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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3599/3865

3599話

 グワッシュ国に入って数日……レイとセトは、多少のトラブルはあったものの、それでもそこまで大きな、それこそ数日足止めする必要があるといったような大きなトラブルに遭遇することはなく、空の旅を続けていた。


「にしても……盗賊が多いな、ここ」


 数時間前に倒した盗賊達を思い出しながら、レイはそう呟く。

 グワッシュ国に入って遭遇したトラブルの多くは、盗賊に関係するものだった。

 商人を襲っているのを見つけることが多かったが、それ以外には村を襲っている者であったり、旅人を襲っている者だったり。

 ギルムの周辺は辺境ということで高ランクモンスターが多く、それを嫌って盗賊もいない。

 ギルム周辺以外の場所にはそれなりに盗賊がいるものの、それでもここまで多くはなかった。


「治安が悪いのは、やっぱり保護国だからか? いや、保護国という名称からして、治安が悪いのはどうかと思うけど」


 実質的にはミレアーナ王国の従属国ではあるが、対外的には保護国という名称が使われている。

 それでも保護国という名称である以上、しっかりとミレアーナ王国が保護国を保護する必要があるのでは?

 そうレイは思うのだが、この状況を見ると、とてもそのようには思えない。

 そんな風に思っていると……遠くに何かが見えてきた。


「あれが、ガンダルシア……やっぱり、エグジルよりは小さいな」


 遠くから見た限りでは、ビューネの故郷の迷宮都市エグジルと比べて半分とまではいかないが、七割程の大きさのように思える。

 もっとも、小さいというのはあくまでもエグジルと比較しての話だ。

 レイがここに来る途中に聞いた話によれば、ガンダルシアはグワッシュ国の王都よりも大きいという話だった。

 そういう意味では、ガンダルシアはグワッシュ国の中で最も大きな都市なのだろう。


「グルゥ」

「はぁ? ……またか」


 遠く……それこそ、セトが飛んでいる上空からだからこそ見えたガンダルシアに目を奪われていたレイだったが、セトの鳴き声を聞くと不満そうに地上を見る。

 するとそこでは、旅人……いや、冒険者と思しき四人が何者かに襲われていた。


「ん? ……盗賊じゃない?」


 今までの流れ、そしてグワッシュ国に入ってからの経験から、てっきり襲っているのは盗賊かと思ったのだが、どうやら違ったらしい。

 何しろ襲っている者達は小綺麗な服を着ており、馬に乗っている。

 それと比べると、逃げている四人は見るからに冒険者……それも冒険者になりたてといった感じの者達だ。


「一体何がどうなっている? というか……襲ってる連中は明らかに遊んでいるな」


 襲っている者達は馬に乗っている。

 それはつまり、走って逃げている四人に追いつくのは難しくないということだ。

 だが……それでもレイが見ている限りでは、逃げている四人に追いつく様子はない。


「グルゥ?」


 どうするの? と喉を鳴らすセト。

 そんなセトの鳴き声にレイは少し困る。

 これが盗賊であれば、盗賊喰いと呼ばれるレイの本領を発揮すればいいだけだ。

 だが、地上にいるのは双方共に盗賊という訳ではない。


「とはいえ、このまま放っておくと後味が悪いことになりそうだし……セト、頼む」

「グルゥ!」


 結局介入することにしたレイ。

 本来なら、面倒なことになりそうである以上、関わらない方がいいだろう。

 だが、このまま介入しないでおくと、後味が悪いことになりかねない。

 これから久しぶりのダンジョンのある迷宮都市に行くのだ。

 そうである以上、後味の悪い思いをするのは嫌だ。

 そう判断しての行動だった。

 セトは喉を鳴らしつつ、地上に向かって降下していく。

 すると、四人組の冒険者を追っていた、馬に乗っている者達……そちらの数も四人だったが、その四人の馬の動きがおかしくなる。

 上空からセトが降下してきたのを察知し、怖くなったのだろう。

 これがきちんと訓練された軍馬……例えば、エレーナの馬車を牽くような軍馬の場合であれば、セトを見ても怖がるようなことはない。

 しかし、生憎と現在地上を走っている馬はそのような訓練を受けていないか……あるいは訓練を受けてはいても、そこまで厳しい訓練は受けていない馬だったのだろう。


「ちょっ、おい、いきなりどうした!」

「くそっ、この駄馬が! いきなり何をする!」


 聞こえてきたそんな声に、あー……とレイは微妙に納得の表情を浮かべる。

 自分の技術不足ではなく、馬に不満をぶつける。

 そして着ているのは小綺麗な服。

 それを思えば、馬に乗っている四人がどのような立場の者なのかはレイにも容易に想像出来た。

 また、地上が近付くに連れて追われている四人の姿も確認出来るようになる。

 女が三人に、男が一人。

 そんな四人が、馬に乗って追ってくる四人から逃げていた。

 そんな四人を見ていたレイは、声には出さないが感心する。

 セトの存在によって怖がった四頭の馬の動きが止まり、その場で怯えている様子を見て取ったのだろう。

 逃げていた四人の冒険者は、その速度を上げる。

 馬の足が止まったのを幸いと、少しでも走って追ってくる者達との距離を開けようとしたのだろう。

 そんな中、セトは馬に乗っている者達と追われている四人の間に着地する。


「グルルルルルゥ!」


 着地した瞬間、セトが喉を鳴らす。

 王の威圧を使った訳ではなく、セトが行ったのはただの雄叫び。

 だが、セトが行うのはそれだけで十分だった。

 馬はその動きを完全に止め、その馬に乗っている四人もまたそれは同様だった。

 逃げていた四人の冒険者にもその影響は及び、動きを止めていた。


「さて」


 追う方、追われる方。

 双方が止まったのを見て、レイは小さく呟く。


「盗賊か何かかと思ったら、どうやら違ったみたいだな。ここで色々と話を聞きたいところだけど、面倒だ。取りあえずそこから動くな」


 そうレイが言ったのは、馬に乗った者達。


「勿論、お前達からも色々と話を聞かせて貰うぞ」

「え? あ、はい。それはいいですけど」

「……これはまた」


 逃げていた四人の冒険者の中で、唯一の男がレイに向かってそう言う。

 セトの雄叫びを聞いて、他の者達がろくに動けずにいるのにだ。

 そんな中で、多少身体の動きは鈍いものの、それでもこうして普通に返事をしてくるのだから、その男が何か特別な存在なのは間違いないとレイには思えた。


(もしかして、この四人が追われていたのはそれが理由なのか?)


