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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3705/3865

3705話

「ふぅ」


 オアシスでレイは地面に……砂漠の階層ではあっても、水のある場所だからか植物の生えている地面に座り、息を吐く。

 先程までは何とかレイの関心を引こうとしていた二人の冒険者だったが、デスサイズを出されたことによって既にこの場にはいない。

 このままレイの側にいれば、本当にレイの持つデスサイズによって殺されてしまう……あるいは殺されなくても、攻撃されてしまうと判断し、仲間と共にオアシスから立ち去ったのだ。

 お陰で、現在このオアシスは静かだ。

 聞こえてくるのは、ダンジョンの中だというのにどこから吹いているのか、風によってオアシスの周辺に生えている植物が揺れる音くらいだろう。

 少し前までの雑音が消えたオアシスで、レイはゆっくりとした時間を楽しむ。


(元々はオアシスの水を求めて来るモンスターを倒そうと思っていたんだけどな、……あの連中のせいで、そういうのもやる気がなくなった。まぁ、たまにはこういうのもいいか)


 そう思い、地面に寝そべっているセトに寄りかかりながらリラックスするレイ。

 ここがダンジョンの中だとは、到底思えない光景だった。

 もしこの光景を見た者がいれば、それこそここがダンジョンかどこかではなく、ピクニックにでも来ているのではないかとすら思ってしまうような、そんな光景がそこには広がっている。


「グルルゥ……」


 寄りかかっているからこそ、レイはセトが喉を鳴らしたのをすぐに理解出来た。

 ゆっくりとした時間を邪魔する何かがやってきたのだろうと、不満を抱きながらも周囲の様子を確認するレイ。

 そこに広がっているのは、先程までと変わらないような、オアシスの光景。

 しかし、セトが周囲を警戒するように喉を鳴らした以上、そこには間違いなく何かがある筈だった。


「さっきの冒険者が戻ってきた……ってことはないか」


 少しだけそう思ったレイだったが、デスサイズを間近で見て、それでも先程の冒険者達が戻ってくるとは、レイには到底思えなかった。

 あるいは、自分達では倒せないモンスターと遭遇し、助けて貰う為にレイのいるオアシスに……そのモンスターに必ず勝てるだろうレイのいる場所にやって来たという可能性も否定は出来なかったが。


「それはそれで悪くないんだけどな」


 そう言いつつ、レイはセトに寄りかかった状態から立ち上がる。


「グルゥ」


 セトもそんなレイの行動に釣られるように、寝転がっていた状態から起き上がる。

 レイの感覚では、まだ誰が……あるいは何が近付いて来ているのかは分からない。

 分からないが、それでもセトの様子を見れば……具体的にはセトの見ている方に近付いてくる相手がいるのは明らかだった。


「トカゲ……? いや、足の数が多いな」


 やがて見えてきたその存在は、冒険者ではなくモンスターだった。

 外見からすると、巨大なトカゲ……レイが日本にいる時にTVで見たことがあるコモドオオトカゲのように思える。

 だが、体長が二m半ば程もある巨大さは、レイが知っているコモドオオトカゲよりも明らかに大きい。

 レイが日本にいる時にTVで見たのは、一mくらいの大きさだった。

 また、何よりもコモドオオトカゲと違うところがあるとすれば、それは足の数だろう。

 コモドオオトカゲは前足と後ろ足が各二本ずつの合計四本であるのに対し、近付いてくるトカゲはまるでムカデのように数え切れないくらいに大量の足がある。

 大量の足を使って歩いていて、よく足を引っ掛けないなと思えるような、大量の足が。

 その大量の足によるものか、トカゲの移動速度はかなり速い。

 砂の上を歩いているとは思えないような、そんな移動速度だ。

 だが……多数の足を持つトカゲは、不意にその動きを止める。


(こっちに……というか、セトの存在に気が付いたな)


 セトの持つ高ランクモンスターとしての格。

 それを察したトカゲが、一体どう出るか。


(逃げるか?)


