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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3647/3865

3647話

カクヨムにて14話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 ギルムに行く件についての話は、取りあえず終わる。

 あくまでも今回の話し合いで決まったのは、大雑把な内容だ。

 これからもっと話を詰めていく必要もあるだろうが、それについては学園長のフランシスに任せておけばいいだろうと、レイはこの件については何か聞かれてもフランシスに聞けと言うだけだ。

 もっとも、レイも一人選ぶ必要があるので、全く無関係という訳にもいかないが。


「その、レイ教官。誰を選ぶのかとか、そういうのはもう決まっているのですか?」


 学園長室を出て廊下を歩いていたレイは、隣を歩くイステルからそう聞かれる。

 イステルにしてみれば、レイが誰を選ぶのかは非常に気になっているのだろう。


「そうだな。候補はいるような、いないような……微妙なところだ」


 今のところ、レイが思い浮かべる候補はハルエスだったが、それ以外に才能のある者がいれば、そちらを選ぶ可能性は十分にあった。

 ハルエスに目を掛けているのは事実だが、だからといってハルエスを選ぶと決めた訳ではない。

 具体的にはいつギルムに帰るのかは、決まっていない。

 正確には夏には帰ると決めているものの、夏といってもそれなりに長い。

 日本の感覚では六月下旬から九月上旬……いや、場合によっては九月下旬までが夏と認識されることも多い。

 四季に関しては、この世界も基本的に日本と同じだ。

 勿論、十二月が夏のオーストラリアのように、他の大陸によってはその辺が日本とは真逆という可能性も否定は出来ないのだが。

 レイがいるこの大陸……ミレアーナ王国とベスティア帝国の二大大国のあるこの大陸においては、基本的に日本と変わりはなかった。


(地球の南極とか北極とか、そういう場所がこの世界にもあるのかどうかは不明だし、何よりここはファンタジー世界だ。それこそ場合によっては、この星が丸くなくて平面的な感じという可能性もあるんだよな)


 剣と魔法のファンタジー世界である以上、それこそ何があっても驚くようなことはない。

 そういうものだと納得させるだけの圧倒的なまでの説得力がそこにはあった。


「レイ教官? どうしたんですか?」

「ん? ああ、いや。何でもない。夏とはいえ、具体的にいつくらいに帰ろうかと思ってな」

「その辺はレイ教官のお好きに決めてもいいと思います。ただ、ギルムに行きたいという希望者の選抜を考えると、ある程度の時間的な余裕はあった方がいいと思いますが」

「選抜をするのに時間が掛かるからか?」

「そうですね。どうしても希望者は多くなるでしょうから。もっとも、学園長の思惑としては、やはり優秀な人材を送りたいとあるので、基本的には上位クラスから選抜となると思います」


 平等? 何それ美味しいの? と言わんばかりのイステルの言葉だったが、レイとしては優秀な人材をギルムに行かせるというのに異論はない。

 優秀な人材が優遇されるのは、寧ろ当然のことなのだから。

 それが悔しいのなら、成績を上げて上のクラスに上がればいいだけだ。

 それこそ、具体的には入学して一日で上位のクラスに上がったセグリットのように。


「イステル、セグリットって知ってるか?」

「ええ、知ってます。何しろ入学して一日で上位クラスまで上がってきたのですから。ただ……最初のうちはいいですが、より上位のクラス……それこそ三組以上に上がるのは、そう簡単なことではないと思いますが」


 イステルがそう言うのは、自分がまだ二組だからだろう。

 純粋な強さという点では、イステルは既に一組の生徒よりも上だ。

 一組のトップのアーヴァインには及ばないものの、それ以外の者達には勝ててもおかしくはない。

 しかし、そんなイステルがまだ二組にいるのは……その強さ以外の理由からなのだろう。

 それがレイの担当している模擬戦ではなく、教師達が行っている座学。

 イステルの言葉には、そういう意味で強い実感があった。


「イステルなら、勉強とかも出来そうだけどな」

「……人は外見によらないんですよ」


 少しだけ残念そうにしながら言うイステルに、レイは何と言えばいいのか分からない。

 ここで下手な慰めを口にしようものなら、それはイステルを傷つけるだけになってしまうだろう。

 だからこそ、何と言えばいいのか迷い……そうしているうちに、職員室の前に到着する。


「じゃあ、俺は帰る準備をするから、この辺で」

「あ、はい。その……色々とありがとうございました」


 レイの言葉に頭を下げるイステル。

 イステルにしてみれば、本来ならレイにハルエスとダンジョンに行ったことや、何人かの生徒をギルムに連れていくといった噂を聞いて、それが本当かどうかを聞きにやってきたのだが……結果として、フランシスとの話に巻き込まれるようなことになったりと、少し予想外の方向に話が進んでしまった。

