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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3579/3865

3579話

 鍵の掛かっていた頑丈そうな扉ではあったが、デスサイズの斬れ味とレイの技量の前に耐えることは出来ず、あっさりと切断される。

 もしかしたら罠があるかもしれないというニールセンの言葉にデスサイズのスキル、マジックシールドを発動したのだが、特に何か罠があるようには思えなかった。

 扉が破壊されたことによって、周囲には埃が舞い上がり……


「ワオオオオオオオオン!」

「うおっ!」


 その埃を突き破るようにして何かが飛び出してくるのを察したレイは、光の盾を動かしてそれを防ぐ。

 デスサイズでカウンターの一撃を放つのではなく、光の盾を使って敵の攻撃を防いだのは、敵の正体が分からないからというのが大きい。

 また、予想はしていたものの、やはりこの部屋の中にいる敵は中に入らなくても攻撃をしてくる相手だったらしい。


「これは……」


 微かに眉を顰めるのは、先程ゾンビのいる部屋で嗅いだ腐敗臭を嗅ぎ取ったからだろう。

 それはつまり、部屋の中にいるアンデッドはゾンビであるということがはっきりとしたのだ。

 そして舞い上がっていた埃がある程度落ちると、薄暗い部屋の中の様子がしっかりと分かる。

 他の部屋の中には天井が壊れ、そのお陰である程度の明るさのあった部屋も多かったが、この部屋は今のアンデッド対策の為か、かなり頑丈に出来ていたらしい。


(となると、頑丈な扉だったのはやっぱり今のアンデッドを外に出さない為と考えるべきか)


 三枚ある光の盾のうち、一枚が消えていくのを見ながらレイは部屋の中にいるモンスターの存在を確認する。

 明かりも何もない部屋だが、レイは夜目が利くので十分に部屋の中の様子を確認することが出来た。

 出来たのだが……


「なんだ、あれ……」


 光の盾によって攻撃が防がれ、その反動で吹き飛んだのだろうアンデッドの姿を見たレイの口から、そんな言葉が漏れる。

 レイの視線の先にいるのは、先程の鳴き声からしても犬型、あるいは狼型のアンデッドだろう。

 だが、それにしてはその頭部がおかしい。

 ……そう、セトよりも少し小さいくらいの身体からは、犬か狼かは分からないが四つの頭部があったのだ。


「ケルベロス……は首が三つだったよな。そしてオルトロスは二つ。だとすれば、四つの首を持つ犬のモンスターは何て呼べばいいんだ?」


 その特徴から、レイは既に視線の先にいるアンデッドをケルベロスやオルトロスと何らかの関係のあるモンスター……つまり、狼系ではなく犬系のモンスターだと判断していた。

 それが正しいのかどうかはレイにも分からなかったが、初めて見るモンスターである以上、そのように考えるのはおかしな話ではない。


「グルゥ……」


 レイの後ろで、セトが嫌そうに喉を鳴らす。

 レイが扉を切断してからアンデッドが飛び出してきたので、その時に部屋から少し出たのだろう。

 そうなると、何らかの特殊な方法を使って臭いを遮断するという効果も効かず、セトの鋭い嗅覚にはゾンビとなっている四つ首の犬のゾンビから漂う悪臭をまともに嗅いでしまったのだ。

 勿論、セトだけではなくレイもまたそんな相手の悪臭を嗅ぐことになってしまったが。

 ただ、レイも五感は鋭いが、それでもセト程ではない。

 その為、レイはセトよりも嗅覚に受けたダメージは少なかったのだろう。


「取りあえず……あのゾンビを倒すぞ。あそこまで凶暴だと、考えている時間もない!」


 そう言い、レイはミスティリングから黄昏の槍を取り出し、いつもの二槍流という戦闘スタイルになる。

 敵が自分から部屋を出てこないという、この廃墟のアンデッドの行動原則から外れている以上、セトがゾンビに対して行ったように部屋に入らず遠距離攻撃で一方的に倒すといったことは出来ない。

 そのままレイは真っ直ぐ四つ首のゾンビに向かう。

 本来なら、このような状況では敵の攻撃を警戒しながら進む必要がある。

 ただ、今のレイはマジックシールドを使い、光の盾を生み出していた。

 一度だけだが、全ての攻撃を防ぐ光の盾。

 今のスキルのレベルでは三枚の光の盾を生み出せるのだが、その一枚は四つ首のゾンビの突撃を防ぎ、それによって消えたものの、それでもまだ光の盾は二枚ある。

 だからこそレイは、四つ首のゾンビを相手に回避を考えるよりも間合いを詰めることを最優先にしたのだ。


「ガアアアア!」


 自分に近付いてくるレイの様子を見た四つ首のゾンビは、そのうちの一つの首が口を開き、ブレスを放つ。


(何だ?)


