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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3652/3865

3652話

 ウィードアニマルは、あっさりセトに倒された。

 最初の遭遇の時こそ、ウィードアニマルがどのような性質を持つのか分からなかったので、セトは――レイもだが――多少の苦戦をした。

 しかし、半ばゴーレムに近い身体の構造であるとしれば、その魔石を抜き取るなり、魔石のある場所以外を破壊するなりすればいいだけだ。

 そういう意味では、一度どういう存在なのかを理解すれば、戦いやすい相手なのだろう。

 元々自分が見つからないようにする能力は高いものの、言ってみればそれだけだ。

 セトだけではなく、レイもまた倒そうと思えば、今度は容易に倒せるだろう。


「さて、もういいぞ」


 そうレイが言うと同時に、防御用のゴーレムは三人の冒険者を守っていた障壁を消す。

 いきなり障壁に包まれた三人の冒険者は驚いていたものの、その障壁がいきなり消えたことでも、また驚く。

 そんな様子を見つつ、レイは自分の近くまで戻ってきたゴーレムをミスティリングに収納する。


「その……あの……ありがとうございました、レイ教官」

「そう呼ぶということは、やっぱり冒険者育成校の生徒か」


 自分を教官と呼んだということは、レイが最初に予想した通り冒険者育成校の生徒で間違いないらしい。

 そう思いながら、レイは改めて三人を見る。


「はい。……ただ、まだレイ教官の授業は受けてませんが」

「模擬戦をやるにしても、一日ではどうしても限界があるしな」


 冒険者育成校の授業は、基本的に午前中で終わる。

 ……実際には午後は自主的な訓練であったり、ダンジョンに潜ったり、あるいは装備品や道具を購入したりと、決して午前中だけで授業が終わり、午後からは自由時間という訳ではない。

 もっとも、中にはそれでも遊び歩く者もいるが……そのような者が将来的にどうなるのかは、考えるまでもないだろう。


「そうですね。なので、俺達がレイ教官と模擬戦をやるのは、明日以降になりそうです。……まぁ、実際に模擬戦をやる前から色々と聞こえてきてはいますけど」


 だろうなと、レイは男の言葉に納得する。

 腕の立つ者は上のクラスに上がるというシステムを取っている冒険者育成校だけに、自然と色々なクラスの生徒と知り合いになる。

 そこから情報が広まるのは、それこそ生徒達の何人かをギルムに連れていくといった情報があっという間に広がったのを見れば明らかだ。


(幸い、この三人は礼儀を弁えているらしいから好印象だけどな)


 目の前の三人も、一応とはいえ三階にくるだけの実力をもっているのだから、上位とはいかずとも、下位クラスではない……中位クラスくらいの生徒達だろう。

 それだけに、当然ながらギルム行きの件については知っている筈だ。

 しかし、レイに助けて貰った恩義を感じているのか、それを聞いてくる様子はない。

 ……あるいは、単純に命の危機を何とか乗り越えたので、ギルム行きの件をすっかり忘れているだけかもしれないが。


「グルゥ!」


 三人の冒険者達と話しているところに、セトが魔石をクチバシで咥えて持ってくる。

 先程のウィードアニマルから取り出した魔石だろう。


「ありがとな、セト。……さて、お前達はこれからどうする? ウィードアニマルは隠密性は高いものの、戦闘能力そのものはそう高くない。そんな奴を相手にあそこまで苦戦したのを考えると、まだお前達に三階は早いんじゃないか?」


 奇襲を受けたというのはかなり不利な条件かもしれないが、そもそもレイ達が先程会った冒険者の話からすると、ウィードアニマルは決して好戦的なモンスターという訳ではない。

 そんな相手に奇襲を受けたのは、目の前の三人が何かミスをしたのが理由だろうというのは、レイにも容易に想像出来た。

 それはそれで、冒険者として未熟ということだろう。

 レイの指摘に、三人は残念そうにしながらもそれぞれ頷く。

 実際、もしレイが来なければ、この三人は最悪の場合、死んでいたのだ。

 運が良ければ、怪我程度で何とか逃げ出せたかもしれないが。


「分かりました。確かに俺達にはまだ三階は早かったようです。……二階でもっと腕を磨いて出直します」

「そうしろ。別にそこまで急いでダンジョンを攻略する必要はないんだしな」


 その言葉に、三人のうちの一人が何か言いたげにする。

 しかし、結局自分の思いを口に出すことはなかった。


(多分、早く自分達も最前線に行きたいとか、そういうことなんだろうな)


