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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3783/3865

3783話

 ドワイトナイフを見たニラシスは……その仲間達も、興味深い様子を見せる。


「マジックアイテムにそこまで興味があったのか?」

「そこまでって程じゃないかもしれないが、このダンジョンに潜っているからには、それなりにな。それで? そのマジックアイテムはどういう効果を持つんだ? 筋や骨といった部位を切りやすくするとか?」


 ニラシスが期待に満ちた視線をレイに向ける。

 だが、レイはそんなニラシスの言葉に首を横に振り……


「ちょうど解体する獲物もいることだし、見てみるか?」


 マジックアイテムを集める趣味を持つレイだったが、そのようなコレクション趣味を持つ者の多くは、自分のコレクションを誰かに自慢したいと思う。

 レイもまた、そこまで強くはないものの、そのような欲求は持っていた。

 ましてや、このドワイトナイフはレイが集めているマジックアイテム……実際に使い物になるマジックアイテムという点では、間違いなく最高峰の一つだ。

 何しろ、刺しただけで解体が終わるというのだから。

 そんなマジックアイテムだけに、それを見せる機会があれば、レイがそれを見逃す筈もない。


「分かった。見せてくれ」


 ニラシスの言葉に頷き、レイはドワイトナイフに魔力を込める。


(さて、問題なのは……どこまで修復出来るかだな)


 十一階で白い狐を槍で貫いて倒したにも関わらず、ドワイトナイフを使った時に胴体に突き刺さった槍の傷跡は消えていた。

 そうなると、外側に結構なダメージを受けているロックタイガーの希少種の死体を解体する時に使うドワイトナイフでどこまでその傷が修復出来るか。

 それがレイにとってはかなり心配だった。

 とはいえ、それは実際にやってみなければ分からないが。

 レイは魔力を込めたドワイトナイフをロックタイガーの希少種の死体に突き刺し、次の瞬間には眩い光が周辺を照らす。


「うおっ!」

「きゃあっ!」

「ちょっ!」


 そんな声に、レイはその辺について注意するのを忘れていたのを思い出す。


「悪い、ドワイトナイフを使うと周囲が光るんだった。これは別に何か失敗したとかそういうのじゃないから、気にしないでくれ」


 周囲が照らされる中で、レイはニラシス達にそう告げる。

 レイやセトは既に何度もドワイトナイフを使っているので、素材を解体する時にこうして光るのは分かっていた。

 しかし、ドワイトナイフを初めて見るニラシス達にしてみれば、レイが何かをしたと思ったらいきなり周囲が眩く光ったのだ。

 ニラシス達にしてみれば、それに驚くなという方が無理だった。

 それでも光はそこまで長く続いてる訳ではなく……やがて光は消え、元の明るさに戻る。


「ちょ……レイ、ここまで光るんなら、最初に言っておいてくれよ」


 目を手で覆い、眩しさに耐えながらニラシスがそう言ってくる。

 レイはそんなニラシスに軽く謝罪する。


「悪いな。言うのを忘れていた。とはいえ、そこまで眩しいって訳じゃないから、そろそろ問題はないだろう? ……ほら、これを見ろ。これがドワイトナイフの効果だ」


 そうレイが言うのとほぼ同時に、ニラシス達の目が大分落ち着いてくる。

 最初は周囲の様子をしっかりと確認しつつ、レイの示す方を見ると……


「嘘だろ」


 目の前に広がる光景に、ニラシスの口からそんな声が出る。

 当然だろう。

 そこには魔石や肉、牙、爪、内臓の一部、眼球、骨の一部、他にも岩の生えている皮といった具合に、多数の素材がそこに残っていたのだから。

 ニラシス以外の面々も、そんな光景を見て大きく驚く。


「え? ちょ……これ、一体何がどうなってこうなったの?」


 女の一人がそう言うと、他の面々もレイに説明を求めるような視線を向ける。

 だが、レイはそんな周囲の視線よりもドワイトナイフによって解体された素材に視線を向けていた。


(岩の毛皮の方は完全ではないにしろ、それなりに直ってる。……けど、眼球は一個か)


