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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3768/3865

3768話

 助けた二人の冒険者は、何度もレイに感謝の言葉を口にしてから立ち去った。

 さすがに今の状況で再度この十階で戦おうとは思っておらず、転移水晶で地上に戻るということだった。

 先程のゴーストのように、攻撃範囲外から延々と攻撃をしてくるといったアンデッドはこの十階では珍しいのだが、それでもこうして自分達が遭遇したとなると、また遭遇するのでは? という思いがあったのだろう。

 それはレイも賛成だったので、特に異論はなく見送った。

 そして二人組がいなくなった後で、早速レベルアップした黒連を試すのだが……


「うん、やっぱり特に変わらなかったな」


 ゴーストの希少種、あるいは上位種と思しき黒い光線を放つ個体。

 その個体の魔石を魔獣術で使って……いや、正確には間違って使ってしまった結果、レベルアップしたのは黒連。

 だが、この黒連というスキル、デスサイズの刃が黒くなり、その刃で斬った場所――物に限らず空間でも――が黒くなるという特色を持っている。

 レベル一の時は一度、レベル二になって二度。

 しかし、問題なのは今のところその斬って黒くなった場所に何らかの特殊な効果があるのかと言われると、首を横に振らなければならない点だ。

 今のところは、あくまでも斬った場所を黒くするだけで、それ以上の効果はない。

 つまり、実質的には意味のないスキルなのだ。

 レイとしても、一体何故このようなスキルを習得してしまったのか悩ましいが、習得してしまったものは仕方がない。

 今のところは全くの無意味……敢えて黒連の利点を考えるのなら、黒連を使って黒くなった場所を見せつけることによって、それを見た敵を警戒させるといった程度だろう。

 もっとも、その効果もあくまで相応に知能がある敵でなければ、斬った場所が黒くなるということに対して警戒するようなことはしないだろうが。

 そういう意味では、黒連は全く使えないスキルなのは間違いなかった。

 それでもレイが唯一の……どうにかなって欲しいと期待を抱くのは、この黒連がレベル五になった時のことだろう。

 どのスキルもそうだが、レベル五になると一気に強化される。

 そういう意味では、黒連もレベル五になれば斬った場所を黒くするだけというのが変わって、もっときちんと使い物になるスキルになるのではないかと、そうレイは思う……あるいは願うのだ。

 実際にどうなるのかは、それこそレベル五になってみなければ分からなかったが。

 これでレベル五になっても特に変化がなく、斬った場所を黒くするだけであれば……レイがそのスキルを使うことはないだろう。


「さて、後は今度こそ本当に十一階に向かうか」

「グルゥ」


 レイの言葉に賛成と鳴き声を上げるセト。

 悪臭用のマジックアイテムも大分小さくなってきているので、それがなくなるよりも前に十一階に行きたかったのだろう。

 マイモの店で購入した悪臭用のマジックアイテムはまだ結構な量がある。

 何しろ、マイモの店の倉庫に在庫として置かれていた悪臭用のマジックアイテムを全て購入してきたのだから。

 だからこそ、余裕はまだある。

 あるのだが、それでもセトにしてみれば好んでこの十階にいたくないらしい。


(多分、セトにしてみれば、十階に転移水晶がなければ、もう二度と来たくなかったんだろうな)


 そうレイは思いながら、セトの背に乗って十階を進む。

 幸い……という表現がこの場合は正しいのかどうかは分からないが、先程のゴーストの一件以外は特に問題らしい問題もなく、無事に階段まで到着した。


「グルルルゥ」


 嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 十一階に下りれば、悪臭用のマジックアイテムの効果が切れたらといったことを心配しなくてもいいのがそれだけ嬉しいのだろう。

 それを見ていたレイは、よかったなとセトを撫でる。

 レイにとっても、悪臭用のマジックアイテムについてはまだ効果を発揮してるかどうか、頻繁に見ている必要があったのだが、それがなくなるのなら気にしなくてもいいので、十一階に行くのはそれなりに楽になるのは間違いない。

 そんな訳で、レイとセトは階段を下りていき……


「人が少ないな」


 十一階に到着したレイは、周囲の様子を見てそう呟く。

 てっきり転移水晶が使えるようになった翌日の今日、それも十階は多数のアンデッドがいるという環境の悪さなので、十一階には結構な数の冒険者が集まっているとばかり思っていたのだ。

