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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3718/3865

3718話

カクヨムにて24話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 レイが振るったデスサイズが、一閃、二閃、三閃、四閃……二十閃。

 一息……比喩でも何でもなく、本当に一息の間にそれだけ振るわれたデスサイズは、胴体だけになってもまだ暴れていた鮫の身体を切断していき……


【デスサイズは『氷雪斬 Lv.七』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。


「あ」


 それを聞いた瞬間、レイは一瞬だけしまったと思う。

 とはいえ、ここまで切断しなければ胴体が暴れ回っていた以上、この結果は仕方がないと思う。

 グシャリ、と。

 暴れている時、跳ね上がって空中にその身体があった瞬間に切断された鮫の身体が、肉片となって地面に落ちる。


「悪いな、セト」

「グルルルゥ」


 近付いて来たセトに、レイは謝る。

 セトに無断で鮫の魔石を使ってしまったのだから、レイが申し訳なく思うのは仕方がないことだ。

 だが、セトはそんなレイに対して、気にしなくてもいいと喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、自分が鮫の魔石を使えなかったことは残念だったものの、頭部を切断されても暴れ続けていた鮫を見た以上、それは仕方がないとも思う。


「ちょっ、レイ。大丈夫か? っていうか、今の凄いな!?」


 心配と好奇心から、ニラシスはレイに近付いてそう尋ねる。

 なお、レイ達が戦っている間も魚はしっかり持たれていたのだが、今はその手に魚はない。

 離れた場所にいる女達が、頑張ってレイから貰った串を魚に突き刺しているところだった。

 料理を自分だけに任せてないで、お前達も多少はやれ。

 そういうニラシスの思いからの行動だった。

 女達も、そのくらいなら……と今は必死になって串を魚に刺している。

 不満もない訳ではなかったが、セトに料理も出来ないと見られてもいいのかというニラシスの言葉が効いたらしい。

 そんな様子を眺めつつ、レイはニラシスに問題ないと頷く。


「あのしぶとさ……生命力には驚いたけど、戦いそのものは楽だったよ」

「……いや、楽というか……何をしたんだ?」


 ニラシスが何について聞いているのかは、レイにもすぐに分かった。

 ペインバーストについてだろうと。

 実際、ペインバーストを使った瞬間、鮫はまともに行動出来なくなったのだ。

 ただし、見ている者が気の毒に思うくらいに、痛みに泣き喚き、暴れていたが。

 例え七階の……ニラシス達にとってはそこまで警戒するようなモンスターではなくても、あれだけ痛みに暴れ回るといった様子を見れば、一体何をしたのかと疑問に思うのはそうおかしな話ではなかった。


