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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3759/3865

3759話

カクヨムにて32話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

「よく……ご無事で……」


 家に戻ってきたレイを見て、メイドのジャニスは驚きと安堵で震えながらも何とかそんな声を発する。

 ジャニスがここまで驚き、安堵しているのは、レイがもしかしたら今日は戻ってこないかもしれないと言っておいたからだろう。

 ジャニスも冒険者についてはそれなりに詳しい。

 今日街中で買い物をした際にも、色々と情報を集めていた。

 それによって、レイが今日何をしたのか……それについて、レイが説明したよりもっと詳しい情報を聞くことも出来た。

 その辺りの情報は、ジャニスを心配させるだけだと判断してレイも話していなかった内容なのだが。

 そんな理由から、ジャニスはレイのことを心配していたのだが、そのような状況でこうしてあっさりとレイがその日のうちに帰ってきたのだ。

 それも特に怪我をした様子もなく。

 心配していた分、余計に安堵するのは当然だった。


「いや、そこまで喜ばれると、ちょっと妙な感じがするな。……まぁ、こうして無事に戻ってきたんだ。そこまで気にしないでくれ」

「セトちゃんも、その……大丈夫でしたか?」

「ああ、セトも特に何も問題はない。ダンジョンの異変についてはもう解決したよ。……あ、けどこの情報はまだ秘密にしておいてくれ。明日の朝にはギルドマスターがその辺を公表するから、それまでだけど」

「それは……大丈夫です。これから出掛ける用事はありませんので」


 既に時間は夕方近い。

 ジャニスにしてみれば、この時間から出掛けて誰かに会う用事はなかった。

 なかったのだが……


「あ」


 ジャニスの口から不意にそんな声が漏れる。


「ジャニス? どうかしたのか?」

「いえ。その……レイさんが今日は戻ってこないかもしれないと仰っていたので、夕食の準備が……」

「してないのか?」

「いえ、してはいますが、簡単なものだけになってしまいまして」


 ジャニスにしてみれば、今朝レイが帰ってこないかもしれないと言っていたので、それを言葉通りに信じたのだろう。

 また、それなりに噂に詳しいというのも、この場合は影響していた。

 ダンジョンで初めて――あくまでジャニスの認識だが――起きた異変。

 それを解決する為に今日レイが向かったのだから。

 しかもレイが口にした、今日帰って来るかどうかも分からないというその言葉は、それこそジャニスの認識では今日は帰ってくる予定はないと言ってるように思えた。

 その為、仮にとはいえ現在は自分の主人であるレイやそのペット――正確には従魔だが――のセトの心配をしたジャニスは、心配のあまり食欲がなく、夕食は簡単にすませようとしていたのだが、そこにレイが帰ってきたのだ。

 しかもあっさりとダンジョンの異変を解決して。

 そうなると、夕食をどうするべきかと考えるのはジャニスにとってメイドとして当然のことだった。

 ただ、そんなジャニスの説明を聞いてもレイは特に気にした様子もない。


「そうなのか? じゃあ、今日の夕食は俺が用意しよう。……もっとも、俺が料理を作るんじゃなくて、ミスティリングの中に料理が入ってるから、それを出すだけだが」


 そう、レイのミスティリングには大量の料理が入っている。

 それも全てレイやセトが美味いと思った料理の、出来たてがだ。

 本来なら依頼の途中やダンジョンの中といった場所で食べるために用意したものだが、このような時に使っても別に構わなかった。

 実際、今までにも普通に食事として料理を出したことがあったのだから。


「申し訳ありません」


 レイの言葉に、深々と頭を下げるジャニス。

 メイドとして、今回の一件は大きな失態だと思っているのだろう。

 レイにして見れば、自分が今日は帰らないかもしれないと言ったのが原因なのだから、そこまで気にしなくてもいいと思うのだが。

 その辺りはジャニスのメイドとしてのプライドからなのだろう。

 そうしてレイとジャニスは既に夕方ということもあってすぐ食事にする。

 ……なお、その際に今日ジャニスが食べようとしていた料理も一応作るようにレイが言ったのだが、その料理は手間こそ掛かっていないものの、普通に美味そうな料理だった。

 例えるのなら、手抜きであっても美味い料理と言うべきか。

 勿論、いつもジャニスが用意するような料理と比べると、簡単なだけに味は落ちるが。

 それでもレイにとってそんなに問題になるようには思えなかった。






 翌日、レイはダンジョンではなく冒険者育成校に向かっていた。

 今日ダンジョンに行ったら、間違いなく混雑していると判断した為だ。

 ギルドマスターからは十階でリッチが儀式をやっていた場所に調査員を案内するように頼まれてはいたが、午前中で冒険者育成校の授業が終わるから、午後からでもいいだろうと判断している。