 しかし、そんなレイの予想は外れ、階段のすぐ側から見た限りでは先程呟いたようにあまり冒険者がいる様子はない。

 勿論、階段の側から見える冒険者が全員という訳ではない。

 氷で出来た木であったり、雪原や氷で出来ている大地にも丘があったりするので、レイから見えない場所に冒険者がいる可能性も十分にあった。

 あったのだが……レイが見る限りでは何となくだがそのような相手がいるとは思えなかった。


「まぁ……魔獣術を使うには便利か」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 十階の悪臭や腐臭に悩まされなくなり、そしてリッチの魔石を自分が使えるのだとレイの様子から察したからこその、嬉しそうな様子なのだろう。


「取りあえず、ここから移動するか。魔獣術を試すにも、他の誰かに見られたりするのは避けたいし」

「グルルゥ」


 セトもそんなレイの言葉に賛成し、喉を鳴らす。

 そうしてレイはセトの背に乗り、ダンジョンの移動を開始する。

 勿論向かう先は、誰もいない場所だ。

 なので、数少ない冒険者のいる場所ではなく、誰もいない方向に向かって進む。

 それでも何度か十一階で戦っている冒険者の姿を見て……


「あ」

「グルゥ?」


 不意に声を上げたレイに、セトはどうしたの? と喉を鳴らす。

 レイはそんなセトを撫でながら、感じたことを口にする。


「いや、ちょっとな。何で十一階に冒険者の数が少ないのかと思ったんだが、この寒さが原因だ」


 もしレイが普通の冒険者であれば、すぐにでもその理由は察知出来ただろう。

 だが、レイは簡易エアコン機能を持つドラゴンローブを日常的に着ているので、暑さや寒さについては全く問題ない。

 セトもまた、高ランクモンスターのグリフォンということもあってか真冬の夜中に吹雪いていても普通に外で眠ることが出来る。

 そんな一人と一匹なので、この氷の階層についても特に寒いとは思わなかったし、辛くも何ともなかった。

 だが、今レイの視線の先にいる冒険者達は、戦士系であるにも関わらずローブを着ている。

 これが魔法使いなら、普段からローブを着ているのでまだ納得出来たのだが。


「ドラゴンローブ程ではないにしろ、何らかの寒さを遮断するようなマジックアイテムがあると便利そうだな」

「グルルゥ」


 レイの言葉に同意するセト。

 この階層を攻略する上で、寒さ対策というのは必須なのは間違いない。

 具体的にどのような方法でその寒さ対策をするのかとなると、やはり一番手っ取り早いのは厚着をすることだろう。

 しかし、当然ながら厚着をすればそれだけ動きにくくなる。

 特に前衛で戦う者達にとって、動きが鈍くなるというのは致命的だろう。

 これが魔法使いとかなら、前衛程に動く必要がないので、その辺もある程度どうにか出来るのだが。

 そうなると、次に思い浮かぶのは魔法やスキルの効果によって一時的に寒さを遮断するという方法となるが……これもそう簡単に出来ることではない。

 そもそも、魔法使いの存在そのものが非常に希少なのだから。

 スキルについても、使える者はそれなりに希少だ。

 最後に残るのが、レイが考えたようにマジックアイテムとなる。

 もっとも、寒さを遮断するようなマジックアイテムがあるのかどうか、そしてもしあったとしてもこの階層にいる冒険者達に購入出来るのかどうかは、レイにも分からなかったが。


「グルルゥ?」


 この階層の攻略手段について考えていたレイは、セトが喉を鳴らしたのに気が付く。

 セトは自分の背に乗っているレイに、この辺でいいんじゃない? と喉を鳴らしたのだ。

 セトの鳴き声を聞いたレイは周囲の様子を確認するものの、冒険者がいるようには思えない。


(いやまぁ、俺が見つけられるようなら、先にセトが見つけてるだろうけど)