「気にするな、俺の奥の手の一つだ」


 冒険者というのは、何があってもおかしくはない。

 そうである以上、奥の手の一つや二つ持っているのはそうおかしな話ではない。

 そしてわざわざ自分の奥の手を話すということも基本的にはない。

 レイの場合は、それこそ他に幾らでも奥の手はあるのだから、そこまで厳重に隠す必要はないのだが。

 今の場合は、ただ説明が面倒だからこういう表現をしただけだ。

 ニラシスも冒険者である以上、奥の手だから話したくないと言われれば、それに不満は言えない。

 内心でどう思っているのかは別として。


「そうか。……まぁ、レイがそう言うのなら、これ以上は聞かないけど」

「悪いな。じゃあ、俺達はそろそろ行くよ。このままここにいて、また別のモンスターに襲撃されるのは面倒だし」

「そうか? ……レイやセトなら、どういうモンスターが現れてもどうとでも出来そうだけどな。まぁ、無理は言えないか。じゃあ、またな」


 レイとニラシスの会話が聞こえたのだろう。二人の女がえーとか、そんなーとか口にしているものの、レイとしては早いところこの場所を離れたかった。

 別にニラシス達を嫌ってのことではない。

 鮫の魔石でレベルアップした、氷雪斬を試してみたいと思ったのだ。

 もし鮫の魔石をデスサイズが切断しても、何のスキルも覚えず、レベルアップもしなかったのなら、ニラシス達ともう少し一緒にいてもよかったかもしれない。

 だが氷雪斬のレベルが上がった以上、出来るだけ早くその性能を確認したいと思うのは、レイにとって当然のことだった。

 そうしてレイはセトと共にニラシス達と別れ、少し離れた場所まで移動する。

 ニラシス達からも見えない場所。

 そのような場所まで移動すると、ちょっとした林が見えてくる。


「湖の周辺だと考えれば、林くらいはあってもおかしくはないのか。……セト、ここで氷雪斬を試してみるけど、いいよな?」

「グルルゥ」


 レイの言葉に、セトは問題ないと喉を鳴らす。

 そうしてレイとセトは林の中に入ると、一応念の為に周辺に誰もいないことを確認してから、デスサイズを手にする。


「氷雪斬」


 スキルを発動する。

 するとデスサイズの刃が氷によって覆われていった。

 氷の大きさは二m近い。

 レベル六の時は一m半ばだったことを思えば、レベル七になって間違いなく氷の大きさは増している。


「……軽いな」


 デスサイズの刃を覆っている氷の大きさは二m程もあるにも関わらず、デスサイズを手にしているレイは特に重いとは思えない。

 それこそ重量を感じさせないというデスサイズの特徴と同様に、刃を覆っている氷の重量もまた重量を感じさせないのだろうとレイには理解出来た。


「それでもデスサイズの攻撃可能範囲が増えるのは悪くないな」


 デスサイズの刃に纏った氷を見つつ、レイは笑みを浮かべる。

 そのまま軽くデスサイズを振るう。

 周囲には林の木々が生えているのだが、そんな中で長柄の武器であるデスサイズ……それも刃の周囲には二m近い氷の刃を纏っているにも関わらず、デスサイズが周囲に生えている木々に触れるようなことはない。

 これはレイの技量が高いことを示していた。

 そのまま数分、デスサイズを振るい続けたレイは、ようやく手を止める。


「グルゥ?」


 どう? とレイに尋ねるセト。

 レイはデスサイズをミスティリングに収納し、笑みを浮かべてセトを撫でる。


「悪くないな。これで氷の重量があると使いこなすのに少し時間が掛かったかもしれないけど。その重量もないから、今までと同じ感覚でデスサイズを振るえる」


 もっとも刃の周囲には新たに二m程の氷の刃がある為に、いつもと同じようにデスサイズを振るうと、普段通りという訳にはいかない。

 レイもその辺については十分に理解しているのだが。


「鮫については……次に出て来たら、セトに魔石を渡したいけど、どうやって鮫と新たに戦うかだな。湖の上を飛べば鮫が出て来たりするか?」

「グルゥ? ……グルゥ」


 ちょっと難しいと思う。

 そうレイに向かって喉を鳴らすセト。

 セトが見たところでは、湖の上を飛んでいても鮫が出てくるとは思えなかったらしい。

 レイが鮫を見た感じでは、それこそ襲える相手がいるのなら即座に鮫が姿を現すのではないかと思えたのだが。


「駄目そうか。……なら、またニラシス達と合流して料理をするか?」


 先程、鮫が出て来たのはレイ達が焼き魚を作り、それを食べ終わってからだった。

 つまり、焼き魚の香りに惹かれて鮫が現れた可能性がある。

 ……湖の中にいた鮫が、どうやって地上の匂いを嗅ぎ取ったのかはレイにも分からなかったが。

 モンスターの鮫である以上、何かレイの知らない方法で地上の匂いを嗅ぎ取っても不思議ではない。

 何しろ鮫はそこまで高度は上げられないとはいえ、それでも空を飛べるのだ。

 つまり、地上にいる餌を逃がさない何らかの手段を持っていてもおかしくはなかった。

 なら、湖の上を飛んでいれば……それも水面のすぐ上ではなく、鮫が移動出来る高度で攻撃されてもセトがすぐに回避出来るように飛んでいれば、鮫が釣れるのではないかと、レイは思ったのだが……


「グルルルゥ」


 何故かセトが全くやる気を見せない。

 セトが何故そこまで嫌がってるのかはレイにも分からなかったが、セトが嫌がるのなら無理強いも出来ない。


「セトの気が進まないのなら、別に無理にとは言わないが……けど、いいのか? そうなると、鮫の魔石をセトは使えなくなるぞ?」

「グルゥ」


 レイの言葉に、それでも構わないといった様子で喉を鳴らすセト。

 一体セトの何がそんなに鮫を忌避するのか、レイには分からない。

 分からないが、セトがこう言うのならと、これ以上勧めるようなことはしない。


「なら、他の場所に行くか。……この七階は湖がメインだけど、それ以外に何もないって訳じゃないしな。……あ、湖ってことは植物も生えてるだろうし、一階や三階にあった果実のなる木があったりしないか?」