 そのブレスの効果は分からないが、光の盾がそのブレスを防ぐ。

 光の盾に弾かれたブレスの一部が床に触れると、その部位が溶ける。


(アシッドブレス!?)


 アシッドブレスを放っていた口が閉じ、アシッドブレスが消える。

 同時にそれを防いだ光の盾も消えるが、既にレイと四つ首のゾンビとの間合いは半分程にまで縮まっていた。

 残り半分。

 その間合いを更に縮めるべく足を踏み出すと、そのタイミングでアシッドブレスを放ったのとは別の首が口を開き……光の盾の最後の一枚がレイを守るように前方に移動する。


「今度はアイスブレスか!」


 放たれたのは、少し前にスノウオークキングが使ってるのと似たアイスブレス。

 ただし、威力としては明らかにスノウオークキングのアイスブレスよりも劣る。

 ……それでも、相応に強力な一撃だったのは間違いないが。


(最初がアシッドブレス。次がアイスブレス。つまり四つの首から四種のブレスを吐ける訳か!)


 光の盾が消え、更に前に進みつつレイは目の前の四つ首のゾンビの特徴を予想する。

 もっとも、ここまで近付いてしまえばブレスの心配をする必要はない。

 セトもそうだが、ブレスを放つには前準備として大きく息を吸う必要がある。

 四つ首のゾンビのすぐ前にまでやってきた状態であれば、ブレスを放とうとする準備をした時にそれを潰すことが出来る。


「グルルルルゥ!」


 背後から聞こえてくるセトの鳴き声。

 それを聞きつつも、レイは動きを止めることなく四つ首のゾンビに向かってデスサイズの石突きで下から掬い上げるような一撃を放つ。

 レイがいるのは、四つ首のゾンビのすぐ前。

 ここまで間合いが詰まってしまえば、デスサイズや黄昏の槍のような長柄の武器がその威力を発揮するのは難しい。

 だからこそ、デスサイズの刃ではなく石突きを使った一撃を放ったのだ。


「ギャンッ!」


 まだブレスを吐いていなかった首のうちの一つが、丁度間近まで迫ったレイにその牙を突き立てようとしたところで石突きの掬い上げるような一撃によって、強制的にその口を閉じさせられる。

 その際に自分の牙で舌を噛む……いや、デスサイズの石突きの一撃の威力によって半ば噛み千切られたような状態となる。

 四つ首のゾンビの頭部の一つが悲鳴を上げたのは、その痛みのせいだろう。


(けど、他の三つの首は違う? だとすれば、身体は一つでも頭部は一つずつ意識が違うのか?)


 そんな疑問を抱きつつも、レイの動きは止まらない。

 掬い上げるような一撃で上空に飛ばされたその身体に、セトが放った水球が命中する。

 パァンッ、と。

 そんな音を立てて、首が二つと胴体が破裂する。

 セトの水球は速度こそそこまで速くないものの、高い威力を持つ。

 今回の一撃は、その威力が存分に発揮された形だ。


「ギャウン!」


 再び悲鳴を上げつつ吹き飛ぶ四つ首のゾンビ。

 そんな四つ首のゾンビに向かい、レイは左手の黄昏の槍を投擲する。

 追撃として放つには、あまりにも威力の高い一撃。

 だが、四つ首のゾンビの力を思えば、そのくらいの威力は必要だとレイは判断したのだろう。


「ギャウッ!」


 胴体が貫かれた衝撃、あるいはゾンビであっても痛覚は残っており、痛みによる悲鳴なのかレイにも分からなかったが、とにかく胴体を貫通されたことにより四つ首のゾンビの残っていた二つの口から悲鳴が上がる。


