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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3658/3865

3658話

「取りあえず、このままここにいても仕方がないし、進むか。聞いた話によれば、五階には転移水晶もあるって話だから、出来ればそっちにも登録したいな」

「グルゥ? グルルゥ、グルゥ、グルルルゥ?」


 レイの言葉を聞いたセトが、不思議そうに喉を鳴らす。

 オークの希少種に遭遇した三人は、何故その転移水晶を使って脱出しなかったのかと、そう疑問に思っているのだ。


「多分、オークの希少種と遭遇した場所からは階段の方が近かったんだろうな。転移水晶に向かっていれば、死んでいたのかもしれない」

「グルゥ……」


 微妙に納得出来ない様子で喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、希少種とはいえ、オークくらいは自分で楽に倒せると思っているからの態度なのだろう。

 ただし、先程の三人と高ランクモンスターのセトを一緒にする訳にはいかない。


「ほら、セト。とにかく進むぞ。森だから、敵を見つけるのは難しくなる。セトの感覚が頼りだ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 大好きなレイに頼られているのが、セトにとっては嬉しかったのだろう。

 実際、一階の草原、二階の荒れ地、三階の草原、四階の砂地のような場所と違い、この五階は一面が森だ。

 草原の階層にも果実のなる木があったが、それは階層全体で見ると限られた場所だけでしかない。

 そのような場所とは違い、この五階は全面的に森だ。

 そこら中に木々が生えている。

 あるいはこれで、冬の木々といったことなら葉っぱも枯れているのである程度視界は良好なのかもしれないが……残念ながら、ダンジョンの木々は青々と茂っている。

 その青々と茂っている葉が、余計にレイ達の視界を遮っていた。


(とはいえ、ダンジョンの中には季節がある訳じゃないから、冬にこの階層に来てもこのままなんだよな)


 そのようなダンジョンの特性を利用し、暑い時は涼しい階層に、寒い時は暖かい階層で行動するというのは、このダンジョンではなく、どこか他のダンジョンでだったがレイも聞いたことがあった。


「取りあえず進むか。……こういう場所での戦いはあまり得意じゃないんだけどな」


 木々が生えているということは、それだけ使えるスペースが限られているということになる。

 建物の中と比べれば、ある程度の広さはあるものの、不規則に木々が生えているだけに、そこでデスサイズや黄昏の槍といった長物は使いにくい。

 勿論、レイの腕力があれば半ば強引に武器を振るうことも出来るし、デスサイズの刃や黄昏の槍の穂先の鋭さがあれば、そこまで強く力を入れなくても触れた木々を切断することが出来る。

 しかし、レイの力やデスサイズ、黄昏の槍の鋭さがあっても、木々を切断するだけ、どうしても攻撃の速度は遅くなってしまう。

 ここが五階である以上、敵はそこまで強くはないと思われるが……それでも万が一がある。

 特に今回はオークの希少種と戦うのだ。

 そうなると、やはりここは何が起きてもいいように対処する必要があった。


(となると、デスサイズを使った普通の攻撃ではなく、スキルを使った戦闘方法にした方がいいな)


 そう考えつつ、レイはセトと共に森の中を進み始める。

 ただし、明確に目的地がある訳ではない。

 あくまでもレイ達の目的はオークの希少種だ。

 そうである以上、森の中を歩き回ってオークの希少種を見つける必要がある。


(あ、でもそうだな。……セトがいると、それこそオークの希少種もセトとの格の違いを察知して、こっちから逃げたりするのか?)


 希少種であっても……いや、普通のオークよりも強い希少種だからこそ、セトには勝てない。遭遇すれば死だと判断し、逃げ出してもおかしくはなかった。


「セト、俺と別々に行動するか? オークの希少種がセトを見つけたら、セトが強すぎて近付いてこない可能性がある」

「グルゥ? ……グルルルゥ」


 自分が強すぎてオークの希少種が怖がるというレイの言葉に、微妙な様子で喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、レイと一緒にいられないのは残念という思いが強い。

 だが同時に、自分が強いからオークの希少種が怖がって逃げているというレイの説明に、自尊心を刺激されるのも事実。

 最終的には、レイからの頼みということもあってセトはレイと離れて行動することになる。


「悪いな、セト。オークの希少種を倒したら、一緒に食べよう」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトの気分は一瞬にして前向きになる。