「グルゥ?」


 レイの言葉に、セトは首を傾げる。

 果実があったらいいとは思うものの、本当に果実があるかと言われるとそれは分からないといったところか。

 そんなセトの様子を見ながら、一応地図を見るレイ。

 マティソンから貰った地図を確認してみるものの、特にそのようなことは書いていない。

 ……もっとも、一階や三階の地図にも果実については特に書かれてなかったのを思えば、それは不思議でも何でもないのだが。

 そんな訳で、氷雪斬の確認を終えたレイはセトと共に七階を適当に歩き回ることにする。

 ただ、七階は大部分が湖である以上、歩き回れる場所はそう多くはなかったが。

 それでもそれなりに広い場所を見て回ることが出来るのは間違いない。

 七階で出てくるモンスターも、別に全てが湖のモンスターだけではなく、レイやセトにとってはそういう意味でも悪くはなかった。


「グルルゥ」


 レイを背中に乗せたセトが、とある方向を見て喉を鳴らす。

 何らかの根拠があってそちらに行きたいと言ってる訳ではなく、セトにとってはただ何となく……本当に何となくそっちに行ってみたいと、そう思っての行動だった。

 レイも特にどこか行く場所がある訳でもないので、セトの行動に任せる。

 実際には八階に向かう必要があるのだが、その前にまだこの七階を見て回り、未知のモンスターを倒したり、あるいはまだこの階層ではろくな物が入手出来ないとは思うものの、マジックアイテムを見つけたりといったことをしたい。

 そんな訳で、この階層を色々と見て回るという意味ではセトに任せて行きたい方に行かせてみるというのも、決して悪くはない行動だった。


「よし、じゃあセトの行きたい方に向かってくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らして進み始める。

 そこまで大きくはない林を抜け出し、湖とは反対の方に。

 レイにしてみれば、何故湖の方ではなくこちらに? と思わないでもなかったが、セトが何となくということで進む方向を選んでいるのなら、ここでレイが何を言ってもあまり意味はない。


(とはいえ、セトも何の意味もなくどこかに向かってるって感じじゃない……よな? セトはその気であっても、自分では感じない何らかの理由によって、無意識にどこかに向かっていてもおかしくはないし)


 そんな風に思いつつ、レイはセトの背に乗りながら周囲の様子を確認する。

 しかし、レイの視界には特に気になる相手はいない。

 冒険者の姿が見えないのは、そもそも五階以降はかなり冒険者の数が少ないし、そこから下の階層に進めば進む程、冒険者の数は減っていく。

 とはいえ、それでもここはまだ七階だ。

 ニラシス達のような例外……本来はもっと深い階層を攻略している冒険者達がいるのはともかく、普通にこの七階を攻略している冒険者達がいてもいい筈だった。

 だが、こうしてセトに乗って周囲の状況を見ていても、特にそれらしい存在はいない。

 それはつまり、何らかの理由があってこの階層に人がいないという可能性を示していた。


(リゾート地みたいな場所だけに、人気は出ると思うんだけどな。……まぁ、湖には魚系のモンスターがいるから、本当の意味でリゾート地のようにして遊ぶとか、そういう事は出来ないと思うけど)


 一見すると、リゾート地としてこれ以上ない程の環境を備えている七階だったが、それでもダンジョンだ。

 水辺で少し休むだけならともかく、湖で泳いだりして遊ぶといったことは出来ない。

 もしやったら、それこそモンスターに襲撃されるだろう。

 レイやセトのような強さがあれば、また話は別だったが。

 ただし、そのような強さを持つ者がどれだけいるのかは、また別の話だろう。

 何しろレイやセトは、多くの冒険者が集まっているガンダルシアにおいて、最強の冒険者なのだ。

 あくまでもソロの冒険者という扱いなので、最強のパーティとなればレイも一人だけ知っている久遠の牙となるのだが。

 そういう意味では、それこそ久遠の牙のような者達でなければこの七階をリゾート地として使うようなことは出来ないだろう。

 そんな風に思いながら、レイはセトの背の上で周囲の探索を続けるのだった。

【デスサイズ】

『腐食 Lv.八』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.七』new『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.三』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.三』『黒連 Lv.一』『雷鳴斬 Lv.一』



氷雪斬:デスサイズに刃が氷で覆われ、斬撃に氷属性のダメージが付加される。また、刃が氷に覆われたことにより、本当に若干ではあるが攻撃の間合いが伸びる。レベル五で刃を覆う氷の大きさは一m程、レベル六で刃を覆う氷の大きさは一m半、レベル七で刃を覆う氷の大きさは二m。

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