 相変わらず、どこから現れたのか分からない保管ケースの中にはロックタイガーの希少種の眼球が入っているものの、それは一個だけだ。

 レイが見た限り、当然のように眼球は二つあったのだが。

 ただ、眼球の片方はレイが見た時には既にニラシス達によって潰されていた。

 これは、他人の攻撃によって損傷した部位はドワイトナイフでもどうにも出来ないのか、あるいは眼球だからなのか、もしくは時間の問題か。

 その辺りの事情はレイにもあまり分からなかったが、それでもこうして眼球が一個だけなのは事実。


(気を付けないといけないな)


 これからモンスターを倒す時……特に素材として残したい部位は出来るだけ攻撃しないか、あるいはどうしても攻撃する必要があった場合でも自分かセトが攻撃しようと思いながら、レイはニラシス達に視線を向ける。


「これがドワイトナイフの効果だ」

「凄いな……」


 レイの言葉に、ニラシスはポツリとだがそう呟く。

 ニラシスにしてみれば……いや、普通の冒険者にしてみれば、モンスターの解体というのは非常に大きな問題だ。

 死体を解体しようとすれば、そこをモンスターに襲撃される危険がある。

 死体を持ち帰るのが最善なのは間違いないが、死体ともなれば当然だが結構な重量がある。

 小さいモンスターの死体であればともかく、ロックタイガーの希少種のように巨大なモンスターを持ち帰るとなると、ポーターがいても一苦労だろう。

 結果として、その場で解体をして貴重な素材、高く売れる素材だけを持ち帰るということになり、安い素材はそのままとなってしまう。

 ……中には、そうして売れる素材の剥ぎ取りが終わった後で、捨てられたモンスターの死体を目当てにしている冒険者とかもいるのだが。

 もっとも、レイはそのようなことをする者を冒険者とは認めていない。

 ともあれ、冒険者にとってモンスターを倒した後の解体というのはそれ程に大変なことだった。

 ましてや、モンスターと命懸けで戦った後であれば尚更に。

 そんな大変さを知っているニラシスやその仲間にとって、レイの持つドワイトナイフがどれだけの意味を持つか。


「レイ、一応聞くけど……そのドワイトナイフだったか? 売ってくれたりはしないよな?」

「そのつもりはないな」


 駄目元といった感じで尋ねてきたニラシスに対し、レイは即座にそう返す。

 ドワイトナイフはダスカーから依頼の報酬として貰ったマジックアイテムだ。

 それこそ魔獣術の為に……それだけではなく、セトの食料調達で肉を確保したりする為にも多くのモンスターと戦うレイにとって、非常に重要なマジックアイテムだった。

 だからこそ、このドワイトナイフを誰かに譲る気は全くない。

 もし……本当にもしもの話だったが、予備のドワイトナイフを手に入れても、現在使っているドワイトナイフに何かあった時の為にそれを誰かに渡すということはしないだろう。


「それに……このドワイトナイフは、かなり扱いが難しい」

「……具体的には?」


 ニラシスにしてみれば、それは興味本位の質問だったのだろう。

 レイはそんなニラシスに対し、妙な気を起こさないようにと忠告の意味も含めて口を開く。


「このドワイトナイフを使うには大量の魔力が必要だ。普通に使われている火起こしのマジックアイテムとかそういうのとは比べものにならない程にな。そしてドワイトナイフを発動させるのに魔力が多ければ多い程、解体もしっかりと行われる」


 その説明は、ニラシスにとっても予想外だったのだろう。

 顔を引き攣らせながら、恐る恐るといった様子で口を開く。


「おい、ちょっと待て。じゃあ……もし、そのドワイトナイフとかいうのを使う時に魔力が足りなかったらどうなるんだ?」

「聞いた話だと、解体された時の素材の質が劣化するとか。あるいは本来なら剥ぎ取り出来る筈の素材がなくなっていたりとかするらしい」

「……嘘だろ……」


 信じられないといった様子で呟くニラシス。

 ニラシスの仲間達も、そんなニラシスと同じような表情を浮かべている。

 当然だろう。例えば、ギルドで何らかの素材の調達という依頼を受けた場合……しかもその素材がそれなりに珍しい場合、それを持っているモンスターを何とか倒して、ドワイトナイフを使ったら素材が出て来なかった。あるいは使い物にならない素材となる。

