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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3704/3865

3704話

「幸先は悪くなかったな」

「グルゥ」


 レイの言葉にセトが同意するように喉を鳴らす。

 実際、四階に来て早々――という割にはそれなりに歩いたが――に魔石を二つ入手し、その二つの魔石を使ったセトもデスサイズもスキルレベルが上がったのだ。

 これはレイやセトにとっては非常に嬉しいことだ。

 四階にやって来た目的が、未知のモンスターの魔石を入手することだったのに、それがいきなり報われた形となったのだから。

 とはいえ、どうせ四階まで来たのだ。

 今の二つだけではなく、もっと他の魔石も入手したいというのがレイの正直なところだ。


(それに、サンドワームとセミの魔石が使えると理解出来た以上、それぞれもう一個ずつ魔石は欲しいし)


 セトはセミの魔石、デスサイズはサンドワームの魔石を使った。

 そうなると、セトがサンドワームの魔石を使い、デスサイズがセミの魔石を使うことも出来る。

 レイにしてみれば、それを狙わないという選択肢はなかった。


(サンドワームを倒す時、次は頭部をあまり破壊しないようにしないとな)


 サンドワームにドワイトナイフを使ったところ、歯も素材として残った。

 しかし、その歯はレイがサンドワームを倒す時に頭部を破壊……それこそ粉砕といった表現が相応しいような状況にした為、ドワイトナイフを使った時に残った歯は少なかった。

 解体については非常に便利なドワイトナイフだったが、それでもない物を素材として残すことは出来ないのだ。

 ……もっとも、内臓を始めとして保存する容器が必要な場合は、その保存容器を生み出したりも出来るのだが。

 そういう意味では、レイにとっては戦いの中で失った部位を素材として残すくらいのことは出来てもいいのでは? と思わないでもなかった。

 もっともそれが無理である以上、仕方がないとあっさり諦めたが。


「さて、他のモンスターを倒しに行くか。セト、どこにモンスターがいるのか分からないか?」

「グルゥ? ……グルルルゥ」


 レイの言葉に、セトは首を横に振って喉を鳴らす。

 セトにとっても、この広い中で具体的にどこにモンスターがいるのか見つけるのはそう簡単な話ではないのだろう。

 レイはそんなセトの様子に、気にするなと軽くその身体を叩く。

 レイも、出来たらいいなといった程度でセトに聞いたのだから。


「気にするな、セト。このまま適当に歩いて移動すればいい。……そうだな、オアシスに向かってみるか?」


 マティソンから貰った地図には、当然ながら四階についてもしっかりと記載されている。

 その地図の中でレイが少し気になったのは、オアシスだった。

 普通の砂漠でも、オアシスというのは多くの生き物が棲息している。

 周辺が砂漠という過酷な環境だからこそ、オアシスにはその分、多くの生き物が集まるのだろう。

 それはつまり、オアシスに行けば何らかのモンスターがいるかもしれないということを意味しており、それを聞いたセトはやる気満々といった様子で喉を鳴らす。


「グルゥ!」


 そうしてレイはセトの背に乗ってオアシスに向かったのだが……


「また、面倒そうなことに」


 視線の先にはレイが目指していたオアシスがある。

 それは間違いないのだが、そこには十人近い冒険者達の姿があった。

 これが例えば特に何もなくオアシスで休んでいるだけなら、レイも特に気にしたりはしないだろう。

 だが、オアシスにいる十人程というのは二つの集団を合わせてのことで、その二つの集団は双方共に殺気だっており、中には武器を抜いている者すらいた。


「グルゥ?」


 どうするの? と喉を鳴らすセト。

 そんなセトに、レイはどうするべきか迷うも……いつまでもこのままにという訳にもいかない以上、息を吐いてからセトに向かって口を開く。


「このまま進んでくれ」


 トラブルに巻き込まれたくないのなら、例えば殺気だっている者達を避けて、別の方向からオアシスに行くという選択肢もあるだろう。

