3586話
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また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。
レイがリビングアーマーの振るったポールアックスの攻撃を受け流しながら、放った黄昏の槍の一撃。
それが投擲した時と同様、リビングアーマーの身体に突き刺さるかと思ったレイだったが……
ガギン、と。
そんな金属音を立てて防がれる。
防いだのは、リビングアーマーが持っていた盾だ。
黄昏の槍の一撃は強力無比なのだが、リビングアーマーの持っていた盾はそれを防ぐだけの防御力があったのだ。
「ちっ!」
普通であれば、二槍流……大鎌と槍という、長柄以外に共通点がない二種類の武器を同時に使われれば、性質が違いすぎる武器であるが故に、攻撃をされる方は戸惑う。
実際、大鎌と槍の二槍流に戸惑い、今まで多くの者がそれによって負けてきた。
しかし……あるいはリビングアーマーというアンデッドが相手だからなのか、大鎌と槍という二種類の武器を相手にしても、決して戸惑うことなく、槍の一撃を盾で防いだ。
それを理解しながらも、レイは即座に槍を手元に引き戻し、盾を蹴る。
ダメージを与える為の一撃……ではない。
盾を蹴った反動で後方に跳び、一度リビングアーマーとの間合いを広げる為の一撃。
ぶおん、とレイの耳に聞こえてくるのは、リビングアーマーがポールアックスを振るう音。
レイを逃がさない為に振るった一撃だったのだろうが、そういう意味ではレイの行動の方が早かったらしい。
レイのいた空間を通りすぎるポールアックスを視界の隅で確認しながら、レイは床に着地する。
「使ってみるか。自我があるかどうか分からない相手に効果があるか分からないけど」
そう言い、レイは再び前に出る。
ただし、先程のようにゆっくりと進むのではなく、強く床を蹴って急速にリビングアーマーとの間合いを詰めていく。
「幻影斬!」
デスサイズを振るいながらスキルを発動する。
デスサイズの右に二つ、左に一つデスサイズが……より正確には、その幻影が生み出される。
ウィスプの魔石によって習得し、レベルアップしたこのスキル。
リビングアーマーに効果があるかどうかは分からなかったが、それでも試してみる価値は十分にあった。
そのような思いで使われた幻影斬だったが、デスサイズの一撃を受けようとしたリビングアーマーは、その動きを鈍らせる。
明らかに生み出された幻影を見て動きを鈍らせたその姿から、リビングアーマーは一種の自我のようなものがあるのだろうと、レイは頭の片隅で考える。
考えるが、だからといって振るうデスサイズの動きを弱めたりはしない。
斬、と。
振るわれたデスサイズの一撃は、幻影として生み出されたデスサイズを見て動きを鈍らせたポールアックスを回避しながら、その身体に振るわれ……鎧をあっさりと切断した。
ちょうど上半身と下半身で切断された鎧は、デスサイズが振るわれた勢いのまま上半身が吹き飛んでいく。
そして下半身はデスサイズの振るわれた鋭さを示すかのように、動くことはなかった。
「ふぅ」
吹き飛んだリビングアーマーの上半身を見ながら、レイは大きく息を吐く。
手を伸ばし、リビングアーマーの下半身を収納する。
上半身は……と視線を向けると……
「まだ動くのか」
魔石が上半身にあるからなのか、切断された上半身はまだ動いている。
ただし、ポールアックスを振るうにも上半身しかないリビングアーマーは、十分に振るうことは出来ない。
それでもリビングアーマーは、まだレイを殺すことを諦めてはいないのだろう。
身体のバランスを崩しながらも、ポールアックスを投擲する。
振るうのが無理なら、投擲してレイを攻撃しようとしたのだろう。
だが、今の状態でそのようなことをしても、投擲したポールアックスがレイに命中する筈もない。
金属音を立てながら、ポールアックスは地面を転がる。
「悪いな」
リビングアーマーの行動は、レイにしてみればわざわざポールアックスを自分に渡してくれたようなものだ。
それに感謝の言葉を言い、ミスティリングに収納する。
「後は盾なんだが……これは奪うのはちょっと難しいか?」
