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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3727/3865

3727話

昨日、予約投稿の日付を間違えてしまいました。

改めて午後9時に投稿しています。

前話を読んでない方は、前話からどうぞ。


申し訳ありませんでした。

「あの……深紅のレイさんですよね?」


 階段近くまでやって来たところで、レイは不意にそんな風に声を掛けられる。

 声を掛けてきたのは、先程レイが……より正確にはセトが見つけた三人組の冒険者のうち、リーダー格と思しき女だ。

 年齢は二十代半ば程と、まだ若い。

 最初はこの三人も自分からレイに接触するといったことをするつもりはなかったのだが、それはあくまでもレイとある程度の距離が離れていたからだ。

 だがこうして階段の近くまで来ると、さすがに声をかけないという選択肢はなかったのだろう。

 寧ろここでレイを無視し続けるといったことをすれば、それはそれでレイに喧嘩を売ってるといったように思われても仕方がないという判断からの行動か。

 そんな相手に対し、レイもここまで来た以上は……と考え、口を開く。


「ああ、深紅と呼ばれている」

「そうですか。それでなんですが、この階段の前にいるということは十階に下りるということでしょうか?」

「そのつもりだ。何か不味いことでもあるか」

「いえいえ、そんなことはありません。ですが、十階は少し特殊な場所なので。その……何か情報は持っていますか?」

「転移水晶があって、墓場がずっと続いている階層だというのは知っている。出てくるモンスターは基本アンデッドだというのもな」


 そうレイが言うと、女は納得の表情を浮かべる。

 女にしてみれば、レイについての噂を知ってはいるものの、だからといってダンジョンについて何も知らない状態で十階に行こうとしているのなら、何としても止めないといけないと思っていたのだろう。

 だが幸いなことに、レイは十階についての情報を持っていた。

 であれば、わざわざここで自分が何かを言う必要もないと判断する。

 元々ランクA冒険者のレイと比べると、女はランクD冒険者だ。

 初心者からは脱しているものの、まだそこまで腕利きという訳でもない。

 そこまでのランク差がある以上、女は自分がわざわざ忠告をする必要はないと判断する。


「分かりました。情報を持っているようなら私からは何もありません。ただ……その、レイさんになら問題はないかもしれませんが、アンデッドの中には厄介な相手もいるので、気を付けて下さい」

「分かった。助言を感謝するよ。じゃあ、俺達が最初に下りてもいいか? それともお前達が最初に下りるか?」

「レイさん達がお先にどうぞ。別に私達は急いでいる訳ではないので」


 そうして軽く言葉を交わすと、レイはセトと共に十階に下りていく。

 三人組のパーティは、レイ達から少し離れて後を追う。

 そうして階段を下りたレイ達だったが……


「グルルルゥ」

「うげ……」


 真っ先にセトが呻くような鳴き声を上げ、それに続いてレイの口からもそのような声が上がる。

 普通の人よりも五感の鋭いレイ。

 そんなレイよりも更に五感の鋭いセト。

 そのような一人と一匹にしてみれば、階段を下りて十階に侵入した瞬間に漂ってくる腐臭によって嗅覚にダメージを受けてしまった形だ。


「その……大丈夫ですか?」


 少し遅れて下りてきた三人組のリーダー格の女がレイとセトの様子を見てそう声を掛ける。

 女やその仲間達にしてみれば、十階に漂う臭いは決して好ましいものではない。

 だが、だからといってレイやセトのようになるというのは、予想外だったのだろう。


「あ、ああ。大丈夫だ。……悪いが、先に行ってくれ。俺とセトはもう少し鼻を慣らしてから行く」


 それは正確には、鼻を麻痺させてから行くという表現の方が正しいのだろう。

 レイもそれを十分に理解しているが、それでも表現の仕方には多少なりとも気を付ける。

 言われる方も、こちらの方がまだ気分を害さないだろうと思っての言葉だ。

 そんなレイの気遣い……と呼べるかどうかは微妙なところだが、とにかくレイの言葉を聞いた女は素直に頷く。


「分かりました。では、私達はこの辺で失礼します。……行くわよ」


 仲間の二人に声を掛けた女は、レイ達から離れていく。

 このまま自分達がレイと一緒にいると、何か面倒なことになるかもしれないと思ったのだろう。

 あるいは自分達がいればレイ達の足手纏いになって迷惑を掛けると思ったのか。

 その辺の理由はともあれ、レイは立ち去る三人の後ろ姿を見送る。

 何らかの利益を求めて自分に言い寄るといったようなことをしない相手であった為、レイから見ても好感を抱く相手なのは間違いない。

 とはいえ、今は漂ってくる……この十階に広がっている腐臭をどうにかする方が先だったが。

 それでもレイの場合はセト程に嗅覚が鋭い訳ではない為に、三人組がいなくなってから数分もすると嗅覚的に大分慣れてきた。

 ……腐臭に慣れるのが喜ばしいことかどうかは別として。


(こういう腐臭をどうにか出来るマジックアイテムとかあると助かるんだけどな)


