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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3722/3865

3722話

「まぁ、こんなものか」


 レイは大量のゴブリンの死体を見て、そう呟く。

 そんなレイの隣では、セトもまたゴブリンの死体を眺めていた。

 ダンジョンの中で姿を現したゴブリンだったが、その数は二十匹程もいた。

 とはいえ、普通の冒険者でもゴブリンの一匹や二匹は倒すことが出来る相手だ。

 それが二十匹程度では、レイやセトの相手になる筈もない。

 また、ゴブリン達にとって不幸だったのは、ここが移動出来る範囲の限られている洞窟型の階層だったことだろう。

 もしここが七階の湖の地上部分だったり、六階の荒れ地であった場合はもう少し違ったのかもしれないが。

 それでもゴブリンである以上、全滅させられるまでの時間が少し長くなる程度のことだったかもしれないが。


「先を急ぐとしよう。いつまでもここにいるのは嫌だし」


 そうレイが口にしたのは、ゴブリンの血や内臓、体液……その他諸々の臭いが周囲に漂っている為だ。

 この手の臭いには慣れてはいるものの、慣れているからといって臭くない訳ではない。

 出来ればこの臭いからは少しでも早く離れたいと思うのは当然のことだった。

 これが地上であれば、ゴブリンがアンデッドにならないように燃やしたりする必要があるのだが、ここはダンジョンだ。

 掃除屋のスライムが溶かしたり、もしくはダンジョンそのものがゴブリンの死体を吸収してくれたりするので、アンデッドになる心配はいらなかった


「グルルルルゥ!」


 レイの言葉に賛成と喉を鳴らすセト。

 レイよりも五感が鋭い分、ゴブリンの死体による悪臭によって受けるダメージはレイよりも上なのだろう。

 そうしてレイとセトは急いでその場から離れる。

 そこから少し移動した後で、後ろから『臭っ!』とかいう声が聞こえてきたような気がしたが、きっと気のせいだろうと思うことにする。

 ただ、セトと一緒に歩いていたのを止め、レイはセトの背の上に乗って、セトを走らせ始めたのは……聞こえてきた声とは特に関係のないことだったのだろう。


「そこを右、次を左、真ん中……」


 レイが地図を見ながら指示を出し、セトはその通りに移動する。

 洞窟の中を進むレイとセトは、地図のお陰もあって非常にスムーズに……それこそ、この階層を攻略するのはこれが初めてとは思えない程、順調に進んでいた。

 だが、順調に進んでいる時こそ、トラブルというものは起きる。


「ぎゃあああ!」


 聞こえてきた悲鳴。

 それは自分が危ないといったようなものではなく、それこそ断末魔と呼ぶのが相応しいような、そんな悲鳴だった。


「セト!」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは短く鳴き、洞窟の中を走る速度を増す。


「地図によると、この先が広間みたいになっている。多分、今の悲鳴はそこからだ」


 そうレイが言ってから十数秒、丁度レイが口にした広間と思しき場所に出る。

 洞窟の中の広間……そこには、三人の冒険者の姿があった。

 ……そう、あっただ。

 過去形なのは、その三人が既に息絶えているのを見れば明らかだった。

 そして洞窟の上空には、羽根を二組……つまり四枚持ち、紫色の見るからに毒があるといった凶悪な爪を持つ、体長一m程もある蝙蝠のモンスター。

 それも六匹。


「ギャギャ!」


 飛んでいる蝙蝠のうちの一匹が、新たに広場に入ってきたレイとセトの姿に気が付く。

 するとそのうちの三匹が、セトの姿を見た瞬間に逃げ出しそうになり……


「させるか!」


 ネブラの瞳を起動し、生みだした鏃を素早く投擲する。

 ミスティリングから槍を取り出して投擲するよりも、ネブラの瞳を使った方が僅かながらだが早い。

 そうして放たれた鏃は、逃げようとした三匹に命中する。

 一発は頭部を砕き、残りの二発は羽根を破くことに成功した。

 後者の二匹はまだ生きているものの、それでも飛ぶことは出来ずに地上に落下していく。

 それを見ながらも、レイは逃げた三匹とは違い、自分やセトに向かってくる三匹に視線を向ける。


「セト!」

「グルルルルゥ!」


 レイの言葉に反応し、放たれたのはファイアブレス。

 天井に向けて放たれた炎は、飛んで火に入る夏の虫という言葉通り、自分達から突っ込んで来た蝙蝠達を纏めて燃やす。

 ファイアブレスの威力は強力で、瞬く間にモンスターを焼き殺した。

 それを見ながら、レイは地面に落下した残りの二匹に近づき、ミスティリングから取り出したデスサイズで胴体を切断して殺す。


