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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3591/3865

3591話

 残った魔石は、デュラハンと巨大なリビングアーマーの二つのみ。

 セトが四つ首のゾンビの魔石を使ったので、次はレイの番だ。

 巨大なリビングアーマーの魔石を手にしたレイは、それを空中に放り投げるとデスサイズで切断する。


【デスサイズは『パワースラッシュ Lv.八』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 パワースラッシュがレベルアップしたのは、レイにとっては特に意外性がある訳でもなく、寧ろ納得出来るスキルだった。

 ただ、それで嬉しくない訳ではないのだが。

 何しろパワースラッシュはレイがそれなりに頻繁に使うスキルなのだから、それが強化されたのは嬉しい。

 また、先程までは腐食がレベル八で最高だったのがパワースラッシュが並んだことも喜ばしい。

 別に腐食が悪いという訳ではないし、レイとセト以外には誰も分からない。

 しかし、レイとしては何となく腐食が最高レベルだということは微妙に思えてしまう。

 それに対してパワースラッシュが腐食に並んだのだから、レイにとっては悪くない。

 ましてや、レベル四までのパワースラッシュは使用した時に手首に強力な反動があったものの、レベル五になった時にそのような反動はなくなった。

 そういう意味でも、パワースラッシュは使いやすいスキルなのは間違いない。


(パワースラッシュがレベル十になったらどうなるんだろうな。……パワースラッシュはレベルの上がりやすいスキルだから、レベル十になるのはもう少しか)


 パワースラッシュは力の強い、それでいて武器を使うモンスターの魔石を使えばレベルアップする可能性が高いだろう。

 もしくは、一見そうは見えないものの、何故そのモンスターの魔石からパワースラッシュのレベルが? と思うモンスターの魔石でもパワースラッシュのレベルが上がる可能性はあった。


「セト、これが最後だ」

「グルゥ」


 最後に残った魔石……デュラハンの魔石に視線を向けるセト。

 長かった魔獣術も、これが最後か。

 そのように思いつつ、セトは魔石を咥え……飲み込む。


【セトは『サイズ変更 Lv.三』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。


「えー……」


 何故そのスキル。

 半ば期待外れといった様子でレイの口から声が出る。


(デュラハンだぞ? もっと強力なスキルが……いやまぁ、サイズ変更も決して意味のないスキルという訳じゃないんだけど)


 巨体のセトだけに、一定時間ではあるが身体のサイズを変更する……小さくなるのは、それなりに使い道はあるだろう。

 だが、それでも……やはりデュラハンということで、レイはもっと強力なスキルを習得するなり、強化されるなりと思っていたのだが。

 それだけに、サイズ変更というのはレイにとってやはり驚きであり、がっかりとする内容だったのも間違いない。


(けど……いや、そうだな。廃墟のデュラハンではこうだったけど、もっと他の……普通に遭遇したデュラハンからなら、もっと別のスキルを習得出来るかもしれないと、そう思っておくか)


 サイズ変更をセトに試して貰うと、前のレベルの時よりも小さくなっているのは確認出来た。

 このサイズ変更を使う機会がくるといいんだが。

 そう思いつつ、レイは最後の最後で微妙な結果になったものの、それを込みで考えても今回の一件は満足出来る結果だった。


「うーん……ここまで魔石を大量に使ったのは、初めてじゃないか? 何だかんだと、スキルが一気に増えたし」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトが同意するように喉を鳴らす。

 デスサイズのスキルもそうだが、セトのスキルも今回の一件でかなり強化された。

 そういう意味では、今回の廃墟は大当たりだったのだ。


「まぁ……デュラハンの魔石でサイズ変更のレベルが上がるとは思わなかったけど。あれは単純にデュラハンがそういう能力を持っていたのか、それともデュラハンとは関係のない何らかの理由でサイズ変更を習得したのか。どっちもありそうなんだよな。どう思う?」

「グルゥ? ……グルゥ」


 レイの言葉に困った様子を見せるセト。

 自分に聞かれても、そんなことは分からない。

 そう言いたいのだろう。

 ただ、レイも別にしっかりと答えが分かっていて聞いた訳ではない。

 一緒に戦ったレイが分からないのに、セトが分からないのも当然だと、そのように思うのは当然のことだと理解していた為だ。

 そもそも、そのモンスターの特徴と関係のないスキルを習得するなり、強化するなりというのは、以前にも何度か経験している。

 そうである以上、その辺は今更の話だろう。

 ……特にゾンビやスケルトン、バンシー、リビングアーマーといった魔石は結構な数があった。

 それらを適当に混ぜて、その上でセトとデスサイズによって魔石を使っていったのだから、どの魔石でそのスキルを習得したり強化したりしたのかは分からない。


「まぁ、その辺について考えても、あまり意味はないか。今は取りあえず大量のスキルを習得したり強化したってことで納得しておけばいいし」

「グルゥ?」


 レイの言葉に、そうなの? と喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトを撫でつつ、ここでやるべきことは終わったと洞窟にあるマジックテントに戻る。

