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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3626/3865

3626話

カクヨムにて13話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 三組との模擬戦が終わると、レイの今日の授業はなくなる。

 勿論、他のクラスとの間でもレイが教官になると紹介をしたり、今日のように模擬戦をやる必要はあるのだが……今日はこれ以上模擬戦の授業はないということだったので、レイはマティソンと共に食堂にやってきていた。


「この食堂は生徒もそうだけど、教師も自由に利用出来ます。ただ、用意されている料理は限られているので、遅くなると食事が出来なくなったりすることもあります」

「そうなると、生徒達が有利だな」

「あはは、そうですね」


 生徒達は授業が終わればすぐにでも食堂に行ける。

 だが、教官や教師の場合は、授業が終わった後は色々とやるべきことがあるので、生徒達のようにすぐに食堂に行くといったことは出来ないのだ。


「なので、教官や教師の中には弁当を持ってきている人もいますよ。……羨ましい」

「……マティソン?」


 最後にボソリと呟いた言葉は、レイの耳にも入っていた。

 しかし、そこには妬みや嫉妬といった感情が込められており、レイも迂闊にその件については触れない方がいいだろうと、聞こえなかったことにする。


「あ、いえ。何でもありません。その……朝にどこかでサンドイッチや串焼きとかを買ってくる人もいますね。ただ、どうしても出来たての料理と比べると味が落ちるので」

「だろうな」


 レイもマティソンの意見に納得する。

 サンドイッチの類はともかく、串焼きはどうしても冷めると味が落ちる。

 勿論、温め直したりすれば、ある程度美味くはなるものの、それでも焼きたてにはどうしても及ばない。

 温め直すにも、ここは日本ではない以上、レンジやトースターがある訳でもなく、何らかの方法を使う必要がある。

 まさか昼食の忙しい時に食堂の厨房を貸して貰う訳にもいかないだろう。

 そんな訳で、温め直すのが難しい以上は冷えた串焼きを食べるしかない。


「レイさんは他人事ですね」

「俺の場合はミスティリング……アイテムボックスがあるしな」


 レイの言葉に、マティソンはレイの持つ有名な噂の一つにアイテムボックスの件があったと思い出す。

 そのアイテムボックスもまた、マティソンにとっては非常に羨ましいマジックアイテムだ。

 何しろ、アイテムボックスさえあればポーターはいらなくなるのだから。


「羨ましいですね」

「本物のアイテムボックスは無理でも、量産型のアイテムボックスなら入手出来るんじゃないか? それに……ダンジョンに挑んでるんだから、マジックアイテムを入手出来る可能性はあるだろう?」

「最前線ならともかく、まだ私達はそこまで到達してませんしね。勿論、それでもそれなりにマジックアイテムは入手してますが」

「へぇ、それは興味があるな」


 レイがガンダルシアにやって来た理由は幾つもあるが、その中の一つにはダンジョンで見つかるだろうマジックアイテムを欲してというのがある。

 マジックアイテムを集める趣味を持つレイにしてみれば、それは当然のことだった。

 他にもクリスタルドラゴンの件で面倒を避ける為という理由もあったりするが。

 また、マジックアイテム以上に重要な理由としては、ダンジョンに出てくるモンスター……それもレイにとっては戦ったことがない、つまりは魔獣術に使っていない魔石を持つモンスターもある。