「……さて」


 広間にいた蝙蝠を全て殺したのを確認してから、レイは倒れている三人の冒険者達に向かう。

 だが……


「やっぱり駄目か」


 三人の冒険者は、既に全員が事切れていた。


「駄目か」


 先程……レイ達がまだこの広間に入る前に断末魔の声が聞こえてきたということは、あの時点ではまだ生きていたということになる。

 しかし、先程聞こえてきた声が断末魔であった以上、その声を発した時点で死んでいてもおかしくなかったというのも、間違いのない事実。

 レイとしては、死んだばかりならもしかして……とそう思ったのだが、残念ながらそれは無理だった。


「首筋をざっくりか。残りは……毒だな」


 一人は首筋が切り裂かれ、大量に血が吹き出した跡がある。

 他の二人は顔色が青黒くなっており、普通でない死に方なのは明らかだった。


「グルゥ……」


 三人の死亡原因を調べていたレイに、セトがどうするの? と喉を鳴らす。

 こういう時、普通ならギルドカードを持ち帰るのだが……レイの場合、ミスティリングがある。


「この死体も持ち帰る。葬式をやるにしても、死体……遺体があるのとないのとでは大きく違ってくるだろうし」


 そう言うと、レイは死体をミスティリングに収納する。

 冒険者の家族、恋人、友人……そのような者達にとっては、死体がないということで死んだと思えない者もいる。

 あるいは死体がない為に、弔うに弔えないといった者もいる。

 そんな訳で、死体というのは大事なのだ。

 もっとも、それを分かっていても普通の冒険者なら死体を持ち運ぶようなことは出来ない。

 転移水晶のすぐ側で、荷物の量にまだ多少なりとも余裕があるのならともかく、普通はそのような余裕はないのだから。

 ここで死んでしまった三人の冒険者達は、そういう意味では幸運だったのだろう。

 もっとも、死んでしまった以上、幸運も何もないのだろうが。


「さて、死体はこれでいいとして……後はモンスターの解体だな。幸い、全部まだ原形は留めてる」


 レイの攻撃によって死んだ個体は勿論、セトのファイアブレスによって燃やされた個体も、表面は完全に焦げてしまっているものの、内部はそうでもない。

 皮や皮膜、牙、爪……そのような部位の素材は無理でも、内臓といった素材は剥ぎ取れる筈だった。

 もっとも、それはあくまでも素材になるのならだが。


「セト、一応周囲の警戒をしておいてくれ。この場所だと、もしかしたら敵が襲ってくるかもしれない」


 ホール状になっている広間は、ここに来るまでの通路とは違ってかなりの広さがある。

 具体的には、セトが周囲を気にせず戦闘が出来るくらいの広さだ。

 ましてや、この広間は幾つもの通路に繋がっている。

 どこから敵が来るのか分からない以上、レイとしては何かあった時の為に警戒するのは当然のことだった。


「グルルゥ」


 そんなレイの懸念はセトも理解しており、レイの用事……ドワイトナイフによる解体が終わるまで、じっと周囲を警戒していた。

 レイはセトの様子に頷くと、武器を収納してドワイトナイフを取り出す。

 蝙蝠によって殺された者達のことは哀れだと思うが、それでも冒険者は自己責任だ。

 自分達でどうにかなると思ったからこそ、この八階まで来たのだから。

 もう少し慎重なら、あるいはもっと実力を上げてからこの階層に来たのならどうにかなったかもしれないが。

 あるいはそれらが問題ないとしても、単純に運が悪くてこのような結果になった可能性も否定は出来ない。


(まぁ、それを言うのなら俺も人のことは言えないか。……いや、そもそもソロで潜っている以上、何かあったら危険なのは間違いない)


 ソロではあっても、セトがいる。

 また、ポーションの類はミスティリングにかなり収納されている。

 そう思えば、レイの活動はかなり楽なのは間違いなかった。


「さて」


 これから行動する上でも気を付けよう。

 そのように思いながら、レイはまず自分が倒した蝙蝠の死体の側まで移動する。

 手に持つドワイトナイフに魔力を込め……そのまま蝙蝠の死体に突き刺す。

 眩い光が周囲に広がり、その光が消えるとそこには魔石と蝙蝠の素材が残っていた。


「魔石に爪、牙……それとこれは内臓だろうけど、どこだ?」


 保存容器に入った内臓を見て疑問に思うレイだったが、それがどこの部位なのかはこうして見た限りでは分からなかった。

 それでもドワイトナイフで出て来たのだから、そういう意味では間違いなく素材なのだろう。

 これもまた、今までのようにレイにはどのように使えばいい素材なのかは分からないが、取りあえずミスティリングに収納しておいて、いつか必要になったら使おうと、あるいは錬金術師に売ろうと思い直す。