 そのお陰で、ギルムに行く件についての話を詳細に聞くことが出来たのだから、そう考えると決して悪いことばかりではなかったのだが。


「私、頑張ります。そして選抜に受かってみせます」

「ああ、頑張れ。俺もイステルをギルムに連れていけるのを楽しみにしてるよ」


 そう言い、レイは職員室に入る。

 レイにしてみれば、今の言葉は単なるリップサービスだ。

 同時に、イステルが優秀なのは間違いない以上、選抜される生徒に入る可能性は十分にあるという思いからの言葉でもある。

 しかし、それはレイがそのように思ったのであって、その言葉を聞いたイステルがどのように思うのかはまた別の話だ。

 そして……さっさと職員室に入ったレイは知らなかったものの、その言葉を聞いたイステルの瞳には強い感情が宿っていた。

 レイが……深紅の異名をもつレイが、自分の実力に期待していると口にしたのだ。

 それを聞いたイステルが、燃えない訳がなかった。

 レイは自分でも全く気が付かないうちに、イステルの闘志に火を点けたのだが、全く自覚はない。

 職員室の中に入ると、最初にレイに近寄ってきたのはマティソンの派閥の一人の男だった。


「レイ、ちょっといいか? 何だか、ギルムに行くという話がもの凄い伝わってるんだけど……これって、八組の模擬戦の時に言っていた件だよな?」

「ああ。俺が言うのもなんだけど、その噂はかなり広まっているらしいな。さっき、フランシスと話をしてきた」

「学園長と? それで……どうなったんだ?」


 そう尋ねる男だが、周囲にいる教官……それこそアルカイデやその取り巻き達までもが、レイの言葉を聞き漏らさないようにし、更には教官ではなく教師までもがレイの口からでる一言一句を聞き逃さないようにしており、職員室の中は不自然な程に静まりかえっていた。

 レイも当然ながらそれに気が付いたが、別にこの件については隠しておく必要もないので、あっさりと口を開く。


「ここまで話が広まった以上、実は駄目ですって訳にもいかないしな。正式に決まった」


 ざわり、と。

 レイの言葉を聞いた教官や教師達がざわめく。

 もしかしたら……そのようにも思っていたが、本当にそのようなことになるとは思ってもいなかったのだろう。


「ただ、行くのはセトに乗って……いや、セト籠というマジックアイテムがあるんだが、それに乗ってだ。そして乗れる人数は限られている。後でフランシスから正式な通知があると思うが、教官から行けるのは一人。後は生徒を選別するらしい」


 レイの言葉を聞いて真っ先に残念そうな……それこそ中には絶望とすら呼べる表情を浮かべたのは、教師達。

 レイの口から、一緒に行くのは教官と明言されたからだ。

 もっとも、教師達の中には最初からそれを予想していた者もおり、残念に思うも、そこまでショックを受けていない者もいる。

 当然だろう。何しろミレアーナ王国における、冒険者の本場と呼ばれる場所だ。

 そのような場所に生徒達を連れていく以上、生徒達に何かあった時のことを考えれば、一緒に行くのは相応の強さを持った者という結論になるのは、そうおかしな話ではないのだから。

