表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3691/3865

3691話

 レイの家で行われてた夕食会……と評する程に大袈裟なものではなかったが、とにかくその食事が終わると、フランシスとイステルはすぐに帰ることになった。

 元々この二人がここに来たのは、あくまでも明日冒険者育成校に連れていくセトを自分の目で見て確認する為だ。

 ……実際には来るのはフランシスだけの予定だったが。

 そこにイステルが割り込んだ形だ。

 ともあれ、最大の目的は果たした。

 二人揃ってセトの愛らしさにやられてしまったが。

 問題なのは、その後の食事。

 最初は特に問題なく食事が出来ていたのだが、そんな中でレイが口にした言葉……セトが希少種で、ランクS相当の扱いとなっているということ。

 これにはフランシスもイステルも心の底から驚く。

 だが、イステルは驚くだけでよかったが、学園長であるフランシスの場合はそうもいかない。

 希少種のセトがいる冒険者育成校の厩舎を、どうやって守るかということを考えなければならなかったのだから。

 結局はギルドに能力は勿論、性格的にも優秀な冒険者に指名依頼をするという形で収まったが。

 そんな訳で、夕食が終わってフランシスとイステルが帰ると、レイは庭でセトと共にゆっくりとしていた。


「グルルルゥ」


 レイと一緒にいることが嬉しく、喉を鳴らすセト。

 そんなセトの様子にレイも笑みを浮かべつつ、セトに身体を預けて空を見る。

 既に空は暗く、月と星が瞬く。


(多分、こういうのも幸せなんだろうな)


 特に何かをする訳でもなく、セトと一緒に夜の庭で月と星を見上げる。

 空腹でも寒くもなく、病気といった訳でもない。

 いたって健康な現在の自分の状況に、レイは思わず笑みを浮かべる。

 そんな笑みを浮かべつつ、ふとレイはミスティリングから対のオーブを取り出す。

 そして起動すると……


『あら、レイ? どうしたの?』

「マリーナ?」


 てっきりエレーナが出るかと思ったのだが、予想外なことに対のオーブに映し出されたのはマリーナだった。


『エレーナは今ちょっと疲れて眠っているのよ』

「あー……うん。何となく理解出来た」


 春となった今、ギルムには多くの者が集まってきている。

 そもそもレイがガンダルシアに予定より早く来たのも、春になってギルムにやって来た者達の中にクリスタルドラゴンの件でレイと接触しようとする者がいたからというのが大きな理由となる。

 そんな自分の状況を考えると、姫将軍の異名で周辺諸国に知られているエレーナがギルムにいると知れば、面会をしようとする者は多いだろう。

 去年面会した者であっても、今年の面会はまた別と考えている者。

 今年初めてギルムに来て、何とかエレーナと会おうとする者。

 他にも色々な理由でエレーナと面会をしたいと思っている者がいてもおかしくはない。

 勿論、エレーナも面会を希望する全員と会うということは出来ない。

 それでもエレーナの性格からして……また、貴族派を代表してギルムにいる者として、全員に会うのは無理でも出来るだけ多くの者には会いたいと思うだろう。

 その結果が、今の状況だった。


『どうする? もしエレーナに何か緊急の要件があるのなら、すぐに起こすけど』

「いや、別にそこまでしなくてもいい。ただ、ちょっと……夜空を見上げていたら、何となく声を聞きたくなっただけだし」

『あら? エレーナの声だけを聞きたかったの?』

「いや、別にエレーナだけって訳じゃない。ただ、エレーナに連絡をすれば全員の声が聞こえるとは思ったけど」

『ふーん。まぁ、いいわ。けど、この前も話したばかりなんだから、そこまで声を聞きたくならなくても……なるほど、寂しかったのね?』


 からかうように言ってくるマリーナだったが、レイはセトに寄りかかりながら少し考え、頷く。


「もしかしたらそうだったのかもしれないな」

『何よ、張り合いがないわね』


 残念そうにマリーナが言う。

 マリーナにしてみれば、もう少しレイと今のやり取りをしたかったのだろう。

 だが、レイにその気がないと知ると、すぐにそれを諦める。


「今はそういう気分じゃないんだよな」

『ふーん。まぁ、そういうことにしておいてもいいけど。それより、そっちでは何か変わった事はあった?』

「変わったことか。明日からセトを学校に連れていってもいいことになったな」

『あら、それはおめでとう……と言えばいいのかしら?』

「喜ばしいことなのは間違いないと思う。……それで問題になったのが、生徒や教師、教官……あるいはそれ以外の者でセトに妙なちょっかいを掛けてくる奴がいるかもしれないから、厩舎の護衛が必要ってことになったんだが、フランシス……学園長の精霊魔法では無理だったんだよな」


