3590話
【セトは『翼刃 Lv.四』のスキルを習得した】
リビングアーマーの魔石を使っていると、再度のアナウンスメッセージ。
これだけ連続してアナウンスメッセージを聞くのは初めてではないだろうか。
そのように思っていると、レイが何も言わなくてもセトはレイから少し離れた場所でスキルを発動する。
「グルルルルゥ!」
翼刃のスキルを発動するセト。
翼刃というスキルは、翼の外側部分を刃にするというスキルだ。
ただ、刃にするとはいえ、見て分かるような刃物の刃となる訳ではない。
純粋な外見だと、それこそ普通の翼と変わらない。
ただ、見えないだけで翼の外側は間違いなく刃となっているのも事実。
セトは刃となった自分の翼を見ると、少し離れた場所にある木に向かって走り……斬、と。
その刃は、木の幹をあっさりと切断する。
とはいえ、それでもセトは満足した様子はない。
今の翼刃はレベル四だが、木を切断するだけならレベル三でも出来ていたのだ。
そういう意味では、レベル四になった効果を実感したとは言えないのだろう。
とはいえ、周囲には木しかない以上、今は他の何かで試すことは出来ない。
……実際には、ミスティリングの中に岩や金属のインゴット、分かりやすいところでは廃墟で倒した巨大なリビングアーマーの鎧の破片といったものがあるのだが。
今のところ、それを出すつもりはなかった。
「ほら、リビングアーマーの魔石は、もう少しあるから。他にも試すぞ。ゾンビやスケルトンと違って、こっちなら納得出来るようなスキルを習得出来るかもしれないし」
そう言って魔石を切断すると……
【デスサイズは『ペネトレイト Lv.七』のスキルを習得した】
アナウンスメッセージが脳裏に響く。
「よし。まぁ……これも理解出来ない訳ではないか?」
リビングアーマーの中には、槍を持っている個体もいた。
そうである以上、ペネトレイト……デスサイズの石突きを使って突きを放つスキルが強化されるのはおかしな話ではない。
「試すには……やっぱりあっちの木か」
これまでレイとセトがスキルを試す為に、既に結構な木が犠牲となっている。
このままでは洞窟周辺の木が全滅してしまうのでは?
少しだけそう思ったレイだったが、そこまでのことにはならないだろうと判断する。
「ペネトレイト」
スキルを発動したレイは、デスサイズの石突きを使って木に向かい、突きを放つ。
放たれた石突きは木の幹に突き刺さり……次の瞬間、木の幹に螺旋状の傷がつけられ、次の瞬間には木の幹を貫くと同時に、螺旋によって貫かれた周囲も大きく傷が生まれ、やがて途中で折れ、地面に倒れ込んだ。
「うん、威力が上がってるな。使い勝手も以前と特に変わらないから、使いやすい」
レベルアップしたペネトレイトの効果に満足しながら、レイは再び魔石のある場所に戻る。
「グルゥ」
「ありがとな。けど、魔石はまだあるんだ。さっさと消費してしまおう」
おめでとうと喉を鳴らしたセトにそう言い、レイは再びセトと共に魔石を使い始める。
すると数分も経たず、脳裏にアナウンスメッセージが響く。
【セトは『ウィンドアロー Lv.五』のスキルを習得した】
そのアナウンスメッセージは、レイやセトを喜ばせるのに十分だった。
何しろ、レベル五になった……つまり、一気にスキルが強化されたのだから。
「セト、試してみてくれ」
「グルルルゥ!」
レイの言葉に、セトはその場でウィンドアローを発動する。
生み出された風の矢の数は、全部で五十本。
レベル四の時が二十本だったことを考えると、風の矢の数は倍以上に増えている。
(とはいえ、アイスアローの時もそうだったし……多分だけど、アースアローもレベル五になれば五十本になるんだろうな)
名前にアローとついているスキルは、その強化の仕方が共通してるのだろうとレイには思えた。
ウィンドアロー、アイスアロー、アースアロー……三つのアロー系は、今のところ同じように強化されているのだから、そのような予想はおかしな話ではない。
「グルゥ」
セトもレイが予想していたようなことは理解していたのか、ウィンドアローを放った後は特にそこまで驚いたりといったことはしていない。
とはいえ、それはレイやセトの感覚がおかしいだけで、実際には五十本の風の矢というのは使われる方にして見ればかなり脅威なのだが。
純粋な威力という点では質量の点でアースアローやアイスアローに劣るものの、ウィンドアローはその名の通り風で構成されており、放たれれば判別するのは難しい。
また、風の矢だけあって速度もアースアローやアイスアローに勝っているのは大きな利点だろう。
「凄いな、セト。それにしても、ウィンドアローか。リビングアーマー……いや、バンシーの魔石か?」
バンシーが風系の攻撃を出来るのかは、レイは分からない。
だが、リビングアーマーとバンシーのどちらの魔石がウィンドアローを習得出来そうかと言われると、やはりバンシーだと思えるのも事実。
「まぁ、どのモンスターの魔石でも関係ないけど」
これが普通のモンスターの魔石であれば、一度使えばもう魔獣術には使えない。
しかし、あの廃墟で倒したアンデッドの魔石は、そのような縛りがないのは、今までのことから明らかだ。
だからこそ、レイとしてはあの廃墟で入手した魔石については、特に難しいことを考えず、次々に使っていけばいいと考えている。
(リビングアーマーの魔石もまだ残ってる筈だけど……他にどんなスキルを習得出来るのか、だな)
そんな風に考えたのがフラグだったのか、次の瞬間レイの脳裏にアナウンスメッセージが流れる。
