3589話
「レベルが三上がったということは、大体幻影斬と同じか」
サンダーブレスのレベルが五になったセトを見て、レイはそう感想を口にする。
実際には、一気にレベル五になったとか、そういうことを考えてもおかしくはないのだが、幻影斬の件もあって感覚が半ば麻痺しているのだろう。
「グルルルゥ」
セトはレイの側で視線の先……雪に包まれた木に向かって放ったサンダーブレスの威力にご機嫌だった。
元々、サンダーブレスはレベルが低くても、雷を放つという時点でかなり強力だったのだが、それがレベル五になったのだ。
その威力は凄まじく、周囲に生えていた木々を雷で焼き焦がした。
それこそ、ファイアブレスを放ったのではないか? と思える程に。
それを起こしたセトは、次は次は? とレイに魔石を出すように求めてくる。
レイもその気持ちは分かる。
理由は不明なままだが、あの廃墟にあった魔石はその全てが魔獣術に使えるのだから。
普通に考えれば、魔獣術を使う上で喜ぶなという方が無理だった。
「じゃあ、次の魔石だな。ここからは、デスサイズも使うから、セトだけじゃないぞ」
「グルゥ」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。
そんなセトを見つつ、レイはまず最初にスケルトンとゾンビ、リビングアーマー、バンシーといった多数で出て来たモンスターの魔石を取り出した。
その数はかなり多く、それをわざわざ数えるのは面倒だと思う程だ。
とはいえ、この魔石が全て魔獣術に使える魔石であると考えれば、これだけの魔石があるのは決して悪い話ではないのだが。
「よし、じゃあ……一個ずつお互いに確認しながら魔石を切断したり飲み込むのも面倒だし、適当に魔石を使っていくか。それでセトかデスサイズがスキルを習得するなり、レベルアップするなりしたら一旦止めてそのスキルを確認してみるということで」
「グルルゥ」
レイの言葉に、セトは異論はないと喉を鳴らす。
まず最初はやはり大量にあるゾンビとスケルトンと魔石から使うことにする。
そうしてレイとセトはお互いに用意された魔石を消費していくが……
「覚えないな」
一個や二個、三個、四個と順調に魔石を消費していくレイだったが、スキルを習得する様子はない。
セトもまた同様に、魔石を一個ずつ飲み込んでいるのだが、お馴染みのアナウンスメッセージが脳裏に響く様子はない。
(やっぱりスケルトンとかゾンビの低ランクモンスターの魔石だからか?)
そう思ったところで……
【セトは『アースアロー Lv.三』のスキルを習得した】
脳裏に響く、アナウンスメッセージ。
「グルゥ!」
やったぁ、と嬉しそうに喉を鳴らすセト。
どう? どう? とレイに視線を向けて尋ねる。
レイはそんなセトを撫でながら、アースアローがスケルトンとゾンビのどちらの魔石で習得したのか、少し気になった。
(やっぱりゾンビか?)
スケルトンとゾンビ。アースアローを習得するとしたら、どちらかと言えば……本当にどちらかと言えばの話だが、やはりゾンビの方がそれっぽい気がする。
勿論それは、レイがそのようにイメージしやすいというだけで、実際にはスケルトンの魔石でアースアローを習得した可能性も否定出来ないが。
「じゃあ、取りあえず試してみてくれ」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは任せてと喉を鳴らし、マジックテントのある洞窟とは反対に向かってスキルを発動する。
「グルルルルゥ!」
生み出された土の矢の数は、十五本。
レベル二の時が十本だったので、レベル三になって明らかに増えている。
セトの周辺に浮かんでいた矢は、次の瞬間には放たれる。
威力そのものは、レイが以前見たレベル二の時よりも明らかに上だった。
「強化されたな。おめでとう」
「グルルゥ!」
レイに褒められ、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
そんなセトの背を軽く叩き、レイとセトは再び魔石の消費に戻っていく。
(前にも何度かあったけど、そのモンスターの持つ特色とは違うスキルが習得出来たり、強化されたりするのは、一体何でなんだろうな?)
