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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3711/3865

3711話

「グルルルルゥ!」


 レイの前でセトは地中潜行のスキルを発動する。

 するとその身体が地中に潜っていく。

 地中潜行のスキルはモグラのように物理的に穴を掘って地中を移動するのではなく、スキルの効果によって、あるいは魔力によって地中を移動可能だった。

 そんな訳で、当然ながら移動速度もモグラのように地中を掘って移動するよりも速い。

 念の為に潜れる最大の深さ……地下四mの位置をセトは進む。


「グルルゥ」


 喉を鳴らし、地中を進むセト。

 臆病で慎重なサンダーハーピーであっても、さすがに地中を移動しているセトの存在を察知することは出来ないだろうと、そのように思いながら……それでも何があってもいいよう、慎重に地中を進む。

 そのまま二分程進んだところで、一度セトは地上に出る。

 まだ一分余裕はあるものの、セトは現在自分がどの辺りにいるのかが分からない。

 ある程度地中での移動は試しているものの、本格的に使ったことは殆どない……いや、あるいはこれが初めてなのではないかと思うくらいには、地中潜行を使うことは少なかったからだ。

 そのままセトは顔だけを出し、周囲の様子を確認する。

 丘まではまだもう少し距離がある。

 後一分では到底丘にあるというサンダーハーピーの巣に行くのは無理なので、セトは一度地上に出て、その瞬間に光学迷彩を発動する。

 現在レベル七の光学迷彩は、六百秒……十分程は使い続けることが出来る。

 だが、光学迷彩というのはあくまでも相手から見えないようにしているだけで、そこにセトがいるのは間違いない。

 つまり、サンダーハーピーなら気配を察知する可能性が十分にあったのだ。

 勿論、それはあくまでも可能性であって、実際に出来るのかどうかまでは分からない。

 分からないが、あそこまで慎重で臆病な性格のサンダーハーピーだ。

 そのくらいのことが出来てもおかしくはない。

 そのままセトは地上で一息吐くと、光学迷彩を解除して再び地中潜行を使う。

 そうした行為を何度か繰り返し……やがてセトは丘の上まで到着する。

 光学迷彩を使い、可能な限り気配を消して周囲の様子を確認するセト。

 ここにサンダーハーピーの巣があるのは、嗅覚上昇で辿ってきたことからも既に確定している。

 それを示すかのように、丘の上にはどこから持ってきたのか、木々で作った鳥の巣に近い巣が幾つもあった。

 そんな巣の中で何匹ものサンダーハーピーが休んでいる。

 また、レイが予想したように、サンダーハーピーの何匹かは注意深く周囲の様子を警戒していた。

 いつ敵が襲ってくるのかと、警戒しているのだろう。

 そんな様子を確認すると、セトはすぐに地中潜行を発動する。

 狙うのは、数匹のサンダーハーピーが使っていた巣の一つ。

 セトが確認した中では一番大きな巣だけに、その巣で休んでいるサンダーハーピーの中にはリーダー格がいるのではないかと、そうセトは思ったのだ。

 実際、そんなセトの判断は間違っておらず、その巣の中には他のサンダーハーピーよりも明らかに大きな個体がいる。

 一緒の巣にいる他のサンダーハーピーが普通の大きさなので、その比較によってリーダーの個体の大きさがよく分かる。

 それがこのサンダーハーピーの群れのリーダー格なのだろう。

 先程戦った狼の群れと比べて、明らかに他の個体よりも大きいだけに、この群れを率いるリーダーだというのが非常に分かりやすかった。

 セトはそれをしっかりと確認し、ここに来るまでの行動によって地中潜行を使い、リーダーのいる巣の真下まで来る。


「グルゥ」


 地中でようやくここまで来たと安堵に喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、レイから頼まれた今回の一件はかなり大変だった。