盾を持ったまま上半身が吹き飛んだリビングアーマーは、その盾の上に身体がある。
つまり、リビングアーマーの上半身を何とかしなければ、その下にある盾を奪うことは出来ない。
「まぁ、魔石の件もあるし、結局は同じだけど」
とはいえ、問題なのはどうやって上半身の中にあるだろう魔石を奪うかだろう。
ポールアックスを失ったとはいえ、リビングアーマーはまだ暴れている。
これが例えば、一階にいたような普通のリビングアーマーであれば、暴れてもそう面倒なことはない。
だが、身長四m……今はもう上半身しかないが、それでもレイより大きなリビングアーマーだ。
そのような存在が暴れている以上、もし振り回されている手にぶつかれば、相応のダメージがあるのは間違いないだろう。
(というか、それならやっぱりポールアックスをどうにかして振り回していた方が……いや、こっちの方が俺にとってはやりやすいから、文句は言わないけど)
そんな風に言いつつ、レイは慎重にリビングアーマーに近付いていく。
リビングアーマーも、レイが近付いてくるのを察したのだろう。
今までより激しく暴れている。
「取りあえず、分解だな」
そう言いつつ、レイはリビングアーマーに近付いたところで自分に向かって振るわれた腕を回避し、デスサイズを振るう。
斬、と。
肘の辺りであっさりと切断される腕。
その後も、レイは暴れるリビングアーマーの腕や頭部を切断していき……数秒と掛からず、リビングアーマーは胴体だけになってしまう。
盾を持っていた腕まで切断するという念の入れようだ。
リビングアーマーはまだ倒された訳ではない。
それを示すかのように、胴体だけになってもまだ少し動いている。
動いているが、だからといって今のこの状況でリビングアーマーが何か出来る訳ではなく……あっさりと胴体の中から魔石を抜き取り、戦いは終わった。
レイの狙い通り、盾とポールアックスは無事に入手出来た。
だが、リビングアーマーの身体を構成する鎧は、かなり斬り刻まれてしまっている。
これはレイにとって、ポールアックスは勿論、盾とも違って鎧の使い道がなかったからというのが大きい。
何しろ、身長四m近いリビングアーマーの身体を構成していた鎧だ。
とてもではないが普通の者がその鎧を着る事は出来ないだろう。
そうなると、それこそ金属の塊にして使うくらいしかレイには思いつかない。
幸いなことに、一階にいたリビングアーマーの鎧よりも上質な金属で作られている以上、それなりに使い道はあるだろうと判断したのだ。
鍛冶師に頼んでインゴットにして貰ったり、あるいは火災旋風の時に鎧の破片を投入したりといったように。
「ともあれ、リビングアーマーの上位種か希少種かは分からないが、とにかく魔石も入手、と。……そうなると、残るのは……」
レイはそこで一旦言葉を止め、この部屋の壁を見る。
正確にはその壁の向こう側にある、鍵の掛かった扉。
四つ首のゾンビと同じような、凶悪なアンデッドが存在するだろう部屋。
もっとも、部屋のルールが通用しない相手ということであれば、つい先程倒したリビングアーマーもまた同様だったのだが。
「どんなアンデッドがいるのやら」
呟きつつ、喉を潤す為にミスティリングから流水の短剣とコップを取り出し、喉を潤す。
一休みをして準備を整えると、リビングアーマーと戦った部屋から出る。
向かうのは、当然ながらこの廃墟に残った最後の部屋。
一体どのようなモンスターがいるのかは分からない。
分かっているのは、四つ首のゾンビの件から扉を開けた瞬間に敵が襲ってくるということだけ。
だからこそ、レイは何があってもすぐに対応出来るようにしながら、デスサイズを振るう。
一撃であっさりと切断される扉。
その扉を中に向かって蹴り飛ばし、レイもまた部屋の中に入る。
「マジックシールド」
デスサイズのスキルを発動し、周囲に光の盾を三枚浮かべながら。
「明るい?」
部屋の中に入ったレイが最初に感じたのは、それだった。
光の盾による明かりではなく、天井にきちんと存在する明かり。
この建物が廃墟になってから、具体的にどのくらい経っているのかはレイにも分からない。
ただ、それでも普通なら明かりのマジックアイテムは魔力であったり、魔石であったりがなくなってしまえば、もうその効果を発揮しない。