 そう思うも、それを表情に出すようなことはしない。

 ここでそのように言えば、あるいはそれによって双方共に説明を変えるかもしれないと思っての行動だ。


「まず言っておく。ここは街の外で、つまり死んでもそれで罪に問われたりはしない」


 そうレイが言った瞬間、先程レイの言葉に反応した……冒険者の男が口を開く。


「そ、そんな訳……」


 そんな訳はない。

 そう男は言いたいのだろう。

 実際、その言葉は決して間違っている訳ではない。

 それはレイも分かるが、レイは男の言葉に反論するように口を開く。


「そもそも、この件を知ってる者が全員死んだら、誰がそれを警備兵やら騎士団やらに知らせるんだ?」

「っ!?」


 何気なく言われたレイの言葉に、唯一話せていた男……だけではなく、仲間の女の三人や馬に乗っていた四人までもが息を呑む。

 分かってしまったのだろう。レイが口にした言葉は、実現するかどうかは別として、それを実際にやろうと思えば出来るということに。


「そんな訳で、詳しい事情を聞かせて貰おうか」


 そうレイが言うと、それに対して馬に乗っていた四人が何かを言おうとするものの、まだセトの雄叫びによって喋ることが出来ないのか、口をパクパクとさせるだけだ。

 それに対して、追われていた四人の方は雄叫びを聞いても最初からある程度話すことが出来た男は勿論のこと、他の三人の女もまだ少し辛そうだったが口を開くことが出来た。


「その人達が私達に声を掛けてきて、それを断ったら……その、乱暴しようとしてきたんです」


 女の一人の言葉に、レイはだろうなと納得する。

 今までの経験から、何となくそういう流れではないのかと思ってはいたのだ。


「ち……ち……違ぅ」


 馬に乗っていた四人のうち、一人が必死にそう言う。

 セトの雄叫びから、まだ完全には復活していないのだろう。

 言葉の最後は尻つぼみになっており、聞き取りにくい。

 それでもレイはその言葉の意味を理解し、馬に乗っている四人に……いや、今何とか言葉を発することが出来た、四人の中でも恐らくリーダー格なのだろう存在に視線を向ける。


「違う、とは? お前達は乱暴目的でその四人に声を掛けたのではないと?」


 四人のうち一人は男だが、他の三人はそれぞれ顔立ちが整っている。

 年齢がまだ十代半ば、あるいは前半ということもあってか、美人ではなく可愛いと評するのが相応しいだろう者達。

 そんな相手を馬に乗って追っていた者達。

 客観的に見た場合、これでどちらが加害者なのかは、考えるまでもなく明らかだ。


「その……その者達が私達を嘲ったのだ。貴族の血に連なる者として、そんなことを許す訳にはいかん!」


 最初の方こそレイやセトに向かってどう言えばいいのか迷った様子だったものの、話しているうちに普段の調子を取り戻したのだろう。

 男はそう断言する。

 他の三人も、自分達のリーダー格の言葉に同意するように、そうだそうだと声を上げる。

 こちらもセトの雄叫びで口を開くことも出来なかったのだが、どうやら時間が経つに連れてある程度は話せるようになったらしい。

 しかし、そんな四人……レイが予想したように、貴族達の言葉に黙っていないのは追われていた方の四人だ。

 特に気の強そうな女が、貴族達の言葉に我慢出来ないといった様子で叫ぶ。


