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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3721/3865

3721話

「グルルルゥ!」


 自分に向かって振り下ろされた棍棒を、セトは横に跳ぶことで回避する。

 高さ五m、道幅四m程の狭い――セトや巨人にとってだが――通路での戦い。

 セトも巨人も大きな体格をしているので、この八階での戦いでは大きく動くことが出来ない。


「グルルルルゥ!」


 光学迷彩を使った瞬間、セトの姿が消える。


「ぐが……」


 巨人は一瞬前まで目の前にいたセトが、いきなり姿を消したことに不思議そうな声を漏らす。

 姿を消したということそのものに気が付いていないような様子から、知能が高くないのは明らかだった。

 そんな様子を見ていたレイが動く。


「ペインバースト!」


 巨人との間合いを詰めつつ、レイはペインバーストを使い、デスサイズを振るう。

 斬、と。

 棍棒を持っていた巨人の右手が、あっさりと切断された。


「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 周囲に……いや、八階全てに、もしくは七階や九階にも響いてもおかしくはない、巨人の悲鳴。

 デスサイズのスキル、ペインバーストはレベル六の現在、本来の痛みの六十倍の痛みを与えることが出来る。

 七階で出て来た鮫に使った時も、その痛みによってダメージそのものはそこまで高くはなかったのだが、スキルの効果によって強烈な……それこそ、鮫や巨人であっても痛みで悲鳴を上げ続けるといった醜態を晒すだけの痛みを与えるだけの効果があった。


「グルゥ……」


 巨人の様子に、姿を消していたセトが姿を現す。

 光学迷彩によって姿を消していたセトは、いつの間にか巨人の後ろに回り込んでいた。

 ……巨人の大きさが通路を塞いでいるかのような今の状況で、一体どうやって巨人の後ろに潜り込んだのか、レイには分からなかった。

 分からなかったが、それでもそのようなことが出来るのはさすがセトだとレイには思えた。

 もっとも、そのセトは自分が後ろに回ったのに結局何も出来なかったことで、残念そうな様子をしていたが。

 鮫の時もそうだったが、レイがペインバーストを使った結果として、その時点で敵が痛みによって戦闘を続けることが出来ず、勝利が確定してしまう。

 痛みを感じない……いわゆる無痛症であったり、もしくは痛覚そのものがない、もしくはどうにかして痛みを意図的に無視するといったようなことが出来るのなら、ペインバーストも効果はない。

 ないのだが、生憎とこの巨人はそういうことが出来なかったらしい。

 六十倍の痛みというのは、基本となる痛みが大きければ、それだけ増強された痛みが強くなる。

 そういう意味では、右手を切断されるという痛みが六十倍になるのは一体どれだけの痛みなのか。

 結果として、レイがそれから行ったのはデスサイズを振るって暴れ回る巨人の首を切断することだけだった。


「うーん……正直なところ、ペインバーストが俺の予想以上に強い」

「グルゥ……」


 巨人の死体を見ながら呟くレイの言葉に、セトが微妙な様子で喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、それは鮫の時にもう分かっていたのでは? という風に思うのだろう。

 実際、それは間違っていない。

 ただ、レイも鮫の時は少し特別だったのではないかと思っていたのだが。

 しかし、こうして二度目の行動を見せられれば、レイとしてもペインバーストが強力だというのを否応なく理解出来てしまう。


(レベル六のスキルなんだから、弱い筈がないんだけどな)


 魔獣術のスキルは、レベル五になると一気に強化される。

 それこそ別物……あるいは上位互換という表現が相応しい程に。

 そうである以上、レベル六のペインバーストが弱い筈もない。


(となると、今更だけど低レベルでは何の役に立つか分からないスキルでも、レベル五になれば強化されて使いものになるのかもしれないな)


