3777話
白い鳥だけではなく、それを狙っていた白い狐まで倒すことが出来たレイは上機嫌だった。
「取りあえず、ここで……はちょっと人目につくかもしれないから、もっと人のいない場所に移動して解体するか。セトもそれでいいよな?」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは嬉しそうに喉を鳴らす。
セトにしてみれば、やはり魔石を魔獣術に使うことが出来る未知のモンスターを倒すことが出来たということで、嬉しかったのだろう。
実際、レイも嬉しいのだから、レイとしては喜びを分かち合っているようなものだった。
「そんな訳で移動するか。……どこかこの辺に周囲から見えないような場所があればいいんだが」
最悪、デスサイズのスキル、地形操作を使えばその辺はどうにかなるだろうという思いを抱きつつも、周囲の様子を確認する。
だが、周囲に広がるの氷の平原のみだ。
いっそ氷樹のトレントのいた林まで戻るか?
そうも考えたが……
「地形操作」
それも面倒だということで、結局レイが選んだのは先程も一瞬考えた地形操作だった。
レイとセトの周囲の地面が盛り上がり、三m程の壁となってレイとセトを隠す。
地形操作のレベルは六なので、本来なら十m程盛り上げることも出来るのだが、今必要なのはあくまでもレイとセトを隠せるだけの高さだ。
わざわざこの状況で十mの壁を作るようなことをして、目立つ必要はない。
……ここで目立てば、それこそ一体何があるのかと、その壁を見つけた冒険者達が集まってきかねないのだから。
そうなったら、それこそ余計に面倒なことになる。
そうレイは判断し、三m程度の大きさにしておいたのだ。
「今更だけど、地形操作……この氷の階層だとかなり便利なスキルだよな」
壁に囲まれた周囲の様子を見て、レイはそう呟く。
この十一階は、寒さは勿論だが風もそれなりにある。
しかも氷の階層の風だけに、風の冷たさも相応に冷たい。
ドラゴンローブを着ているレイや、グリフォンのセトにしてみればそんな風の冷たさは全く気にするまでもないことなのだが。
レイ達以外のこの十一階で活動してる冒険者達にしてみれば、いつでもどこでも壁を作って冷たい風を防げる。しかも地上のモンスターからの襲撃をも防ぐことが出来る壁を自由に作れるというのは、羨ましいを通り越して妬ましいとすら思える程のスキルだった。
だからといって、レイが十一階で活動している者達に配慮する必要もないのだが。
「取りあえず、解体を進めるか。……それにしても、鳥と狐か。正式名称は何て言うんだろうな」
「グルゥ?」
レイの言葉に、セトはさぁ? と首を傾げる。
そんなセトの愛らしい様子を見つつ、レイはドワイトナイフを取り出す。
「さて、どっちから行くか……まぁ、どっちでもいいし、最初に遭遇した白い鳥からだな。多分、この尾羽とかは素材として残るのは確実だと思うけど」
そんな風に思いつつ、レイはドワイトナイフを白い鳥に向かって突き刺す。
周囲が眩く光り……ふとレイは、天井部分は空いたままなので、もしかしたらこの光を見て冒険者がやってくるかもしれないなと思う。
これがモンスターであれば……特に未知のモンスターか、もしくはまだ一匹しか倒していない白い狐が好奇心から近付いて来てくれると嬉しいのだが。
やがて光が消えると、そこには白い鳥の魔石、尾羽、羽根、羽毛、肉、牙、そして保管ケースに入った眼球がある。
「肉は……まぁ、分かるとして。まさか眼球が素材になるとは思わなかったな」
白い鳥はそこまで大きな訳ではないので、その眼球も当然のように小さい。
小さいが、それは素材としての質にそう関係はないのだろう。
もっとも、レイにしてみれば自分が錬金術師でもない以上、その素材に使い道はあまりないのだが。
何らかのマジックアイテムを錬金術師に作って貰う時に、使えるかもしれない素材として提供するくらいか。
「グルルゥ」
セトはレイの言葉を聞いているのか、いないのか、白い鳥の肉に視線を向けている。
そこまで大きくはない鳥ではあったが、それはモンスターとして考えればの話だ。
普通の……モンスターでも何でもない山鳥と比べれば、数倍の大きさはある。
勿論、山鳥と一言で言っても種類は多い。
中にはそれこそレイが想像するモンスターと同じくらい、あるいはそれ以上の大きさの山鳥がいてもおかしくはなかったが。
ともあれ、セトの目は出て来た肉の塊に向けられている。
(骨とかは……消滅してしまったのか。それは残念だったな)
料理についてはそこまで詳しくはないレイだったが、日本にいた時に父親が鶏を飼っていたこともあり、その鶏を絞める手伝いはそれなりにやっていた。
