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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア
3596/3865

3596話

昨日の更新にて、間違って前の話を更新してしまいました。

既に修正されているので、そちらをまだ見ていない人は前話からどうぞ。




カクヨムにて10話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 結局盗賊が全滅するまで、十分と掛からなかった。

 当然だろう。元々護衛の冒険者達と盗賊達は互角に戦っていたのだ。

 そこにレイとセトが援軍として入ったのだから、盗賊達がそれに対抗出来る筈もない。


「うわぁ……嘘だろ……」


 ダーシュが目の前の光景を信じられないといった様子で呟く。

 その視線の先にいるのは、セト。

 サイズ変更のスキルを解除し、いつもの三m半ばの大きさになったセトが、気絶した五人の盗賊達を引っ張ってきたのだ。

 勿論、五人ともなれば幾らセトが大きくても一度で連れてこられる筈もない。

 セトは何度かに分けて、気絶した盗賊達を連れてきたのだ。

 この辺りで行動している者達にとっては、セトを……グリフォンを見るのはこれが初めてという者も多いだろう。

 いや、寧ろ実際に見たことがある者の方が少ない筈だ。

 勿論、昔話や言い伝えといったもので聞いたことのある者もいるかもしれないが。


「さて、取りあえずこれで一段落だな」


 そう言い、レイは縛られている盗賊達に視線をむける。

 それなりに大きな盗賊団だったらしく、捕らえられた盗賊だけでも二十人近い。

 死んでいる者も合わせると、三十人以上はいるだろう。


「それで、色々と話をしたいんだが……いや、その前に自己紹介でもしておくか。ランクA冒険者で、深紅の異名を持つレイだ。これが証拠な」


 そう言い、レイはミスティリングからギルドカードを取り出す。


「……ランクAって……一体何でそんな高ランク冒険者がこんな場所に……」


 ギルドカードを見たダーシュは、目の前にいるレイやセトの存在が理解出来ないといった様子で呟く。

 この様子からすると、恐らくこの辺りに高ランク冒険者はいないか、あるいは人数が少ないのだろう。


「あの……レイさん。ちょっと馬車を覆っている奴を解除して欲しいんですけど」


 レイが最初に声を掛けた、槍を持つ女の冒険者がそう言ってくる。

 どうした? とそちらに視線を向けると、そこでは馬車から降りたのだろう商人と思しき者達が障壁の中で困った様子を見せている。

 障壁から出ようとしているのだろうが、防御用のゴーレムについて何も知らないだけに、迂闊に障壁に触れてもいいのかどうか分からないのだろう。


「ああ、悪い。……もう障壁を解除してもいいぞ。こっちに戻ってこい」


 そんなレイの言葉に、防御用のゴーレムは自分に命令されていると判断したのだろう。

 レイの指示に従って障壁を消すと、空中を飛んでレイに向かってくる。


(結局障壁の性能は確認出来なかったな)


 障壁を張りはしたものの、結局盗賊は馬車を守っていた障壁を攻撃するよりも前にレイに一蹴された。

 それこそ鎧袖一触という表現が相応しいかのように。

 少し手加減をして障壁に攻撃をさせればよかったか?

 一瞬そう思ったレイだったが、すぐにその考えを否定する。

 何故なら、もしレイが手を抜いた場合、盗賊達は障壁に攻撃をするのではなく、即座に逃げていたのだろうから。


「ご苦労さん」


 そう言い、レイは防御用のゴーレムを一撫ですると、ミスティリングに収納する。

 そんな光景に、見ていた者達が驚く。

 実際には戦いの最中にも防御用のゴーレムを出したのだが、その時は盗賊達との戦いに集中していた為に、それどころではなかったのだろう。


(簡易型のアイテムボックスなら多少は広がってる筈だけど……この辺りで活動していれば、入手することは出来ないのか?)