 そう思うレイだったが、マジックアイテムというのはそう簡単に自分の希望する物を見つけられる訳ではない。

 もっとも、妖精郷の長や錬金術師に頼むといったことをすれば、希望する物を作って貰えるかもしれないが。

 ただし、その時は相応の時間が掛かるだろう。


「グルゥ……」


 レイがマジックアイテムについて考えていると、セトが鳴き声を上げながらレイを見る。

 ……今の声が鳴き声ではなく泣き声であるように思えたのは、決してレイの気のせいではないはずだった。


「セト、大丈夫か?」

「グルゥ」


 レイの言葉に、何とかと喉を鳴らすセト。

 そんなセトを励ますように、身体を撫でる。


(とはいえ、この様子だとこの階層は嗅覚上昇を使ったりとかは出来ないだろうな。……セトには悪いが。いや、この場合は十階で無理に嗅覚上昇を使わせる方が問題なのか?)


 その辺についてはレイも詳しいことは分からなかったが、それでも今の状況を考えるとセトに無理をさせない方がいいだろうと思う。


「セト、幸い地図には転移水晶のある場所についてしっかりと書かれている。今日は転移水晶のある場所まで真っ直ぐ向かって、後はダンジョンから出よう。そして明日以降は……十階では探索をしないで、真っ直ぐ十一階に向かう階段に向かおう」


 この十階は五階に続いて転移水晶があるということで、壁の一つという認識が多くの者にある。

 だが、それを込みで考えても、レイとしては可能な限りこの階層を攻略し、十一階に行きたいと思う。

 幸い、地図によれば十一階は氷の階層とでも呼ぶべき場所で、悪臭や腐臭に困ることはない。

 そうである以上、レイとしては出来るだけ早くこの階層を攻略したかった。

 この十階は転移水晶のある特別な階層だけに、マジックアイテムがあってもおかしくはないのだが。

 それでもセトのことを思えば、やはりこの十階を無理に探索する必要はなかった。


「グルルゥ」


 レイの言葉に、セトが喉を鳴らす。

 セトにとっても、出来るだけ早くこの階層を抜けたいと思っているのだろう。


「じゃあ、転移水晶のある場所に向かうぞ」


 地図を見ながら言うレイに、セトもやる気を見せる。

 現在の自分では、探索をする上で役に立たない……こともないが、それでもとてもではないが万全の状態ではない。

 それなら出来るだけ早くこの階層を攻略し、次の階層に進んだ方がいいとセトにも思えたのだ。


「グルルゥ」


 自分のせいで、ごめんなさい。

 そう喉を鳴らすセトだったが、レイは気にするなとその身体を撫でる。

 幸い……という表現が正しいのかどうかは微妙なところだが、レイの嗅覚は既に麻痺した。

 とはいえ、それはあくまでもこの十階の今の状態での話だ。

 ここで悪臭を発するアンデッドが現れた場合、再びレイの嗅覚にはダメージがくるだろう。

 もっとも、それを言うのならレイよりも更に嗅覚の鋭いセトの方が、大きなダメージを受けることになりそうだったが。


「それにしても、この階層はどんよりとした天気だな」


 少しでもセトの気を逸らそうと、レイは空……天井を見て、そう呟く。

 九階の草原は、まさに昼といった感じで晴れていた。

 だが、この十階の墓場は曇りでどんよりとした天気だった。

 どこまでも広がっているように見える無数の墓に視線を移しつつ、うんざりとした気持ちを表さないようにする。

 もしセトの気分が今よりも落ち込んだらと思っての行動。

 レイはそんな風に思いつつ墓場の中を進む。


(地図によれば、こっちの方に転移水晶があるらしいけど……ん? あれか?)