レイの認識している限り、基本的に魔獣術で習得出来るスキルというのはそのモンスターの特性が強く影響している。
例えばゾンビなら、毒の爪といったように。
だが……今回はゾンビの魔石――とレイは確信している――によって、アースアローのレベルが上がった。
もっともそれを言うのなら、トラペラの魔石でデスサイズの腐食がレベルアップしたのも意味が不明ではあったが。
【デスサイズは『腐食 Lv.八』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージに、レイは驚く。
まさか腐食のことを考えていたところで、その腐食のレベルが上がるというのは、それだけレイにとっても予想外だったのだろう。
「けど……腐食、これでレベル八か」
「グルゥ!」
レイの言葉に、おめでとうとセトが喉を鳴らす。
感謝を込めてセトを撫でると、レイの視線はデスサイズに向けられる。
(レベル八……レベル七の時点で腐食がデスサイズのスキルの中でも最高レベルだったのに、まさかここで更にレベルアップするとは思わなかったな。いやまぁ、レベルアップしたのは悪い話じゃないんだが)
レベル五になったところで、スキルは一気に強力になった。
だとすれば、レベル十になったところでそのスキルは更に強化されるのではないかと思うのはおかしな話ではない。
「取りあえず試してみるか。……一応、少し離れたところにした方がいいな」
レベル七の時点で、腐食の効果はかなり強力だった。
だとすれば、レベル八になった今はそれよりも更に強力になっているのは間違いない。
レイは新雪を踏み締めながら、セトからそれなりに距離を取る。
それでもセトからは見えるので、腐食を使う上で特に問題はない。
「腐食」
スキルを発動し、デスサイズを振るうと……
「うわぁ」
その結果を見たレイの口から、思わずそんな声が漏れる。
当然だろう。レベル八となった腐食は、その威力を更に増していたのだから。
「これ、大丈夫だろうな?」
雪の積もった地面が腐食した光景を、どう表現すればいいのかレイには分からなかった。
それだけ凄い光景が、現在レイの目の前に広がっているのだ。
「強力なのは間違いないけど、強力すぎて使いどころに迷うな」
そう言いつつ、レイは腐食した地面はそのままにして、セトのいる場所に戻る。
幸い、地面の腐食がそれ以上広がる様子はない。
その為に、レイは自分がいなくなってから腐食の効果がより広まるだろうとは思っていなかった。
「グルゥ……」
腐食の効果を見ていたセトは、凄いと驚けばいいのか、それとも危険だと言えばいいのか。あるいはもっと別の表現をすればいいのか分からず、戸惑った様子で喉を鳴らす。
そんなセトの様子に、レイは気にするなとそっと撫でると、まだ結構な量のある魔石に視線を向ける。
「ほら、セト。今はまず魔獣術で魔石を使うのを優先するぞ。折角のこんなチャンスなんだ。一体何がどうなってこういうことになってるのかは、正直なところ俺も分からない。分からないが、この機会を逃す手はないだろう? 腐食がレベル八になったのも、スキルがレベルアップして強化されたという、それだけの話なんだから」
そうレイが言うと、セトも気を取り直したのか再び魔石を飲み込む作業に戻り……
【セトは『毒の爪 Lv.八』のスキルを習得した】
再度脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「うん、まぁ……何となくこうなるのは予想していたし、特に違和感はないよな」
「グルゥ」
レイの言葉にセトは戸惑った様子で喉を鳴らす。
セトは少し離れた場所にある木の前まで移動する。
「グルルルゥ!」
スキルを発動して振るわれる前足。
毒の効果を見る為だろう。本来ならセトは前足の一撃で木の幹を折ることが出来るのだが、その一撃は木の表面だけを爪で削り取るような一撃だった。
そして……毒の爪によって傷つけられた場所から紫色が急速に広がっていく。
セトが毒の爪を使った木は常緑樹で、雪が積もっていても枯れてはいなかったのだが、紫の部分が広がるに連れて急速に枯れ始め……数分と経たず、木は完全に枯れるのだった。
「これはまた……凄いな。とはいえ、あまり使う機会がないと思うけど」
「グルゥ……」
枯れた木の前からレイの近くに戻ってきたセトは、レイの言葉に同意するように喉を鳴らす。
何しろセトの一撃はスキルを素の状態でも強力無比だ。
それに加えて剛力の腕輪も装備しているので、普通なら素の一撃を食らった時点で死ぬだろう。
あるいはそれにも耐える敵がいても、多少なりとも効果を発揮するのに時間が必要な毒の爪よりも、パワークラッシュを使えば一撃の威力が増してより破壊力が高くなる。
(けど、デスサイズの腐食と違って、周辺一帯を腐食させたりする訳じゃなくて、あくまでも個に対する攻撃だ。そう考えると、出来れば使い道を考えたいとは思うよな。それが具体的にどういう使い道かはともかくとして。……矢に使うとか?)