 改めてそう思うレイ。

 勿論、今までもそのように思ってはいた。

 いたのだが、それでもやはりこうして考えると、魔獣術は反則的だとしみじみと思う。


「グルゥ」


 レイが魔獣術について考えていると、セトがそう喉を鳴らす。

 レイの気のせいというのもあるのかもしれないが、少し不満そうに見える。

 恐らくだが、自分が巨人の後ろに回り込んだ意味がなかったのが、面白くなかったのだろう。

 レイもそれを察し、巨人の死体を見る。


「セト、この巨人の魔石はセトが使ってもいいぞ」

「グルゥ?」


 レイの言葉に、いいの? と喉を鳴らすセト。

 数秒前の不満そうな様子は、既にセトからは消えていた。

 チョロい。

 そう思ったレイだったが、同時にこういうチョロさでこれから大丈夫なのか? という疑問も抱く。

 もっとも、このチョロさ……機嫌がすぐによくなったのは、相手がレイだったからというのも大きい。

 もしレイ以外の誰かがセトを不機嫌にさせたら、こうも簡単にセトが機嫌を直すということはまず有り得なかった。


「ともあれ、まずはこの巨人の死体をこのままにしておくのもどうかと思うし、解体してみるか。さて、どうなるんだろうな」


 かなりの大きさの巨人だけに、一体どのような素材が取れるのかと楽しみにしながら、レイはデスサイズや黄昏の槍と引き換えにドワイトナイフを取り出す。


(肉……は、さすがにちょっとな)


 オークの肉は勿論、オーガやサイクロプスといったモンスターの肉も食べるレイだったが、この巨人はさすがに人のそのままの形すぎて、肉を食べる気にはならない。

 この巨人の大きさを思えば、もし肉を食べられるのなら結構な量となる筈ではあったが。

 ドワイトナイフを手に、魔力を流してそれを巨人に突き刺す。

 眩い光が周囲に広がり……その輝きが消えた時、ダンジョンに残っていたのは魔石と頭蓋骨、肋骨の三つだけだった。


「……うん。まぁ、ある意味予想通りではあるのか。下手に肉とかがなくて安心した。とはいえ……」


 レイの視線が向けられたのは、頭蓋骨。

 ドワイトナイフの力によって、肉片や血、体液、脳漿、眼球……そのような物は全て除去された状態の頭蓋骨。

 巨人の頭蓋骨だけあって、その大きさはかなりの大きさだ。

 それはいいのだが……


「この頭蓋骨をどうしろと?」

「グルゥ」


 レイと同じ疑問を抱いたのか、セトも同意するように喉を鳴らす。

 ドワイトナイフの力によってこうして残った以上、何らかの素材として使えるのは間違いないのだろう。

 肋骨の方は、それこそ武器であったり、錬金術の素材として使えそうではあるものの、頭蓋骨をどう使うのかはレイにも疑問だった。

 あるいは肋骨と同じように砕いて骨粉にして何かに使うのかもしれないが。


「杯にしろとか、そんな風には言わないよな?」


 レイが思い浮かべたのは、日本にいると時に歴史……より正確には歴史の漫画で見た、織田信長の一件。

 フィクションかノンフィクションなのかはレイにも分からなかったが、敵対した相手の頭蓋骨を杯にして酒を飲んだというものだった。

 もっとも、巨人の頭蓋骨を杯にしたら、その大きさから一人で使うのはまず無理だろうとはレイには思えたが。


「まぁ……うん。取りあえずこの頭蓋骨は何に使うのか分かったら使うとして、収納しておくか。こういう時、ミスティリングって便利だよな」


 レイは頭蓋骨と肋骨、それと離れた場所に転がっていた巨人の使っていた棍棒とドワイトナイフをミスティリングに収納しながら、しみじみと思う。

 もしミスティリングがなければ、それこそレイは保存しておく物の取捨選択をしないといけない。

 また、素材もそのまま放っておけば腐る物もあるだろう。

 だが、ミスティリングがあればどれだけ収納しても問題はないし、腐るといったようなこともない。

 レイが集めているマジックアイテムも、盗まれる心配は全くなかった。

 そういう意味では、ミスティリングはレイにとってはセトとは別の意味でなくてはならない物となる。


「さて、じゃあこの魔石だな。……セト」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、待ってましたと言わんばかりにセトが喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に笑みを浮かべつつ、レイは魔石を放り投げる。

 セトはクチバシで魔石を咥え、そのまま飲み込む。


【セトは『パワークラッシュ Lv.七』のスキルを習得した】


 脳裏に響く、アナウンスメッセージ。

 それを聞き、レイはなるほどと納得する。

 巨人の戦闘スタイルを思えば、パワークラッシュのレベルが上がるのは特に驚くようなことではない。

 まさに巨人の特徴が如実に現れた結果だろう。


「グルゥ!」


 レイに向かい、嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 そんなセトの様子に、レイも素直に笑みを浮かべる。