 レイもそれなりに冒険者として活動してきたので、その気持ちは分からないでもない。

 このダンジョンで現在のところ攻略の最前線となっているのは、十八階だ。

 そこを攻略しているのが、このガンダルシアにおいても最高峰のパーティである、久遠の牙というパーティ。

 レイはその久遠の牙の中で、エミリーという女だけを知っていた。

 以前セトを愛でていた者達の中に、そのエミリーが混ざっていたからだ。

 そういう意味では、もしレイが現在の最深部である十八階まで到着した時、久遠の牙とは上手くやっていけるだろうと思う。

 あるいは、久遠の牙全員と上手くやるのは無理かもしれないが、セトの魅力にやられてしまったエミリーとは上手くやっていけるだろう。

 そういう意味では、セト愛好家というのもダンジョンを攻略する上で大きな力となるのは間違いない。

 あるいはここにミレイヌやヨハンナといった、ギルムでも代表的なセト愛好家がいたら、セトの為にということで、ダンジョンの攻略はもっと進むかもしれなかった。


「とにかく、お前達は出来るだけ早く二階に戻るといい。いつまでもここにいると、また他のモンスターと遭遇したりするかもしれないし」

「分かりました。じゃあ、戻ります。……ありがとうございました」


 そう言い、レイと話していた男は頭を下げる。

 他の二人もそれに続いて頭を下げると、やがて三人はレイの前から立ち去る。

 階段のある方に向かったので、問題ないだろうとレイは判断する。

 あるいは、階段に到着するまでの間に再び何らかのモンスターに遭遇する可能性も否定は出来ない。

 出来ないが、その辺はやはりダンジョンに潜るのは自己責任ということだろう。

 もしレイに階段までの護衛を頼んでいれば、レイもそれを引き受けていたかもしれないが。

 だが、そのようなことを頼まれもしていないのに、わざわざ自分から護衛を引き受けるといったことをしようとは思わなかった。それに……


「さて」


 三人組が十分に離れたところで、レイは自分の手の中にある魔石を見る。

 ウィードアニマルから、セトが持ってきた魔石だ。

 そして十分に周囲に誰もいないのかを確認してか、その魔石を空中に放り投げ、デスサイズで切断する。


【デスサイズは『地中転移斬 Lv.二』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。


「セトは霧で、俺は地中転移斬か。……ウィードアニマルの特性を考えると、そんなに不思議じゃないのか?」

「グルゥ」


 おめでとうと喉を鳴らすセトを撫でながら、レイはそんな風に考える。

 ウィードアニマルは草によって身体が構成されていたのだから、何らかの手段で水分を霧状にして放出するようなことをしてもおかしくはない。

 また、植物である以上、その根――ウィードアニマルを見る限りどこにも根はなかったが――により地中を進んでもおかしくはない。

 そんな諸々を考えると、納得出来ないこともない……そんな風にレイは思う。

 もっとも、それはあくまでも無理矢理そのように自分を納得させているだけだというのも、レイは十分に理解していたが。

 無理矢理であっても、一応納得出来たのは大きい。

 今までの経験から、魔獣術で習得出来るスキルはその魔石を持っていたモンスターの特性の影響が大きいというのがある。

 ただ、それはあくまでも基本的なものであって、中には何故そのモンスターからそのスキルが? と思しきスキルの習得もある。

 そちらの場合は、実はレイが知らないだけでその魔石を持っていたモンスターがそのスキルを使えるか、あるいは素質はあっても現在はまだ使えないかだろうと予想しているものの、それはあくまでもレイがそう思っているだけだ。

 ゼパイルの知識を完全に受け継いでいれば話は別だったのだろうが、生憎とレイが受け継いだ知識は大雑把なものでしかない。

 もしくは、タクム・スズノセというゼパイルの仲間にいる、地球から転移してきたのだろう人物が、ゲームのランダム要素的な感じでそういうのを魔獣術に組み込んだという可能性も否定は出来ないが。

 ともあれ、今回のスキルは納得出来ない訳でもない……そんなスキルだったので、そこまで疑問に思うことはなかった。


「そう言えば、セトのスキルも試してなかったな。……とはいえ、霧の効果を考えるとそう簡単に使えるようなスキルではないけど」


 レベルアップした霧というスキルは、その名の通り周囲に霧を発生させるスキルだ。

 それだけでも相手の目眩まし的な意味ではそれなりに使えるスキルだが、本来ならセトが持つ霧の爪牙というスキルと組み合わせることで本領を発揮するスキルとなる。

 つまり、かなりの範囲に霧を発生させる必要がある訳で、そういう意味ではダンジョンのような人の多い場所では確認しにくいスキルだった。


「グルルゥ、グルゥ?」


 人のいない場所で使ってみるのは?