【デスサイズは『飛針 Lv.三』のスキルを習得した】
その言葉に、レイは笑みを浮かべる。
とはいえ、飛針というのはデスサイズを振るうことによって長針を生み出して投擲するというスキルだ。
その威力もそこまで強力ではなく……正直なところ、ネブラの瞳を使って生み出した鏃の方が使いやすい。
「とはいえ、こっちにも勝ってるところがない訳じゃないんだけどな。……飛針!」
デスサイズを振るい、スキルを発動する。
次の瞬間、十五本の長針が生み出されて飛んでいった。
「数が多いのはこっちが勝ってるよな。……多分、アロー系と同じくレベル四で二十本、レベル五で五十本って感じになると思うけど。そこまでいけば、かなり使い勝手はよさそうだな。けど、どのモンスターの魔石だ?」
それを疑問に思うレイだったが、それは置いておく。
まずは魔石を全て使うのが先だろうと判断し、魔石をデスサイズで切断し、セトが飲み込み……
【デスサイズは『飛針 Lv.四』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
これが普通なら、驚いただろう。
だが同じスキルのレベルが連続して上がるというのは今回既に経験してるので、特に驚くことはない。
再度レベルアップした飛針を試してみると、予想通り二十本の長針が放たれた。
その後も魔石を使い続け……飛針のレベルアップが大量に出て来たモンスターの魔石を使った最後の結果だった。
「さて、大量に出て来たアンデッドの魔石は全部使ったから、残ってるのはこの魔石だな」
レイがミスティリングから取り出したのは、木のアンデッド、スケルトンロード、デュラハン、四つ首のゾンビ、巨大なリビングアーマーの五個の魔石だった。
「さて……恐らくこの五つの魔石は全て魔獣術でスキルを習得したり、強化したり出来ると思う。そうなると、まずはセトとデスサイズのどっちが三つの魔石を使うかだが……まぁ、これはセトでいいか」
「グルゥ?」
セトにとってもレイの言葉は予想外だったのか、いいの? とレイに視線を向けて喉を鳴らす。
レイはそんなセトを撫でつつ、頷く。
「俺の場合はデスサイズ以外にも黄昏の槍やマジックアイテム、魔法といった攻撃手段があるけど、セトは直接攻撃以外はスキルだろう? なら、デスサイズとセトのどちらを優先させるかは考えるまでもない」
「グルルルゥ、グルゥ、グルルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らしながら顔を擦りつける。
そんなセトの様子に笑みを浮かべつつ、レイはセトが落ち着くまで撫で続ける。
やがてセトが落ち着くと、レイは改めて五つの魔石に視線を向ける。
(そう言えば俺はデスサイズで切断するだけだけど、セトは飲み込んでるんだよな? そういう意味では腹一杯になってこれ以上魔石は無理とか……ならないか)
少しだけそんな心配をしたレイだったが、セトがその気になればどれだけ食べられるのかを思い出し、すぐにそれを否定する。
「グルゥ?」
落ち着いたセトは、レイにどうしたの? と喉を鳴らす。
レイはそれに何でもないと言い、五つの魔石を見る。
「セトが三つの魔石を使うから、先に二つ魔石を選ぶのは俺からでいいか?」
「グルルルゥ」
レイの言葉にセトも特に異論はないのか、素直に頷く。
そんなセトを見ながら、レイは特に迷うでもなく、スケルトンロードと巨大なリビングアーマーの魔石を選ぶ。
何故この二つの魔石を選んだのかは、そこまで深い意味がある訳ではない。
ただ、デスサイズに使う魔石である以上、武器を使っていたアンデッドの魔石の方がいいと判断したのだ。
武器を使うという意味ではデュラハンもそうだったのだが、今回レイが選べるのは二つということで、そちらはセトに譲ることにした。
特に四つ首のゾンビは、多彩なブレスを使うアンデッドだったので、同様に多彩なブレスを使えるセトに使わせたいという思いがレイにはある。
「セトは木のアンデッド、四つ首のゾンビ、デュラハン。……これでいいか?」
「グルゥ」
セトは特に異論がないといったように喉を鳴らす。
そして自分の方が多いからということで、最初に木のアンデッドの魔石をクチバシで咥えて飲み込む。
【セトは『地中潜行 Lv.二』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「あー……うん。これはまぁ、そこまでおかしくはないな」
木のアンデッドであった以上、地中潜行はそこまでおかしくはないだろうというのがレイの判断だった。
試してみたところ、三m程地下を二分程移動出来るということが判明する。
言葉は分かるが喋ることが出来ないセトを相手にこの情報を確保するのは、レイにとってもそれなりに難しいことだった。
「……ふぅ。さて、次は俺だな。まずはスケルトンロードの魔石から」
少しだけ疲れた様子を見せたレイだったが、気を取り直したようにスケルトンロードの魔石を手にし、軽く放り投げるとデスサイズで一閃する。
【デスサイズは『ペインバースト Lv.五』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それを聞いたレイは、難しい表情を浮かべる。
(ペインバーストがレベル五になったのは嬉しいけど……いや、怨霊を消費して魔剣とかを使っていたスケルトンロードの魔石と考えれば、これはそこまでおかしな話でもないのか?)
