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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3725/3865

3725話

 雷鳴斬の能力を確認すると、レイはセトを見る。


「どうする? もう少しここで遊んでいくか?」

「グルゥ……」


 レイの言葉に少し悩むセト。

 セトにしてみれば、小川で遊ぶのは楽しかった。

 だが、ここで遊んでいたところを、先程の雀に襲われたのだ。

 そう考えると、ここで遊び続けるのはどうかと思わないでもなかったらしい。

 そんなセトの様子に気が付いたのだろう。

 レイは笑みを浮かべて口を開く。


「セト、そんなに気にするな。あの雀に襲われたのを気にしてるのかもしれないが、セトはまだあの雀の魔石を使ってないだろう? なら、またあの雀が襲ってくるのを期待してもいいだろう」


 レイのその言葉は、セトを慰める為のものではない。

 デスサイズでは雷鳴斬のレベルアップが出来た以上、もし雀の魔石をセトが使えば、恐らく雷系ということでセトはサンダーブレスがレベルアップするのではないかと思ったのだ。

 実際にそれが正しいのかどうかは、レイにも分からない。

 何しろ魔獣術はレイの予想外のことが起こるのは珍しくもなんともないのだから。

 そうである以上、あの雀の魔石をセトが使っても、サンダーブレスのレベルアップをするのではなく、もっと別のスキルを習得するなり、あるいはレベルアップするなりといった可能性は十分にあった。

 結局のところ、今この状況でレイがどうこう考えても意味はない。

 必要なのは、まず雀を見つけることだろう。

 ……あるいは、雀以外の他のモンスターといったところか。


「グルルゥ」


 軽い説得の末、セトはもう少しここで遊んでいくことを了承する。

 レイに気を遣わせたというのもあるが、単純にセトがもっとこの場所で遊んでみたいという思いもあったのだろう。


「じゃあ、俺もゆっくりとしてるから、セトも楽しめよ」


 そう言い、レイは小川の近くにある草原に座り込む。


「さて、一体ここにいればどういうモンスターが出てくるんだろうな。出来れば未知のモンスターの方がいいけど」


 ダンジョンだからとはいえ、決して今までレイが戦ったことがないような未知のモンスターだけがいるとは限らない。

 ただ、レイも結構な種類のモンスターと戦ってはきたが、それでもこのエルジィンに存在する全てのモンスターのうち、どれくらいの種類のモンスターと戦ったのかは分からなかった。

 レイの感覚としては、それこそ一%にも達していないと言われれば、そうかもしれないと納得するだろう。

 あるいはエルジィンに存在する三割のモンスターと戦ったと言われれば、まずそんなことはないだろと否定するだろう。

 結局のところ、レイにも具体的にどのくらいのモンスターがいるのかは分からないのだから。

 レイが以前購入したモンスター辞典も、別に全てのモンスターの情報が載っている訳ではない。

 寧ろ載っていない情報の方が多いだろう。

 実際、レイはモンスターと遭遇した時にモンスター辞典を調べたが、そのモンスターの情報が全く載っていなかったというのを何度も経験している。

 とはいえ、このエルジィンという世界の状況を考えれば、それも仕方がないのだが。


「ん?」


 セトが小川で遊び始めてから三十分程。

 そのくらいの時間が経過したところで、レイはふとセトがとある方向を見ているのに気が付き、そちらに視線を向ける。

 するとそこには、植物の塊とでも呼ぶべき存在がレイ達の方に近付いてきているのを見つけた。


「あれは……」


 セトが見ている以上、それが何の意味もない植物の塊だとはレイにも思えない。

 だとすれば、もっと何か意味のある存在……それこそ、モンスターか何かではないかと予想することは容易だった。

 向こうもレイとセトの視線を感じたのか、これ以上こっそりと近寄ってくるのは諦め、すっくと立ち上がる。

 そうして進み始めたところで、レイはようやくそれが何なのかを理解出来た。

 大雑把な形は四足の獣。

 ただし、犬系なのか猫系なのかは分からない。

 普通こういう時であれば、それこそ顔を見れば犬系や猫系……分かりやすいのは犬系は狼、猫系は虎といった具合に何となくその方向性を察することが出来るのだが、顔を見ることが出来なければ判断は出来ない。

 あるいはもっと動物の生態や身体の構造に詳しいのなら、その身体付きから犬系か猫系かといったことも分かるのかもしれないが……残念ながら、レイにはそのような知識はない。


「顔も……うん。あれで判別しろという方が無理だよな」


 何しろ顔は見えないのだから。

 正確には顔があるのは分かるのだが、その顔は植物の蔦に覆われていて、どのような顔なのかを見ることが出来ないのだ。


(というか、身体全体が蔦に覆われている……うん? もしくは、身体そのものが蔦で出来ているのか?)