 それ以外にも、マティソンやフランシスにも事情を説明していおいた方がいいと判断しての行動だった。

 マティソンはともかく、フランシスの性格を考えれば、レイから事情を聞く必要があると思ってもおかしくはないだろう。

 だからこそ、レイとしては出来るだけ早いうちに……フランシスから呼び出されるよりも前に事情を説明しておこうと思ったのだ。


(俺から話しに行かないと、拗ねそうな感じもするしな)


 道を歩きながら、レイはそんな風に考える。

 一般的に知られているフランシスの性格からすると、拗ねるといった行為をするようには思えない。

 だが、セトと会ってすぐセト好きになったフランシスを知っている身としては、恐らくそうなるだろうというのは容易に予想出来た。


「グルルゥ?」


 何故か笑みを浮かべたレイに、どうしたの? と喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトを撫でつつ、歩く。

 そんなレイ達は、当然目立つ。

 ……正確にはレイはドラゴンローブの効果によって目立たないのだが、セトがいるというだけでこれ以上ない程に目立つのだ。

 それでも声を掛けてくる者がいないのは、声を掛けたい者達がお互いに牽制しているからだろう。

 昨日、ダンジョンで異変があった。

 そして昨日レイは教官としての仕事を休んだ。

 耳の早い者はもう知っているのだろうが、今朝の時点でダンジョンの異変が解決したとギルドマスターが公表し、転移水晶を今までと同じように使えるようになった。

 それらの諸々を考えれば、誰がダンジョンの異変を解決したのかは考えるまでもないだろう。

 だからこそ、ある程度の事情を知っている者達は何とかしてレイから話を聞きたいと思う。

 幸いなことに、レイは生徒の態度をそこまで気にしたりはしない。

 命令口調で話してきたりする相手に対しては、当然ながらレイも相応の態度を取る。

 だが普通に声を掛ける分には、言葉遣いや礼儀作法は特に気にしない。

 それはあくまでもこういう場での話で、公の場であればレイも生徒達に相応の態度を要求するのだが。

 これがアルカイデのように、貴族としての血筋に強いプライドを持っている者であれば、生徒達も気軽に声を掛けたりも出来ない。

 生徒の中には以前セグリットやその仲間に絡んでいたような貴族出身の者もいるので、そのような者達であれば礼儀正しくアルカイデ達に声を掛けられるかもしれないが。

 そういう意味では、レイは非常に声を掛けやすい相手だった。

 最初は年齢こそ生徒達と同じように見えるし、小柄にも関わらず異名持ちのランクA冒険者ということもあり、そう簡単に声を掛けられる相手ではなかったのだが……その点については、模擬戦で全員が最低でも一度はレイと模擬戦を行ったり、クラス全体でレイと模擬戦を行ったりとした結果、それなりに打ち解けてもいる。

 そうした結果が、今のお互いに牽制し合う状況だったのだが……


「レイさん!」


 そんな緊張した状況を破壊したのは、そんな声だった。

 レイ本人はそのような状況になっているとは気が付かなかったので、緊張した状況とは思っていなかったが。

 何か妙な雰囲気が? と思ってはいたが、恐らくこれはダンジョンの異常事態の解決に何らかの関係……例えば行方不明になっていた知り合いが無事に戻ってきたとか、そういうことなのだろうと思っていただけだ。

