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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3609/3865

3609話

「いや、それにしても予想以上に武器に詳しいな。てっきり魔法使いだからその手の事にはあまり詳しくないと思ったんだが……」


 武器屋の店員は、話が一通り終わったところでレイに向かって感心したように言う。

 店員にしてみれば、魔法使いというのは武器にそこまで詳しくないと思っていたのだろう。


「まぁ、普通の魔法使いならそうかもしれないな。ただ、俺は魔法使いというよりは魔法戦士だし」

「魔法戦士……? そういう風には見えないけど」


 店員も、魔法戦士というのは知っている。

 迷宮都市のガンダルシアにも、店員が知ってるだけで何人かそのような者達はいた。

 しかし、そのような者達は基本的に戦士として体格の良い者が多い。

 そのような者達に比べると、レイは明らかに小柄だった。

 だからこそ、レイを前にしても魔法戦士だとは思えなかったのだろう。


「そう見えなくてもそうなんだよ」

「まぁ、あんたがそう言うのならいいけど。……で、魔法戦士だというなら武器は?」


 店員はまだレイの言葉を素直に信じてはいない。

 レイの体格もそうだが、やはりその言葉通り武器を持っていないのが大きな理由だろう。

 ……もっとも、それを言うのならレイは武器だけではなく、魔法使いの象徴とも呼ぶべき杖も持っていないのだが。


「武器か? あるぞ。出してもいいのなら見せてもいいが」

「……どこにあるんだ? 見せられるのなら見せてくれ」

「ほら」


 多少……本当に多少だが、挑発的に言ってきた店員。

 だが、レイは挑発されたということにすら気が付いた様子はなく、ミスティリングからデスサイズを取り出す。

 本来のレイの武器となると、このデスサイズ以外に黄昏の槍もあるのだが、今はデスサイズを出しておけばいいだろうと思っての行動だった。

 その中には、槍を出しても槍を使う者はかなりいるのに対して、大鎌のデスサイズはセトとは違った意味でレイの象徴とも呼べる武器だからというのもある。

 ……レイの噂を聞いて、大鎌を使おうと思った者はそれなりにいたのだが、大鎌という武器はその凶悪な形とは裏腹にかなり使いにくい。

 それだけに使いこなせれば、戦う相手――特に人の場合――にしてみれば、そのような武器を持つ敵と戦うのは初めてなので、間合いや武器の軌道に戸惑うという意味でかなり有利な武器ではあるのだが。