 セトはマジックテントの近くで寝転がり、レイはミスティリングから取りだした料理を幾つかセトの側に置くと、マジックテントの中に入る。

 幸いにも、ニールセンはまだぐっすりと眠っていた。


(妖精は木の中で眠ったりするのに、ニールセンときたら……いやまぁ、もしニールセンが木の中で眠っていれば、スキルを試した時に起きていた可能性もあるから、そういう意味ではラッキーだったのかもしれないけど)


 今の状況がラッキーだったと思いつつ、レイはベッドに向かうのだった。






「ちょっ、ちょっと……一体何があったのよ、これぇっ!」


 魔獣術で大量に魔石を使った翌日……特に何事もなかったかのように起きたレイは、セトやニールセンと共に朝食を食べた。

 そこまでニールセンも特に変わりはなかったのだが、洞窟から出たところで目の前の景色にニールセンは叫んだのだ。

 もっとも、それは無理もない。

 洞窟のすぐ前は特に問題なかったのだが、周辺に生えている木々が一体何があったのかと思う程に荒らされていたのだから。


(雪でも駄目だったか)


 この季節だけに、レイやセトが色々と試した痕跡を降ってきた雪が隠してくれるのではないかと思ったが、レイのその予想は甘かったらしい。


「昨夜、ちょっとセトと一緒に雪遊びをしてな」

「……あのね、雪遊びでどうしてこんなことになってるのよ」


 レイの言い訳に、ニールセンは冷静にそう返す。

 実際、普通に考えればニールセンの言葉は決して間違ってはいない。

 何をどうすればこのようなことになるのかと、そう思うのは自然な話だ。

 レイもそれは分かっているが、だからといってニールセンに魔獣術について教える訳にはいかない以上、誤魔化すしかなかった。


「いや、ちょっと雪遊びに熱中しすぎてな。……なぁ?」

「グルゥ? ……グルゥ!」


 レイの言葉に、セトはそう? と一瞬不思議そうにしてから、次の瞬間にはその通りと喉を鳴らす。


「ちょっと?」


 そんなあからさまなセトの様子に、ニールセンが怪しげな様子で疑問を口にする。


「どうした?」


 レイもセトの反応が若干不味かったのは理解出来たものの、だからといってどうにか誤魔化す必要がある以上はニールセンの疑問に素直に答えたりしないで、誤魔化す。

 ニールセンはレイの様子を眺めていたものの、これ以上聞いてもレイが素直に話す様子はないと判断したのだろう。

 やがて不満そうにしながらも、それ以上の追及は止める。

 ニールセンの様子から、これ以上の追及がないだろうと判断したレイはそのまま出発する用意をするのだった。






「ん-……見えてきたか。俺はギルムの領主の館に行って、あの廃墟について説明してくるけど、ニールセンはどうする? 妖精郷に戻るのならトレントの森の上までは送っていくけど」

