3575話
カクヨムにて10話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。
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また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。
レイ達は廃墟の中を進む。
最初、この廃墟にやって来た時はまだ余裕のあったニールセンだったが、先程のスケルトンロード……正確にはスケルトンロードが装備していた魔剣と盾のマジックアイテムが怨霊を消費してその効果を発揮すると知ってからは、怯えの方が強くなってしまった。
霊の類を見ることが出来るようになったのは、長の後継者という立場のニールセンとしては成長したのだろう。
しかし、その成長が必ずしもニールセンにとってプラスになる訳ではない。
……いや、総合的に見れば間違いなくプラスではあるのだろうが、それでも今この状況ではニールセンにとって嬉しくないのは事実。
だが、そんなニールセンの様子とは裏腹に……
「邪魔だ」
レイがデスサイズを振るうことによって、スケルトンが魔石を切断され、死ぬ。
あるいはアンデッドである以上は死ぬのではなく消滅するといった表現の方が正しいのかもしれないが。
(けど、魔獣術は発動しないか)
リビングアーマーの件もあり、もしかしたらスケルトンが相手でも何らかのスキルの強化や習得が行われるのではないかと期待していたのだが、残念ながらそのようなことはない。
レイにしてみれば、惜しいと思いはするが……ある意味では駄目元といったところでもあるので、駄目であってもそこまで気にした様子はない。
何しろ、相手はスケルトンなのだ。
アンデッドの中でも明らかに下位の存在である以上、もしレイの予想が当たっていて、この廃墟に存在するアンデッドの全てが別扱いになっていたとしても、スケルトンの魔石で魔獣術が発動するとは思えなかった。
これがもっと高ランクのアンデッド……それこそヴァンパイアのような高ランクモンスターであれば、話は違ったのだろうが。
(けど、ヴァンパイアならとっととここから出て行ってるか)
ヴァンパイアは高位のアンデッドで、その知能も高い。
同じアンデッドであっても、自分で考える頭を持たないスケルトンやリビングアーマーといった存在、あるいは知能はあっても部屋の中に生えているので動けない木のアンデッドとは違う。
もしこの廃墟が放棄された時にヴァンパイアがここにいても、それこそとっととここから逃げ出していた筈だ。
……あるいは、この廃墟を使っていた者達に襲い掛かったか。
ともあれ、レイの予想ではここでヴァンパイアに遭遇するという心配はない。
「セトは……あっちも終わったか」
レイ達が遭遇したのは、十匹程のスケルトンの群れ。
数ではレイ達が劣っていたものの、相手がスケルトン程度なら苦労はしない。
ましてや、この通路はレイとセトが揃って戦っても全く問題ない広さがあるが、かといってスケルトンが広がって一斉に襲い掛かるといったことが出来る程に空間的な余裕がある訳でもない。
もしスケルトンロードがいれば、スケルトン達を纏めたのかもしれないが、そのスケルトンロードもいない。
もっとも、レイが倒したスケルトンロードが最後の一匹とは限らない。
もしかしたら他にもスケルトンロードがいる可能性は否定出来なかったが。
「セトも倒したようだし、魔石だけ拾って先に進むぞ」
そう言い、レイは自分が倒したスケルトンの魔石を拾っていく。
ニールセンは防御用のゴーレムに座りながらだが、手を伸ばして魔石を拾っていく。
そしてセトも、自分が倒したスケルトンの魔石を拾っていた。
敵の数も少なかったこともあり、魔石はすぐに集まる。
レイがデスサイズで切断したりもしていたので、その数はスケルトンの数よりも明らかに少なかったが。
「さて、これでいいな。骨の残骸は……適当にこの辺りにおいておけばいいか」
「いいの?」
「いいんだよ。この廃墟と共に自然に還るだろうし」
その説明に納得したのかどうかはともかく、ニールセンはそれ以上何も言わない。
あるいはここで無駄に時間を使うより、少しでも早くこの廃墟の探索を終えて、妖精郷に戻りたいと考えているのかもしれないが。
「ニールセン、この先には何がある?」