 そんなことにもなりかねないのだから。


「……よく、レイはそんなマジックアイテムを使えるな」


 冒険者にとって、倒したモンスターの解体というのが大変な仕事なのは間違いないが、同時にその出来によって素材を売った時の値段に違いが出るのだ。

 だというのに、マジックアイテムを使った結果、その素材が使い物にならなくなるなど、冗談ではなかった。

 ……勿論、そのような物であっても全く使い道がない訳ではない。

 例えば一刻も早くこの場を撤退する必要があり、倒したモンスターの死体を持っていくことも出来なかった場合がそうだろう。

 ただ、そんな限られた時しか使い道がないのに、ドワイトナイフを持ち歩くのは荷物になるだけだという風にも思えた。


「別に俺の為に特別に作られたって訳じゃないけど、大きな魔力を持ってる者が使うのを前提として作られたマジックアイテムなんだろうな」


 実際、このドワイトナイフはダスカーがレイに対する報酬として用意したものだ。

 どうやって入手したのかレイは分からなかったが、レイが使うことを前提にして作られたと言われても、レイは素直に納得出来ただろう。

 一種のオーダーメイドに近い感じで。

 もっとも、本当にオーダーメイドでこのようなマジックアイテムを作るのなら、その時はそれこそレイの魔力に合わせて作る必要があるので、そういう意味ではこのドワイトナイフは半オーダーメイドと呼称する方が正しいのかもしれないが。


「そうか。……そういうマジックアイテムがあるとかなり便利だど思うんだけどな」

「ニラシス、俺達もそろそろポーターを入れないか? ポーターがいないと、色々と面倒だし。それにポーターの中には解体技術を持ってる奴もいるだろう?」


 ニラシスの呟きに、パーティメンバーの男の一人がそう言う。

 その言葉を聞き、そう言えば……とレイはニラシスのパーティにポーターがいないことに気が付く。


「こういう階層に来るのに、ポーターがいないのは珍しい……とまではいかないが、それでも珍しいな」


 珍しくはないが珍しい。

 レイも自分の言葉が少し妙なのは分かっていたが、考えてみたところそのような感じだったのは間違いない。

 しかし、ニラシスはそんなレイの言葉を特に気にした様子もなく、頷く。


「そうなんだよな。それは俺も分かってる。ただ、以前臨時で入れたポーターがちょっと酷かったんだよ」

『あー……』


 ニラシスの言葉に、それを聞いていたパーティメンバーが揃ってそんな声を上げる。

 そしてニラシス達全員の目の色が濁ってるのを見て、臨時のポーターについては聞かない方がいいだろうと判断する。

 その臨時のポーターが何をやったのかは、レイもかなり気になったが。


「そうか。まぁ、冒険者として……というか、ダンジョンに潜って儲けたいのなら、ポーターは必要だと思うから、パーティメンバーを追加するのは考えてみたらどうだ?」


 取りあえず、それだけを言っておく。

 今のニラシス達の状況を考えると、ここで自分が何かを言っても、あまり説得力がないと思った為だ。

 ……実際、ミスティリングという反則級なマジックアイテムを持ち、ポーターの必要性は全くないレイにそのようなことを言われても、微妙な気分になってしまうだろう。


「ああ、考えておくよ」


 ニラシスもレイの気遣いに気が付いたのか、それだけ言うと気分を切り替えるように口を開く。


「結局のところ、レイの持っているドワイトナイフはレイにしか満足に使えないってのは分かった。俺もいずれそういう風に自分しか使えないマジックアイテムを手に入れたいな」

「頑張れ。このダンジョンでなら、そういうのを入手出来るかもしれないだろうし」


 レイの言葉は何の根拠もない励ましという訳ではない。

 ニラシス達のパーティは、ダンジョンの十二階まで来ることが出来る実力を持っているのだ。

 このダンジョンで五階の壁、十階の壁を越えることが出来る者は限られている。

 ガンダルシアにいる冒険者の中でも、上澄みに入るだけの実力の持ち主ではあるのだ。

 そうである以上、このままダンジョンの攻略を続ければ、他の者がまだ見つけていない宝箱を見つけられる可能性が十分にあるのは間違いなかったのだから。

 ニラシスもそのような自負はあったのだろう。

 レイの言葉に、活力に満ちた笑みを浮かべて頷くのだった。

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