勿論、高ランクモンスターの魔石を使えば、その魔石がなくなるまでかなり時間が掛かるし、明かりのマジックアイテムはそこまで多くの魔力を必要としない。
そう考えると、高ランクモンスターの魔石を使えばこのように今になっても明かりを維持し続けることは出来るが……だからといって、高ランクモンスターの魔石を明かりに使うかといった問題がある。
高ランクモンスターの魔石ともなれば、当然それだけ高価なのだ。
その高価な魔石をそのような行為に使うのは、普通に考えて有り得ないだろう。
そんな明かりの中……のそり、と。
そんな様子でこの部屋の主が姿を現す。
「ドラゴン? いや、トカゲ、か?」
姿を現したのは、セトよりも大きな……それこそ、身長と体長で正確には比べられないものの、四m程あった先程の巨大なリビングアーマーよりも大きく、その長い尻尾を抜きにしても体長五mオーバーは確実な爬虫類……トカゲだったが。
勿論、この廃墟にいる以上、ただのトカゲのモンスターではない。
その肉は腐り、足や身体の一部からは骨が見えているアンデッド……ゾンビだ。
それでもレイが目の前のトカゲを見てゾンビだと即座に判断出来なかったのは、他のゾンビのように腐臭が漂ってこないからだ。
レイの嗅覚は他の感覚と共に常人よりも鋭い。
そんなレイの嗅覚ですら、腐臭を感じさせないトカゲのゾンビ。
翼がないのでドラゴンではなくトカゲと判断したものの、ドラゴンの中には翼のない……いわゆる、地竜やグランドドラゴン、アースドラゴンと呼ばれる種類もいる。
レイもそれを知っていたが、それでもレイはこの部屋にいる相手をドラゴンのゾンビではなく、トカゲのゾンビだと判断したのは、やはり受けた迫力と印象の違いからだろう。
「動きは遅いな」
のそり、のそりと自分の方に近付いてくるトカゲのゾンビ。
尻尾を入れると八m程にもなるだろうそのトカゲだったが、その移動速度は決して速くはない。
鍵の掛かっている扉の中にいたということで、トカゲのゾンビが凶悪なことは間違いないだろう。
しかし、一階で遭遇した四つ首のゾンビと比べると、その動きは比較にならない程にゆっくりだ。
(コモドオオトカゲ……だっけ?)
レイが思い浮かべたのは、日本にいる時にTVで見た世界最大のトカゲ。
ただ、レイの視線の先にいるトカゲのゾンビは、レイがTVで見たコモドオオトカゲよりも明らかに大きい。
勿論、コモドオオトカゲにも個体差があるので、中にはこのトカゲのゾンビ程の大きさを持っている個体がいてもおかしくはない。
おかしくはないが、それでもやはり目の前にいるトカゲのゾンビ程の大きさになることはないだろうと、そう思えた。
(何より厄介なのは、やっぱり腐臭がないことだよな)
今までレイが遭遇したゾンビ系のモンスターは、基本的に腐臭による悪臭が漂っていた。
常人よりも嗅覚の鋭いレイ、そしてレイよりも更に嗅覚の鋭いセトにとって、ゾンビの放つ腐臭はゾンビというモンスターの持つ能力の中で最も厄介な存在だった。
それこそ、ゾンビの腐臭が漂ってくればすぐに分かるというように。
だが……それはつまり、ゾンビが近付いてくれば腐臭ですぐに気が付くということでもある。
しかし、ゆっくりとレイの方に向かってくるトカゲのゾンビからは、その腐臭が全く漂っていない。
だからといって、身体が腐ってない訳ではない。
実際、足や胴体、頭部……様々な場所で骨が見えている部位もあるのだから。
そしてゆっくりと進んでいるのも関係しているのだろうが、足音もない。
つまり、今はこうして目で見ているからいいが、もしこのトカゲのゾンビが廃墟から外に出た場合、無臭で足音もなく近付いてくるということを意味していた。
一定の強さがある者なら対処出来るかもしれないが、もしそのような力がなかった場合、このトカゲのゾンビは非常に厄介な相手となるだろう。
……ましてや、野営をしている時、夜の闇に紛れて近付いてきた場合、察知するのは非常に難しい。
(逃がす訳にはいかないな。……必ずここで倒す必要がある。俺が扉を破壊したのも影響しているし)
そのように思いながら、レイは自分に向かって近付いてくるトカゲのゾンビをじっと観察するのだった。