 普通ならレイが考えたように、逃げてもおかしくはない。

 セトの存在を知りながら、それでも襲ってくるとすれば……それはゴブリンのように相手の存在について理解出来ないような者達か、あるいはセトの強さを理解した上で挑もうとする者か。

 もしくは、勝ち目がないと理解した上でもセトと戦わなければいけないものか。

 動きを止めたトカゲは、そのまま数秒……


「キシャアアアアアア!」


 やがて雄叫びを上げると、再び動き出す。

 オアシスに……セトに向かって走り出したその速度は、先程までの歩いていた速度の数倍はあろうかという速度だ。

 歩いている時もそうだったが、こうして走っていても大量の足がそれぞれ引っ掛かったり絡まったりすることなく、普通に走っているのはレイにとって驚きだった。

 とはいえ、未知のモンスターがこうして姿を現してくれたのだから、レイやセトにとっては悪くない話だった。


「セト、油断は……まぁ、セトに言うべき言葉じゃないと思うけど、油断はするなよ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に任せてと喉を鳴らしたセトは、オアシスに突っ込んでくるトカゲに向かって走り出す。

 レイから見ると、トカゲも十分に大きいが、それでもやはりセトの方が大きい。


「キシャアアアアッ!」


 セトとの間合いが十分に縮まったところで、トカゲは鳴き声を上げ……


「って、おい。カエルじゃないんだから。いや、トカゲと考えればカメレオンか?」


 鳴き声を上げたトカゲの口から放たれたのは、舌。

 レイが口にしたように、カエルやカメレオンの舌かと思えるように伸びてセトに向かう。

 だが、セトはそんな舌の攻撃を斜め前に跳躍することで回避し、そのままトカゲとの距離を詰める。


「グルルルルゥ!」


 十分に距離が縮まったところで、翼刃を発動。

 レベルが上がったばかりのスキルだけに、使い勝手を試してみたかったのだろう。

 翼刃を発動したまま、トカゲの横を通り抜け……


「うわぁ……」


 トカゲの身体が上下で切断されたのを見たレイの口から、そんな声が漏れる。

 トカゲが動いていなければ、切断された場所がずれたりはしなかっただろう。

 だが、トカゲもセトとの間合いを詰める為に走っていた。

 その為、上下で切断されたトカゲは、その切断面に沿って身体がずれていき……上半身がなくなっても、下半身は数歩進んだものの、やがて崩れ落ちる。

 当然ながら今のように切断されれば、トカゲの内臓は砂漠に撒き散らかされている。

 その光景は、気弱な者なら夢に見るだろう。

 あるいはトラウマにすらなるかもしれない。

 とはいえ、レイの場合はこのような光景に慣れているので、今のような声を漏らす程度だ。

 唯一心配なのは、サンドワームの時にドワイトナイフを使っても吹き飛んだ歯が素材として残らなかったことだろう。

 そうなると、トカゲの内臓が何らかの素材になるとしても、ドワイトナイフでどうにかなるとは思えなかった。


「グルゥ!? グルルルルゥ!」

「おい、セト? ……ちっ、タイミングが悪い!」


 最初レイは、何故セトがいきなり鳴き声を上げ、真っ二つにされたトカゲの死体に駆け寄ったのかが分からなかった。

 しかし、地面が盛り上がっているのを見た瞬間、何故セトがそうしたのかを理解する。

 同時に、レイは盛り上がった地面……サンドワームに向かって駆け出す。


「地形操作!」


 初めてサンドワームと遭遇した時と同じく、地形操作を行う。

 地中にいるサンドワームをどうにかするには、地形操作が最善の選択だった。

 ただ……先程は地形操作で上に吹き飛ばした時にセトがアイスアローを使ったが、今度は違う。


「地中転移斬!」


 地形操作によってサンドワームが地上に打ち上げられた次の瞬間、レイはデスサイズの刃を地面に向かって振り下ろす。

 本来ならデスサイズの刃が砂漠の地面に突き刺さるだろう。

 だが、スキルの地中転移斬を使った今は違う。

 地面に潜った刃、そのままサンドワームの胴体を真っ二つに切断する。


(うん、使い勝手は悪くないな)