 それでもこうして大人しくしていたのは、レイからの頼みだったからだ。

 他にもセトも未知のモンスターの魔石を入手し、強くなりたいという思いがそこにはあったのかもしれないが。

 セトは強くなることを期待しながら、一気に行動を起こす。

 一気に地中から地上に出ると、即座に前足の一撃を振るう。

 先程確認した、サンダーハーピーのリーダーはその一撃であっさりと首の骨が折られ、死ぬ。

 そのまま周囲にいる他のサンダーハーピーに対しても翼刃を発動し、大きく身体を動かす。

 その場で一回転するという動きは、翼刃によって鋼の塊ですら切断出来るようになった翼がその場で一回転することを意味している。

 リーダーと同じ巣にいたサンダーハーピーは、その一撃によって容易に身体を切断された。


「グルルルルゥ!」


 レイが要望した最低限の数を倒したのを確認したセトは、周辺一帯に響くような雄叫びを上げる。

 王の威圧を発動した……のではなく、それは他のサンダーハーピーを追い散らすのが目的の行動だった。

 そんなセトの行動によって、多くのサンダーハーピーは即座にその場から逃げ出す。

 セトにとって意外だったのは、最初にサンダーハーピーと遭遇した時のようにセトに向かって雷を放つ個体がいなかったことだろう。

 てっきり自分の命を使ってでも雷を降らすのではないかと、セトは思っていたのだが。

 鳥が一目散に逃げ出すように、サンダーハーピーがそれぞれ別方向に散らばっていく。


「グルルゥ……」


 サンダーハーピーが逃げ散る様子に、セトは喉を鳴らすのだった。






「お、セトだな」


 丘から少し離れた場所にいたレイは、聞こえてきたセトの雄叫びと、何よりそのすぐ後に大量のサンダーハーピーが飛び立ったのを見て、そう呟く。

 セトに任せておいたので、大丈夫だろう。

 そう思ってはいたが、それでもセトが大丈夫か、上手くいくかどうかといったことを心配していたのだが、そんなレイの心配は必要なかったのだろう。


「さて、じゃあ行くか」


 そう言うと、レイは丘に向かって歩き出す。

 既に飛び立ったサンダーハーピーの姿はどこにもない。

 そのような状況なので、最初にサンダーハーピーと遭遇した時のように雷を落とされるようなこともないまま、丘を上がっていく。

 草が生えていない丘を進むのは少し面倒だったものの、それでもサンダーハーピーによる邪魔がない以上は全く問題はなかった。

 そうして歩き続け……やがて丘の頂上に到着すると、周囲の様子を確認する。

 レイに自覚はなかったが、それはセトがサンダーハーピーの群れに攻撃する前にやった仕草と似ていた。


「グルルルゥ!」


 周囲の様子を見ているレイの姿に気が付いたのだろう。

 サンダーハーピーの死体のある場所から、セトがこっちだよと喉を鳴らす。

 嬉しそうな様子なのは、ようやくサンダーハーピーを倒すことが出来たからだろう。

 群れを逃がす為には、何匹かの命を犠牲にするというサンダーハーピーの群れ。

 それを率いていたリーダーをも倒すことが出来たのだから、セトが嬉しそうなのは当然の話だった。

 レイもまた、セトに近付くと嬉しそうに笑みを浮かべて口を開く。


「よくやったな、セト」

「グルルルルルルルルルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに……本当に心の底から嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにとっても、地中潜行という殆ど使ったことがないスキルを使い、自分だけでサンダーハーピーの巣に突撃したのだ。

 セトの能力ならそう難しいことではなかったが、それでもこうして自分のやった事をレイに褒めて貰えるのは非常に嬉しかった。

 レイもそんなセトの気持ちは分かるので、笑みを浮かべて口を開く。


「さて、セトが頑張ってくれた結果を見せてくれ」


 そんなレイの言葉に、セトは嬉しそうにサンダーハーピーの死体を見せる。

 リーダーと思われる……つまり、上位種か希少種と思しき大きな個体が一匹。

 普通のサンダーハーピーが四匹。

 レイとしては、リーダーの個体はともかく普通の個体は二匹いれば十分だと思っていたので、そういう意味では希望した数の倍の四匹を倒してくれたセトには感謝しかなかった。

 もっとも、結局レイとセトが二つの魔石しか使わないのだから、残りの二匹の魔石や素材はギルドに売るなり、ミスティリングに収納するなりしておくことになるのだろうが。

 その素材や魔石については、ギルドに売るなり、あるいは何らかのマジックアイテムを作る時に使ったりといった風にレイは考えていた。


「ともあれ、解体をするぞ。セトはその死体をこっちに持ってきてくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に頷き、セトは五体満足なリーダーの死体と、翼刃によって胴体で切断された四匹のサンダーハーピーの死体をレイの側まで持ってくる。