そうして絞められた鶏はきりたんぽ鍋、あるいはだまこ鍋の材料になったりするのだが、その時は鶏ガラも入れてしっかりと煮込むことで、一段と料理の味がアップする。
あるいはそのような料理ではなくても、それこそ普通の料理店とかであっても鶏ガラを使ったスープを作るのは珍しくはない。
そういう意味では、骨も残すように考えながらドワイトナイフを使えばよかったと、少しだけ後悔する。
もう消滅してしまった以上はどうしようもないが。
「この肉は、今日家に帰ったらジャニスに何か作って貰おうな」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
メイドのジャニスの作った料理を毎日食べているセトにしてみれば、どんな料理が出てくるのか非常に楽しみなのだろう。
それはセト同様にジャニスの料理を食べることが多いレイも同様だったが。
「それ以外の素材は……取りあえず収納しておくか」
牙は鋭いので、武器か何かに使えるだろうというのは分かる。
羽毛や尾羽はどう使うのかはレイにも分からなかったが、それでもこうしてドワイトナイフを使った結果残ったとなると、何かに使えるのだろう。
(羽毛は……寝具とかにか? もしくは服とか。羽根はそれこそ矢羽根として使えるんだろうし。後は、アクセサリとか? 尾羽は……どうなんだろうな?)
そんな疑問を抱きつつ、それらを……肉も含めて収納していく。
残ったのは、魔石のみ。
そして魔石を手にしたレイは次に白い狐を見る。
使い捨ての槍を引き抜き……穂先が完全に破壊されていたが、取りあえず何かには使えるだろうとミスティリングに収納した後で白い狐の死体にドワイトナイフを突き刺す。
周囲が光り、それが消えるとそこに残っていたのは狐の毛皮、魔石、肉、頭蓋骨の四つ。
「……頭蓋骨? いやまぁ、こうしてドワイトナイフで出て来た以上、相応の使い道はあるんだろうけど」
呪いとかに使うのか?
そんな風に思いつつ、レイは肉に視線を向ける。
毛皮はいい。
それこそ狐型のモンスターの素材としてかなり一般的なのだから。
……ドワイトナイフの力なのか、槍が胴体に突き刺さった痕跡もそこにはない。
「凄いな。……一体ドワイトナイフはどうなってるんだ? さすがダスカー様が俺に報酬として渡しただけのことはある。とはいえ、やりすぎればどうなるか分からないけど。この辺は一度試しておいた方がいいかもしれないな」
レイも、さすがにどのような傷であってもドワイトナイフでなかったことに出来るとは思えない。
だからこそ、その辺について色々と検証してみておいた方がいいだろうと思えた。
改めて狐の毛皮を見ながら、ふと気が付く。
「ドワイトナイフはマジックアイテムだ。魔力を使ってこうして解体してると考えれば、死んでからの時間も関係してるのか?」
死んだすぐ後であれば、その死体にも相応の魔力は残っている筈だった。
その魔力を使い、傷がついた場所を修復している……そんな可能性は十分にあるようにレイには思える。
もっとも、それはあくまでもレイの予想であって、しっかりと確認した訳ではない。
もしかしたらその予想は外れており、死んでからの時間が修復に全く関係がない……そんな可能性も十分にあった。
「ともあれ、毛皮はこれでいいとして。問題なのは肉か。こうしてドワイトナイフで出て来たということは、多分問題ないとは思うんだが」
白い鳥の肉は、それなりに美味そうだと思えた。
だが、それが白い狐の肉となると……微妙なところだろう。
そうレイが思ったのは、日本にいた時に父親の友人の猟師から狐の肉は不味いと聞いたことがあった為だ。
何でも、肉を食べる動物の肉は不味いらしい。
そして狐は雑食性だが、肉を好んで食べるということから、その肉も不味いと。
勿論、それは地球での話で、このエルジィンにおけるモンスターとしての狐の肉が不味いとは限らない。
ましてや、モンスターは例外はあれども、基本的にランクが高くなればなる程に美味い肉になるのだから。
そういう意味では、この白い狐の肉も美味いという可能性は十分にあった。
そしてこの十一階にいたモンスターである以上、その肉が不味いということではない筈だった。
勿論、際立って高ランクモンスターという訳ではないので、極上の肉という程に美味い訳でもないのだろうが。
(まぁ、こっちの肉も実際に料理に使って貰えばいいだろ。もし駄目なようなら、それこそ文字通りの意味で敵を釣る餌として使えばいいんだろうし)
肉を使って敵を……モンスターを釣るというのは、そう珍しくはない。
この肉も最悪そのようにして使えば、それなりに使い道はある筈だった。
「さて、それで大体素材の吟味は終わったし……本題に行くか」
そう言い、レイは白い狐の素材を魔石以外は収納する。
