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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3739/3865

3739話

カクヨムにて31話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 アニタと共にギルドにやって来たレイは、いつものようにセトをギルドの前で待たせる。

 普段ならそんなセトを見つければセト好きが集まってくるのだが、今は十階の一件が広まっているのだろう。

 セトがいても、近付こうとする者は決して多くはなかった。

 ……それはつまり、少数ではあるがこんな時でもセトと遊ぼうと思った者がいるということを意味してるのだが。

 ともあれ、レイはセトをギルドの前で待たせると、アニタと共にギルドの中に入る。

 すると、ギルドの前もそうだったが、ギルドの中でも先程とは大分違う雰囲気となっていた。

 それがどのような理由からのものなのかは、レイにも予想は出来た。

 中にはダンジョンに潜っていた冒険者の仲間、友人、恋人、家族といった親しいのだろう者達が泣いている光景も目に入る。


(この様子を見ると、十階の異変の件は既にそれなりに広がっているのか?)


 ギルド内部の様子を見てそのように思うレイだったが、これはレイのせいでもある。

 レイからの報告でダンジョンの異変に気が付いた……いや、そうなる可能性があるかもしれないと判断したギルドは、冒険者達に聞き込みを行ったのだ。

 レイよりも前に十階の転移水晶で転移してきた者はいたが、レイの後に転移してきた者がいないということが判明したのだ。

 そのことが判明したのはギルドにとっても大きかったが、同時に冒険者達にも十階で何かがあったかもしれないということが知られるようになり、その結果としてそれを聞いた、今日十階前後に行く予定になっていた冒険者と親しい者達、もしくは特に十階に行くとは言ってなかったものの、実力から十階に行く冒険者の親しい者達がギルドに集まったのだ。


(ギルドが最も早く情報を入手出来るから、なんだろうな)


 少しでも早く自分の大事な者の情報が欲しい。

 そのような思いからギルドに集まってきたのだろう。


(とはいえ、こう言っちゃ悪いが……邪魔だよな)


 大事な者の心配をするのはレイも分かる。

 だが、今は夕方なのだ。

 朝と並び、ギルドとしては非常に忙しい時間帯。

 そうなると、当然ながらギルドには多くの冒険者がおり、人口密度がもの凄いことになっている。

 だというのに、こうして情報を求めて多くの者が集まってくるのは、冒険者達にとって邪魔でしかないだろう。

 不幸なことに、十階から戻ってくる者達がいないので、その関係者がこうして集まっていても、いつもと人口密度そのものはそう違わないが。

 ただし、いつもと違うのは悲壮な表情をしている者達が多いことだろう。

 その為、レイが先程来た時には併設している酒場で宴会をしていた者達が多かったのだが、今ではそこまでうるさくはない。

 ……それでも宴会を続けている辺り、冒険者らしいのかもしれないが。


「レイさん、こちらです」


 ギルドの中を見ていたレイはアニタに促されてギルドのカウンターに向かう。

 カウンターの前には先程レイが見た時以上に冒険者が列を作っていたが、その列に並んでいる冒険者達もどことなく静かだった。


「ちょっと待ちなよ!」


 カウンターに向かっていたレイに、不意にそんな声を掛けられる。

 その切羽詰まった声に嫌な予感をしながらも、今の言葉が自分に向けられた言葉だというのを理解したレイが声のした方に視線を向けると、予想通りそこには四十代程の女が一人、レイを睨み付けるように見ていた。