 あるいは、レイとしては絶対にオアシスに行かないといけない理由がある訳でもない以上、オアシスに行くのを止めるといった選択肢もある。

 だが……元々がレイは自分がトラブル誘引体質であると知っている。

 もしここでそれらの選択をしても、後々トラブルに巻き込まれるだけだろうという思いがそこにはあった。

 ……そして、それ以上にオアシスに行くのに邪魔をされるのが苛立つという思いがあった。

 オアシスの近くにいる二組のパーティが、一体どのような理由で揉めているのかはレイにも分からない。

 分からないが、だからといってそのせいでオアシスに行くのを邪魔されたり、わざわざ遠回りしてオアシスに行くのは面倒だと思い、そのままセトに進むように言う。

 セトにとっては少し遠回りするくらいはどうということはないのだが、レイが言うのなら……と、特に逆らったりせずオアシスに向かって進み始める。

 言い争い……あるいは本当に力でぶつかり合おうとしていた冒険者達に向かうセト。

 最初は目の前の相手のことしか見えていなかった冒険者達だったが、それでも体長四m程のセトが歩いて近付いてくれば、さすがに気が付く。

 最初に気が付いたのは、冒険者達の中でも端の方にいた者達。

 セトの存在に気が付くとそちらに視線を向け、その動きが固まる。

 そんな仲間、あるいは敵の様子に気が付いた者達もレイとセトに視線を向け、動きを止める。

 ここで自分が動けば、セトによって攻撃されるかもしれないと、そのように思ったのだろう。

 実際にはセトがそのようなことをする筈もないのだが、セトについてそこまで詳しくない者であれば、そのように思っても仕方がなかった。

 それこそセトの存在だけに目を奪われ、そのセトの背に乗ったレイに気が付いていない者すら、そこにはいる。

 そんな中、堂々と冒険者達の間を通りすぎるセト。

 セトの身体の大きさから、冒険者達が邪魔になったりもするのだが、セトが近付くと邪魔になっている冒険者達は、動かない身体を無理矢理動かして場所を空ける。

 そうして空いた隙間をセトはオアシスに向かって移動する。

 悠々と移動するその様子は、まさに高ランクモンスター故の迫力があった。

 殺気立っていた冒険者達の姿は、既にそこにはない。

 セトの前で下手に動いたりしたら、それこそ自分達がセトに殺されてしまうのではないか。

 そのように思い、全く動く様子がない。

 そうしてセトはオアシスに近付く。

 セトの背の上で、レイもまたオアシスの様子を眺める。

 オアシスそのものは以前寄ったことがある。

 だが、このガンダルシアにある四階のオアシスは初めてなので、こうして周囲の様子をしっかりと窺っているのだ。


「うん、特に何も問題はないな。……モンスターの類もいないし」

「グルゥ」


 レイの言葉にセトが同意するように喉を鳴らす。

 そんなセトの背の上からオアシスを眺めるレイ。

 オアシスの広さそのものは、それなりだ。

 二十五mプール程度の広さというのがレイがオアシスを見ての印象だった。

 勿論、プールのような形をしている訳ではない。

 大雑把に見れば楕円形といった感じだが、その端々では違う形になっていたりもする。

 また、オアシスらしく周囲にはそれなりに多くの植物が生えてもいた。


「てっきり、水を求めてモンスターがいると思ったんだけどな」


 モンスターといえども、生きる上で水は必要な筈だった。

 とはいえ、全てのモンスターが必ずしもそうでないのはレイも知っているが。

 それこそモンスターの中には、水を飲まなくても全く問題がない……そんな存在もいるのだから。

 あるいは水分が必要なのは数日、数十日、数百日に一度でいいというモンスターもいるが。


「少しここでゆっくりとするか」

「グルゥ? ……グルルルゥ!」


 レイの言葉に嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 未知のモンスターを倒すのを目的として四階にやって来たレイとセトだったが、オアシスでゆっくりとするのも悪くないと思ったのだろう。