「残り二つの頭……刈らせて貰う!」


 吹き飛んだ四つ首のゾンビに向かい、デスサイズを手に迫るレイ。

 そんなレイに向かい、四つ首のゾンビ……既に半数の首は失われているが、とにかく残っている二つの首の一つが大きく口を開ける。

 それを見た瞬間、レイは床を蹴って横に跳ぶ。


「ワオオオオン!」


 放たれたのは、一瞬の光。

 レイはそれを見たことがあった。


「レーザーブレス!?」


 驚きつつも、跳躍しつつスレイプニルの靴を発動し、三角跳びの要領で四つ首のゾンビとの間合いを縮め、デスサイズを振るう。


「多連斬!」


 デスサイズを振るうのと同時に使用した多連斬は、レイにとっては奥の手の一つ。

 デスサイズを振るったのは一撃。

 その一撃でレイにとっても見覚えのある……エレーナが竜言語魔法で使うところを見たことがあるレーザーブレスを放った首を切断する。

 その一撃が放たれると同時に多連斬のスキルが発動し、四つ首のゾンビに対して二十の斬撃が追加として放たれた。


「しまった」


 四つ首のゾンビの頭部が四つから二つに、そして二つが一つになり、残った最後の首も多連斬によって放たれた斬撃で切断……どころか、その胴体も含めて切断されてしまう。

 レイの振るう一撃というのは、ただでさえ非常に強力だ。

 レイの持つ身体能力を活かして振るわれるのは、デスサイズなのだから。

 それこそ、その一撃で容易に人の数人は殺すことが出来るだけの威力を持つ。

 だが、レベル六の多連斬は、そんな一撃と同等の一撃を追加で二十回も放つのだ。

 その威力がどれだけのものなのかは、四つ首のゾンビが既に死体ではなく、元ゾンビにして現在は残骸となっているのを見れば明らかだった。

 レイも、当初……首が残り二つになった時は、そこまでやるつもりはなかった。

 だが、首の一つが放ったのはレーザーブレスであると瞬時に判断した結果、半ば反射的にこれ以上向こうに攻撃をさせてはいけない、可能な限り早く殺す必要があると判断したのだ。


(改めて見れば……まぁ、レーザーブレスなのは変わらないが、見た感じだと明らかにエレーナの竜言語魔法で使う奴に比べれば威力は弱いし)


 壁を見ながら、レイはそのように思う。

 レイが回避したレーザーブレスは、レイに命中しなかった以上、当然のように他の場所に命中した。

 それが、壁。

 しかし、そのレーザーブレスの一撃は壁に幾らかの被害を与えはしたが、壁そのものを貫くといったことは出来なかった。

 その威力は、エレーナの竜言語魔法とは比べるまでもない。

 それこそ、もしエレーナがこのレーザーブレスを見たら、呆れるか、怒るかのどちらかだろう。

 あるいは笑うかもしれないとレイには思える。

 レーザーブレスということで過剰に警戒したレイだったが、実際にはそこまで警戒すべき攻撃でもなかったということだ。

 もし命中しても、ドラゴンローブなら全く問題なかっただろう。


(今更の話だけど)


 戦闘が終了した後でたらればの話をしても仕方がないと、レイはそれ以上この件について考えるのを止める。

 そして、レイにとっては出来れば見たくない……四つ首のゾンビの死体、いや残骸とでも呼ぶべきものに視線を向ける。

 レーザーブレスによって危険性を察したレイが放った多連斬。

 デスサイズの一撃によって、四つ首のゾンビの死体は残骸や肉片と呼ぶべき状態になってしまっていた。

 その残骸から微かに見える魔石が無事だったのは、不幸中の幸いだろう。

 だが、死体がこの有様ではドワイトナイフを使っても恐らく効果を発揮することはない。


「強力なモンスターだったから、素材とかは期待出来そうだったんだけどな。……悪臭のある素材を持っていかなくてもいいだけ、マシだったと思っておくか」


 そう言い、魔石を取り出す。


「グルゥ、グルルルゥ」


 魔石を手にしたレイに向かい、セトが喉を鳴らす。

 それは嬉しそうな鳴き声……ではなく、早く部屋から出ようと言ってるかのような鳴き声。

 強敵を倒せたのは、セトにとっても嬉しい。

 だが、強敵であってもゾンビであるのは変わらない。

 不幸中の幸いと言うべきか、ゾンビではあってもそこまで腐敗をしている様子ではなかったので、先程の大量のゾンビがいた部屋と比べると腐敗臭はそこまで強力ではない。

 しかし、それでも腐敗臭はあるのだ。

 セトにしてみれば、このような腐敗臭のある場所からは少しでも早く出たかった。

 幸いなことに、この廃墟では部屋の外と中でしっかりと臭いが遮断されている。


(この技術がどういう技術なのか分からないけど、これだけでも結構な価値があると思うんだけどな。……廃墟にして、それでも気にしていなかったということは、つまりこの技術は漏れてもいいと思ったのか、それともそうするしかなかったのか。どっちだろうな)


 そんな風に思いつつ、レイはセトと共に部屋を出るのだった。

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