 レイと一緒にオークの希少種の肉を食べるというのは、セトにとってそれだけ楽しいことに思えたのだろう。


「セトなら大丈夫だとは思うけど、もし他の冒険者に遭遇しても攻撃したりはするなよ。最悪逃げてもいいから」

「グルルゥ、グルゥ!」


 セトはレイに向かって分かったと喉を鳴らすと、自分だけで森の中を進んでいく。

 セトの後ろ姿を見送ったレイは、セトの姿が見えなくなったところで自分も進み始める。

 向かったのは、セトとは違う方向。

 もしオークの希少種がセトの存在を怖がり、離れて行動しているのなら、セトの向かっていない方に姿を現すのではないかと思った為だ。

 実際にそれが正しいのかどうかは、レイにも分からない。

 だが、もしセトを怖がっているというレイの予想が外れていても、五階の森の中を活動するオークの希少種を見つけるのに、手分けをするというのは決して悪い選択ではない筈だった。


「さて、出来れば早く見つけたいところだけど……どうだろうな」


 セトと別行動をしている以上、もし他の冒険者とセトが遭遇したらと思うと、それなりに心配はある。

 セトの強さを考えれば、五階で活動しているような冒険者が攻撃をしても、容易に回避出来るだろう。

 それはレイも分かっているが、四階で見つけた二人組の冒険者のことを思い浮かべると、本来ならもっと深い階層を探索している冒険者が、何らかの理由でこの五階に来ているという可能性も否定は出来ない。

 ましてや、この五階は森が広がっている階層だ。

 そうなると、素材の類もそれなりに多いだろう。

 だからこそ、レイとしては出来るだけ早くオークの希少種と遭遇して倒し、セトと合流したかった。

 セトなら大丈夫だとは思っていても、それでも万が一……と、そのような心配があるのも間違いない。

 そうして気が急いていたからだろう。

 がさり、とレイの進行方向にある茂みが揺れて、初めてレイはそこに誰かがいるのに気が付き……


「ちっ!」


 ヒュン、と。

 そんな音と共に飛んできた矢を回避する。


「下手くそが!」

「うるせえなっ! まさかこの距離で回避するなんて……こいつは腕利きだから、気を付けろよ」


 そんな会話がレイの耳に聞こえている。

 そして聞こえてきた内容から、自分の身に何が起こっているのかをすぐに理解した。


(冒険者狩りか。森の階層ということを考えれば、こういう奴がいてもおかしくはないけど)


 今のように、茂みに身を隠す、あるいは木の枝で待ち伏せし、生えている葉っぱで身を隠すといったことも出来る。

 そういう意味では、この五階は冒険者狩りをするのに適しているのだろう。

 一階から四階に比べれば、明らかにこの五階はそういう行為に向いている場所だった。


「出てこい。奇襲に失敗した以上、もう正面から俺を倒すしかないだろう?」


 がさり、と。

 レイの言葉に、弓が射られた茂みから二人の男が姿を現す。


(二人か。……四階で見た二人と比べると、圧倒的に劣ってるな。いやまぁ、この五階でこうして待ち伏せをしているんだから、それなりの実力者ではあるんだろうが)