 そんな諸々を求めてこのガンダルシアにやって来たのだから、ダンジョンで見つかったマジックアイテムに興味がない筈がない。


「おや、レイさんはマジックアイテムに興味があるのですか? ……ああ、私はそちらのスープとパン、肉の煮付けと果実を」

「じゃあ、俺は内臓と豆の煮込みと、パン、果実、後は何か適当にお勧めを」


 レイとマティソンは会話をしながらも列が進んで自分達の番になったところで注文をする。

 厨房では既に出来ている料理を盛り付けるだけなので、料理はすぐに用意されて、それを受け取った二人は離れた場所にあるテーブルに座る。

 ……食堂の中には一組から四組の生徒がおり、レイのことを気にしている者も多い。

 五組以下の生徒も、四組以上の生徒達からレイのことを聞いて、そこから情報が広まったのか、気にしている者も多かった。

 とはいえ、レイは視線を集めることには慣れているし、マティソンもこのガンダルシアでトップクラスの冒険者の一人である以上、視線を集めることは多い。

 そんな訳で、二人は視線を集めつつもそのような視線を向けられるのを気にした様子もなく、テーブルに座って食事を始める。


「それで、レイさんがマジックアイテムに興味があるとのことでしたが」


 パンをスープに浸しながら尋ねるマティソンに、レイは内臓と豆の煮込みを食べつつ、頷く。


「ああ、そうだ。どうやらその辺の情報はあまり広まっていないようだが、俺はマジックアイテムを集める趣味を持つ」


 レイの場合、良くも悪くも目立つだけに噂となる。

 それだけに、どうしてもそちらの噂が先行し、マジックアイテムを集める趣味を持つといったことは、噂にはならない。

 もっとも、レイについて少しでも詳しく調べれば、その辺はすぐに分かるのだろうが。


「ふーん、そうなんですか。それなら、早くダンジョンに潜らないといけませんね。やはりダンジョンにあるマジックアイテムというのは、早い者勝ちですから。勿論、一度取った場所にも再度何らかのマジックアイテムが置かれるようなことはありますが、基本的に最初よりも性能が劣るマジックアイテムとなるようですよ」

「……出来るだけ早くダンジョンに潜る必要があるな。とはいえ、まずは全てのクラスに最低でも一回は顔を出す必要があるか。フランシスめ。どうせなら集会か何かを開いて一度で全生徒に俺のことを紹介してくれれば手っ取り早かったのに」

「さすがにそれは無茶でしょう。教官はそれなりに頻繁に入れ替わりますから」

「ダンジョンが原因か?」

「そうなりますね。生きていれば、まだ教官としてやっていけるのですが、死んでは……」


 最後まで言わす、マティソンは食事を止め、残念そうに首を横に振る。


「ダンジョンだと考えれば仕方がないのかもしれないけど、それでもそこまで頻繁に教官が死ぬのはどうかと思うぞ、いっそ、教官じゃなくて生徒として扱った方がいいんじゃないか?」

「さすがにそれは無理があります。教官として務めていた以上、このガンダルシアにおいては相応の強さを持つと判断された冒険者達なのですから。それこそ、一組のアーヴァインと戦っても普通に勝てるだけの実力の持ち主でしたし」


 この冒険者育成校において、卒業に最も近い一組。

 その一組で最強のアーヴァインに勝てるとなれば、生徒として扱うのは難しいというのは不思議な話ではないだろう。


「まぁ、教官については……結構な数がいるから、足りなくなるということはないと思っておくことにするか」

「そうしておいて下さい」

「それで、マジックアイテムについてだが。マティソン達は具体的にどういうのを入手したんだ?」

「一番便利なのは……炎の矢を飛ばす杖ですか」

「杖? 魔法発動体のか?」

「ああ、いえ。違います。その杖は魔法使いが使う杖という訳ではなく、純粋なマジックアイテムなんですよ。その杖を使えば、魔法を使えない者であっても炎の矢を飛ばすことが出来るんです」

「ああ、なるほど。そういう感じか。便利なのは間違いないな」


 そう言うレイだったが、その杖についてはあまり興味を抱けなかった。

 理由としては、単純にそのようなマジックアイテムはレイにとってはそこまで魅力的ではなかったというのが大きい。

 何しろレイは炎の魔法に特化している存在だ。

 その気になれば炎の矢は数百本単位で生み出すことも出来る。

 マティソンが言う杖のマジックアイテムは、魔法を使えなくても使えるということだったが……レイの場合は莫大な魔力を持っているので、基本的に魔力の消費については考えなくてもいい。

 基本的になのは、穢れの関係者との戦いの時の件があるからだ。

 幾らレイが莫大な魔力をもっていても、その魔力は無限という訳ではない。

 普通の魔法使いの目から見れば無限のように思えるかもしれないが、そこには明確に限界がある。

 穢れの関係者との戦いの最後において、レイは莫大な……それこそ魔力を何らかの手段で感知出来る者がいれば、気絶したり恐慌状態になってもおかしくはない、そんな魔力があっても魔力の枯渇によって数日昏睡状態になるだけの魔力を使った。

 そういう意味では、魔力を使わないで魔法的な効果を発揮する杖に多少なりとも興味を抱いてもいいのかもしれないが……その効果が炎の矢が一本だけというのは、レイに興味を抱けという方が無理だった。