 ただ、それはあくまでも使いこなせればだ。

 使いこなせる者が少ないからこそ、初見殺しに近い特性を持つのだ。

 そして実際、レイの噂を聞いただけで大鎌を使おうとした者の多くは、途中で諦めている。

 全ての者がという訳ではなく、中にはそれなりに使いこなせるセンスや才能を持つ者もいるのだが。

 そんな訳で、当然のようにデスサイズを間近で見た店員は唖然とした表情を浮かべる。


「お、おい。この大鎌……そう言えば、噂によると昨日深紅のレイが……え? 嘘だろ?」


 店員の呟きに、レイは少しだけ驚きつつも納得する。

 店員の様子からして、自分が……深紅のレイがこのガンダルシアに来たというのは知っていたらしい。

 もっとも、レイも別に隠れながら来た訳ではない。

 セトを引き連れ、堂々とやってきたのだ。

 もう一つのレイの象徴たるデスサイズを出したりはしていなかったが、そもそもセトを従魔にしているという時点で、それはもう誰なのかは容易に想像出来てしまう。


「その……もしよければ、ギルドカードを見せて貰えないか?」

「ほら」


 恐る恐るといった様子で頼んできた店員に、レイはデスサイズを収納し、代わりに取り出したギルドカードを見せる。

 そこにあったのは、間違いなくランクA冒険者のギルドカード。

 どうしようもない程の証拠を見せられれば、店員も自分の前にいるのが誰なのかを認識するしかない。


「深紅の……レイ……」


 店員は、改めて目の前にいる人物が誰なのかを理解し、呆然と呟く。


「正解。まぁ、そんな訳で俺が魔法戦士だというのも理解して貰えたか?」

「あ、ああ。それは……うん。まぁ、その……えっと……」


 レイの言葉に、店員は何と答えたらいいのか迷う。

 目の前にいるのがレイだというのは、理解した。

 理解したが、まさかそのような有名人が自分の店に来るとは思ってもいなかったのだろう。

 そのまま数分、言葉にならない呟きを漏らし……


「いらっしゃいませ」


 最終的には、このような言葉を発することになる。


「いや、別にそこまで畏まらないでもいいから。今日は別に人前で何かの話をする訳でもないんだし、普通に……最初の時と同じように話してくれればいい」

「そうですか? ……いや、分かった。じゃあ、そうさせて貰う。いや、まさか深紅のレイがうちの店に来てくれるとは思わなかったな」


 切り替えが早いな。

 そう思ったレイだったが、それはレイにとっても別に悪いことではない。

 堅苦しいのが嫌いなレイにしてみれば、今の方がやりやすいのも事実。

 そんな相手の言動に、レイは好意を覚えることはあっても不満を抱くことはない。

 堅苦しいのが苦手だからといって、馴れ馴れしいのもあまり好ましくはないが。

 それを考えると、店員は堅苦しくはなく、それでいて馴れ馴れしくもない態度だった。


「それで、武器についてだが……」

「あの深紅のレイに買って貰えるとなると嬉しいが、正直なところさっきの大鎌を持っている以上、どの武器も、この店の店長の俺が言うのもなんだが格下だろう?」


 店員ではなく店長だったのかと、その言葉に驚くレイ。

 年齢的には二十代くらいでまだ若いので、それはレイにとって意外だった。

 ましてや、この店は大通り……つまり、一等地にある武器屋だ。

 それだけに、そう簡単にここで店を開くことは出来ない筈だった。


(まぁ、親から継いだとか、そういう可能性もあるから絶対って訳でもないけど)


 そのように思いつつ、レイは悔しそうな店長の顔を見る。

 このような一等地で武器屋を開いている以上、当然ながら自分の店の品揃えには自信があったのだろう。

 実際にレイが自分の正体を明かす前に見ていた武器の品質は、どれも相応に良い物ばかりだったのだから。

 だが……幾ら武器の品質に自信があったところで、レイの持つデスサイズと比べるとどうしても劣ってしまう。

 それを一目で分かったのは、店長の武器を見る目が確かだったからだろう。

 だからこそ、レイもその店長の言葉を否定せずに頷く。


「そうだな。この店に置いてある武器の品質は悪くないけど、それだけだ。一流ではあるが、超一流ではないといったところか」

「……そうはっきり言われると、ショックを受けるな。ちなみに、本当にちなみにの話だが、レイが持ってる武器はさっきの大鎌だけか?」

「いや、他にも幾つかある。……とはいえ、基本的に使っているのはさっき見せたデスサイズと……これだけだな」


 そう言い、レイはミスティリングから黄昏の槍を取り出す。


「おおっ、これは……」


 デスサイズには劣るものの、それでも黄昏の槍の持つ迫力に圧倒される店長。

 目の前にある槍は、どこからどう見ても逸品だ。


「これは……魔槍、か?」

「そうだな。分類するとすれば魔槍になる」


 魔力を込めて威力を増すという、魔槍としての基本的な能力は勿論、投擲してもすぐ手元に戻せるといった能力も持つ。

 レイにとってはデスサイズと共に自らの相棒とも呼べる武器だった。


「いや、けど……さっきの大鎌がレイの武器なんだろう? なのに、この槍も使うのか?」


 店長にしてみれば、長柄の武器は基本的に両手で持つという認識があったのだろう。

 実際、それは間違ってはいない。

 一般的には長柄の武器はそのようにして扱う。

 だが、それはあくまでも一般的な場合だ。

 デスサイズのように、レイやセトが持ってる時は殆ど重量を感じさせず、また高い身体能力を持っているレイであれば、右手にデスサイズ、左手に黄昏の槍という二槍流が出来る。