「ふざけないでよ! 私達に言い寄ってきたのはあんた達でしょ! しかも散々下種な目でこっちを見て……その上、断られたからって馬に乗って追ってきて」


 そこから始まるのは、お互いの言い争い。

 その様子を見ていたレイは、どうしたものかと大きく息を吐く。

 レイの予想……というよりも、これまでの経験からすると、恐らく逃げていた四人の方が正しい事を言っているのだろう。

 そして追ってきた方は、自分達の行動が問題になりそうなので、それを何とか誤魔化そうとしているといったところか。


(というか……どうせ狙うのなら、こういうのじゃなくて、もっと大人の女を……)


 ふと頭の片隅でそう考えたレイだったが、改めて貴族の方を見てみれば、そちらの四人の年齢も逃げていた四人とそう違いはない。

 そうなると、自分と同年代の相手を追っていたことになり、そうおかしな話でもないのだろう。


「とにかく、話はその辺にしておけ。俺が関わったのも何かの縁だ。取りあえずお互い様ということで、やめておけ」

「ちょっと、何で私達も悪いみたいなことになってるのよ!」


 レイの言葉に、先程貴族達に向かって叫んだ女が、レイに向かって不満そうに言う。

 女にしてみれば、自分達を追ってきた貴族達が何の咎もないままというのが許容出来なかったのだろう。


「それはこちらの台詞だ。我ら高貴なる血を持つ者を嘲った者達を、そのままに放免すると?」


 そして貴族側もまた、四人組が何の咎もないままというのは許容出来なかったらしい。

 双方共に、相手に罪を償わせないでそのままというのは許せない。

 そのように主張していた。


「はぁ……」


 そのような双方の言葉に、レイは呆れた様子で息を吐くとミスティリングからデスサイズを取り出し、振るう。

 ぶおん、と。

 空気そのものを……いや、それどころか空間そのものを斬り裂くかのような一撃を放つ。


「何か不満があるのなら、最初に言ったようにここにいる全員を殺して、何もなかったということにしてもいいんだが? 勿論、お前達は全員で戦ってもいい。こっちは俺とセトだけだ」


 そうレイが言う。

 じわり、とレイの身体から滲むように放たれるのは殺気。

 その殺気に最初に気が付いたのは、貴族の四人が乗っている馬だった。

 セトの雄叫びで動けなくなっていた馬だったが、レイから放たれる殺気に気が付き、怯え始める。


「え? おい、ちょっと、急にどうしたんだ!?」


 貴族の一人が、いきなり動きだした馬に驚き、そう声を掛ける。

 だが、その馬は乗せている貴族のことを気にした様子もなく、何とかレイから距離を取ろうとする。

 じわり、次第に増していく殺気。

 そんな殺気に、馬の次に気が付いたのは冒険者の男。

 ただし、こちらはまだそれがはっきりと殺気とは分からないらしく、それでも何かざわめくもの、危険を察知し、慌てたように周囲を……そしてこれ見よがしにデスサイズを振るったレイを見る。

 冒険者のリーダーである男がそんな様子だけに、他の三人も……そして、それに気が付いた貴族達もレイを見る。


「で、どうする?」


 そう尋ねるレイに、まだ不満を言うような者は誰もいなかった。

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