 そのような疑問を持ったが、ガンダルシアという迷宮都市があるのだから、そこでアイテムボックスの類が見つかってもおかしくはないのでは? とも思う。

 ただ、元々レイがガンダルシアに行く切っ掛けになったのは、ガンダルシアにおいてダンジョンの攻略が進んでいなかったのが理由だと思い出す。

 そうなると、将来的にはともかく、今はまだ恐らく入手出来なくてもおかしくはないのだろうと思っておく。


「さて、それで事情を聞かせて貰う……必要はないな」

「え?」


 レイの言葉に、障壁が消えて近付いてきた商人の口からそんな声が漏れる。

 中年の、一見して人の良さそうに見える商人が、レイの言葉に驚きの表情を浮かべていた。

 そんな商人の様子に、レイは訝しげな表情で口を開く。


「商隊が盗賊に襲われた訳だが、何か特別な理由でもあるのか?」

「あ、いえ。そういう訳ではないです。ただ、その……この辺で盗賊に襲われるということそのものが滅多にないことなので。そういう風に言われるとは思いませんでした」

「盗賊に襲われにくい? この辺はミレアーナ王国とグワッシュ国との国境付近だろう? そうなると盗賊はそれなりに活発に動いてもいいんじゃないか?」

「そうですね。普通ならそうなるでしょう。ですが、この辺りを治めている領主様は治安維持に熱心な方で、盗賊の討伐を積極的にやっています。そのお陰で、本来ならこの辺りで盗賊が出るということは……ない訳ではないですが、ここまで大規模な盗賊というのは考えられません」

「それは……」


 この辺りを治める領主に何かあったのか、それとももっと別の理由なのか。

 ただ、レイにしてみればあまり好ましい話ではない。

 ミレアーナ王国側で何らかの騒動が起きた場合、もしかしたらグワッシュ国にも影響があるかもしれない。

 ……いや、グワッシュ国はミレアーナ王国の保護国、もっと直接的に表現すれば従属国のようなものだ。

 そうである以上、国境付近のミレアーナ王国の貴族が治める領地に何かあった場合、グワッシュ国にも影響があるのはおかしな話ではない。

 あるいは何らかの影響があっても、それが国境付近だけなら、レイにとっても特に問題はない。

 だが、迷宮都市ガンダルシアにまで何らかの影響が波及すれば、それは面白くなかった。


「盗賊達から助けた報酬として、その辺の情報について教えてくれ。後は、この盗賊達の拠点を襲撃する権利が欲しい」

「それは……いえ、分かりました。それでよければ。深紅のレイに助けて貰ってその程度なら、安いものでしょうし」


 最初に行ったレイの自己紹介が聞こえていたのか、それともセトを連れているのでその正体を察したのか。

 その辺はレイにも分からなかったが、別に自分の名前を知られて困るようなことはない。

 自分を何かに利用しようと考えた場合は話が別だが、レイがこうして商人と話してみた感じでは特にそのようなことを考えているようには思えなかった。


「それで、どうする? このままここで話をするのか? 盗賊達の尋問もあるし」

「そう、ですね。出来れば今日のうちにもう少し進みたかったところですが、怪我をした人達の治療もしないといけないので、少しここで休憩としましょう」


 へぇ、と。

 商人の言葉にレイは少しだけ驚く。

 今の言葉からすると、冒険者の治療はこの商人がポーションやら何やらを使って行うと言ってるように思えたからだ。

 勿論、そういうことがないとは言わない。

 例えば冒険者が専属の護衛であったり、あるいは私的な関係で親しい護衛であったり。

 そんな風に思っていると、レイと話していた商人よりも年上の男が別の馬車からやって来る。


「ギズモさん、勝手に話を決められては困る! 盗賊の拠点についてはこちらで調べるべきだろう! ただでさえ私達は襲われたんだからな!」


 レイと話していた商人……ギズモと呼ばれた商人は、困った様子で声を掛けてきた男に言葉を返す。


「ヤイルスさんの言いたいことも分かりますが、彼は異名持ちの高ランク冒険者ですよ? 普通に雇えば、金貨どころか、白金貨……いや、光金貨すら支払う必要がある相手です」

「……はっ、高ランク冒険者だって? ギズモさん、あんたも騙されやすいのはどうにかした方がいいんじゃないか? こんなとても強そうに見えない奴が本当に高ランク冒険者な訳がないだろうに。騙りだよ、騙り」