 ……それでも、教師達にしてみれば辺境のギルムには一度行ってみたいと思う者も多かったのだろう。

 一縷の希望に縋るという意味でレイの言葉を待っていたのだが、それが露骨に否定されてしまった形だ。


「そうか。けど……一人か。まぁ、生徒の人数を考えれば、それも仕方がないのかもしれないけど」


 男はそう言いつつ、牽制するような視線をアルカイデやその取り巻き達に向ける。

 その視線を向けられた者達は、苦々しげな表情を浮かべていた。

 本心を言えば、アルカイデやその取り巻き達もギルムという場所には非常に興味がある。

 興味があるが、この件は明らかに学校主導ではなく、レイが中心となって進められているイベントだ。

 そうである以上、レイと決して良好な関係ではない……いや、寧ろ敵対関係に近いアルカイデやその取り巻き達にしてみれば、ギルムには行きたいが、それをする為にはレイとの関係を修復する必要があった。

 それも自分達の方から頭を下げて。

 貴族のプライドから、そのようなことは出来ない。

 だが、ギルムには行きたい。

 そんなジレンマに悩まされているのだろう。

 実質的にギルムに行けるのは、教官の中でもマティソンの一派……あるいはどちらの派閥にも属していない少数の中立派の者の中からということになる。

 そういう意味では、レイに声を掛けてきた男もまだ自分にはチャンスがあると知り、アルカイデ達に向けていた視線を逸らすと、嬉しそうな様子でレイとの言葉を続ける。


「付き添いの方は分かったけど、生徒達はどうするんだ?」

「学校側で希望者を募って、その中から選抜するらしいな。その辺は俺は関わらないから、詳しい話は後でフランシスからあると思う」

「え? レイは?」

「今も言ったように、そっちには関わらない。そっちに関わると、妙な考えを持った連中が擦り寄ってきそうだし」


 そう言いながらレイが思い浮かべたのは、セグリットに絡んでいた貴族達だ。

 自分達であれば貴族の血筋なのだから、優遇を受けて当然。

 そのように思っていたり、あるいは自分の実力を客観的に見ることが出来ず、何故自分が選ばれないのかと不満に抱く者。

 他にも色々な理由から、レイに対して便宜を図って欲しいと言い寄ってくる者や、あるいは賄賂によってどうにかしようとする者が来る可能性があった。

 もっとも、賄賂についてはフランシスやイステルに話したように、貰って検討するくらいはするが。

 もしそれで本当に才能がある人物だと思えば、レイの権限でその人物をギルム行きの中に入れる可能性は十分にあった。

 ……それが一体どれだけ低い確率なのかは、また別の話だが。


「あー……そうか。そうなると、レイは選抜とかには一切関わらないのか?」

「そうなるな。ただ、ギルムには十日、あるいはもっといることになると思うから、ダンジョンに挑戦する予定と重なったりしたらご愁傷様だが」

「う……」


 レイの言葉に、話していた男がそんな声を出す。

 いや、その男だけではない。

 マティソン派……つまり、教官をやっているが冒険者としての行動に比重を置いている者達の口から同じような呻き声が漏れ出る。

 ギルムには、冒険者として是非とも行きたい。

 しかし、そうなると結構な時間ガンダルシアからいなくなるということを意味し、ダンジョンに潜る予定が大きく乱れる。

 勿論、中には丁度そのタイミングでダンジョンに潜るのを休んでいるというような者もいるだろう。

 だが、十日……いや、往復の時間と、更には念の為の予備を含めて考えると、二十日程はガンダルシアを空けることになってしまう。

 二十日というのは、ダンジョンに潜る冒険者として考えればかなりのロスになる。


(まぁ、ギルムに行った教官は冒険者として活動している者達と話をしたり、訓練をしたり、場合によっては武器とかマジックアイテムを購入したりで、一気に強くなる可能性も否定は出来ないけど)


 冒険者の本場と呼ばれるギルムだけに、ガンダルシアの冒険者達にとっても非常に大きな刺激になるのは間違いない。

 それこそ、場合によってはガンダルシアに戻らず、ギルムで冒険者として活動を続けるといったことになってもレイは驚かない。

 それだけギルムという街は魅力があるのだから。

 もっとも、そうなってもレイはその件に関与するようなことはない。

 大人なのだから、自分でどうにかするだろうと思っている。


「そんな訳で、もしギルムに行くのを希望するのなら、ダンジョンの攻略とかに影響がないよう、前もって問題がないようにしておいてくれ。それが理由でパーティ解散とか、パーティ全滅とか、そういうのは後味が悪いし」


 そう、レイは締めくくるのだった。

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