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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3767/3865

3767話

 小屋の中にあった魔法陣を書き写したシッタケとカルレインだったが、結局小屋の大きさ以上の魔法陣の一部は消えてしまったので、それを残念に思いながらも、取りあえずやるべき仕事は終わった。

 魔法陣を完全に解析出来ないのは残念だったが、それでもこの魔法陣を解析することで、リッチが使おうとしていた魔法や儀式の詳細が明らかになるのは間違いない。

 そういう意味では、収穫が何もないという訳ではないのだ。

 寧ろ、リッチの持つ魔法や儀式の知識を多少ながらも得ることが出来るというのは、大きな収穫だろう。

 リッチが持つ知識の中には、今はもう忘れ去られているもの、あるいはまだ判明していないものも多い。

 それらの知識を得ることが出来るというのは、ギルド的には大きな意味を持つ。

 ギルドマスターも、ダンジョンを一日使えなかったくらいの損失は十分に取り戻せると、そう思うだろうというのが、シッタケとカルレインの意見だった

 レイはその言葉に納得し、二人を転移水晶のある場所まで送る。


「では、ありがとうございました。この魔法陣については、ギルドの方でしっかりと調べさせて貰います」

「分かった。じゃあ、頑張ってくれ」


 レイの言葉にシッタケとカルレインは揃って頭を下げると、転移水晶を使って姿を消す。

 そんな二人を見送ったレイは、リッチが儀式に使った魔法陣が中途半端にしか調べられないことを残念に思いつつも、セトに視線を向ける。


「さて、じゃあ十一階に行くか」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトが嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、今は悪臭用のマジックアイテムがあるので十階の悪臭や腐臭を気にしなくてもいいのだが、マジックアイテムの効果が切れるかもしれないと心配するのは嫌だったのだろう。

 それ以外にも、昨日倒した雪の結晶の形をしたモンスターを始めとして、まだ戦ったことがない未知のモンスターと遭遇出来るかもしれないという思いがあったり、何よりもリッチの魔石を使うのを楽しみにしている。

 ……もっとも、レイはまだリッチの魔石をセトに使わせるか、デスサイズに使うのかは決めていないのだが。

 それでもセトはレイなら恐らくリッチの魔石は自分に使わせてくれるだろうという思いがあった。

 そんなセトは、レイと共に十一階に続く階段に向かう。

 その途中、何人かアンデッドと戦っている冒険者達の姿も確認出来る。

 たまに喜びの声が聞こえてくるのは、レイが上質の長剣を入手したように、良い武器を入手出来たからか。

 もしくは、何らかの貴重な素材であったり、宝箱を見つけたからか。


(そう言えば、宝箱……まぁ、このまま進めば俺達が久遠の牙を抜いて最深層を探索することになるんだ。そうなると、俺とセトが最初に宝箱を発見出来るようになる筈だ。……これがゲームなら、最初に見つけた宝箱に一番良い物が入っていて、それ以後だと最初に入っていたのよりも品質が悪くなったりするんだよな)


 レイが考えているように、これはあくまでもゲームならではの話だ。

 実際に宝箱を見つけた時、レイが考えているようになるかどうかは分からない。

 そうなったらいいなとは思っているが。


「グルゥ!」

「何だ? ……あー……なるほど」


 もう少しで十一階に続く階段だという時、不意にセトが視線を逸らして喉を鳴らす。

 それは警戒……とまではいかないが、それでも油断しない方がいいといったような、そんな声だった。

 そしてセトの見ている方に視線を向けたレイは、ゴーストと思しきアンデッドに追われている二人の冒険者を見つける。

 この十階に来ている以上、ガンダルシアにおいては相応に腕の立つ者達なのだろう。

 それは間違いなかったが、そんな者達がゴーストを相手に何故逃げる?

 そんなレイの疑問は次の瞬間に解消する。


「へぇ」


 視線の先の光景に、レイは自分でも気が付かないうちに興味深そうな声を漏らす。

 レイの視線の先では、ゴーストが黒い光線のようなものを放ったのだ。

 逃げている二人は、レイが見たところどちらも戦士だ。

 ゴーストを相手に、攻撃する手段は持たないのだろう。

 地上まで降りてくれば、ゴーストが持つ魔石を攻撃するといった手段も使えるかもしれないが、そのゴーストは何らかの遠距離攻撃の手段を持っており、地上に降りてくる様子はない。