 そのような状況で声を掛けられたので、レイは特に何を考えるでもなく声を掛けてきた人物に向かって口を開く。


「マティソン、一昨日ぶりだな。……どうだった?」


 何がどうだったのか、レイも具体的には口にしていない。

 だが、マティソンはレイのその言葉だけで十分に意味が通じたらしく、嬉しそうに頭を下げる。


「レイさんのお陰で、私の仲間も無事に戻ってきました。ありがとうございます」

「別に俺に頭を下げる必要はないんだけどな。お前の仲間に話を聞いたと思うけど、昨日の早朝に俺がギルドに行った時、もう既に行方不明になっていた者達は地上に戻ってきていたし」


 そう言いながらも、レイは恐らくそれは幸運だっただけなのだろうとも思う。

 リッチが行おうとしていた儀式のことを考えれば、場合によっては行方不明になっていた冒険者達も儀式の生け贄として使われかねなかったのだから。

 実際、レイがリッチから聞いたところによると、宝石を奪われたのでその代わりに十階にいるアンデッドを生け贄として使っていたと言っていた。

 その話の内容を考えれば、十階前後で活動していた冒険者というのはリッチにとってはこれ以上ない生け贄になっていたのではないか。

 そんな中で実際に生け贄にならなかったのは、リッチがダンジョンの異変には気が付いていたものの、その内容……転移水晶を使った時に時間差で地上に転移するということに気が付いていなかった可能性が高い。

 そういう意味では、異変に巻き込まれた者達にとっては非常に幸運だったのだろうとレイには思える。


「私の他にも、教官の中にはパーティメンバー……あるいは友人や顔見知りの者があの異変に巻き込まれた者が多かったですから、皆レイさんに感謝してますよ」

「そんなにいたのか? ちょっと多すぎ……いや、そうでもないか」


 マティソンの言葉に少しだけ驚いたレイだったが、改めて考えてみればそこまでおかしな話ではない。

 この冒険者育成校の教官として雇われるのは、相応の腕の立つ冒険者達だ。

 そのパーティメンバーや知人なら、現在久遠の絆が探索している最下層まではいかなくても、十階前後で行動するというのはそこまでおかしな話でないのだから。

 結果として、ダンジョンの異変に巻き込まれていてもおかしくはないのだ。

 ……もっとも、教官の中には冒険者とはまた違う方向性から雇われている、アルカイデのような者達もいるのだが。


「レイさんが何を考えたのかは大体分かりますが、それで恐らく合っていますね」


 本当か?

 意味ありげなマティソンの言葉にそう突っ込みたくなったレイだったが、マティソンの性格を考えると、恐らくその言葉は決して間違っていないように思えた。


「そうか。喜んで貰えたようで何よりだよ。……ちなみにだが、昨日のダンジョンの異変の件で、今日の授業は何か予定と変わったりするか?」


 レイはセトやマティソンと共に冒険者育成校に向かいながら、そう尋ねる。

 昨日はダンジョンの異常によって、冒険者育成校のカリキュラム的に色々と変更があってもおかしくはなかった。

 だが、それが二日目ともなれば……ましてや、今朝にはギルドマスターが異変は解決したと公表したのを考えれば、カリキュラムの変更は特にないようにレイには思える。


「どうですかね。昨日も一応は模擬戦の授業はありましたけど」

「……動揺する奴はいなかったのか?」


 模擬戦と一口で言うが、そのやり方は色々とある。

 生徒同士、生徒と教官、教官同士の見学。

 それぞれで、一対一、一対複数、複数対複数といった具合に。

 とはいえ、やはり多いのは……そして生徒達にとって勉強になるのは、教官と生徒との模擬戦だろう。

 そんな模擬戦の中で、パーティメンバーや知人……この場合は知人ではなくもっと親しい友人や恋人といったことになるのかもしれないが、そのような者達が行方不明になっているという精神状態では危険ではないのか。

 あるいは朝の状態で既に転移して戻ってきたので、それを知らされていればそこまで動揺は激しくなかったかもしれないが。


「レイさん、私達もそれなりに場数を踏んでいますから。……レイさんの家に直接行った私がこのようなことを口にしても説得力はないかもしれませんが」


 少し困った様子でそう言うマティソン。

 実際、マティソンにとっても自分で思った以上に動揺していたのだ。

 普段であれば、パーティメンバーが行方不明になってもあそこまで動揺はしなかっただろう。

 そうなったのは……行方不明になったパーティメンバーの中に、冷静ではいられないと思う相手がいたからなのだろう。

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