 ……その際、五体満足なリーダーはともかく、胴体で切断された四匹は内臓が零れ落ちたりしていたのだが、これは仕方がない。


(仲間の内臓や血の臭いが染みついた……染みつかないか? とにかくそれが漂っているこの巣を、生き残りのサンダーハーピー達が使うかどうかは微妙なところだけど)


 臆病で慎重な性格をしているサンダーハーピーだ。

 一度襲撃され、しかもそこではリーダーや仲間が殺された場所である以上、再度この巣を利用するかと言われれば、レイとしても素直に頷くことは出来なかった。

 寧ろ、恐らくもう使わないだろうという予想になる。

 もっとも、それはレイには関係なかったが。

 魔石を入手すれば、もうサンダーハーピーを倒す必要はないのだから。


(あ、でもリーダーと同じように上位種か希少種になった個体がいたら、またちょっかいを出してもいいな)


 そんな風に思いつつ、まずは四匹のサンダーハーピーに向かって次々にドワイトナイフを突き立てていく。

 周囲に眩い光が生まれること、四度。

 その光が消えると、そこに残っていたのは魔石、羽根、爪……そしてガラス容器に入った内臓の一種と思しき器官。


「えっと……魔石と羽根、爪は分かるけど、この内臓はなんだろうな。サンダーハーピーだけに……もしかして、雷を起こす器官?」


 正確には分からないが、恐らくそうではないだろうかと思えるその内臓。

 とはいえ、結局のところレイがここでどうこう言っても意味はないのだが。

 どういう風に使うのかは、それこそ錬金術師辺りに調べて貰わないと、何とも言えない。

 ただ、何となく……本当に何となく気になったのだ。


(猫店長の店に行って聞いてみるか?)


 一瞬そう思ったレイだったが、猫店長はあくまでもマジックアイテムを売ってる商人であって、錬金術師のように自分でマジックアイテムを作れる訳ではない。

 そうである以上、何か希少なマジックアイテムに見えるからと、それを持っていっても困るだろう。

 あるいは猫店長なら錬金術師に伝手がある可能性も高いので、錬金術師を紹介して貰うといったことも考えたレイだったが、すぐにそれを否定する。

 ダンジョンがある以上、このガンダルシアにもそれなりに錬金術師が集まってきているのはレイにも分かる。

 分かるのだが、それでもどうせ頼むのであればより技量の高いギルムの錬金術師の方がいいだろうと思えたのだ。


(そうなると、夏か。……そう遠くないな)


 レイがガンダルシアに来てから、それなりの時間が経っている。

 レイがギルムに来たのは春になったばかりの頃だったが、今はもう初夏……と表現するのは少し早いが、それでもそう遠くないうちに初夏と言ってもいいようなくらいの季節だった。

 日本にいた頃のレイの認識では、五月の終わりから六月の初めくらいの季節くらいか。

 ……もっとも、レイが住んでいたのは東北の山の側だ。

 同じ季節であっても、例えば東京と比べると基本的には涼しいし、季節も遅れてやってくる。

 それは桜の咲くのを見れば明らかだろう。

 住んでる場所によっては、桜というのは卒業式の時に見る花であったり、あるいは入学式の時に見る花であったりする。

 だが、レイが住んでいた場所では、四月の末……咲き始めが遅い時は、それこそ五月の連休くらいでもまだ桜が満開といった時もあるくらいだ。

 そういう意味で、レイは自分が住んでいた東北の季節感がまだ残っていた。

 もっとも、この世界でそのようなことを口にしても、それこそゼパイル一門のタクムや、ベスティア帝国の元第一皇子のカバジード、あるいは穢れの巫女といったような限られた者達しかその辺に突っ込める者はいなかったが。


「グルルゥ?」

「ん? ああ、悪い。サンダーハーピーの内臓をどうしようかと思ってな。取りあえずミスティリングに入れておいて、後で何か出来ないか試してみたいと思う」


 セトはレイの説明を聞き、特に反論もなく頷く。

 セトにとってはサンダーハーピーの内臓についてはどうでもいいというのが正直なところなのだろう。

 そう思いながら、次にレイはサンダーハーピーのリーダーにドワイトナイフを突き刺すのだった。

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