「ちょっと待って下さい! ギルドカードを確認しました。彼は正真正銘深紅のレイで間違いありません!」


 レイのギルドカードを見たダーシュが、慌てたように言う。

 ヤイルスの言いたいこと……いや、やりたいことは分かる。

 レイが本当は高ランク冒険者ではないと決めつけ、報酬を支払いたくないのだろう。

 何しろ、襲ってきた盗賊の数が数だ。

 その盗賊の多くを倒した以上、既に盗賊のアジトに戦力は残っていないだろう。

 だからこそ、自分達でそのアジトを襲えば、そこにあるお宝は自分達の物になる。

 そう欲を掻いたのだろう。

 だが、ダーシュにしてみれば、レイのギルドカードを自分で確認しているし、何より……


「グリフォンを従魔にしている者が深紅以外にいるとでもいうんですか!?」


 必死になって叫ぶ。

 深紅のレイの噂は、この辺りにも届いている。

 ただし、ミレアーナ王国の中でも端の方にある場所だ。

 当然ながら、噂は届くまでに途中で色々と変質してしまう。

 吟遊詩人の歌であれば、噂よりは正確だろうが、その吟遊詩人の歌も聴く者に喜ばれなければ金にならないので、客が喜ぶように変えていく。

 だからこそ、ヤイルスはレイのことを侮ったのだろう。

 これでレイが筋骨隆々の大男であれば話は違ったかもしれないが。


(懐かしいな)


 自分が侮られているというのに、レイはそれを不満に思わない。

 それどころか、懐かしいとすら思っていた。

 今はもうギルムでレイのことは知れ渡っており、その小柄な外見から弱いと思って絡んでくる者は殆どいない。

 たまに……本当にたまに、ギルムに来たばかりで自分の力に自信のある者がレイを見て、これなら自分でも勝てると考えて絡もうとする者もいるが、大半は周囲に止められる。

 幸か不幸か、周囲に止める者がいないような者が実際にレイに絡むことになるのだが……その結果がどうなるのかは、想像するのも難しくはない。

 そんな訳で、レイとしてはこうして自分の外見から侮ってくる者がいるというのは、苛立ちを覚えるよりも前に珍しいと思ってしまうのだ。


(とはいえ、今はいいけどガンダルシアに行った時にもそうなったら、面倒だけど)


 レイは冒険者育成校の教官……それも戦闘の教官として雇われるのだ。

 そうである以上、血の気の多い者もいるだろう。

 そのような者達にしてみれば、自分達の教官となるのがレイのように小柄な……それも女顔で、決して強そうに見えないような相手であるのを認められないということになるかもしれない。


(慣れって怖いな。ギルムの時のように普通にどうにか出来ると思っていた)


 勿論、相手の強さを察することが出来る者であれば、レイを見ただけでその強さは理解出来るだろう。

 だが、この場合問題なのはレイが冒険者育成校の教官……つまり、冒険者として未熟な者達の教官となることだろう。

 そのような者達で、レイの実力を察することが出来る者がいるのかどうか。

 その時のことを考えれば、こうしてこの場でそのことを思い出させてくれたヤイルスには感謝すら抱いている。

 ……かといって、その言葉をそのまま受け入れるかどうかは別の話だが。


「つまりそれは、臨時とはいえ俺を雇った上で、それを反故にする。そう考えてもいいのか?」


 その言葉を聞いたダーシュを含む冒険者達……いや、ダーシュ達以外の護衛の冒険者達も、ピタリとその動きを止める。

 何か……そう、本当に何かとしか表現出来ないものが、背筋を走ったのだ。

 それはギズモは勿論、レイに向かって不満を口にしていたヤイルスも同様だった。

 そんな中で、真っ先に動いたのは、ダーシュ。


「いえ、そんなことはありません! 勿論、レイさんの望む報酬はそのままにします。ですよね?」

「え? あ、ああ。先程も言ったように、こちらには異存はありません」


 ダーシュの言葉に、ギズモが即座に頷く。

 ギズモの視線は、レイもそうだが、レイの側にいるセトにも向けられている。

 セトは、特に何かをしている訳ではない。

 ただ、じっと……そう、じっとギズモ達に視線を向けているだけでしかない。

 それでもセトの円らな瞳で見られていたギズモは、ここで下手なことは出来ないと、そう理解したのだ。


「ヤイルスさん、問題ありませんね? 彼の望む報酬を支払うということで」

「あ……ああ……」


 ギズモの言葉に、ヤイルスもそれ以上不満を口には出来ない。

 もし何かを言えば、恐らく自分は破滅する。

 そのように本質的に察したのだろう。

 この辺りの察しの良さは、国境を越えて二ヶ国の間を行き来している商人らしいものなのだろう。

 ……レイにしてみれば、最初からその察しの良さを発揮して報酬を値切ろうとするなと思ったが。

 

「なら、まずはこの辺りの情報についてを聞かせてくれ。それと盗賊達のアジトについても聞き出す必要があるな」


 そう言い、レイは周囲の雰囲気を一変させるのだった。

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