 セトにとって、前足の一撃というのは戦闘で多用する攻撃方法だ。

 それだけに、パワークラッシュというスキルは単純な攻撃だが、それが非常に大きな意味を持つ。


「セトの攻撃スタイルに、これ以上ない程に合ってるスキルだったな。……それにしても、レベル七か。一体どんな威力になってるのやら」


 セトのパワークラッシュは、レイの……正確にはデスサイズのパワースラッシュと同系統のスキルとなる。

 パワースラッシュがレベル四までの時は、デスサイズで放つ一撃は威力は強力なものの、その衝撃によって手首を痛めることも多かった。

 ただ、レベル五になった時に手首に来る衝撃がなくなったが。

 そしてセトのパワークラッシュも本来ならその手の衝撃はあったのだろう。

 だが、巨体の影響もあってか、セトにはその衝撃は全く問題がなかった。

 そのことをレイも最初は羨ましく思っていたが……今となっては、そういうものだと納得している。


「じゃあ、セトもスキルを習得したし、そろそろ先に進むか。……右だな」


 地図を取り出し、道を確認する。

 八階の洞窟型の階層は、今までレイが何度か潜ってきた時のダンジョンと同じく、道や天井、地面といった場所が仄かに光っており、地図を見るのに支障はない。

 ……レイは夜目が利くので、もし光がなくても特に問題なく地図を見ることは出来ただろうが。

 ともあれ、光があるので特に問題はなくレイは地図を読むことが出来た。


「グルルゥ」


 魔獣術によってスキルが強化されたからだろう。

 レイの言葉に、セトはやる気満々といった様子で喉を鳴らす。

 それを聞きつつ、レイはセトを頼もしいと思いながら右側……九階に続く階段のある方に進む。

 その後も何度か分岐路で正しい方向に向かって進んでいたのだが……


「グルルゥ」


 不意にセトが喉を鳴らす。


「敵か? ……けど、そこまで期待出来る敵ではないようだな」


 レイが見たセトの様子は、巨人の時のように決して好ましいものではなかった。

 寧ろ、またか……といったようにすら思えてしまう、そんな態度。

 そのような態度となると、恐らく決して好ましい相手……未知のモンスターという訳ではないのだろうと思いつつ、レイはセトと共に道を進み……


「うん。セトが嫌がる筈だよな」


 視線の先にいるモンスター……ゴブリンを見て、しみじみとレイは呟く。

 同時に、何でこの八階にゴブリンが? という思いもそこにはあった。

 ゴブリンは弱い。

 悪知恵が働くという意味で厄介な存在ではあるが、正面から戦えば冒険者なら大抵の者は勝利出来るだろう。


「ギャギャア!」


 レイ達がゴブリンを見つけてから少しして、先頭を歩いているゴブリンもようやくレイとセトの存在に気が付いたのだろう。

 棍棒を手に叫ぶゴブリン。

 棍棒という意味では先程の巨人も持っていた。

 今ではレイのミスティリングに収納されている棍棒だったが、巨人の棍棒とゴブリンの棍棒では、同じ棍棒であっても圧倒的に大きさと質量が違う。


(というか、あの巨人やゴブリンが持っている棍棒はどこで入手したんだ?)


 先頭のゴブリンが騒いだことにより、それに続く他のゴブリンも同様に騒いでいるのを聞きながら、レイはそんな風に思う。

 この八階は洞窟の階層だ。

 まだこの階層の全てを見て回った訳ではないものの、それでも植物の生えている場所があるとは思えない。

 だとすれば、棍棒は一体どこから入手したのかと、疑問に思ったのだ。

 もっとも、ダンジョンは地上にいるモンスターを何らかの手段で取り込んだり、もしくはダンジョンそのものがモンスターを生み出したりもする。

 人のいない場所にあるダンジョンであれば、動物やモンスターが棲み着くといったこともあるが、この迷宮都市のガンダルシアであればその辺については考えなくてもいいだろう。

 そういう意味では、洞窟型の階層の中に棍棒を持っているモンスターがいるのもそんなにおかしな話ではない。


「取りあえず片付けるか」


そう呟き、レイはセトと共にゴブリンに襲い掛かるのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.八』『サイズ変更 Lv.三』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.六』『光学迷彩 Lv.八』『衝撃の魔眼 Lv.五』『パワークラッシュ Lv.七』new『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.三』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.六』『翼刃 Lv.五』『地中潜行 Lv.三』『サンダーブレス Lv.七』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』



パワークラッシュ:一撃の威力が増す。本来であればパワースラッシュ同様使用者に対する反動があるが、セトの場合は持ち前の身体能力のおかげで殆ど反動は存在しない。

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