 そうしてオアシスの前でゆっくりとすること、十分程。

 オアシスの光景を楽しんでいたレイだったが、自分の方に近付いてくる気配に視線を向ける。

 するとそこには、二人の男の姿があった。


「何か用か?」

「いや、その……あんたは深紅のレイで間違いないか?」


 レイの言葉に、片方の男がそう尋ねる。

 最初はセトの存在に圧倒されていた冒険者達だったが、それでもある程度の時間が経過したことで、動けるようになった。

 二人にとってお互いは犬猿の仲という認識だ。

 しかし、それでも争いを中断する必要がある程に、セトの存在は放っておくことは出来ない相手だった。

 その為、二つのパーティのリーダーが一緒にレイに声を掛けてきたのだろう。

 また、ある程度時間が経って落ち着いたことから、セトの背に乗っていたレイが深紅の異名を持つ冒険者だと認識出来たのも、二人一緒に声を掛ける理由としては十分だった。

 異名持ちのランクA冒険者に一人で声を掛けろと言われていたら、恐らくこの二人はどちらもが怯んでいただろう。

 だからこそ、ここは二人揃って……何かあったらお互いがお互いを盾として使おうといったように思いながら、レイに声を掛けたのだろう。


「ああ、そうだな。セトを見れば分かるだろう」


 素っ気なく言うレイ。

 これでもしこの二人が率いるパーティが友好的な関係を見せていれば、レイもここまでは素っ気ない態度を取らなかっただろう。

 だが、見るからに面倒なことになりそうだというのは、明らかだった。

 だからこそ、そういう面倒を持ってくる相手に対しては、レイも友好的に接するということはなかったのだろう。

 ……これが例えば、知り合いであればもう少し違う対応をしたかもしれないが。

 幸か不幸か、オアシスの前にいた冒険者達は全員レイの知らない相手だった。


「その……異名持ちが四階なんかに何の用件で?」

「ちょっとした用事でな。別に四階にいてもいいだろう?」

「勿論、文句はないさ」


 その言葉に、もう一人の男も即座に同意するように頷く。

 ここでレイを怒らせるようなことは、絶対にしてはならないと理解しているのだろう。

 だからこそ、先程までは一触即発の状態だったにも関わらず、今はこうしてレイを前にお互いに敵意を見せてはいないのだ。


「なら、いいだろう? それとも俺に何か用事があるのか? それならそれで、用事を聞くか?」

「あ……いや。そんなつもりはない。ただ、ちょっと……本当にちょっと気になっただけだからな。その、レイのような有名人がここで何をしてるのかって。用事があるって話だったけど、俺が手伝えるのなら手伝うけど、どうする?」

「おい! ……俺も手伝うことがあったら手伝おうか?」


 レイの関心を引きたいのだろう男の言葉に、今までは黙っていたもう一人の男も思わず反応する。

 このままでは、もしレイと友好的な関係を築けるとしても、自分達が出遅れてしまうと、そう思っての反応だったのだろう。

 しかし、レイはそんな二人に対して興味の欠片も抱いていない視線を向ける。


「別にそういうのはいいから、とっとと消えてくれ」


 正直なところを言えば、この砂漠にどのようなモンスターが出るのかというのをレイとしては聞きたい。

 だが、もしここでそのようなことを聞けば、それを理由にこの二人に……あるいはこの二人が率いるパーティが恩に着せるといったようなことを言ってきかねない。

 そうなると、一応仮にでも恩がある以上は、レイとしてもそれを無下には出来ないだろう。

 だからこそレイは二人の要望をスルーし、今のように適当に返事をしたのだ。

 しかし、そんなレイの希望とは裏腹に、二人の男はあっさりと退くようなことはない。

 何としてもレイから話を聞き、自分達にとって利益が出るようにしたいと、そう考える。


(邪魔だな)


 そんな二人の考えを全て察したという訳ではないものの、それでも今のままではこの二人に付きまとわれそうな気がしたレイは、ミスティリングからデスサイズを取り出す。


『っ!?』


 突然のレイの行動に、二人の冒険者は息を呑む。

 いきなり一体何を……と、そのように思ったのだろう。

 あるいはそのように思うことも出来ず、ただ目の前に現れた強大な刃に何も考えることが出来なかったのか。

 その理由はどうあれ、デスサイズを前に何も出来なくなったのは間違いない。

 そんな二人に視線を向けると、レイは全く興味を抱いていないといった様子で口を開く。


「消えろ」


 先程の、仮にも頼むといった様子での言葉ではなく、そこにあったのは明確な命令。

 そんなレイの命令に、二人の冒険者は何も言えず、そのまま急いでその場から走り去り、仲間を引き連れてオアシスから姿を消すのだった。

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