 そんなレイの言葉に、対のオーブに映し出されたマリーナは呆れの表情を浮かべる。


『それは当然でしょう? 自分で言うのもなんだけど、私の精霊魔法はちょっと他とは違うんだから。そういう意味でも、他の精霊魔法使いを私と一緒にするのはどうかと思うわよ』

「だろうな。それは今日、しみじみと分かったよ」


 レイもマリーナの精霊魔法が圧倒的なまでの力を持っているのは知っている。

 それこそ、他に類を見ないという表現はこういう時に使うのだろうと思える程に。

 だが、それは知っていたが、それでもこうして改めて他の精霊魔法使いと比べると、改めて驚くのだ。


『私の重要さが理解出来た?』

「それは前から理解しているよ。……ああ、そう言えば夏の件についてダスカー様に話を通してくれたか?」


 夏の件、それはレイが夏にギルムに戻る時、生徒を数人と付き添いの教官を連れていく一件についてだ。

 ガンダルシアの冒険者を連れていくのだが、本来ならこの件でわざわざ領主のダスカーに許可を取る必要はない。

 しかし、レイは自分がトラブル誘引体質であることを知っている。

 そんなレイだけに、生徒達や教官を連れてギルムに行けば、恐らく……いや、ほぼ確実に何らかの騒動に巻き込まれるだろうと予想出来てしまう。

 ギルムに行く者達は何があっても自己責任というのを承知の上で行くのだが、それでも何かあった時にフォロー出来るように準備しておくことは必要だった。

 そんなレイにしてみれば、ダスカーと交渉をするのにマリーナ程の人物はいない。

 何しろ、マリーナはダスカーが子供の頃から知っている。

 その中で様々な……それこそ黒歴史と呼ぶのに相応しいものを知っている。

 勿論、ダスカーもギルムの領主として……そして中立派を率いる者として、ギルムに不利になるようなことであれば、幾ら黒歴史の存在があってもマリーナの要請に従うことはない。

 だが、それはつまりギルムに不利益とならないのなら、話は別ということになる。

 そして今回レイが生徒達や教官を連れていくのは、決してギルムにとって不利益ではない。

 だからこそ、ダスカーはマリーナから話を持ってこられても、問題はないと思っていたレイだったが……


『ああ、その件については特に問題ないらしいわね。これを機会に、ガンダルシアと友好関係を結べれば、ギルムにとっても悪くないことだし』

「助かる。……けど、ギルムにとって本当に悪くないことか? いや、より正確には、利益があるのか?」


 レイにしてみれば、ギルムとガンダルシアの間で何らかの友好関係を結んでも、そこまで利益があるとは思えない。

 ガンダルシアがグワッシュ国というミレアーナ王国の保護国の一つという時点で、純粋な力関係ではギルムの方が圧倒的に上になるだろう。

 ましてや、例え友好関係を結んでもギルムとガンダルシアでは、移動するのに片道で下手をすれば年単位の時間が必要になる。

 途中で盗賊や腐敗した貴族によるトラブルに巻き込まれることを考えると、片道だけでも無事に辿り着けるかどうかも分からない。

 レイの場合は、セトに乗って飛んでいるので片道数日程度だが、それは色々な意味で例外だろう。

 つまり、もし友好関係を築いても、人の行き来は難しい。

 対のオーブの類を使えばやり取りは出来るが。

 実際にレイを教官として招くのには、対のオーブや召喚魔法やテイマーの従魔による鳥や空を飛ぶモンスターを使った手紙によるやり取りで話は纏まっている。

 だが、実際に人の行き来が難しいとなると、友好関係を結んでも役に立つのかどうか、レイには分からなかった。

 率直にその辺の事情について尋ねると、マリーナは少し考えてから口を開く。


『まず第一に、ガンダルシアが迷宮都市というのが影響してるでしょうね。例え保護国であっても……いえ、保護国だからこそと言うべきかしら。冒険者の集まる迷宮都市とギルムの関係を深めておくのは悪い話じゃないわ。レイがガンダルシアに教官として派遣されたのも、その一環と見ることが出来るしね』