 地図を見つつ移動していたレイは、視線の先に小屋を見つけた。

 改めて地図と見比べてみた限りでは、恐らくその小屋が転移水晶のある場所で間違いないらしい。


「ほら、セト。あの小屋が……あー……」


 転移水晶のある場所だぞ。

 そう言いたかったレイだったが、ゴーストが空中を浮かびながらレイ達の方にやって来るのを見て、言葉を濁す。

 レイが気が付いているのだから、当然のようにセトも気が付いているのかと思ったが、セトはレイの視線を追ったことで、初めてゴーストを察知したらしい。

 戦いを避けたかったレイやセトだったが、不幸中の幸いなのは敵がゴーストだったことだろう。

 ゾンビのように腐った身体を持っている訳ではなく、霊体で出来たその身体は腐臭や悪臭を発することはない。

 その為、レイやセトが嫌う臭いについて気にする必要はないのは幸運だった。

 そして不幸……いや、残念だったのは、出て来たモンスターがゴーストだったことだろう。

 レイやセトは以前にゴーストを倒したことがあり、その魔石を魔獣術に使っている。

 そうである以上、ここでゴーストが出て来てもあまり好ましくはない。


(いや、サンドワームの時と同じく、実は外見は同じでも微妙に違うモンスターだったりはしないか? 倒してみれば分かるか)


 そう判断すると、レイはデスサイズをミスティリングから取り出す。

 ゴーストは肉体のあるアンデッド……ゾンビやスケルトンとは違い、単純な物理攻撃で倒すのは難しい。

 だが、それはつまり魔力を使った攻撃なら普通に倒せるということでもある。

 そしてレイの持つデスサイズは、マジックアイテムだ。

 魔力を込めることによって、ゴーストにダメージを与えるのは難しい話ではない。

 もっとも単純に魔力を使うというのなら、そのまま魔法を使うという手段もあるし、セトのスキルを使うという手段もある。

 あるいは……魔力が必要なのはあくまでもゴーストの身体にダメージを与えるという行為なので、ゴーストの中にある魔石をピンポイントで狙えるのは、それはそれでも構わないだろうが。

 ともあれ、普通の……魔法使いやスキルを使える者がおらず、魔剣や魔槍のようなマジックアイテムを持たないような者達にとってゴーストは非常に厄介な相手ではあるが、レイにしてみれば容易に倒せる相手でしかない。

 ……そもそもこの十階が墓場でアンデッドが多数いる場所だというのは多くの者が知っている情報である以上、何らかの対策をしてくるのは当然だったが。


「死ね」


 短くそれだけを口にし、近付いてきたゴーストにデスサイズを振るうレイ。

 ゴーストは知能が低い。

 その為、まさか自分があっさりと殺される……レイに自分を傷つける何らかの力があるとは思っておらず、迂闊に近付いた結果、あっさりと魔石諸共に身体を切断され、死んだ。


(いや、ゴーストはアンデッドでもう死んでるんだし、死んだという表現は正しくないのか? だとすれば、浄化……も違うし、消滅した? うん。まぁ、そんな感じか。魔獣術が発動しなかったのは仕方がないけど)


 魔石をデスサイズで切断したものの、レイの脳裏にはいつものアナウンスメッセージが聞こえてくることはなかった。

 四階の砂漠で遭遇したサンドワームの場合は魔獣術が発動したのだが。

 それを考えると、やはりサンドワームは以前戦ったのとは微妙に違う種類だったが、ゴーストは以前戦ったゴーストと同じ種類だったということなのだろう。


「結果的に悪くはなかったのかもしれないけど」


 そうレイが呟いたのは、もしゴーストの魔石を切断したことによって魔獣術が発動したら、この十階にいる他のアンデッドも倒して魔獣術が発動するかどうか試してみる必要があると思えたからだ。

 レイもそうだが、特にセトがこの階層に漂う悪臭を嫌がっている以上、レイとしてはそのようなことは出来るだけ避けたかった。

 そんな訳で、ゴーストにそのようなことがなかったのはレイにとって幸運だったのだ。


(いやまぁ、魔獣術ということを考えると決して幸運でもないんだろうが)


 そんな風に思いながら歩き続け……幸いなことにゴースト以外のアンデッドには遭遇せず、転移水晶のある場所に到着するのだった。 

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― 新着の感想 ―
[一言]  口で息をするか意識的に臭うという感覚を操作するかだなぁ、結局感じるのは脳だから訓練次第でどうとでもなる(実体験)。その代わりに意識しないと分からないから臭いはいいけど良い匂いも分からなくな…
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