「え? うーん……どうしようかしら。私もレイと一緒に行きたいけど……」


 夕暮れに赤く染まるギルムを見て、悩むニールセン。

 レイと一緒にギルムに……領主の館に行けば、何か美味い料理を食べられるのは間違いない。

 だが、妖精郷を出る時に長に特に何か言ってきた訳ではないのも事実。

 そうなると、廃墟から戻ってきたのにすぐに妖精郷に戻らなかったと知られれば、長にお仕置きをされるかもしれない。

 ましてや、今回の一件で霊を見ることが出来るようになったという報告もする必要があった。


「戻る……」


 残念そうに……本当に心の底から残念そうに、ニールセンが言う。

 そんなニールセンに、レイは驚きの視線を向ける。

 ニールセンの性格を考えれば、ギルムに行くと言うとばかり思っていたのだ。

 だが、ニールセンがそう決めたのならと、頷く。


「分かった。じゃあ、セトにトレントの森の上空を飛んで貰うから、その時にニールセンは降りてくれ。いいよな」

「グルゥ」


 何故かニールセンの代わりにセトが答える。

 そんなセトの様子にニールセンは笑みを浮かべる。


「それでいいよ。じゃあ、よろしくね。……ただ、レイも今日は無理でも近いうちに妖精郷にやってきてね。待ってるから」

「そうするよ。どのみち、春までは後は特にやるべきことはないし。あってもトラペラの件くらいだと思う」


 元々、レイはこの冬くらいはゆっくりとしたかった。

 それこそ穢れの件を片付け、文字通りの意味で世界を救ったのだから、春までゆっくりするくらいはいいだろうと。

 だが……トラペラだったり、スノウオークのスタンピードだったり、その上で今回の廃墟だ。

 もっとも廃墟はレイが妖精郷で話を聞いて、自分から向かったのだが。

 しかし、前もって聞いていたのはリビングアーマーの件だけだったが、実際に行ってみれば大量のアンデッドがいた。

 そう考えると、廃墟の件でも当初の予定と違って忙しかったのは間違いない。

 もっとも、廃墟で入手した魔石の価値を思えば、その程度の問題はレイにとって許容範囲ではあったが。

 いや、寧ろこれ以上ないプラスか。

 そう言えるだけの、圧倒的な魔石を入手出来たのだ。

 もしあの廃墟と同じような場所があったら、それこそ冬の間はゆっくりするといったようなことを考えるまでもなく、セトと一緒に向かうだろう。


「ふーん。じゃあ、まぁ、頑張ってね」


 セトが翼を羽ばたかせれば、ギルムの近くにあるトレントの森にはすぐに到着する。

 それを確認したニールセンは、レイに向かって頑張ってと言うとレイの右肩から飛び立つ。


「またな」


 レイもそんなニールセンに軽く手を振ると、セトに向かってギルムに向かうように言う。


「領主の館だ。この時間だと、冬でもそれなりに正門に並んでいるだろうから、直接領主の館に降りてくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは任せてと喉を鳴らすと、すぐにギルムに向かう。

 セトにしてみれば、領主の館に降りるのは今まで何度も経験しているので、特に躊躇うようなことはない。

 それどころか、領主の館にいけば美味い料理を食べられるという風に認識しているので、レイの言葉を聞いても面倒臭がったり、嫌がったりするようなことはなく、寧ろ嬉々として領主の館に向かう。

 途中、正門の上を通ると、レイが予想したように十人にも満たない数だが、行列が出来ている。

 冬であっても、依頼を受ける冒険者はそれなりに多い。

 冬越えの金が足りなかったり、金遣いの荒い冒険者はそれによって冬越えの金が足りなくなったり。

 あるは娼婦に貢いで金が足りなくなったり、賭けに負けて金が足りなくなったり。

 それ以外にも様々な理由で金が足りなくなった冒険者達は、当然ながら金を稼ぐ為に依頼を受ける。

 そして短時間で金を稼ぐのなら、街中の依頼……今なら雪掻きといったような依頼ではなく、街の外で行われる依頼の方が向いている。

 スノウオークのように冬しか出ないモンスターを倒せば、その素材や魔石はギルドが高額で買い取ってくれるのだから。

 相応の強さを持つ者にしてみれば、冬特有のモンスターというのは強いが、倒せば十分な金になる。

 ……もっとも、強い冒険者であれば冬越えの金を貯めるのもそう難しくはないのだが。


(ご苦労さん、と)


 正門の前に並んでいる何人かの冒険者がレイを……正確には空を飛んでいるセトを見て驚いたり、何かを話しているのを見ながら、レイは地上にいる者達にそう思う。

 そしてレイはセトに乗り……やがて領主の館が見えてくると、セトに降りるように合図をするのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.八』『サイズ変更 Lv.三』new『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.六』『光学迷彩 Lv.八』『衝撃の魔眼 Lv.五』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.六』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.三』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.五』『翼刃 Lv.四』『地中潜行 Lv.二』『サンダーブレス Lv.五』『霧 Lv.二』『霧の爪牙 Lv.二』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.八』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.八』new『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.五』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.六』『飛針 Lv.四』『地中転移斬 Lv.一』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.三』



サイズ変更:元の大きさよりも縮む。Lv.二だと七十cm程、レベル三だと五十cm程になる。



パワースラッシュ:一撃の威力が増す。ただし斬れ味が鋭くなるのではなく叩き切るような一撃。レベル五以降では威力が上がり反動もなくなる。

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