「うーん……地下と二階に続く階段があったと思うけど。それと他にも幾つか部屋があった筈」
この廃墟そのものは、上空から見た限りではギルムにある領主の館と同じくらいの広さだった。
しかし、通路の広さや部屋の広さは明らかに領主の館よりも大きい。
通路も部屋の広さも、双方共に領主の館の二倍から三倍くらいの広さがある。
そうなると、当然ながら廃墟にある部屋の数は領主の館よりも少なくなる訳で、レイにしてみれば探す場所が少なくなって、嬉しいやら残念やらといったところか。
これがただのアンデッドの住処となっている場所であれば、手間が省けて楽が出来たと喜んだだろう。
しかし、リビングアーマーの件を考えると他にも以前に魔石を使ったアンデッドがいる可能性がある。
新たなスキルの習得やレベルアップを考えると、それこそアンデッドの数は多ければ多い程にいい。
……もっとも、ニールセンにも言ったようにゾンビだけは勘弁して欲しかったが。
「取りあえず、部屋を一つずつ調べていくか。アンデッドがいた場合、そこに残したままだと最悪後ろから攻撃されるかもしれないし」
「そうね。じゃあ、そういうことで行きましょうか。強力なアンデッドが出たら、私が光を使うから」
「あ、ああ。そうだな」
ニールセンの光は、魔石すら消してしまう。
そういう意味では、レイとしてはあまり光を使って欲しくないと思っていた。
だが同時に、アンデッドに対しての特効があるのが頼もしいのも事実。
もしレイやセトに手に負えない――強さ的な意味だけではなく、臭い的な意味でもい――アンデッドが出たら、その時はニールセンに光を使って貰おうと判断する。
「それにしても、さっきのスケルトンもそうだが、数は決まってないのか? この廃墟の中だけと考えると、スケルトンの数もある程度決まっているように思えるんだが」
「うーん、そうね。私達が泊まった時のことを考えると、そんなに数がいるとは思えないんだけど」
レイの呟きに、ニールセンが以前この廃墟に泊まった時のことを思い出しながら言う。
「となると、やっぱりニールセン達がいなくなってから廃墟に何かがあったと考えるべきか。……リビングアーマーの件で、ちょっとした興味本位から来てみただけなんだけどな」
自分にとっては何となく……本当に何となくといった選択だったのだが、その選択によってまた何か妙なトラブルに巻き込まれたのでは? と思ってしまう。
もっとも今回の場合はレイが自分からトラブルに突っ込んでいったので、巻き込まれたという表現は相応しくないのだろうが。
「まぁ、レイだしね」
「グルゥ」
ここ暫くの間はレイと一緒に行動することが多かったニールセンだけに、レイのトラブル誘引体質については理解……ではなく、実感している。
そうである以上、今回の件を考えても特におかしなことはない。
ニールセンとセトの様子に、レイも反論は出来ない。
もっとも、反論はしないものの、ニールセンもその好奇心からトラブルを起こしてきただろうと思ってはいたが。
「あ、ほら。新しい部屋が見えてきたわ。あそこ」
レイの視線を意図的に気が付かない振りをして、ニールセンが言う。
その指さす先には、ニールセンが言うように扉がある。
「今のところ部屋には必ずモンスターがいたが……今度はどうだろうな」
「モンスターがいない可能性もあるの?」
「スケルトンやスケルトンロードがどこから来たと思う?」
「……なるほど」
どこかで新たに作られてこの廃墟に放されている訳ではなければ、レイ達がくるまではどこかの部屋にいたと考えるのが正しい。
もっとも、ニールセン達が以前この廃墟に泊まった時は、アンデッドのいる部屋が多数あるといった訳ではなかったようだが。
扉の前までやってきたところで、レイが口を開く。
「まぁ、何らかのモンスターがいて欲しいとは思うけど。……開けるぞ」
そう言い、扉を開けると……
「外れか。あるいは当たりと言った方がいいのかもしれないが」
部屋の中を見て、そう呟く。
部屋の中はがらんとしており、何もなく、モンスターの姿もない。
この状態を外れと当たり、どちらの言葉で表現したらいいのか、レイには分からなかった。
「もしかして、スケルトンとかスケルトンロードはこの部屋にいたんじゃない?」
「その可能性はあるだろうな」
ニールセンの言葉に、レイはそう返す。
それが事実かどうかは、生憎とレイには分からない。