 その言葉に、それもそうかとレイは納得する。

 レイにしてみれば、迷宮都市にあるダンジョンを攻略したり、冒険者育成校の教官として生徒達と模擬戦をやるといったことを考えてはいたものの、レイを送り出したダスカーには何か別の目的があってもおかしくはなかった。

 もっとも、それを聞いても別にレイは怒りを覚えたり、騙されたと思ったりはしない。

 ダスカーにしてみれば、レイを教官として送り込むのに手間暇を掛けたのだ。

 その理由がクリスタルドラゴンの一件であったとしても、そこまで手間暇を掛けた以上は、相応に自分に、そしてギルムに対するリターンを求めるのはそうおかしな話ではないのだから。


「迷宮都市というのが影響……? それはもしかして、ギルムにもしダンジョンが出来た時に迷宮都市にする為に色々と知りたいとか?」

『まぁ、それもないとは言わないでしょうけど……そうなる可能性はかなり低いわよ?』

「だろうな。それは俺もそう思う」


 そもそもダンジョンが出来るのがランダムなのだ。

 それが偶然ギルムに出来るという可能性がどれだけ低いのか。

 その可能性が皆無とは言わない。

 実際、ギルムからそう離れていない場所にはレイがエレーナと会う理由となった継承の祭壇や、意識を失ったヴィヘラを目覚めさせたダンジョンがあったし、ガメリオンが大量に中に入り込んだダンジョンもあった。

 そう考えれば、ギルムにダンジョンが現れる可能性は決してゼロではない。

 ……もっとも、都合よくギルムの内部にダンジョンが現れ、しかもそれが攻略するのに長い時間が掛かるようなダンジョンになる可能性が限りなく低いのは間違いなかったが。


『まぁ、それでも迷宮都市のノウハウはあって悪いことじゃないでしょうし。それに……テイマーの訓練所というか、学校を作るという話もあるから、その時に冒険者育成校が参考になると思ったんじゃない?』


 マリーナのその言葉は、レイを納得させるのに十分だった。

 ダスカーがテイマーを育てたいと思っているのはレイも知っているし、以前少しだけだが学校についての話をしたこともあったのだから。


「って、ちょっと待った。そうなると、もしかして俺がそのテイマーの学校の教官として働くことになるのか?」


 それはちょっと遠慮したいというのが、レイの正直な気持ちだ。

 今は冒険者育成校の教官をやっているが、それはあくまでも臨時のものだからというのが大きい。

 また、冒険者としてダンジョンに挑むなりなんなりする時は、教官としての仕事を堂々と休めるというのもレイにとっては好都合だった。

 だが、冒険者育成校を参考にしてテイマーの学校を作ろうとした場合、当然ながら実際に冒険者育成校を知っているレイが中心になるだろう。

 そうなると、忙しくなるのは間違いない。

 それもレイが好まない意味での忙しさだ。


(というか、そもそもテイマーというのは才能や感覚が全てだ。学校を作っても、初歩的な浅い内容を教えるくらいしか出来ないと思うんだが)


 Aという人物がモンスターをテイムした方法を、Bという人物が同じ方法でテイム出来るかと言えば、それは否だ。

 Aというモンスターをテイムした方法が、Bというモンスターにも通用するかと言えば、それも必ずしも通用はしない。

 テイマーの学校を作るというのは、レイにしてみれば何らかの意味がある行為だとは思えなかった。

 もしテイマーの学校を作っても、成果を出せずに潰れる未来しかレイには見えない。

 もっとも、ダスカーもテイマーの学校を作ろうと考えているのなら、その辺については調べている筈であり、レイと同じ結論となってもおかしくはないのだが。


(あるいは、テイマーじゃなくて召喚魔法の学校? ……そもそも魔法を使える者の数が少ないんだから、その中で召喚魔法限定というのは、それはそれで疑問か)


 テイマーと比べられることも多い召喚魔法についての学校かとも思ったが、それはすぐに否定する。

 そんな風に思いながら、レイは暫くマリーナと会話をするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