 自分が有利な状況で、一方的に標的を狙っているのだ。


(スケルトンやゾンビなら戦士でもどうにかなるかもしれないが……ゴーストの対策をしてこなかったのは迂闊だったな。俺達にしてみればラッキーだけど)


 あの二人の冒険者に出来るのは、それこそこのまま逃げに逃げて転移水晶のある場所まで到着することか、あるいは誰かに自分達を追ってくるゴーストをなすりつけるか、もしくは誰かに手伝って貰うことだろう。

 そしてちょうどここにはレイがいる。

 ……あるいは、これであの二人を追っているのがただのゴーストであれば、レイも助ける気にはならなかったかもしれない。

 しかし、レイの視線の先にいるのはただのゴーストではなく、ゴーストの上位種、あるいは希少種と呼ぶべき存在だった。

 レイもこれまでこのダンジョン含めてそれなりにゴーストを倒してきたものの、黒い光線を放つようなゴーストというのは見たことがない。

 であれば、やはりあのゴーストは自分にとって美味しい敵なのだろうと判断したのだ。


「こっちだ!」


 セトの背の上に座るレイは、ゴーストに追われている二人に向かって大きく叫ぶ。

 そんなレイの声が聞こえたのだろう。

 二人の冒険者は逃げる方向を変え、レイのいる方に向かって走り出す。


(この十階は地上を移動する者にとっては厄介なんだよな)


 墓を避けながら自分の方に向かって走ってくる二人の冒険者を見ながら、レイはしみじみとそんな風に思う。

 多くの墓があるので、地上を移動する上でその墓がかなり邪魔になる。

 これが普通に歩くだけなら、そこまで気にする必要もないのだが。

 しかし、あの二人のように走っている者達にしてみれば、邪魔だ馬鹿野郎と叫びたくなってもおかしくはない。

 それでもさすがに十階で活動している冒険者。

 墓を避けながらも、何とかレイのいる方に向かって走ってきた。

 距離が大分縮まったところで、レイは念の為に尋ねる。


「そのゴースト、俺が倒してもいいんだな!?」


 それは確認の為の問い。

 冒険者の中には、このような状況であるにも関わらず声を掛けることなく倒したから、その素材は自分達に所有権があると主張したり、あるいはこれから逆転するつもりだったのに獲物を横取りされたといったように、不満を口にする者もいる。

 現在逃げている二人が必ずしもそうだとは、レイも思わない。

 だが、それでも万が一を考えれば尋ねておいた方がよかったのも事実。

 ……これで、本当にどうしようもなく命の危機といった状況であれば、レイもこうして尋ねることなく、問答無用で助けたかもしれないが。


「頼む! 助けてくれぇっ!」


 二人組の片方が、レイの言葉にそう叫ぶ。

 自分達の攻撃が届かない場所から一方的に攻撃されるのが、それだけ堪えたのだろう。

 ……それでも黒い光線に一度も当たらずに回避し続けてるのは、二人が十階で活動することが出来る実力の持ち主だったからというのが大きい。

 ともあれ、これでお互いの意思は確認出来たとして、レイはセトの背から下りるとミスティリングから黄昏の槍を取り出そうとし……気分を変えてデスサイズを取り出す。

 以前習得したスキルのうち、実際に敵に対して使ってみたいと思えるスキルがあったのだ。


「セト、多分大丈夫だとは思うけど、あの二人がやられそうなら守ってやってくれ!」


 走り出しつつ、レイはセトにそう指示を出す。


「グルゥ!?」


 レイの言葉に任せて……ではなく、焦った様子だったのは、レイが走り出す前にセトの側に悪臭用のマジックアイテムを置いていったからだろう。

 レイが持って移動してもよかったのだが、それでは意味がない。

 あくまでもこの悪臭用のマジックアイテムは、セトが十階に漂う悪臭や腐臭を嗅がない為の物なのだから。

 そうである以上、レイとしてはここに置いていくしかなかったのだ。

 それでもセトが焦ったのは、悪臭用のマジックアイテムの効果が切れたら……という思いがあったのだろう。

 もっともレイはそれを気にした様子もなく、走り続け……逃げてきた二人は、レイを見て……より正確にはレイの持つデスサイズを見て、目を大きく見開いていたが、それに構わずすれ違いざまに跳躍する。