こうして、残ったのは二つの魔石。
白い鳥の魔石と、白い狐の魔石。
この二つの魔石を魔獣術で使っていくのだが……
「セト、どっちの魔石を使いたい? 先に選んでも構わない」
レイは最初にセトにどちらの魔石を使うのかを選ばせる。
これは、レイが魔法という攻撃手段を持っているのに対し、セトはスキルだけだからだ。
……もっとも、セトの場合は生身の攻撃がそのまま必殺の一撃に近い威力を持っているが。
だからこそ、レイは今回のような場合は基本的にはセトにどちらの魔石を使わせるのか先に選ばせる事が多い。
本当にセトのことだけを思うのなら、セトに選ばせるのではなく、魔石を二つともセトに渡せばいいのかもしれないが。
「グルゥ!」
セトが選んだのは、白い鳥の魔石。
レイはそんなセトの判断に異論はなく、その魔石をセトに向けて放り投げる。
セトはクチバシで魔石を咥えて飲み込み……
【セトは『アイスブレス Lv.三』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
これについては、半ば予定通りではある。
……白い鳥が実はブレスを使えたのか? という疑問がない訳でもなかったが、氷系のスキルということで納得は出来た。
「グルゥ!」
アイスブレスのレベルがあがったのを嬉しく思うセト。
レイはそんなセトを撫でて褒めてから、白い狐の魔石を手にして空中に放り投げ、デスサイズを振るう。
【デスサイズは『氷鞭 Lv.二』のスキルを習得した】
セトの時に続き、脳裏に響くアナウンスメッセージ。
(そっちか……)
氷鞭のレベルアップをしたのは、レイも嬉しい。
嬉しいのだが、出来ればレベル八で止まっている氷雪斬の方を何とかして欲しいと思ってしまう。
「……まぁ、氷鞭の使い勝手は悪くなさそうだし、いいけど」
氷鞭はまだ実戦には使っていないものの、レイの印象としてはかなりトリッキーなスキルという印象だった。
何しろデスサイズの石突きに氷の鞭が出来るのだ。
それを使いこなすのは、当然ながらそう簡単なことではない。
「グルルゥ?」
取りあえず壁を消してスキルを試してみたら?
そうセトが喉を鳴らすと、レイもそうだなと頷く。
「分かった。実際に試してみないと何とも言えないしな。……地形操作」
再度地形操作を使い、それによって地面の壁が消える。
もしかしたら、この壁に興味を持った冒険者やモンスターがいるかもしれないと思ったのだが、幸いにも……あるいは残念にもなのか、壁がなくなってもそこには冒険者もモンスターもいなかった。
「さて、じゃあまずはセトが試してみてくれ」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らすと、誰もいない方に向けてクチバシを開く。
「グルルルルルゥ!」
そうして放たれたアイスブレスは、間違いなくレベル二の時よりも強くなっていた。
「グルゥ?」
どう? と喉を鳴らすセト。
レイはそんなセトを褒めて撫でると、次は自分の番だとデスサイズを手にスキルを発動する。
「氷鞭!」
するとスキルが発動し、デスサイズの石突きから氷の鞭が伸びる。
その長さは、レベル一の一mだった時と比べてレベル二になって二mになっていた。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.三』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.七』『光学迷彩 Lv.八』『衝撃の魔眼 Lv.五』『パワークラッシュ Lv.七』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.四』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.三』『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』new『空間操作 Lv.一』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.八』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.三』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.四』『黒連 Lv.二』『雷鳴斬 Lv.二』『氷鞭 Lv.二』new
アイスブレス:吹雪のブレスを吐く。吹雪の威力はセトの意志である程度変更可能。
氷鞭:デスサイズの石突きに氷の鞭を生み出す。氷鞭に触れた場所は凍り付く。レベル一では長さ一m。レベル二では長さ二m。