「何の用件だ?」

「今、そこの人があんたをレイって呼んだけど、貴方が深紅のレイ? 名前が同じだけの人違いじゃなくて?」

「そうだな。深紅の異名で呼ばれているのは間違いない」


 そう言うレイに、女は一瞬だけ戸惑う。

 この女は別に強い訳でも何でもない、普通の女だ。

 それだけに、こうしてレイを見ても小柄な人物としか分からない。

 先程レイがギルドに来た時と違い、今はドラゴンローブのフードも脱いではいない。

 その為、レイの顔も半ばが隠れており、だからこそ女はこんな小柄な人物が……と一瞬戸惑ったのだろう。

 だが、その視線はすぐに一瞬前の厳しい視線に変わり、唾を飛ばしながら口を開く。


「あんたのせいで、あんたのせいで私の息子は行方不明になったんだよ! どうしてくれるんだい!」


 その声には悲痛な色がある。

 女の言葉を信じるのなら、女の息子が十階前後に向かっており、それでまだ戻ってきていないのだろう。

 それを悲しんでいるのはレイにも分かったが、だからといってそれを自分に押し付けられても困る。


「そう言われても、今回の騒動は別に俺が引き起こした訳じゃないぞ?」

「その通りです。レイさんが気が付いて報告をしてきたからこそ、ギルドでも素早く状況を把握出来たのです」


 レイの言葉に繋げるように、アニタが言う。

 だが、女はそんなアニタの言葉を聞いても素直に納得するようなことはせず、レイから視線を逸らしてアニタを睨み付ける。

 一種の狂気すら感じさせる視線だったが、アニタはそんな視線を向けられても一歩も退くことはない。

 そんなアニタに気圧されたのか、あるいはアニタの視線で多少は我に返ったのか、女は少しだけ落ち着いた様子を見せる。


「貴方のお気持ちは分かります。ですが、冒険者というのは自己責任です。それを承知の上で冒険者になった以上、そのことで他人を責めるのは筋違いかと」


 それは厳しい言葉。

 アニタのその言葉に、女は我知らず後退る。

 そんな女に向かって次にアニタの口から出たのは優しい言葉。


「それに、安心して下さい。貴方の息子さんも、十階に行くだけの技量を持った冒険者です。戻ってきてはいませんが、それは別に死んだということでもありませんから」


 その言葉に女は一縷の希望を見たのか、真剣な表情でアニタを見る。

 女の様子を確認したアニタは、言い聞かせるように口を開く。


「もしかしたら、転移水晶が使えないだけで自力でダンジョンを脱出しようとしているのかもしれません。あるいは、何らかの理由で身動きが取れなくなっているだけという可能性もあります。他にも色々と考えられる可能性はありますが、とにかく今はこの状況を何とか解決するのを優先する必要があるというのは分かって貰えますね?」

「え、ええ。……その、悪かったわね」

「いえ、ですが、謝るのなら私ではなくレイさんに。レイさんは現在このガンダルシアにおいて最高の冒険者です。今回の一件の解決にも力を貸してくれるでしょう」

「……すまなかったね。八つ当たりをしてしまった。許しておくれ」


 アニタの言葉に一縷の希望を見たのだろう。

 女はレイに向かってそう謝罪する。


「いや、気にするな。心配する気持ちは分かるしな」


 アニタの言葉にしてやられたと思うと同時に、感謝もするレイ。

 もしアニタが会話に割り込まなければ、それこそ『そんなに息子が大事なら冒険者以外の仕事に就かせるか、もしくは外にださないようにしておいたらどうだ?』とでも言い返していただろう。

 当然ながらそのようなことになれば、女も言われてばかりではない。

 自分の息子を心配してギルドに来て苛立ちや焦燥を感じているところでこのようなことを言われるのだ。

 怒りのあまり半狂乱になり、それこそレイに襲い掛かってもおかしくはない。

 もしそのようなことになっても、レイの力を考えると容易に対処は出来るだろう。

 出来るだろうが、そうなればお互いの間にしこりが残った筈だ。

 そうならないように、アニタが口を挟んで仲裁してくれたのはレイにとっても嬉しいことだ。

 嬉しいことではあるのだが、同時に今の発言でレイが今回の騒動に協力するのが決まったようなものだった。

 ……もっとも、レイにしてみればダンジョンで起きた異変である以上、それこそ未知のモンスターであったり、あるいは未知のマジックアイテムであったりが関わっていてもおかしくはない。