 だが同時に、それはあくまでも自分のような例外だからこそだろうと思う。

 マティソンのパーティが具体的にどのような構成になっているのかは、レイにも分からない。

 だが、普通の……それこそレイが思うような一般的なパーティであった場合、一本程度でも炎の矢を放てるのであれば、それなり以上に有益だろうとも思う。

 レイのパーティでは、レイ以外にマリーナが精霊魔法を使えるし、セトもスキルで同じようなことが出来る。

 パーティではなく仲間ということになれば、エレーナも魔法剣士である以上、レイと同じく魔法を使うことが可能だ。

 特にエレーナは、竜言語魔法という非常に珍しい魔法を使うことも可能だった。

 そんな風にレイの周囲には魔法を使える者が多数いるが、それは例外でしかない。

 そもそも、冒険者として活動している魔法使いは少ないのだ。

 だからこそマティソンのパーティが持っている杖のマジックアイテムは、普通のパーティが使う分には非常に便利だった。


「ちなみに、マティソンのパーティには魔法使いはいないのか?」

「幸い、いますね。ただ、回復魔法や補助魔法といった魔法を得意としていて、攻撃魔法はそこまで得意じゃないんですよ」

「それはまた……何と言えばいいのか迷うな」


 補助魔法は普通に戦闘をする上で大きな効果を持つ。

 回復魔法にいたっては、そもそも使える者がかなり少ない。

 そういう意味ではマティソンのパーティはかなり恵まれているのだろうが、それでもやはりモンスターの中には魔法でしかダメージを受けなかったり、そこまでいかなくても魔法攻撃を苦手としているモンスターがいたりする。

 その辺りはどうしているのか。

 それが少し気になったレイだったが、その辺についてはマティソンもあまり話したくはないだろうと、それ以上は話さないでおく。


「他にはどんなマジックアイテムがあるんだ?」

「そうですね。珍しいところでは……ああ、マジックアイテムではないですけど、魔法金属が入手出来たりします」

「へぇ、それはまた興味深いな」


 杖のマジックアイテムよりも、間違いなくレイの食いつきはいい。

 レイにとっては、一発しか炎の矢を撃てないマジックアイテムよりも、魔法金属の方が興味を抱いたのだろう。

 ダスカーからの報酬として、大量の魔法金属を貰いはした。

 火災旋風を使う時、追加のダメージを与える要素として重要な物という認識が、レイにはあった。

 ……もし錬金術師やドワーフがそれを知れば、ふざけるなと叫ぶか、何て勿体ないことをと嘆くか、ただ呆然とするかのどれかだろう。

 あるいはもっと別の……何かレイには理解出来ない反応をする可能性は十分にあったが。


「何だか、随分と気になっているようですが、魔法金属に興味があるんですか?」

「ああ。魔法金属は俺にとって必需品……というのはちょっと大袈裟だが、あれば便利なのは間違いない代物なんでな」

「なら、ダンジョンに潜る楽しみが増えそうですね。もっとも、確実に入手出来るとは限りませんけど」

「だろうな。それは仕方がない。入手出来れば運がいい程度に思っておくよ。で、他には?」

「え? うーん……そう言われても……ああ、そうそう。私達が入手した訳ではないですが、パンを出す皿のマジックアイテムというのが見つかったというのは聞いたことがありますね」

「何だそれは」


 レイにとっても興味深いマジックアイテムではあったが、具体的な性能がどのようなものなのかまでは分からない。


(とはいえ、パンを出す。それはつまり、流水の短剣のように使用者の魔力によってパンの味が決まるということはないか? だとすれば……)


 本来は魔力によって生み出した水を鞭状にしたり、短剣や長剣といった形にして操る効果を持つ流水の短剣だったが、レイの場合は炎属性に特化している為、ただ水が出るだけだ。

 だが、その水の味は天上の甘露とも称するべきもので、そういう意味では流水の短剣はレイにとって飲み水に困らない為のものだった。

 もしかしたら、その皿も同じような感じなのでは?

 そう思いつつ、レイはその皿のマジックアイテムについて詳しくマティソンに聞くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  どらえもんの道具にシートの上に料理を出すハイキング用みたいなのあったな、魔道具の構想には案外ドラえもんの知識が有用だったりして。
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