 レイよりも五感の鋭いセトが、周囲には誰もいないと判断したのだ。

 そうである以上、レイが見つけられる筈もない。

 それでもレイが一応といった範囲ではあるが周囲の探索をするのは、もしかしたらセトが見逃した何らかの要素があるかもしれないと思ったからだ。

 セトの感覚を誤魔化すような何かがあった場合、何らかの理由で偶然レイがそれを察知出来るという可能性も否定は出来ないのだから。


「うん、いないな。……さて、じゃあリッチの魔石だ」

「グルゥ!」


 やる気満々といった様子のセトがレイがミスティリングから取りだしたリッチの魔石を見る。

 その魔石はレイが昨日のうちにしっかりと洗ってある。

 ……もっとも、リッチの魔石は骨となった胴体の中に入っていたので、普通の……生きているモンスターの心臓から取り出すのとは違い、汚れらしい汚れはなかったのだが。

 それでも洗っておいたのは、何となくそうした方がいいとレイが判断した為だ。

 その魔石を手に、レイはセトを見る。

 セトはそんなレイの視線を受け止めても、全く動じる様子がなく短く喉を鳴らす。


「グルゥ」

「分かった。……正直なところ、ちょっと思うところはあるが」


 レイが思い浮かべるのは、自分の保護者とも呼ぶべき存在、あるいは設定上の師匠とも呼ぶべき存在のグリムだ。

 グリムもリッチ系のアンデッドなのは間違いない。

 もっとも、レイが見たところ……そしてレイが手に持つ魔石の持ち主だったリッチの強さを思えば、間違いなくリッチの上位種か希少種なのだろうとは思うが。

 リッチはその強さによって大きくランクが違ってくる。

 しかし、この魔石の持ち主であるリッチとグリムでは、文字通りの意味で存在の格が違う。

 例えレイの手にする魔石を持っていたリッチが、リッチというアンデッドの中でも底辺に近い存在だったと考えても、やはりグリムと同じ存在……同じ種類のアンデッドだとは思えない。

 だからこそ、グリムにこのリッチの魔石を見せたら何か起きるかもしれないとは思ったのだが……問題なのは、そのグリムが最近連絡を取れないことだろう。

 このままミスティリングに入れておけば、そのうちリッチの魔石を忘れてしまいそうだったので、それもあってこの魔石は今のうちに使ってしまった方がいいと判断したのだ。


「よし、セト。……行くぞ」


 そう言い、レイは魔石をセトに向かって軽く放り投げる。

 セトは魔石をクチバシで受け止めると、そのまま飲み込み……


【セトは『空間操作 Lv.一』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 その内容は、レイにとっても非常に納得の出来るものだった。

 なにしろ、リッチは空間魔法を得意としていたのだ。

 無詠唱で、それこそ一瞬にして空間魔法の盾を生み出すといった方法でレイやセトの攻撃を防いでいた。

 それ以外にも、それこそ儀式を行う為に魔法陣を用意していた小屋の内部の大きさを変えていたのも空間魔法によるものだろう。

 ……もっとも、一瞬にして盾を生み出すのはレイにとっても驚きだったが、空間魔法を使って生み出された盾はレイやセトの攻撃によって破壊されたりもしていたが。

 空間魔法によって生み出された盾なのに、そこまで強くない……硬くないのは、一体何故かと、若干レイには疑問だったが。

 単純に自分やセトの攻撃がそれだけ強力だったからこそ空間魔法の盾が壊れたという可能性が高いのかもしれないと思い直すレイに対し、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。


「グルルルルゥ!」

「おめでとう、セト。……さて、早速だけど試してみるか。リッチのように、空間魔法の盾を作れるか?」

「グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは任せてと喉を鳴らして早速空間操作を発動する。

 ただ、リッチが空間魔法の盾を作った時もそうだったが、その盾そのものは見ることが出来ない。


「えっと、セト。空間魔法の盾は出来たんだよな? それはちょっと触ってみても問題ないか?」

「グルゥ」


 レイの言葉にセトは大丈夫と頷く。

 それを確認したレイは、そっと手を伸ばして空間魔法がどのような大きさなのかを確認するが……


「……小さいな」


 セトの作った空間魔法の盾の大きさを確認し、そんな声を漏らす。

 何故なら、その盾の大きさは掌程のものでしかなかったからだ。

 レベル一である以上、仕方がないと納得しつつ、空間操作となると使えるモンスターがどのくらいいるのかと、レベルアップを遠く感じる。

 その後も空間操作を色々と試し……やがて攻撃にも使えることが判明するのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.三』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.六』『光学迷彩 Lv.八』『衝撃の魔眼 Lv.五』『パワークラッシュ Lv.七』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.四』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.三』『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.一』『空間操作 Lv.一』new


空間操作:空間を操作して盾にしたり、それによって敵にダメージを与えることが出来る。レベル一では掌程の大きさの空間が操作可能。

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