 続けてレイが倒した他の二匹も同様にドワイトナイフを使って解体し、次にセトがファイアブレスによって倒した蝙蝠を解体するのだが……


「爪と牙は駄目か」


 体内にあった魔石と内臓はともかく、外側に出ていた爪と牙はドワイトナイフを使っても素材として残らない。


(内臓の保管容器とかがどういう理由かは分からないけど作れるんだから、燃やされた爪や牙も魔力で修復するなりなんなりしてもいいと思うんだが。……さすがに無理か)


 魔力があれば何でも出来るという訳でもないのだろう。

 レイもそれは分かっていたが、残念に思いながらもこれから使う二個の魔石以外は収納する。

 続けて流水の短剣で生みだした水で魔石を洗い……


「セト」

「グルゥ!」


 周囲の警戒をしていたセトを呼ぶと魔石を放り投げる。

 セトは嬉しそうに喉を鳴らして魔石をクチバシで咥え、飲み込み……


【セトは『毒の爪 Lv.九』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。


「よっしゃあっ!」


 そのアナウンスメッセージに、レイは思わず叫ぶ。

 レイが思わず叫んだのは、やはり初めてレベル九になったスキルが出来たからだろう。

 レベル八のスキルはセトもデスサイズも幾つかあったが、レベル九はこれが初めて。

 とはいえ、レイは蝙蝠が毒の爪を持っていたことから、もしかしたら……と思ってはいたのだが。

 ただ、蝙蝠は他にも幾つか特徴があったので、他のスキルのレベルアップ、あるいは新しいスキルを習得する可能性も考えてはいたが。


「グルルゥ」


 毒の爪がレベル九になったセトは、嬉しそうにレイに近付いてくる。

 実際にはセトにしてみれば毒の爪というのはそこまで使いやすいスキルという訳ではないのだが、それでもレベル九になったというのは嬉しいことだし……何より、レイが喜んでくれたことがセトにとっては嬉しかったのだろう。


「これで、レベル十まではもう少しだな。毒を使うモンスターというの多いし、そういう意味ではもうレベル十になったも同然……というのは、少し大袈裟か?」


 自分で自分を窘めるように呟くレイだったが、実際にダンジョンというのはモンスターが多く、そしてモンスターの中には毒を使うものも多い。

 そのような状況を考えると、このダンジョンを攻略していけばいずれは毒の爪がレベル十になるのはそう遠くないように思えた。


「グルルゥ!」


 レイの言葉に、頑張ると喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトの様子をみつつ、嬉しくなる。

 ここで死んでいた哀れな冒険者のことを忘れた訳ではないが、それはそれ、これはこれという風に思えるくらいには、レイも冒険者として慣れていた。


「さて、セトの件はまずこれでいいとして……そうなると、次はデスサイズの番だな」


 レイはミスティリングから先程収納したデスサイズを取り出す。

 そして魔石を放り投げると、デスサイズを振るう。

 斬、と。一瞬にして魔石は切断され……


【デスサイズは『幻影斬 Lv.四』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。


「えっと……え? 何で幻影斬? いや、もしかしたら幻を作るとか、そういう系統のスキルを持っていたのかもしれないな」

「グルゥ」


 おめでとうと喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトを撫でつつ、スキルを発動してみる。


「幻影斬」


 発動すると、デスサイズが四つ現れる。

 幻影斬の名の通り、これは幻影だ。

 触れても特に痛みはない。

 その為、レイは幻影斬を起動したままデスサイズを振るうと、幻影の四つのデスサイズもその軌道に沿った動きで振るわれるのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』new『サイズ変更 Lv.三』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.六』『光学迷彩 Lv.八』『衝撃の魔眼 Lv.五』『パワークラッシュ Lv.七』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.三』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.三』『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.八』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.七』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.三』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.四』new『黒連 Lv.一』『雷鳴斬 Lv.一』


毒の爪:爪から毒を分泌し、爪を使って傷つけた相手に毒を与える。毒の強さはレベルによって変わる。


幻影斬:デスサイズを振るった時、デスサイズの幻が生み出されてレイが振るう一撃と同じ軌道で振るわれる。ただし、それはあくまでも幻影で、触れてもダメージはない。レベル一で生み出される幻影は一つ。レベル二で二つ、レベル三で三つ、レベル四で四つ。

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