レイが思い浮かべたのは、マリーナが使う矢だ。
鏃に軽くセトが爪で傷を付けてから矢を射れば、その矢が命中した相手はセトの毒を食らうことになる。
もっとも、鏃というのは繊細な代物だ。
セトが傷を付けたことにより、矢を射った時に風の抵抗で狙い通りの場所に命中しないという可能性もあるが。
(あるいは、ビューネの長針とか? 長針と毒なら結構相性は良さそうだけど……こっちも矢と同じく、投擲した時に傷の影響で狙った場所に命中しないような気がするな)
考えながらもレイはセトを撫でると、再び魔石の消費に戻る。
次は一体どのようなスキルを習得出来るか、あるいはレベルアップするのか。
そのように思いながら魔石を使っていたのだが……
(あ、ゾンビの魔石は終わったな)
何となく……本当に何となくだが、レイは触っていた魔石の手触りや、外見の印象によってそれが分かった。
とはいえ、別にゾンビの魔石だけを使っていた訳ではない。
スケルトンやリビングアーマー、バンシー、それぞれの魔石が集まっているので、ゾンビの魔石を使っているつもりでスケルトンの魔石を使ったりもしていたのだろうとは思っていた。
そして量からスケルトンの魔石に入ったと思ったが、ゾンビの魔石も全てを使った訳ではなく、他にもまだそれなりに残っているのは間違いなかった。
そんな訳でスケルトンの魔石だというのは特に気にせず、レイはひたすらに魔石をデスサイズで切断していく。
「……妙だな」
レイの口からそのような言葉が出たのは、スケルトンの魔石を使っても全くスキルを習得したり、レベルアップするといったことがなかった為だ。
勿論、それ自体はそこまでおかしくはない。
だが、ゾンビの時はそれなりに頻繁に脳裏にアナウンスメッセージが響いたのに、今は全くそのようなことがない。
(スケルトンとゾンビの違いか? 個人的には、悪臭的な意味でスケルトンの方が好みなんだが、魔獣術的にはゾンビの方がスキルを習得したり強化したりする相手という認識になっているのか?)
その辺りについての詳細は分からないが、スケルトンの魔石を大量にデスサイズで切断し、あるいはセトが飲み込んでも脳裏にアナウンスメッセージが流れないのも事実。
それを疑問に思いながらも魔石を消費し続け、気が付けば魔石の残りは少し。
どうやら一番数の多かったゾンビ、次点のスケルトンの魔石はほぼ消費し終わってしまったらしい。
「グルルゥ?」
「別にスキルの習得や強化が出来ないのはセトのせいじゃないから、気にするな。それに残りはリビングアーマーとバンシーの魔石だ。ここからは数が少ない……ゾンビやスケルトンに比べると数が少ない分、期待出来ると思うぞ」
そう言い、早速デスサイズで魔石を斬ると……
【デスサイズは『パワースラッシュ Lv.七』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「よし!」
最初の魔石からスキルを習得したことに、レイの口から思わずそんな言葉が出る。
本人が思っていたよりも、スケルトンの魔石で何もスキルが習得出来なかったのが悔しかったのだろう。
「じゃあ、試してみるか」
そう言い、レイはセトから少し離れる。
それでも腐食を使った時のように、極端に離れた訳ではないが。
「パワースラッシュ」
スキルを発動してデスサイズを振るうレイ。
空気そのものを破壊するかのような、圧倒的なまでの迫力がある一撃が振るわれ、その衝撃で周辺にある雪が吹き飛ぶ。
「おおう、これはまた……凄いな」
自分で起こした光景に、レイはそう呟くのだった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.八』new『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.六』『光学迷彩 Lv.八』『衝撃の魔眼 Lv.五』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.六』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.二』『アースアロー Lv.三』new『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.五』『翼刃 Lv.三』『地中潜行 Lv.一』『サンダーブレス Lv.五』『霧 Lv.二』『霧の爪牙 Lv.二』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.八』new『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.七』new『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.六』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.六』『飛針 Lv.二』『地中転移斬 Lv.一』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.三』
腐食:対象の金属製の装備を複数回斬り付けることにより腐食させる。レベルが上がればより少ない回数で腐食させることが可能。レベル五以上では、岩や木といった存在も腐食させる、半ば溶解に近い性質を持つ。
毒の爪:爪から毒を分泌し、爪を使って傷つけた相手に毒を与える。毒の強さはLvによって変わる。
パワースラッシュ:一撃の威力が増す。ただし斬れ味が鋭くなるのではなく叩き切るような一撃。レベル五以降では威力が上がり反動もなくなる。
アースアロー:土で出来た矢を飛ばす。レベル一では五本。レベル二では十本。レベル三では十五本。