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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3573/3865

3573話

祝、レジェンド世界でベスト10入り。

詳細については活動報告にありますので、興味のある方は以下からどうぞ。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/177795/blogkey/3156593/



「マジか」


 目の前の光景に、レイは思わずそんな言葉を漏らす。

 セトのアイスアローは、レベル六だ。

 一番レベルの高いのが毒の爪のレベル七だと考えると、アイスアローのレベル六というのがどれだけ強力なのかが分かるだろう。

 ましてや、魔獣術はレベル五になることによって、レベル四以下のスキルと比べて別物と評していいくらいに強化される。

 それこそ、レベル五以上のスキルはレベル四以下のスキルの上位互換ですらあった。

 そうして強化され、更にはレベル六になったアイスアローが吹き飛ばされたのだ。

 スケルトンロードの持っている盾が何らかのマジックアイテムだろうというのは、レイも予想していた。

 予想はしていたものの、その威力は予想外だったのも事実。

 また、それ以外にもスケルトンロードの使った盾の効果は、風を操るものではあったが、その風を見た瞬間に背筋が冷たくなったのを考えると、ただの風とは思えない。


「レ……レイ……あれ、怨霊を消費して風にしてる……」


 レイの後ろにやってきたニールセンが、恐る恐るといった様子で言う。

 その言葉に含まれるのは、恐怖と嫌悪。

 霊の類を見ることが出来るようになったニールセンだからこそ、スケルトンロードが使った盾がどれだけおぞましいものなのか理解出来るのだろう。


「怨霊を消費か。……一体、この廃墟ではどんな研究をしていたのやら。その辺を聞いてもいいか?」

「シラヌ」


 レイの問いに、スケルトンロードは一言でそう言う。

 それが本当に知らないのか、それとも言いたくないだけなのか。

 生憎とその辺はレイにも理解出来なかったが。

 ただ、それでもスケルトンロードとの戦いはまだ本格的に始まっていないのも事実。


「そうか。お前が色々と教えてくれると助かったんだけどな」


 本当に残念そうな様子のレイ。

 その表情には、スケルトンロードが喋っているということについての驚きは全くない。

 そもそもアンデッドで喋るというのなら、グリムのことを知っているのだから当然だろう。

 グリムのことを知らないニールセンが何の反応もしないのは、レイにとって少し疑問だったが。

 あるいは、スケルトンロードの持つ盾の力で怨霊が消費されたことがそれだけショックだったのかもしれないが。


「ニールセン、怖いようなら下がっていろ。お前が側にいたら、戦いに巻き込まれる可能性がある」

「わ、分かった」


 レイの言葉に、ニールセンは反論もせずに離れていく。

 今この状況で、自分が何を言えばいいのか……どのように行動すればいいのか、理解出来ないのだろう。

 なので、取りあえずレイの指示を素直に聞いているのだろう。


(そこまでショックを受けるのか?)


 ニールセンが離れて行くのを気配で察しつつ、レイは疑問に思う。

 スケルトンロードの盾が厄介なのは間違いないし、怨霊を消費して……言い換えれば使い潰して先程のような風を生み出すといった効果を発揮しているのは分かるが、言ってみればそれだけだ。

 もっともレイも最初に見た時は得体の知れないおぞましさを感じたのは間違いない、

 その時のことを思えば、やはり厄介なマジックアイテムなのは間違いないだろう。


「どうした? こっちの準備が整うまで、待っていてくれたのか?」

「キニスルナ。コレガサイゴダ」


 レイの言葉に、明確にそう返事をするスケルトンロード。

 気にするなというのが、具体的に何を意味しているのかは、レイにも正確には分からない。

 自分達の戦闘準備が整うのまでの一件か、それとも他の何かか。

 普通に考えれば明らかに前者なのだが、スケルトンロードがどのような存在なのかを考えれば、何かレイが想像出来ないことを前提にしている可能性もあった。

 もっとも、それをここで聞いたところでスケルトンロードが素直に答えてくれるとは思えないし、あるいは答えてもそれが真実とも限らない。

 とにかく向こうが自分達の準備が整うまで待ってくれていたのなら、自分達にとって好都合なのは間違いのない出来事だ。

 だからこそ、レイはそれ以上スケルトンロードを追及することなく、デスサイズと黄昏の槍を構える。


(取りあえず、あの盾の効果を考えると飛び道具の類は効果がないと思った方がいいな。……だとすれば、どうする? 直接攻撃をするか? 取りあえず、あの盾は破壊するなり、弾き飛ばすなりしないと不味いだろうし)