 一度地中から出してしまえば、レイにはサンドワームを倒す手段は幾らでもある。

 そんな中でわざわざ地中転移斬を使ったのは、セトと同様に先程レベルが上がったばかりのスキルの使い心地を試してみたかったからだ。

 レベルアップした地中転移斬の使い心地に満足したレイは、切断されたサンドワームを見てからセトに声を掛ける。


「セト、オアシスでゆっくりしていきたいと思ったが、今はちょっと難しい。このままだと、また血や内臓、体液の臭いに他のモンスターが襲撃してくるぞ」


 サンドワームが姿を現したのは、トカゲが真っ二つに切断されて、内臓が地面に撒き散らかされた直後のことだった。

 それはつまり、サンドワームが何らかの方法でトカゲが死んだのを理解し、それを横から……いや、地中からということを考えると、下から掻っ攫おうとしたのだろう。

 そして同じようなことを考えているサンドワームが一匹とは限らないのも事実。


(俺達がいなくなった後でなら、餌を求めてサンドワーム同士、あるいは他のモンスターも含めて争っても構わないけど。あ、でもモンスターを倒すという意味では、悪くないのか? ……サンドワームだけが大量に来るとかだと、洒落にならないけど)


 そんな風に思いつつ、レイはサンドワームとトカゲにドワイトナイフを使う。

 サンドワームは以前と同じく、魔石、容器に入った内臓、歯が現れた。

 今回は頭部が無事だったことも影響してか、歯の数は以前よりも明らかに多い。

 そしてトカゲは、魔石に舌と容器に入った眼球、同じく容器に入った内臓が幾らかと、トランプのスペードのような形をした鱗。後は食用になるだろう肉が現れる。


「この鱗は一体何に……まぁ、素材のことは内臓もそうだし、俺が考えることじゃないか。後で何に使うのか分かったら使えばいいし」


 これが普通の冒険者なら、使い道の分からない素材は最悪捨て値で売るといったことになってもおかしくはない。

 だがレイはミスティリングがあるので、使い道が分からない素材であっても収納しておけば安く買い叩かれるようなことはなかった。

 もっとも、今でもミスティリングの中には今までレイやセトが倒したモンスターの素材が大量に収納されている。

 ミスティリングに収納されている物は、レイが知ろうとすれば脳裏にリストが表示されるので、自分で把握することも出来る。

 出来るのだが、それが具体的にどのくらいになるのかは……実際に出してみなければ分からない。

 それらがどれだけの価値があるのか、レイにも全く分からない。

 もっとも、いずれ使うかもしれないだろうと思い、今の状況を維持するつもりだったが。

 ミスティリングは収納出来る量が無限……あるいは無限ではなくても、今はまだ余裕で収納を続けることが出来るので、その辺についてはレイも特に気にしてはいなかった。


「グルルゥ……」


 レイの側にやって来たセトが、トカゲの肉を見て喉を鳴らす。

 美味そうに見えたのだろう。


「肉についてはまた後でな。……サンドワームはさっきデスサイズに使ったから、このサンドワームの魔石はセトが使って、トカゲの魔石はデスサイズに使う……ってことでいいか?」

「グルゥ? ……グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは少し悩んだ後ですぐに分かったと喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、どの魔石でも自分が使えるのならいいと判断したのだろう。

 トカゲの魔石も、もう一度トカゲが姿を現せば、それで入手出来るというのが大きい。

 レイもまた、セミがもう一度現れてくれないかと、そんな風に思ってはいたが。


「セト、ちなみに……今ここでこうしているけど、他のモンスターが出て来たりとか、そういう感じはしないか?」

「グルゥ? ……グルルルゥ」


 レイの言葉に、セトは周囲の様子を確認してから首を横に振る。

 それを見たレイは、安堵した。

 セトの感知能力でもモンスターが発見出来ないのなら、まずいないと思ってもいいのだから。

 もっとも、レイが倒したサンドワームのように、近くにいてもセトが発見出来ない場合もあるので、完全にセトに頼るのはどうかと思わないでもなかったが。

 それでもセトの方が感覚が鋭い以上、レイとしてはセトが他に敵がいないと言うのなら、それを信じるしかない。

 もっとも、レイにしてみれば既に魔石が二個入手出来たサンドワーム以外のモンスターであれば、来るのなら是非来て欲しいと思ったが。

 ダンジョンを攻略する上で、全種類のモンスターを二匹ずつ倒す……というのは、理想ではあっても実際にやろうとすれば難しい。

 それでも出来ればそのようにやりたいと思いながら、レイは魔石以外の素材をミスティリングに収納するのだった。

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