 レイは弓を持った男……いや、弓をその場に捨て、短剣を構えた男と、長剣を持った男を見る。

 そんな二人は、レイを見ると露骨に嘲笑を浮かべた。


「幾ら深紅のレイが来てるからって、何で大鎌以外に槍も持ってるんだ? しかも片手で持ってる時点で、その大鎌は見せ掛けだけの奴だろ」

「ああ、なるほど」


 この二人も、自分の……深紅の存在については知ってるのかと、レイは納得する。

 ただし、手に入れている情報は最新のものではない。

 レイがデスサイズだけではなく、黄昏の槍も同時に使う二槍流となってから、それなりに時間が経つ。

 大鎌と槍の両方を使うというのは、客観的に見て非常に珍しい。

 そんな二槍流についての情報も、今ではそれなりに流れている。

 そうである以上、情報収集をこまめにしていれば、それを知ることも出来る筈なのだ。

 ……もっとも、このグワッシュ国はミレアーナ王国の保護国という立場だ。

 色々な情報は入ってくるが、その情報の鮮度は決して高くはない。

 また、噂というのは広がっているうちに自然と大きくなっていく。

 大鎌と槍を使うという情報も、その手の情報だと判断されて最初から信じられないようなことになっていても、おかしくはなかった。とはいえ……


「この手の馬鹿はどこにでもいるんだな」


 嘲りの表情を浮かべている相手に、同様の……あるいはそれ以上の嘲りの笑みを浮かべつつ、そう言う。

 それが男達には気に食わなかったのだろう。

 レイを睨み付け、恫喝する。


「てめえ……そんなハッタリで俺達が引き下がると思ってるのか? いいか? お前は俺達の気分次第では、ここで死ぬんだぞ? それを理解した上で、そんな言葉を口にしてるのか?」

「元々俺を逃がすつもりもないのに、説得力がないな。とはいえ、お前達みたいな連中は、俺にとってはそれなりに好ましい」


 盗賊狩り的な意味で。

 そう口にするレイを見た二人は、ここでようやくおかしいと疑問を抱く。

 幾らハッタリを使っていても、レイがここまで平然としているのは少し違和感がある。

 また、レイが口にした盗賊狩りという言葉にも違和感を覚えた理由だった。

 普通なら、そのような言葉を嬉しそうに言うとは思えないのだ。

 そんな諸々から、もしかしたら……本当にもしかしたらだが、目の前にいる男はレイなのではないかという疑問を抱く。

 だが、二人揃ってすぐにその考えを否定する。

 それは明確な理由があってのものではない。

 もし目の前にいるのが本当にレイだとしたら、自分達にとって都合が悪いからだ。

 そうならないように、目の前の男はレイ……深紅のレイではない。

 半ばそう自分に言い聞かせる。

 そんな男達の様子に、レイは呆れの視線を向ける。

 二人の男が何を考えているのかを予想するのは、レイにとってそんなに難しくはない。

 何故なら、それこそ今まで多くの盗賊を狩ってきたレイだったが、その多くが同じような行動をした為だ。

 もっとも、大半はレイとセトが一緒に行動してるので、レイではないという盗賊達の淡い期待はあっさりとへし折られることになったが。

 しかし、幸か不幸かここにはセトがいない。

 ……そもそもセトがレイと一緒に行動していれば、この二人もそれがレイだと……深紅だと思い浮かび、襲撃しようとは思わなかった筈だ。

 そういう意味では、この二人は不運だったのだろう。


(だからといって、情けを掛けるつもりはないけど)


 男達の様子からして、こうした冒険者狩りは初めてという訳ではないだろう。

 一連の動きには手慣れている者特有のスムーズさを感じさせる。

 そのような者達である以上、レイが助ける必要はなかった。

 ここで殺してしまってもいいし、生け捕りにして犯罪奴隷として売り払ってもいい。

 どちらにするべきかと考えていると……


(ん?)


 こちらに近付いてくる者の気配を感じる。

 一瞬セトか? とも思ったが、それは違う。

 レイがセトの気配を間違う筈がない。

 近付いてくる気配は、明らかにセトのものではない。

 それでいながら、結構な強さの気配。


(これは……もしかして当たりを引いたか?)


 そう思うも、この面倒な時にという思いもそこにはあった。

 これがこの二人と遭遇する前……狙われる前であれば、近付いてくる気配については望むところだった。

 もしくは、この二人との戦い……一方的な蹂躙になるだろうが、それが終わった後でも構わない。

 それこそ一分……どころか、十秒かそこらも掛からずに目の前の二人を殺すなり、無力化するなりは出来ただろう。

 だが、今のこの状況……当たりであるオークの希少種が近付いてきているこのタイミングは、最悪ですらあった。

 それこそ、今すぐにここで二人の男達を倒しても、ちょうどそのタイミングでオークの希少種が姿を現すだろう、タイミング。

 あるいは、オークの希少種はそんなタイミングを狙ってやって来たのか。

 そう思わないでもなかったが、レイはすぐにそれを否定する。

 幾ら希少種だからとはいえ、こうしてタイミングを合わせてやってくるのはさすがに不可能だと思ったからだ。


「ああ? 何だ? いき……」


 男の一人が何かを言おうとしたその瞬間、男達が姿を現した茂みから、何かが飛び出してくるのだった。

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