 そう思いつつ、レイはスケルトンロードが持つ盾に視線を向ける。

 魔剣と同じく、見るからに豪奢という表現が相応しい飾りや彫り物をされている盾。

 怨霊を使って風を起こすという効果を知らなければ、それこそ芸術品と言われても信じられるだろう。


(魔力以外を使って特殊な効果を発揮するというのはそれなりに画期的だと思うんだけど、それが何で怨霊なのやら。……いや、あるいは誰かがああいう風に作ったんじゃなくて、スケルトンロードが使っているうちにそういう効果を持ったのかもしれないな。とにかく、入手しても使うのは無理だ。明らかに呪われているっぽいし)


 盾の動きに集中していたレイだったが、そんなレイをよそにセトが動く。

 先程、アイスアローを弾かれたのが面白くなかったのだろう。


「グルルルルゥ!」


 スケルトンロードに近付き、前足による一撃を放つ。

 それはセトの持つスキル、パワークラッシュ。

 圧倒的なまでの威力の一撃をスケルトンロードに叩き付けようと考えたのだろう。


「ヌ」


 その一撃の危険性を察知したのか、スケルトンロードは回避するのではなく、盾でセトの攻撃を受けようとする。

 ……いや、盾で攻撃を受けようとしたのではなく、先程同様に怨霊を消費して生み出した風でセトを吹き飛ばそうとしたのだろう。

 セトの放つだろう攻撃の威力は、間違いなく強力だ。

 スケルトンロードもそれが分かっているからこそ、回避するのでもなく、受け止めるのでもなく、そもそも攻撃が行われる前に潰そうと考えたのだろう。

 その考えは正しい。正しいが、同時にセトを侮ってもいた。

 セトを吹き飛ばそうとして放たれた風。

 だが、セトはそんな風の中を全く関係なく進んでいたのだ。

 勿論風によってセトの走る速度は多少落ちたものの、それでも吹き飛ばすことは出来ず、動きを止めることも出来なかった。

 そして次の瞬間……ドゴン、と。周辺に響くような音を立ててセトによる前足の一撃が盾に振るわれる。

 これはスケルトンロードを狙ったのではなく、明確に盾だけを狙った一撃。

 セトにしてみれば、自分のアイスアローを防いだ盾が許せなかったのか、あるいは怨霊を消費して使うというマジックアイテムの存在が許せなかったのか。はたまた、ニールセンを怖がらせたことが許せなかったのか。

 その辺はレイにも分からなかったが、それでもセトの一撃が盾を……盾だけを狙っていたのは間違いない。

 その一撃は見事に盾を砕く。

 マジックアイテムの効果があっても、セトのパワークラッシュによる一撃は防げなかったらしい。

 惜しい、と。

 少し……本当に少しだけそう思ってしまうレイ。

 怨霊を消費して使うというのはどうかと思うが、魔力以外を使ってマジックアイテムを発動させるというのは、非常に珍しい。

 レイが知ってる限りだと、魔力以外でマジックアイテムを発動させるといった物はない。

 とはいえ、それはあくまでもレイの知ってる限りの話だ。

 マジックアイテムを収集する趣味のあるレイだが、だからといってマジックアイテムにそこまで詳しい訳ではない。

 勿論、一般人であったり、冒険者でもマジックアイテムを基本的に使わないような者と比べると、相応に高い知識はあるのだが。

 そんな中途半端……ある意味では中途半端にプロと同じくらいマジックアイテムの知識を持っているレイだったが、そんなレイの知識でも怨霊を使ってマジックアイテムの効果を発揮するというのは初めて知った。


(あるいは、この廃墟となった研究所で研究していたのはそれなのか? あるいは、スケルトンロードが使っているうちに怨霊とかそういうのの関係でただの盾がああいうマジックアイテムになったのか)