 そう喉を鳴らすセト。

 幸いなことに。三階は草原で見通しがいい。

 霧を使っても人を巻き込まないように、誰もいないのを確認してからスキルを使ってみるのはいいかもしれないと、レイも思う。


「もっとも、人を巻き込まないけど、霧が周囲から見えるのは間違いない。そうなると、霧を使ってしまうと、この霧は何だ? と疑問を抱かれてもおかしくはないんだよな。……それもダンジョンだからで納得してしまうけど」


 ダンジョンだからという言葉は、かなり便利だとレイには思える。

 ……同時に、レイだから、セトだからといったように納得されるのは、どうかと思わないでもなかったが。


「まずは地中転移斬の方だな。……さて、どうなった?」


 周囲に影響の大きな霧よりも前に、地中転移斬を試すことにしたレイは、デスサイズを地面に向かって振るう。


「地中転移斬!」


 本来なら地面に潜り込むなり、もしくは地面を吹き飛ばすなりするのだが、地面に潜ったデスサイズの刃はそのようなことをせず、離れた場所から刃の切っ先を出す。

 それは、レイのいる場所から約八m程の距離だった。


「うーん……これはまた……レベル二だということを考えると、納得は出来るんだけど」


 レベル一の地中転移斬は、五m先まで地面の中を転移させることが出来た。

 それがレベル二に上がって射程距離が三m延びた形だ。

 たった三mと思うのか、三mもと思うのかは人それぞれだろうが、レイは前者だった。

 とはいえ、納得はしていたが。

 今はレベルが一上がるごとに、三mずつ射程が延びるのだろう。

 だが、今までの経験から考えると、レベル五になると一気にスキルは強力になる筈だ。

 それが具体的にはどのくらいの強化なのかは、レイにもまだ分からなかったが。

 単純に射程距離が長くなるのか、もしくは……例えば、今はデスサイズの刃が一つだが、それが二つ、三つ、四つといったようになるのか。

 それはレイにも分からなかったが、とにかくレベル五にするのを目指せばいいだけだ。


「取りあえず射程が延びたのは分かった。後は……霧だな」

「グルゥ!」


 レイが地中転移斬を試したのを見ていて、セトもまた自分のレベルアップした霧を使ってみたくなったのだろう。

 嬉しそうに喉を鳴らす。

 そんなセトを撫でつつ、レイは周囲の様子を確認する。

 レイの視力は常人よりも遙かに鋭い。

 霧の効果範囲内となるだろう場所に他の冒険者がいないかどうかを確認し……


「よし、セト。使ってもいいぞ」

「グルルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトが即座に霧のスキルを発動する。

 瞬時に現れる霧。

 もしセトが使ったスキルであると知らなければ、恐らくレイは混乱していただろう。

 それくらい急激に霧が現れたのだ。


「よし、セト。ちょっと待っててくれ。どのくらいの範囲が覆われているのか、ちょっと確認してくる」

「グルゥ」


 レイはセトをその場に残し、霧の中を移動する。

 これがセトのスキルによって生まれた霧である以上、危険がないのは明らかだ。

 あるいは霧の範囲内にモンスターがいれば多少は危険かもしれないが、レイなら三階のモンスターを相手にしても対処するのは難しくない。

 そうして霧の中を進み……やがて霧の空間から出る。

 そこから出ると、そこには霧がない。

 綺麗に、セトのスキルの範囲内だけが霧で覆われていた。


「大体半径九百mってとこだな」


 それを確認してから、レイはセトのいる場所に戻るのだった。

【デスサイズ】

『腐食 Lv.八』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.五』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.六』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.二』new『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.三』


地中転移斬:デスサイズの刃を地面に触れさせることで、刃を転移させて相手を攻撃出来る。転移出来る距離はレベル一で最大五m、レベル二で最大八m。

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