 レイがそれを見逃す筈がなかった。


「さぁ、レイさん。ギルドマスターが待っているので行きましょう」


 アニタに促され、レイはカウンターの奥にある階段に向かう。

 こういうところはどこのギルドも共通だと思いながら。

 なお、レイに食って掛かった女は、そんなレイとアニタの様子に一縷の期待をするのだった。






「すまないね、レイ。わざわざ来て貰って」


 ギルドマスターの部屋に入ると、部屋の中にいた初老の男はレイに向かってそう言ってソファに座るように勧めてくる。

 レイは素直にソファに座り、そのタイミングでアニタが用意した紅茶がテーブルの上に置かれた。

 レイが見ると、アニタは笑みを浮かべてから、部屋から出ていく。


「さて……君に来て貰ったのは他でもない。十階の異常についてだ」


 紅茶を一口飲むと、ギルドマスターがレイに向かってそう言う。

 事情を分かっているだけに、レイもギルドマスターの問いに驚いたりはしない。

 こちらも紅茶を一口飲んでから口を開く。


「状況については分かっている。けど、俺が感じたのはあくまでも何か決定的な証拠があってのものという訳ではなく、何となく違和感があった程度のものだぞ?」

「それでも、そのまま戻ってきたのだろう?」

「そうだな。ただ、繰り返すようだが何か明確な理由があって戻ってきたのではなく、何となく危険だと思っての行動だ。……まぁ、それでも俺の後で戻ってきた者がいないとなると、俺の勘は正しかったんだろうが」


 実際、レイの後に転移してきた者がいないということは、レイの転移が最終ラインだったのだろう。

 もっとも、レイの後で転移してきた者がいない以上、レイが転移してからどのくらいの余裕があったのかは分からないが。


「あ」

「……どうした、レイ?」

「いや、俺の転移が最後だってことで考えてたんだけど、もしかしたらちょっと勘違いをしていたのかもしれない」

「具体的には?」

「俺が最後に転移したのは変わらないけど、そもそも俺が疑問を持ったのは夕方までもう少しという時間だったにも関わらず、俺以外の冒険者が一人もいなかったからだ。それはつまり、その時点でもうおかしかった訳で……」


 レイの説明に、ギルドマスターは少し考えてから口を開く。


「それはつまり、転移水晶ではなく十一階と九階から十階に続く階段に何かあった……と?」

「その可能性はあると思う。ただ、それでも十階に俺達以外に誰もいなかったのは疑問だけど」


 十階はアンデッドが多数存在する階層だ。

 ……いや、正確にはアンデッドだけが存在する階層となる。

 冒険者としては、アンデッドと好んで戦いたいとは思わないが、中にはそのようなことを思う者もいる、

 あるいはスキルや魔法、マジックアイテムによってアンデッドを楽に倒せるのなら、十階は稼ぎ場としては悪くない。

 アンデッドということを多くの者が嫌い、それこそレイのように出来るだけ戦闘を行わないように九階なり十一階なりに行くのが大半だからだ。

 つまり、倒すモンスターを他の冒険者と争わなくてもいいのだ。

 そういう意味では、非常に楽なのは間違いない。


「ふむ、なるほど。その点もあるか。となると……階段だけではなく、十階そのものにも何らかの問題があると思った方がいいか。具体的に何なのかは分からないが」

「そうだな。……ちなみに、十階の転移水晶から地上には転移出来ないようになっているみたいだが、地上の転移水晶から十階に転移出来たりはするのか?」


 ふと気になったレイが尋ねる。

 十階が現在どのようになっているのか分からない以上、それを調べる必要があるのは間違いない。

 レイは恐らくそれは自分がやることになるだろうと予想していた。

 ガンダルシアに到着してから最初にギルドにやって来た時、アニタとその辺についての話はしてある。

 もしダンジョンに何かがあったら、その時は力を貸して欲しいと。

 レイもそれは受け入れているので、今回力を貸すということに異論はなかった。

 ……もっとも、当初レイの力を借りるのは、それこそダンジョンのモンスターがスタンピードを起こしたり、あるいは何らかの理由で地上に出たりした時の筈だったのだが。

 そういう意味では今回の一件はかなり予定外のことではあったが……そもそも、ダンジョンという存在を常識で見るというのが、間違いなのだ。

 今回何が起きたのかはレイにも分からなかったが、それでもそういうものだと納得は出来る。

 そして理由はどうあれ、ギルドにとって……そしてガンダルシアにとって危険であるのなら、レイも手を貸さないという選択肢はない。


「……残念ながら」


 ギルドマスターはレイの言葉に、心の底から残念そうにそう言う。

 それはつまり、誰かがダンジョンの前にある転移水晶を使い、十階に転移したことがあるということを意味していた。

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