 レイはデスサイズと黄昏の槍をミスティリングから取り出しながら、蔦の四足獣を観察する。

 以前にも似たようなモンスターと戦ったことはあったレイだったが、身体の大きさもさることながら、その身体から発せられている迫力がかなりのものだ。

 そのような存在である以上、相応の強さを持っているのは間違いなかった。


「けど……俺にとってはいい試し斬りの相手だけどな……はぁっ!」


 まずは牽制といったつもりで、黄昏の槍を投擲する。

 真っ直ぐ空気を貫きながら蔦の四足獣に飛んでいく黄昏の槍。


「って、マジか」


 避ける余裕がなかったのか、それとも避けるまでもないと思ったのか。

 その辺りの理由はともあれ、蔦の四足獣は特に回避する様子もなくレイに向かって走り続けた。

 そうなると、当然だが飛んでくる黄昏の槍は回避出来ず……その身体を正面から貫く。

 頭部に突き刺さった黄昏の槍だったが、蔦の四足獣はその攻撃を受けても全く気にした様子はなく走り続けていた。

 勿論、黄昏の槍によって身体を構成している蔦は何本も引き千切られていたのだが、蔦の四足獣にしてみればその程度はそこまで気にするようなダメージではなかったのだろう。


(なるほど、生身を蔦が覆ってる訳じゃなくて、そもそも身体全体が蔦で構成されてるのか)


 だからこそ黄昏の槍によって正面から身体を貫かれるといった事をされても、蔦の四足獣は特に大きなダメージを受けた様子がなかったのだろう。

 もっとも、蔦が千切れた以上は多少なりともダメージを与えた可能性はあったが。


「セト、あの敵との戦いは俺に任せてくれ。さっきレベルアップした雷鳴斬を使ってみたい」

「グルゥ……」


 レイの言葉に、セトは残念そうに喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、ここは自分の出番だという思いがあったのだろう。

 先程の雀との戦いでも、主に戦ったのはレイだったのだから。

 しかし、スキルを試してみたいという思いはセトにも理解出来た。

 何しろセトもまた、魔獣術で新しいスキルを習得したり、あるいはレベルアップした場合は、それを試してみたいと思うのだから。

 そんな訳で、セトはレイにこの場は任せることにする。


「悪いな」


 レイもセトがどのように思っているのかは理解しているのか、短くそう声を掛ける。

 そのように話をしている間にも、蔦の四足獣はレイ達のいる方に向かって走り続けていた。

 それを見たレイは、待ち構える……のではなく、自分から前に出る。

 蔦の四足獣がそんなレイの行動を見て、何を思ったのかはレイにも分からない。

 あるいは蔦で出来たモンスターだけに、知能はなく本能だけがあるのかもしれないと思い……しかし、すぐにそれを否定する。

 何故なら、この蔦の四足獣はセトに察知される前は隠れながら近付いてきたのだから。

 もし本能だけで活動しているのなら、それこそレイやセトを襲うのに隠れながら近付くといった行動は取れないだろう。

 ……それ以前に、本能だけで活動しているのならセトの持つ存在感によってセトを攻撃しようとは思わないだろうが。


「ヒュオオオオン!」


 蔦で出来た身体の一体どこから鳴き声を発しているのか。

 レイには分からなかったが、それでも蔦の四足獣は雄叫びを発する。


(笛の原理だったりしないか?)


