階に続く階段に向かう。
もっとも、レイやセトにしてみれば階段のある場所も分かっており、セトが空を飛べる以上、階段に行くのに困ることはない。
ロックタイガーの希少種に喰い殺されたのか、特にモンスターと遭遇することもなく、レイとセトはあっさりと十三階に続く階段の前に到着する。
岩カリと戦った場所から移動を始めて、十分に満たない程度の時間で階段まで到着した。
もしセトが全速力を出せるのなら、その時間はもっと短縮出来ただろう。
地図があるとはいえ、それでも実際にその階段のある場所まで移動するのだから、一応ということである程度空を飛ぶ速度を抑えての飛行だったのだ。
「うん、これが十三階に続く階段だな。……周囲には特に何かがあるように思えないし、階段も確認出来た以上、いつまでもここにいても仕方ないし……戻るか」
そう言うレイに、セトは分かったと喉を鳴らすと再びセトは空を飛んで十一階に続く階段のある場所に向かうのだった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.三』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.七』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』new『パワークラッシュ Lv.七』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.五』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.三』『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.八』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.四』new『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.四』『黒連 Lv.二』『雷鳴斬 Lv.二』『氷鞭 Lv.二』
衝撃の魔眼:発動した瞬間に視線を向けている場所へと衝撃によるダメージを与える。ただし、セトと対象の距離によって威力が変わる。遠くなればなる程、威力が落ちる。レベル一では最高威力でも木の表面を弾く程度。レベル二では木の幹にも傷を与える。レベル三では岩に傷をつけられる程度。レベル四では直径五十cmくらいの木を折れる程度。レベル五では防具を装備していない人の身体を破壊する程度。レベル六では革鎧を着ていてもその部位を破壊出来る。ただし、スキルを発動してから実際に威力が発揮されるまでが一瞬という長所を持つ。
地中転移斬:デスサイズの刃を地面に触れさせることで、刃を転移させて相手を攻撃出来る。転移出来る距離はレベル一で最大五m、レベル二で最大八m、レベル三で十一m、レベル四で十四m。