 とはいえ、それはあくまでもそのように出来るというだけで、実際に二槍流を使いこなすとなると、相応に修練が必要になるのだが。


「ああ、俺は基本的にさっきのデスサイズとこの黄昏の槍を使う二槍流で戦っている」

「それはまた……けど、聞いた話だとレイはダンジョンに潜るんだろう? そうなると、狭い通路とかもあるらしいけど、大丈夫か?」

「デスサイズは石突きで突けるし、黄昏の槍においては言うまでもない」

「それはそうだけど……いや、異名持ちの高ランク冒険者が俺の気にするようなことに気が付かない訳がないか。それよりも他に何か珍しい武器はないか?」

「うん? そうだな。……これとか?」


 黄昏の槍をミスティリングに収納し、次に出したのはポールアックス。

 そう、冬に廃墟で戦った巨大なリビングアーマーが持っていたポールアックスだ。


「うをわぁっ!」


 いきなり目の前に出て来た巨大なポールアックスに、店長の口からそんな悲鳴が漏れる。

 自分の身長よりもはるかに巨大な……そして斧の部分は既に斧ではなく鉄塊と表現してもいいような、そんな巨大なポールアックスがいきなり目の前に現れたのだから、それに驚くなという方が無理だろう。


「どうだ? これは珍しいだろう?」

「……い、いや、珍しいって、そもそもこんな武器は持てない……持てない……」


 持てないだろうと言おうとした店長だったが、レイが片手で巨大なポールアックスを持っているのを見て、何と言えばいいのか分からなくなる。


「えっと、その……見た目は重そうだけど、実は軽いとか?」


 聞きながらも、聞いた店長本人がそれはないだろうと思っていた。

 ガンダルシアの中でも一等地にある武器屋の店長をしているだけあって、武器を見る目には自信がある。

 そんな店長の目から見て、レイが持ってるポールアックスはマジックアイテムの類ではない普通の武器だが、見掛けだけのハリボテではないと理解出来てしまうのだ。

 しかし、レイのような小柄な体格の者が、それも特に大変そうな様子もなく片手で持っているのだ。

 それを見れば、もしかして……と思ってもおかしくはない。


「持ってみるか?」


 尋ねるレイに、店長は少し考えてから頷く。


「分かった。ただ、俺が持てないと思ったらすぐに助けてくれよ?」

「ああ。じゃあ、こっちに来い」


 レイの指示に従い、店長はレイの側に移動してポールアックスを手にする。

 今の時点ではまだポールアックスはレイが持っており、店長はあくまでもポールアックスに触れているだけだ。


「じゃあ、行くぞ」


 そう言い、レイは少しだけ力を抜き……


「駄目だ駄目だ駄目だ! 無理だ無理!」


 その少しだけで、ポールアックスの重量は店長の限界を超えたのだろう。

 ……あるいは、ポールアックスを立てておいたのなら、店長にも多少は余裕があったかもしれないが、ポールアックスの大きさを考えれば、立てた場合は屋根を破壊することになる。

 その為、レイは斜めにしながら自分の握力と腕力だけでポールアックスを支えていたのだが……それだけに、店長は即座に無理だと判断したのだろう。

 叫ぶ店長の言葉に、レイはポールアックスを握る手に力を入れる。

 すると店長が持っていた部分、このままでは腕が壊れる、あるいは腰が壊れると思った重量が瞬時に消える。

 そのことに驚き、一体何がどうなればこうなるのかと、店長の視線はレイとポールアックスに向けられる。


「信じられねえ……何だ、この重さは」


 店長も、力にはそれなりに自信があった。

 何しろこの武器屋にある武器を運んだりするのは、店長の役目なのだから。

 もっとも、普段なら店員がいるので、必ずしも店長一人でやらなければならない訳ではないのだが。

 それでも武器、それも金属製の武器を持ち運ぶことがある店長は、それなりに力には自信があったのだが、それでもポールアックスはとてもではないが持てなかった。


「以前、巨大なリビングアーマーと戦った時に入手した武器だ。大きさこそ普通ではないが、分類としてはマジックアイテムでも何でもない、普通の武器だぞ?」

「……この大きさで普通の武器って方が、色々と間違ってるだろ」


 大きく息を吐く店長。

 レイは取りあえずポールアックスについては駄目だったのだろうと思い、ミスティリングに収納する。


「後は……まぁ、それこそ盗賊達から奪った槍とかだな」

「は? 盗賊達から奪った? 一体何があってそうなる?」


 盗賊達から奪ったという表現が気になったのか、店長が我に返ってレイに尋ねる。

 店長にしてみれば、何がどうなってそうなるのか、全く理解出来なかったのだろう。

 そんな店長に、レイは普通に口を開く。


「盗賊狩りは俺の趣味だから」


 その言葉に、店長は何も言えなくなるのだった。

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