分からないが、それでも今までの部屋にはアンデッドがいたのを思えば、この部屋にスケルトンロードやスケルトンがいたというニールセンの言葉は正しいように思えた。
「何だか昔の漫画みたいな感じだな」
呟くレイが思い浮かべたのは、日本にいた時に読んだ漫画。
何らかの理由で敵の本拠地に乗り込むと、何故かそこでは一部屋に一人ずつ敵が待ち受けていて、律儀にそれを倒していくというものだ。
あるいは主人公の仲間がそこに残って、主人公は先に進むといった展開もあったが。
レイにしてみれば、仲間がいるのなら全員で一人ずつ倒していけばいいと思うし、あるいは自分だけなら何らかの方法で戦闘を避けて体力を温存した方がいいと思う。
もっとも、それはいわゆる野暮な突っ込みだろう。
漫画を面白くする為にはそうした方がいいと作者が判断して、わざわざそうしているのだろうから。
「レイ、漫画って何?」
「え? あー……絵本のようなものだ」
適当に口にしたレイだったが、その表現は決して間違ってはいないだろう。
実際には色々と差異はあるのだが、それでも今は取りあえずニールセンを納得させておけばいいだけなのだから。
「ふーん、絵本ね。……取りあえず次に行きましょう!」
絵本についてはニールセンもあまり興味はなかったのか、やる気満々といった様子でそう宣言する。
先程まではスケルトンロードの存在に怖がっていたのでは?
そうレイも思わないではなかったが、この部屋が空だったことでニールセンに何らかの影響を与えたのだろうと思っておく。
(変に怖がられるよりは、こうして元気な方がこっちにもやりやすいからいいけど)
部屋の様子を一瞥し、改めて部屋の中に何もないのを確認してから部屋を出る。
もしかしたらトラペラのように透明なモンスターがいるのではないか。
そうも思ったが、セトがいればその手の敵も見つけられる筈だ。
しかし、セトが特に何も見つけていない。
そうである以上、やはりこの部屋は空でまちがいないのだろう。
(この部屋にはスケルトンロードやスケルトンがいた。……そういうことでいいんだよな?)
改めて目の前に存在する部屋の中を見て、最後にこれで問題はないだろうと部屋を後にする。
「それで、一階には他にどのくらいの部屋があるんだ?」
「え? うーん、そうね。三つか四つかしら」
「三つか四つ……それに地下と二階か。地下はともかく、二階に上がるのはちょっと危険かもしれないな」
廃屋となっているだけに、下手に二階に上がると床が壊れて一階に落ちる可能性がある。
……ましてや、セトの体長を考えるとその重量はかなり重い。
「えー……でも、一階よりは二階の方がいいものがありそうじゃない?」
「それは否定しないが、欲を掻いて悲惨なことになるのはごめんだ。あるいは……もしどうしても二階を探索したいのなら、俺とニールセンだけで行くことになるな」
「え? えっと……うーん……」
ニールセンがレイの言葉に迷う。
ニールセンにとって、レイの実力は心の底から信じられるものだ。
それは間違いない。
だが同時に、セトが非常に頼りになる相手であるというのも事実。
レイだけで、セトがいない状況では色々と思うところがあるのも事実だった。
「地下に行くわよ!」
結局ニールセンが選んだのは、地下に向かうという選択だった。
(まぁ、地下は地下で廃墟になった影響だったり、地下で戦った影響で地上の建物によって潰されるとか、そういうことになる可能性も十分にあるんだけどな)
そう思うレイだったが、だからといってここでそれを言っても仕方がないのも事実。
建物の崩落が不安なら地下に行かないかと言われれば、レイはそれを否定するのだから。
それこそ二階の探索についても、セトが行くのは危険かもしれないが、自分だけなら問題ないだろうと判断しているので、地下の探索が終わったら自分だけで調べてみようとは思っていた。
何しろ未知のモンスターの魔石を入手出来るかもしれないのだから。
もっとも、二階にアンデッドがいてもスケルトンやスケルトンロードのように廊下を歩き回るのなら、一階に下りてきてもおかしくはない。おかしくはないのだが、そのようなことになっていないということは、あまり期待しない方がいいのかもしれないと思うのだった。
木やリビングアーマーのように、部屋から出ないアンデッドという可能性も微妙にあったのだが。