 走っている蔦の四足獣の身体を空気が流れ、それであのような音が出たのではないか。

 そんな風に思ったレイだったが、蔦の四足獣との間合いが急速に縮まってきたのを見ながら、レイはそれは後回しにする。


「ヒュオオオン!」


 間合いが近付いたところで、先に動いたのは蔦の四足獣。

 まだ七m程の間合いがあるのに、一体何をするつもりなのかと疑問に思うレイだったが、蔦の四足獣が自分の身体を構成していた蔦の一部を解除したのを見て、すぐに何をやりたいのかを理解し……


(丁度いい)


 蔦の四足獣にしてみれば、遠い間合いを利用し、一方的にレイを攻撃したいと思ったのだろう。

 それの判断そのものは、けっして間違ってはいない。

 相手の攻撃の届かない場所から一方的に攻撃をするというのは、攻撃する方にとって圧倒的に有利なのだから。

 だが、この場合は運が悪かった。

 もしくは、タイミングが悪かったのか。

 身体を構成していた蔦を、槍のように、あるいは鞭のように放つ蔦の四足獣。

 レイは三本の蔦で放たれた攻撃を、身体の重心を上手くコントロールするだけで回避する。

 レイの目の前……文字通りに数cm先を通りすぎて行く蔦。

 あるいはレイの目には見えていないものの、身体のすぐ側を通っていく蔦。

 そんな蔦の一本を、レイは左手の黄昏の槍……それも穂先ではなく柄で殴りつける。

 殴られた衝撃で空中に浮かんだ蔦を見つつ、レイはスキルを発動する。


「雷鳴斬」


 スキルが発動し、デスサイズの刃に雷が纏わりつく。

 その状態で、レイは黄昏の槍の柄によって殴られ、空中に浮かんでいた蔦にデスサイズを振るう。

 斬、と。

 そんな音を立てて蔦が切断され……次の瞬間、蔦の四足獣が地面に転ぶのがレイの目に見えた。


「は?」


 これはレイにとっても予想外の光景だったのだろう。

 間の抜けた声が口から出る。

 しかしそのようにしながらも、レイの足は止まらない、走ってきた勢いそのままに転んだことで、地面を転がっている蔦の四足獣に向けてデスサイズを振るう。


(ああ、そうか。雷鳴斬によって雷を受けて、それで動きが止まったのか。しかも走ってる途中でそんな状態になったから、こうして地面を転がることになった訳だ)


 既に雷鳴斬の効果が消えたデスサイズで、蔦の四足獣の身体を切断しつつ、レイは何故このようなことになったのかを納得する。


「って、やっぱり駄目か!」


 デスサイズで蔦の四足獣の胴体が切断されたものの、それでもまだ普通に動いているのを見て、レイは予想していたものの、それでも残念そうに呟く。

 寧ろ上半身と下半身が切断されて軽くなった為か、先程転んだ勢いが弱まり、体勢を立て直しつつあった。

 勢いが弱くなった状態で、上半身と下半身からそれぞれ蔦が伸びてそれが結びつき、再び蔦の四足獣は万全の状態となる。

 勿論、それでも相応にダメージを受けてはいるのだろうとレイは予想していたが……


「残念だけど、このまま一気に倒させて貰う。飛針!」


 スキルを発動しながらデスサイズを振るうと、二十本の長針が空中に生み出され、放たれる。

 蔦で空を構成されたモンスターである以上、長針による一撃は決して決め手にならない。

 とはいえ、レイもそれは十分承知の上で飛針のスキルを使ったのだが。

 元々飛針はレベル四と、スキルが劇的に強化される五には達していない。

 今の飛針は、長針が木の幹に突き刺さる程度の威力だ。

 ……もっとも、普通に考えればその一撃は十分に強力な攻撃なのだが。

 それが二十本も放たれる以上、その一撃が相手に与えるダメージそのものはそこまで高くなくても、痛みという意味では大きな意味を持つ。

 ただし、それはあくまでも相手に痛覚があればの話だ。

 蔦で身体が構成されたモンスターに、痛覚があるとはレイには思えなかった。

 だが、これはあくまでも牽制。

 一瞬……欲を言えば数秒だけでも、相手の動きを止めることが出来ればそれでよかった。


「地中転移斬!」


 続けて放たれたスキルによって、地面を通して蔦の四足獣の真下からデスサイズの刃が姿を現し、再度その身体を上下に切断する。


「飛斬!」


 続けてデスサイズの斬撃が飛び、蔦の四足獣の上半身を切断する。

 しかし、ここまでやってもまだ蔦は動き、他の部位と修復しようとしていた。


「いい加減しつこいな。……そろそろ終われ。ペネトレイト!」


 放たれた一撃は、他の部位と融合しようとしていた部位を纏めて貫き……そこまでやって、ようやく蔦の四足獣は動きを止める。


「……しぶとい奴だったな」


 デスサイズと黄昏の槍を手に、レイはそれでもまだこの状態から復活するのではないかと、蔦の四足獣をじっと観察するのだった。

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