魔剣やマジックアイテムの盾の件もあり、スケルトンロードがかなり特殊な存在であったのは間違いない。
それはレイも理解していたので、無理矢理自分に納得しておく。
(それにしても……レベル五になったってことは、ペインバーストも一気に強化されたんだよな? ……どのくらい強化されたのか、知りたいような、知りたくないような)
ペインバーストは敵に直接与えるダメージそのものは普通と変わらないが、その痛みだけを増すという……かなり物騒なスキルだ。
ましてや、例えば石突きで敵の足の小指を叩き潰すといった攻撃方法でレベル五になって強化されたペインバーストを使った場合、一体どうなるのか。
興味はあるが、自分の身体で試してみたいとは思わなかった。
(うん。今度敵と遭遇したら使ってみよう)
そう思い直しておく。
「さて、次だな。セトの番だ。どの魔石を使う?」
「グルゥ? ……グルルゥ」
スキルを試さなくてもいいの? と思ったセトだったが、レイがそう言うのなら、それはそれで構わないのだろうと判断し、次の魔石を選ぶ。
それは、四つ首のゾンビの魔石。
魔石を咥え、飲み込み……
【セトは『クリスタルブレス Lv.三』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それを聞いたレイは多少驚くが、すぐに納得する。
レイが知ってる限り、四つ首のゾンビはクリスタルブレスは使っていなかった。
だが四つ首のうち、ブレスを使うことが出来なかった首もある。
恐らくそれがクリスタルブレスを使う首だったのだろうと、そう納得するのだった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.五』new『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.八』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.六』『光学迷彩 Lv.八』『衝撃の魔眼 Lv.五』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.六』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.三』new『アースアロー Lv.三』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.五』『翼刃 Lv.四』new『地中潜行 Lv.二』new『サンダーブレス Lv.五』『霧 Lv.二』『霧の爪牙 Lv.二』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.八』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.七』『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.五』new『ペネトレイト Lv.七』new『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.六』『飛針 Lv.四』new『地中転移斬 Lv.一』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.三』
ウィンドアロー:レベル一で五本、レベル二で十本、レベル三で十五本、レベル四で二十本、レベル五で五十本の風の矢を射出する。威力自体はそれ程高くはないが、風で作られた矢なので敵が視認しにくいという効果や、矢の飛ぶ速度が速いという特徴がある。
クリスタルブレス:相手を水晶に閉じ込めるブレス。現在はLvが低いので水晶でコーティングする程度の威力。ただし、それでも相手の動きを多少止めることは可能。
翼刃:翼の外側部分が刃となる。レベル一でも皮と肉は斬り裂ける。レベル二では肉を斬り裂いて骨を断つ。レベル三ではそれなりに太い木も切断出来る。レベル四では岩も切断出来る。
地中潜行:その名の通り地中を水の中のように移動出来るようになる。レベル一では地下二mの場所を最大一分程、レベル二では地下三mを二分程移動出来る。
ペインバースト:スキルを発動してデスサイズで斬りつけた際、敵に与える痛みが大きくなる。レベル二で四倍、レベル三で八倍、レベル四で十六倍、レベル五で五十倍。
ペネトレイト:デスサイズに風を纏わせ、突きの威力を上昇させる。ただし、その効果を発揮させるには石突きの部分で攻撃しなければならない。レベル五になったことで、一撃に螺旋による追加効果が発生するようになった。
飛針:デスサイズを振るうことで、長針を複数生み出して発射する。レベル一では五本、レベル二では十本、レベル三では十五本、レベル四では二十本で、木の幹に長針が突き刺さるくらいの威力。