 レイの身体能力でも、上空にいるゴーストまでは届かない。届かないが……それは、あくまでもレイがただ跳躍した場合の話だ。

 跳躍の最高到達点に達し、その身体が落ち始める。

 それを見たゴーストは、力の差も理解出来ないのか、あるいは理解出来ても攻撃が届かなければ意味はないと思ったのか、ともあれ今度はレイに向かって黒い光線を放つ。

 黒い光線がレイに命中するかしないかという瞬間、レイはスレイプニルの靴を発動して空中を蹴り、そのまま跳んだ場所でも追加でスレイプニルの靴を連続して発動する。

 空中にも関わらず、半ば三角跳びに近い動きをしたレイ。

 そのレイは、瞬く間にゴーストとの間合いが詰まり……


「氷雪斬!」


 スキルが発動し、デスサイズの刃が瞬時にして氷に覆われる。

 その氷の大きさは、二m半ば。

 デスサイズの柄が二m程であると考えれば、生み出された氷の刃が一体どれだけの大きさなのかが分かりやすいだろう。

 そうして生み出された巨大な氷の刃。

 本来ならそれだけの氷の重量は結構なものになる筈だろうが、それがデスサイズである以上はレイには重量を殆ど感じさせない。

 それこそ、その辺に落ちている小枝の一本、葉っぱの一枚の方が重いと感じられる程の軽さだった。

 斬、と。

 巨大な氷の刃に包まれたデスサイズはあっさりと振るわれる。

 一切の抵抗なくゴーストを斬り裂き……


【デスサイズは『黒連 Lv.二』のスキルを習得した】


 その瞬間、レイの脳裏にお馴染みのアナウンスメッセージが響く。


「おう……」


 それを聞いたレイは、今の自分の一撃がゴーストの身体を切断しただけではなく、その体内にあった魔石をも切断してしまったことに気が付く。

 その一撃によって、魔獣術が発動したのだと。

 デスサイズを手に地面に着地したレイは、やってしまったといった表情を浮かべる。

 以前にも何度か、敵の胴体を切断した時に間違って魔石まで切断してしまい、意図せずに魔獣術が発動したことがあった。

 それを思えば、今回の一件もそれと同じくやってしまった……ということなのだろう。

 それはレイにも分かっていたが、着地したレイはセトに視線を向ける。

 セトの側には既に先程の二人の冒険者が到着しており、自分達が逃げるしか出来なかったモンスターを一撃で容易に倒したレイに驚きの視線を向けていたが、レイがそれに気が付いた様子はない。

 そしてセトは……


「グルゥ」


 喉を鳴らすだけだったが、レイが見た限りではどこか呆れた様子で喉を鳴らしているように思えた。

 そんなセトに向かい、レイは近付いていく。


「あの……その、助けてくれて助かった! ありがとう!」

「ありがとうございます!」


 レイがセトに何かを言うよりも前に、セトの側にいた二人がレイに感謝の言葉を口にしてくる。

 二人にしてみれば、レイがいなければ最悪の結果が待っていたかもしれないのだ。

 だからこそ、自分を救ってくれたレイに対し、即座に感謝の言葉を口にしたのだろう。


「気にするな。偶然俺達が通り掛かっただけだし。……けど、出来れば遠距離攻撃が出来るようにパーティを組むか、あるいは何らかの方法で遠距離攻撃の出来る武器を用意した方がいいと思うぞ」

「あ……いや、その……いつもなら仲間がいるんだけど、昨日の一件で拗ねて酒を飲みすぎて二日酔いで……」

「おい、馬鹿! 何もうちの恥を晒すことはないだろう!」


 説明をしていた一人の口を、もう一人が慌てて塞ぐ。

 とはいえ、それでレイも事情は何となく分かってしまった。

 本来なら昨日張り切ってダンジョンに挑むつもりだったのが、転移水晶の使用が禁止されたので、思う存分酒を飲んだのだろう。もしくは自棄酒か。

 それによって二日酔いになり、今日はとてもではないがダンジョンに挑むような体調ではなかったので、二人はその仲間を置いてきた。

 結果として、先程のゴーストに一方的に攻撃されるようになったのだろう。


「まぁ、その、なんだ。……ダンジョンに挑む以上は、きちんと準備をしてからの方がいいぞ?」


 そう言うレイに、二人は困った様子で頷くのだった。

【デスサイズ】

『腐食 Lv.八』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.三』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.四』『黒連 Lv.二』new『雷鳴斬 Lv.二』


黒連:デスサイズの刃が黒くなり、その刃で切断した場所が黒くなる。レベル一では一度、レベル二では二度デスサイズを振るって黒い斬り傷を作ると消える。その黒い空間はただそこに存在するだけで、特に特殊な効果はなく、数分で消える。

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