 そんな風に考えつつも、レイの身体は頭とは関係なく動く。

 吹き飛び、マジックアイテムの盾を砕かれたスケルトンロード。

 それはつまり、レイにとっても攻撃をしやすくなった相手なのは間違いない。

 そんな相手に対し、セトに続いて攻撃を仕掛けない筈がなかった。

 素早く床を蹴り、スケルトンロードとの間合いを詰める。

 スケルトンロードの持つ魔剣は長剣型で、スノウオークキングの持っていた大剣の魔剣とは違って攻撃範囲はそこまで広くない。

 もっとも、その間合いの差は素人が思う程に大きいものではない。

 大きくはないのだが、しかしその間合いの広さが戦いの中では大きな意味を有するのも事実。


「ヌ」


 スケルトンロードは近付いてくるレイを見ると、魔剣の切っ先を向けてくる。

 背筋に走る冷たい感覚。

 それを察知したレイは、斜めに跳躍して空中でスレイプニルの靴を使い、三角跳びを行う。

 そして一瞬前までレイのいた場所を通りすぎる、紫色の何か。

 それはスケルトンロードの魔剣から放たれた一撃。

 ただし、レイの背筋を冷たくしたのはその威力を本能的に察知したから……ではなく、先程の盾が発動した時と同じものだった。

 つまりそれは、スケルトンロードの持つ魔剣もまた、盾と同じく怨霊を消費することによって発動しているということを意味していた。

 怨霊を使った魔剣の効果がどのようなものか、気にならないかと言えば、それは否だ。

 否ではあるが、だからといって自分がそれを食らって魔剣から放たれた紫色の何かの効果を確認してみようとは思わない。


「腐食!」


 まともに魔剣と打ち合うのは止めておいた方がいい。

 そう判断したレイは、デスサイズのスキル腐食を使う。

 このスキルはその名の通り攻撃対象を腐食させるというもので、かなり特殊な効果だ。

 その効果の為に、レベル七というデスサイズの中でも最高レベルのスキルであるにも関わらず、今まで殆ど使ったことはなかった。

 だが……怨霊を消費して使うという魔剣を相手にしてであれば、話は別だ。

 魔力以外を消費して使うというものに興味はあるが、それでも怨霊を消費するという……それこそ、呪われた魔剣と呼ぶのが相応しい武器を欲しいとは思わない。

 実際に呪われるのではないかと、そのように思ったことも、レイが腐食を使った大きな理由なのだろうが。

 そうして振るわれたデスサイズの一撃が狙ったのは、魔剣……ではなく、スケルトンロードの身体。

 ただし、回避するのは不可能な速度とタイミングでの一撃。

 先程セトによって盾を破壊されていなければ、デスサイズの一撃を盾で防いだかもしれない。……実際に防げるかどうかはともかくとして、そのように試すことは出来ただろう。

 しかし、その盾も既にセトによって破壊され、今はない。

 そうである以上、スケルトンロードがデスサイズの一撃の直撃を避ける為に出来るのは、着ている鎧で受け止めるか、あるいは魔剣でデスサイズの一撃を受け止めるか。

 そのどちらかだったが、スケルトンロードが選択したのは魔剣による防御。

 鎧で受けるより、そちらの方がダメージは少ないと判断したのだろう。

 実際、普通ならその判断は決して間違ってはいない。……そう、普通なら。

 だが、今回レイの振るった武器はデスサイズで、腐食のスキルが発動している一撃だ。

 ただし、スケルトンロードが持っている長剣も普通の長剣ではない。

 普通の長剣であれば、レベル七の腐食によって一度、どんなに頑張っても二度で腐食し、使い物にならなくなっただろう。

 しかし、そこは魔剣だ。

 デスサイズの一撃で腐食するということはなかった。


「ヌゥ」


 だが、魔剣であっても全く無傷で腐食の一撃を受けた訳ではない。

 腐食による一撃によって、魔剣の刀身が明らかに色が変わり、それを察したスケルトンロードの口から呻き声が漏れる。

 それだけではない。

 デスサイズによる一撃は、スキルによる腐食の効果もそうだが、単純に一撃の威力が強力極まりない。

 デスサイズはレイやセトが持てば木の枝か何かのように殆ど重さを感じないものの、それ以外の者には百kg程もの重量となる。

 そんなデスサイズを文字通りの意味で人外の身体能力を持つレイが振るったのだ。

 スケルトンロードは魔剣だけでその威力を完全に受け止めることが出来ず、吹き飛ばされる。

 スケルトンロードの口から呻き声が上がったのは、腐食の効果以外に今の一撃の威力もあったのだろう。

 それでも壁に叩きつけられる程の距離を吹き飛ばされなかったのは、スケルトンロードというモンスターだからか。

 レイはそんなスケルトンロードに向かい、間合いを詰めるべく一歩を踏み出すのだった。

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[一言] 文字数ランキングベスト10入りおめでとうございます、これだけ長編の作品で一話あたりの文字数が多い執筆は大変でしょうが今後も頑張って欲しいです。 目指せ、なろう作品文字数ナンバー1!!、期待…
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